キャベツ炒めに捧ぐ (ハルキ文庫 い 19-1)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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レビュー : 66
  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758438414

感想・レビュー・書評

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  • いやぁ~、上手いなぁ~!
    思わずゴクリと唾を飲み込んでしまう
    冒頭のお米が炊ける描写の威力に
    一気に引き込まれた。
    (コレが官能的なのですよ笑)

    本作は東京のとある商店街にある
    『ここ家』という惣菜屋で働く
    60歳の女性3人の
    切なくもあたたかい日々を
    季節の料理とともに描いた連作短編集です。

    お喋りで豪快な性格の
    『ここ家』のオーナー、江子(こうこ)。

    真っ黒な短髪に地味な服装、
    少し気難しい性格の麻津子(まつこ)。

    三人の中では一番年上だが
    内省的で内に秘める性格の郁子(いくこ)。


    転んでもタダでは起きないしたたかさと
    少女のような瑞々しさ、
    歳をとる怖さなど豪快に笑い飛ばしてしまうほどの
    芯の強さとタフなハート。

    なんと人間的魅力に溢れた三人なのか。

    それぞれがそれぞれの傷や
    大人の事情を抱えながらも
    季節の食べ物に力を貰い逞しく生きる彼女たちを見ていると、
    年を重ねていくことも
    そう悪くはないのかもと
    素直に思えてくる。
    (様々な料理を絡ませながら女性三人の生き様や辿ってきた道のりを浮かび上がらせる構成と人間の描き方は
    本当にお見事!)

    それにしても米屋の若いイケメン店員、進をめぐる
    三人三様の争いにはホンマ笑ってしまった。


    そして彼女たちの作る料理の
    チョイスがまた
    心に沁みる。

    シメジと椎茸とエリンギに牛コマが入った
    バター風味の茸の混ぜごはん。

    烏賊とさつまいもと葱の炒め煮。

    鶏と豚の合挽きを白菜で巻いて中華風クリームスープで煮込んだロール白菜。

    江子の届かぬ想いが詰まった
    京風おでんのひろうす(がんもどき)と
    揚げたてのあさりフライ。

    亡き母に思いを馳せる
    麻津子のオリジナル料理の桃素麺と
    麻津子が幼なじみにふられる原因となった
    茹でたてのとうもろこし。

    息子が死んだのは夫のせいだという思いから逃れられない郁子が作る
    ほろ苦いふきのとう味噌。


    何を好んで食べるか、
    何を好んで作ってきたかは
    毎日の積み重ねが如実に現れるし、
    その人の経験や人生観が左右する。

    簡単に言えば
    料理にはその人の人となりや、
    哲学や思想や人間力までもが
    形として現れるものなんですよね。

    主人公が若い女性ではなく
    辛い過去を背負って60歳まで生きてきた
    彼女たちだからこその手の込んだ料理の数々には
    彼女たちが選びとってきた人生が浮かび上がるし、
    生き様がオーバーラップしてくるのです。


    人生はままならない。
    だからこそ人は料理で未来に立ち向かう。

    料理を作るという行為は
    明日も生きていこうという生きる意志であり、
    まだ見ぬ未来への祈りでもあるのかな。

    人は自らが生きるため
    愛するが人のために
    料理を作る。

    料理を作る行為は無意識のうちに五感を刺激するけど、
    この小説もまた
    匂いが、食感が、作る時の音が、
    出来上がりの様が、
    読むだけで目の前に浮かび上がり、
    その味わいさえもが
    文章の隙間から疑似体験できてしまう
    お腹が空くと同時に
    希望をくれる良作です。

  • 60代女性・一人暮らし・惣菜屋(弁当屋?)で働く3人組のおはなし。
    「3匹のおっさん」の女バージョンみたいなものかな?と思ったのだけれど、全然違いました。
    女性だからかな?「食」「色」「情(友情も含めて)」がメインになります。

    惣菜屋オーナー・江子の笑い声と、元夫とのかかわりがカンに障るというか、ちょっとイラっときてしまったのだけれど、こういう人もいるのかな・・・と、自分のキャパの狭さを見せつけられた気がしました。

    読み終わって 「ああ面白かった」と思えたので、総じて良い読書時間でした。

  • 出てくる料理が美味しそうで、空腹時には読んではいけませんな。しかし、出てくる女性三人がみんな、痛々しいほど重々しいものを抱えてて、胸が詰まった。横からもぎ取られるように、日常を失っていく。現実に、悲しみに、心が追いつくまで、みんなとっても時間がかかってる。私は…恋愛や家庭では、幸運なことに、そういう痛みは持ってないけど、別の痛みがあって、それに11年経ってもまだ心は追いついてない。苦しくて、投げやりたくなって、でも容赦無く朝は来る。料理をひたすらこなしながら、包丁を握る手に、無心になることで、彼女たちはなんとか生き延びてきた。そして、少しずつ時間と日々の営みが心の痛みを追いやってくれる。最後は少しの救いと笑いとともに。年をとってからまた読み返したい佳作。

  • 10年強前、自分が40歳になったとき、
    『初老とは40歳の異称 』であると辞書で知り、
    すごくショックだったことを覚えてる。(苦笑)
    さすがに現代の40歳が初老だなんてことはなく、
    イメージ的にはアラ還世代が初老なのではないだろうか?
    この物語はまさに、そんなアラ還女性3人が主人公。
    お総菜屋さんで働く3人の人間模様の連作短編集。
    11編の美味しそうなタイトルをひっくるめて表題となっている。
    50代の今の年齢で読んだからこそ、
    あんな還暦なら楽しいかも、と思えてきた。
    この作者の小説は、静かにドロドロしてる不倫ものとか、
    曖昧な日常的恋愛なんかが多いと思っていたが、
    こういうのも書くんだー?!という驚きがあった。

  • 「いわた書店一万円選書」に登場する本。

    60歳女性3人で営む総菜屋「ここ家」。
    季節の食材で心を込めて美味しい総菜を作る。
    季節の草花な風、空気、空、気温で過去の出来事が蘇る。
    3人それぞれにあまり思い出したくない過去があり、季節の移り変わりは切なくもあるがそれ以上に日々を楽しめている感じがして羨ましくもある。
    一度「ここ家」に行って「今日のおススメは何?」って聞いてみたいなぁ。

  • リアルで切ない。
    60代だからこその、人生の重み、深み、多様性。
    年齢は全く違うのに共感してしまう気持ちがたくさん。

  • 総菜店で働く3人の女性の物語。お惣菜にまつわるエピソードと人間模様などが描かれていて、店で明るく振舞う3人の女性の人間関係に辛い過去、苦い思い出もあったりするが、その料理を食べ、また前向きな姿勢を見せたりする。きっと、その料理に思い入れがあるからこそ、過去が蘇るのだろうと感じる。過去の人間関係に執着している部分もあって、それは誰しもが経験することであり、切なくなったり共感する部分も少なくなかった。どのご飯もおいしそうで、「いらっしゃいませ。今日はこれがおすすめですよ」の声が聞こえてくる、暖かな時を感じる。

  • 登場人物がまんべんなく痛々しい。イタイではなく、痛々しい。

  • ひろうす、あさりのフライ、穴子のちらし寿司、サツマイモと鰤のあら炊き、ロール白菜、出てくる食べ物が美味しそう。お惣菜屋さんの60代の女性3人がほろ苦い過去を持ちつつ、毎日楽しく前向きに働いているのを読んで、心が温かくなった。

  • 美味しそうなお惣菜がたくさん出てきます。
    一番食べたくなったのはあさりフライ。
    最初の方は寂しい気持ちになり、読むのをやめようかと思ってしまったのですが、最後は少しほっこりできてよかったです。

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著者プロフィール

井上荒野(いのうえ・あれの)
'61年東京都生まれ。89年「わたしのヌレエフ」で第1回フェミナ賞を受賞。'08年『切羽へ』で直木賞受賞。他の著書に『つやの夜』『結婚』など多数。

「2015年 『100万分の1回のねこ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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