紙の月 (ハルキ文庫 か 8-2)

  • 角川春樹事務所
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  • Amazon.co.jp ・本 (359ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758438452

作品紹介・あらすじ

ただ好きで、ただ会いたいだけだった―――わかば銀行の支店から一億円が横領された。容疑者は、梅澤梨花四十一歳。二十五歳で結婚し専業主婦になったが、子どもには恵まれず、銀行でパート勤めを始めた。真面目な働きぶりで契約社員になった梨花。そんなある日、顧客の孫である大学生の光太に出会うのだった・・・・・・。あまりにもスリリングで、狂おしいまでに切実な、傑作長篇小説。各紙誌でも大絶賛された、第二十五回柴田錬三郎賞受賞作、待望の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 1億円を横領した契約社員・梨花41歳の破滅の物語。
    梨花のほかに登場する女たちのお金のかかわり方も印象的です。
    お金って怖いですね。

    顧客から預かったお金を一時的に使ってしまったところから、転落の始まり。
    徐々にエスカレートしていく横領、その金は、大学生の光太へ。

    使っても、貢いでも満たされない思い。
    そして。ついには破綻へ..
    誰も彼女を救うことはできない。
    梨花の堕ちていく姿、心理描写が生々しいです。
    そして、いつしか光太にも変化が..

    さらにこの旦那のくずっぷりも楽しめます(笑)

    夫婦の関係ってとても大事

    映画も見てみたいですね。

  • 一億円の横領をした銀行員の女性が破滅に向かっていく話。

    犯人である梅澤梨花が犯罪に手を染めるまでの、そして犯罪後の心理状態が事細かに描写されている。

    まるで自分が犯罪を犯したような気分になり、なかなか読み進めるのが辛かった。

    化粧品を買うのに手持ちのお金が足りず、集金した五万円を当ててしまう。職業的倫理観という高い高いハードルが一気に引き下げられてしまった瞬間。胸が締め付けられるような苦しさで、本を置いてしまった。

    作者である角田光代さんは、どうしてこんな細部まで描写することができるのだろう?本当に凄い作家だと思った。

  • 角田光代さんはうまいな~。本当にそう思いました。
    実際のところ、私はそんなに角田光代ファンではなく、積極的に角田作品を読むわけでもないし、読んでも、特に小説だと「この作品好き、また読もう」とはならないのですが、「うまいな~」と思わされる作家さんです。
    本書は、意図せず同僚から貸してもらったのですが、「八日目の蝉」を読んだときを思い出すように、物語に惹き込まれました。読んでいて楽しいわけでもなく、すごく悲しいとか絶望感があるとか、それこそ感動する、というような大きな感情の動きは起こらないのに、読むのをやめられない。淡々とした語り口なのに、まぁ惹き込まれる。

    梅澤夫妻の嚙み合わない感じとか、経験したはずもないのに、妙にわかるというか、これは修復の難しいタイプの夫婦関係だとか、そもそも価値観が違いすぎるんじゃないか、とか思いながら、ふと梅澤梨花は本当に普通のどこにでもいる主婦だったんだと思いつく。そんな人がどうしてあんなに大きな事件を起こし、身を転落させることになるのか、それが淡々と無理なく書かれているため、こんなことは誰にでも、まさに自分にも起こりうることなんじゃないかと思い当たって、いやいやまさかそんな、と頭を振ることになる。普通に見えた梅澤梨花だけどきっと理性で行動できないようなどこかひとつネジが緩んでいたところがあるんだ、または、育った環境に問題があったんだ、そうじゃないと普通の人はこんなことにはならないと必死で思おうとする。そこで、はたと考える。「普通の人」って何よ、どんな人よ、と。
    ひとつのポイントは「お金」か。一歩踏み外してしまうとどこまでも痛みを感じなくなるのは「お金」のせいか。「お金」を前にした人間の弱さを痛いほど感じる。それは、梨花以外の登場人物からもわかる。これって、そういう時代、つまりバブルで世の中が浮かれていたからあり得ることで、どちらかというとその後の経済が落ち込む時代に成長した私には、梨花や亜紀の散財の仕方がどうもわからない。そういう意味では自分の価値観に安堵する。
    しかしながら、お金だけでもない気がする。この梅澤梨花はどうも自分を初めから見失っている。カード会社にいる自分は自分の一部であって、本当の自分ではない、正文の妻である自分は自分の一部にすぎず、本当の自分ではない。理想の自分を見つけようともがいた結果がこの転落だとしたら、やはり、人間の弱さを感じずにはいられない。

    本当にドンドン苦しくなるお話でした。男に貢ぐためだけに横領したわけではない。おそらく光太はきっかけにすぎず、夫の単身赴任もきっかけにすぎず、自分がいつでも自分でない気がする梨花には何でもきっかけになったのではないか。最後に梨花はやっと理解する。全てが「自分」なんだと。

    自分探しをしている果てに他人のお金を使い込んだ、なんてひとことでいうとなんて陳腐なんだ。でもこの物語は決して陳腐ではない。
    自分の軸をしっかり持とう、と思いました。

  • ●主人公の梨花は専業主婦で、夫は真面目なサラリーマンという家庭です。子供はいないが、うるさい姑もいない、ごく普通の平凡な生活を送っていました。
    ●しかし、銀行に契約社員として、働くようになってから歯車が狂い出しました。銀行や顧客のお金に手をつけ、年下の愛人に貢ぎ続け、雪だるまが転げるように破綻していく物語です。
    ●私の感想です。人間は他人の生活に憧れて、環境を変えたいと思うことがあります。しかし、他人には絶対に迷惑をかけてはいけない。理性を持って行動しなければなりません。
    ●西行法師が「平凡に生きることは難しい」と言っています。人生には挫折する場面もあるでしょうが、平凡に生きる人生こそ大切であると思います。

  • 結婚して専業主婦になった梨花。子どもには恵まれず銀行でパート勤務を始める。

    ついつい立て替えてしまった5万円がもとで、横領がどんどんエスカレートしていく。夫の海外赴任や光太との出会い、色々な偶然が重なり合い横領がエスカレートしていく様子はスリリングさを感じずにはいられない。

    人のお金に手をつける後ろめたさ…ちょっと違う感情ではあるが、人は誰しもが持っている感情ではないだろうか。決してやってはならない事だろうけれども。この主人公である梨花の感情が巧みに描かれていると感じた。

    最後、梨花はどうなったんだろう…。

  • 軽く読んでしまったが、なかなか深い。

    どこにでもいる普通の主婦・梨花が、次第に金銭感覚を狂わせ、男に貢ぐためについには自分の勤める銀行のお金を横領する、という話。

    横領額は1億円。
    なぜ、そんな大金が必要だったのか?

    梨花の友人だった中條亜紀が、自分の娘との関係性の中で端的になぜ高価なものが必要なのかを表している。
    ー 人と人との関係に、何か形になるものが必要だと思った
    ー 自分が自分以上の誰かになるのに、目に見えるものが必要だと思った

    こうしたものを得るため多額のお金が必要だった。つまり、金額の大きさは心の空漠の大きさなのだ。


    お金はニュートラルだけど、人々の欲望のど真ん中にいる。
    そして、人を自由にすると同時に縛りもする。


    貢がれていた光太の方も縛られる。最後、肩を震わせながら梨花に「ここから出して」と懇願する…

    …なんとなく、リカ・シリーズを彷彿させるシーンだが(笑)、お金にはそれくらいの怖さもある。



    蛇足だけど、昔、物の本に「夫婦間で性とお金の話題は絶やすな」という格言(?)が書いてあったことを思い出した。
    確かに、梨花は夫と性の話もお金の話もできなかった。
    そのことが底なしの不倫ととめどない浪費に繋がり、横領へと至った。なるほど、その格言の意味がよくわかった。

    • やまさん
      たけさん
      おはようございます!
      いいね!ありがとうございます。
      いままでは、雨が降っていたのですが、急に朝日がまぶしいです。
      いまの...
      たけさん
      おはようございます!
      いいね!ありがとうございます。
      いままでは、雨が降っていたのですが、急に朝日がまぶしいです。
      いまのヤフー天気予報だと、☼7人、☁29人、☂46人、⛄0人です。
      ⛄以外は、全部あります。
      ビックリです。
      やま
      2019/11/14
  • いつも思うけれど、角田さんの描写は素晴らしい。
    夫婦の何気ない会話の中に潜む違和感。
    なぜそう感じたか。その言葉に込められた思いが、気のせいではなくある気持ちを表すものであったことに気づく。
    誰しも「あれ、どうしてこの人こんなこと言うんだろう?」と思うことはあるはず。
    それは大概きのせいではない。もしも自分だったら、こんなことを言うだろうか、と立ち止まって考えてみたい。

    夫婦の会話の中ですれ違いが生まれ、それが積み重なり、取り返しのつかないことになってしまう。角田さんの手にかかれば極めて自然に、ストーリーが組み上がる。
    自然だ。
    でも、最初のそのすれ違い、その会話がなければ、こうはならなかった。
    何とも深いおはなし。
    映画になるのもわかりました。

    +++

    今から10年くらい前でしょうか。
    同じフロアという身近なところから7,000万円の横領事件が発覚しました。別の会社の人でしたが、顔は見たことがありました。
    本人の心境はどうだったのだろう、と本書を読みながら改めて思いながらよみました。いちど手を染めてしまうと、もう後戻りできない、バレることはわかっていなから、突き進むことしかできない。早く見つけて欲しい、そう思っていたのではないでしょうか。

    • 辛4さん
      おはようございます。
      コメントありがとうございます。なんどもすみません。
      角田さん、まめな方のようで、お酒がお好きで、よくお友達とパーテ...
      おはようございます。
      コメントありがとうございます。なんどもすみません。
      角田さん、まめな方のようで、お酒がお好きで、よくお友達とパーティされるようなんですよね。どこかの本のあとがきか、あるいはエッセイかどこかに書いてあったような気がします。作家さんのいろいろな一面がみえてきて、おもしろいです。
      三上さんの本はどちらかというとラノベに近いかもしれません。人の心理を読む、という意味でとても面白いのですが、過度な期待はなさらないようにおねがいします。
      よい一日をお過ごしください~
      2023/08/09
    • sun314moonさん
      いつも辛4さんの本棚更新を楽しみにしています。そして、読書の参考にいちばんさせていただいています。
      昨日から読み始めましたが、すごいお話です...
      いつも辛4さんの本棚更新を楽しみにしています。そして、読書の参考にいちばんさせていただいています。
      昨日から読み始めましたが、すごいお話ですね…。ふとした言葉から浮かぶ本音。私は身近な相手であればすぐに「それってどういう意味?」と言葉の意図を聞く方ですが、そうしない夫婦もあるのだな、と改めて。
      まだ最初の方ですが、目が離せません!
      2023/09/06
    • 辛4さん
      sun314moonさん
      こんにちは。ご無沙汰しています。
      参考にいちばんなんて、まったくもってすみません恐れ多いです。ありがとうござい...
      sun314moonさん
      こんにちは。ご無沙汰しています。
      参考にいちばんなんて、まったくもってすみません恐れ多いです。ありがとうございます。
      角田さんはいつも人の心理を突く奥の深いお話を書かれるな~、と思って読ませていただいてます。ハラハラドキドキしますよ、このお話は。

      私は気にしたらあれこれ考えてしまうので、流すようにして(自分が)忘れるのを待っている、そんなタイプかもしれません。でも後で考えたら信じられないような本音を言っている人は多いですよね。だから気にしたくないのかも。

      また聞かせてくださいね。
      2023/09/07
  • H30.7.17 読了。

    ・一人の女性が勤務先の銀行で1億円を横領し、失踪した。宮沢りえ主演の同名の映画を先に見てから、小説を手にした。掛け違えたボタン、麻痺する善悪の考え方など一人の女性の落ちぶれていく人生を描いた作品。お金は、おっかねえ。

    ・「ようやく、自分の身に起きたすべてのことがらが、進学や結婚は言うに及ばず、その日何色の服を着たとか、何時の電車に乗ったとか、そうしたささいなできごとのひとつひとつまでもが、自分を作り上げたのだと理解する。私は私のなかの一部なのではなく、何も知らない子どものころから、信じられない不正を平然とくりかえしていたときまで、善も悪も矛盾も理不尽もすべてひっくるめて私という全体なのだと理解する。」

  • 一気読み。

    一億円横領事件。
    ごく平凡な生活を営む主婦が何故に?角田さんの描く一人の女性の転落人生。
    静かに、でも力強く心情が伝わってくるのがお見事。

    ごく普通のリアル感溢れる日常と背中合わせにあるかのような向こう側の世界。
    それは彼女にとって乾いた砂漠のような心を潤してくれる小さなオアシスだったのかも。

    些細な一言が砂漠に、些細な一言がオアシスに…そう思うと誰もがいつ道を誤ってもおかしくない、その恐怖を感じる。

    人ってこんなにも簡単に道を踏み外してしまうのか…その恐ろしさを味わえた一気読み作品。

  • 日々の生活で個性をなくした女達。抗う術を知らない彼女達は偽りの自分をお金で作り上げる。その代償は自分に返ってくるが、本当の自分を見つけられるのか?ハリボテの月に何を祈るのか?
    誰もが感じえる日常のクライシス。
    非常に怖い小説。

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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