史記 武帝紀 4 (ハルキ文庫 き 3-19)

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  • 角川春樹事務所
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  • Amazon.co.jp ・本 (411ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758437790

作品紹介・あらすじ

前漢の中国。匈奴より河南を奪還し、さらに西域へ勢力を伸ばそうと目論む武帝・劉徹は、その矢先に〓(かく)去病を病で失う。喪失感から、心に闇を抱える劉徹。一方、そんな天子の下、若き才が芽吹く。泰山封禅に参列できず憤死した父の遺志を継ぐ司馬遷。名将・李広の孫にして、大将軍の衛青がその才を認めるほどの逞しい成長を見せる李陵。そして、李陵の友・蘇武は文官となり、劉徹より賜りし短剣を胸に匈奴へ向かう-。北方版『史記』、激動の第四巻。

感想・レビュー・書評

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  • 帝に即位しても、制約を受け続けた。その制約にはじっと耐えた。耐えている間に、帝の心の中には、何か暗いものが醸成されていった、と桑弘羊は見ていた。
    帝が成長するにしたがって、制約は少しずつなくなっていった。その間、じっと耐えていただけでなく、帝は衛青という武人を見つけ、苛酷な試練の中で、大きく育てあげていったのだ。
    帝の非凡さがなければ、衛青という非凡な軍人は育たなかっただろう。
    自らの非凡さで未来を切り拓き、匈奴戦に勝利という、輝かしい結果を出したのだ。明るい光に、満ちていた。しかしその明るさの底から、時折、暗いものが頭をもたげるのを、桑弘羊は何度か感じた。
    陳皇后が廃されたときがそうであったし、張湯が自裁に追い込まれたのもそうだった。
    それでも、泰山封禅という、漢の帝の誰一人もなし得なかったことを、実行したところまで、暗いものは輝きで消されていた。
    泰山封禅を終えたころから、帝は、自分が死なないと思いこみはじめた、と桑弘羊はしばしば感じた。天の子なるがゆえに、不死である。いくら思い込もうとしても、死ぬだろうという、自覚は別のところにある。死なないというのは、死の恐怖の裏返しでもあったのだろう。
    ほぼ全てのものを手にいれても、それは一瞬で死が持ち去ってしまう。その理不尽を、天の子であろうと受け入れなければならない。
    そこから、なにかが曇りはじめている。ただ光に満ちていた人生に、霧のようなものがたちこめてきている。(382p)

    大司農になってしまった桑弘羊は、今のところ1人のみ処罰もされないでずっと帝の側にいる。その桑弘羊から観た劉徹論である。実は桑弘羊は、司馬遷「史記」には記述されていない。司馬遷の亡くなったのちに死んだからである。しかし、一巻目からずっと桑弘羊から見た世界がこの「史記 武帝紀」を彩っている。よって私は、桑弘羊こそが筆者(北方謙三)の分身かもしれないとさえ思うのである。

    全七巻のちょうど真ん中。遂に北方版「史記」の主要人物が、歴史の舞台で活躍を始める。

    司馬遷は、父親司馬談の「私の仕事を受け継ぎ、歴史を書きあげてくれ」という遺言ともいえる言葉に出会う。しかし、「史記」にある「憤死」は、司馬遷の主観であったという描き方になっていた。

    李陵は「霍去病に並ぶ軍才がある」と衛青に認められていた。しかしこの巻では戦は起きない。

    蘇武が終に匈奴の囚われの身となる。

    ずっと北方謙三版中国歴史物語を読んで来て、桑弘羊にしろ、司馬遷にしろ、蘇武にしろ、ここまで文官が主要人物として登場して来た物語はない。しかし、当たり前といえば当たり前、歴史は戦争によって紡がれるものではない、むしろ政治の延長の上に戦争があるに過ぎない。これは北方謙三の新たなる「挑戦」というべきなのだろう。
    2013年11月13日読了

  • 3巻までに活躍した人々が去り、帝にも老いの影が。しかし、新たに若い人材が成長を見せる。匈奴でも世代交代が進むが、将軍は全盛期を迎え、いよいよ反攻のときがやってくる。
    解説にも書かれているが、登場人物の描き方、物語性の構築が見事で、全7巻の4巻目といっても、まったく飽きさせない筆力が見事。

  • 第四巻。

    衛青も逝ってしまい、漢の歯車が悪い方へ回りだした感じです。
    李陵は真っ直ぐでいい奴ですね。それだけに、今後の運命を思うと悲壮感を禁じえません。
    そして捕えられた蘇武。次巻の展開が気になります。

  • 4巻まで続く盛り上がり方とは違う面白さが出てきた。
    歳を重ねることで出てくる劉徹の変化、増す匈奴側の魅力。5巻も楽しみ。

  • 段々と作者の文体に慣れてきたので、ある程度の速度を出しつつ物語に入り込んでいけるようになった。
    最初のうちはとにかく事実を追って、当時の中国を思い描きながらそれぞれの言動を読み進めるだけだったけど、これも慣れてきたからなのか、随所に見られる人の生き様や心情描写にはっとさせられることが増えてきた。
    今から2000年近く前の話だけれども、今に通じる格言が、道標がそこかしこに溢れてる。さあ、この勢いのまま5巻へ。
    あとそうだ、衛青が最後の戦に臨む場面は胸が震えるものがあった。めっちゃ格好いいぜ……。

  • 衛青が可愛がっていた李陵が、頭角を現し始める。

    幼馴染の蘇武は、李陵と比べるとどうしても…という所があったけれど、
    匈奴の地へ派遣されてからは男前!
    敵国へ使節として行くなんて、本当に死を覚悟していなくちゃできない事だなぁ。

    衛青、霍去病がいたころには輝きを放っていた帝は、
    死への恐怖へと取りつかれるようになり、愚帝への第一歩を踏み出してしまった。

    漢の外側から見た帝への評価が、あまりにも酷い。
    頂点を極めた人間というのはこうやって堕ちていくのだろうか。

    反面、匈奴の呴犁湖はなんと潔い事よ。

  • 司馬遷嫌な奴だなぁ〜笑
    さて、漢は英雄がどんどん死んで、劉徹はおかしくなっていく中でどうなることやら

  • 次5巻。

    人の死をこんなにも静謐に書けるものなんだろうか。
    死とはなんなのか。

  • 時代が流れ、漢は衰え、悪い方向へ。人材が出てこないのは、リーダーだけのせいなのか?国も組織も悪いループに入ると、とことんダメになる、という感じのした4冊目。それでも、それを打開しようとする若い血が少しは。。育つか?

  • 徐々に物語は新展開を迎え次の巻がどうなるのか楽しみです。3巻は今後の展開が読めなかったが4巻で次の展開がなんとなく見えて来ました。

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著者プロフィール

北方謙三

一九四七年、佐賀県唐津市に生まれる。七三年、中央大学法学部を卒業。八一年、ハードボイルド小説『弔鐘はるかなり』で注目を集め、八三年『眠りなき夜』で吉川英治文学新人賞、八五年『渇きの街』で日本推理作家協会賞を受賞。八九年『武王の門』で歴史小説にも進出、九一年に『破軍の星』で柴田錬三郎賞、二〇〇四年に『楊家将』で吉川英治文学賞など数々の受賞を誇る。一三年に紫綬褒章受章、一六年に「大水滸伝」シリーズ(全五十一巻)で菊池寛賞を受賞した。二〇年、旭日小綬章受章。『悪党の裔』『道誉なり』『絶海にあらず』『魂の沃野』など著書多数。

「2022年 『楠木正成(下) 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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