紙の月 (ハルキ文庫 か 8-2)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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本棚登録 : 8072
感想 : 869
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  • Amazon.co.jp ・本 (359ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758438452

感想・レビュー・書評

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  • ちょっとしたことで一歩を踏み外し、そこからだんだん深みにはまっていき取り返しのきかないところまできてしまう、そんなことが誰にでもある、そういうことか
    私には感想を書くのに難しかった。

  • 梨花が、年下の彼に若く見られたいという気持ちから、高級化粧品を買うために、お客様から預かったお金を初めて使ってしまい、でも後で自分のお金から返す場面が印象的だった。返しているのだからそこは犯罪ではないのだけど、入り口ってこんな風なんだろうと思った。
    妻を見下した態度を取る夫にも腹が立って、妻が不倫や犯罪に陥ったのは夫にも原因があるんだよなんて思ってしまったが、最後は夫はまともな人だった、やっぱり悪いのは梨花だと感じた。
    梨花の学生時代、親からもらったお小遣いを貧しい人に寄付していて、それが慈善行為だと思っていた場面も印象的だった。

  • ホラー小説よりもうんとホラーだった。

    「不自由とかゆたかっていうのは、どうしたってお金でしかはかれないもんなのか。これがあるからこの子たちは幸せだって言えるものを、お金じゃなくて、品物じゃなくて、おれたちが与えることは無理なのか。」 p330

  • 不倫、一億円の横領などと聞くと遠い世界の話に思えてしまうが、身近に感じられる一つひとつの要因がそういった事態に繋がっていく様子が描かれており、なるほどと思いながら読んだ。モノやサービスを買うことそのものではなく、自分には経済的余裕があると自分や他人に思わせることを目的として金を使うようになってしまったら、確かになかなか抜け出せないだろうと思う。長期的に特定の人に対してだけでなく、アパレルショップの店員などに対して咄嗟に見栄を張って支払いをしてしまう描写の繊細さに感銘を受けた。
    周辺の登場人物視点で書かれている部分は、主人公のあらゆる側面を映し出すだけでなく、各々の金に起因するトラブルや悩みを描いており、幸福とは、善意とは何だろうかと考えさせられた。節約して清貧な暮らしをすれば良いという話でもないところが、よく練られていると感じた。それぞれ続きが気になるところで終わっているため、一層想像が膨らむ。

    (余談)
    横領や金遣いがエスカレートしていく様子は読んでいて辛いものがあったが目を離せず、家事や勉強の合間に10分か20分だけ読むつもりが1時間、2時間と夢中になって読んでしまった。たまには小説に没頭することも仕事の活力になるからと自分に言い訳をしている。
    時間の使い方において、主人公たちのお金の使い方と同じようなことを日々しているのかもしれない…
    しかし満足感のある読書体験だった。

  • 梨花のしたことは犯罪で、絶対してはいけないことなのだけど、そこに至るまでの感情は、誰もが感じたことのある感情に近いからこそ、胸が苦しかった。特に現代日本では、梨花のような孤独や虚無感を何となく抱えている女性は多いと思う。家庭内別居やセックスレスは、大きな家族問題。誰もが梨花のような孤独や虚無を感じる可能性がある。
    そして仕事をするということは、人の尊厳を根本的に支える。例えば社会的との繋がりを得れること、居場所があること、自分で罪悪感なくお金を使えること。それらがどれほど人の自尊心に繋がることか。専業主婦が多かった時代の女性の苦しみとはこういうことかと、読んでてとても理解できたし、その苦しみがひたすらに空虚で心が痛い。だから、多額のお金を横領した梨花を全面的に批判できない。
    結婚もお金も、それ自体に価値があるのではない。本当に大切なことは?見栄を張るということは?世間体とは?を問いかけている作品。

  • 終始胸が詰まる思い。角田光代さん2冊目。読んでいる間、梨花になってしまう。一線を越え、加速するスリル。人間の弱さや儚さを感じます。梨花と繋がる人々も同じ。相変わらず恐ろしいが、見事です。大好き度❤️❤️❤️❤️

  • 角田さんの小説に出てくる主人公皆好き
    脆いけど逞しい

  • ゾクゾクしました!
    自業自得なはずなのに、梨花も亜紀も少し可哀想に思ってしまう。
    光太をひどいと思う。でも光太も悪いわけではなく、梨花が勝手にお金を遣っていただけ…。
    難しい。
    信じてお金託したのに遣われてしまった年配たちも、何だか全員可哀想。
    悲しいお話でした。

  • お金はきっと どれだけあっても満足できないものなのかもしれないですね

    あれば あれだけつかってしまう それが自分のお金じゃないとなると余計なのかも

    お金によって 特別になれるってのは 勘違いで それに 気づけないのは悲しいね

  • はまっていく姿に驚き。とても面白く久しぶりの一気読み。

  • 映画も観たい!りえさん!!

  • 何時横領が露見してしまうのか、終始ハラハラだった。何回も読むの辞めたいと思った!(いい意味で。)梨花の横領に対しての罪悪感や危機感などと言った感情の欠如が余計そうさせていたと思う。それに対して、不意に訪れる焦燥がこっちまで伝わってくる程えぐい。あとタイ行ってみたくなった。総じて最高。

  • 夫が稼いだ「お金」
    彼が必要としてくれた私の「お金」

    収入がある方が偉いのか。夫婦は平等ではないのか。平等と扱ってもらうことが心苦しいのか。

    今の自分に重なります。

  • 強欲というよりもあるから使うという感覚の浪費がリアルで自分の金銭感覚を見直すきっかけになった。
    知らず強欲になっていく姿ってはたからみると醜いものだなと改めて感じた。

  • 角田光代の書く本のテーマは「逃げ」なのかなと思った。紙の月だけでなく、八日目の蝉やキッドナップツアー、対岸の彼女などなど。「逃げる」には物理的な逃げと、精神的な逃げがある。角田光代小説の魅力は、生活のなかで誰しもが体験するはずの「逃げたい」「逃げる」という感情が行動を伴って描かれていることなのかなと思う。そして、その「逃げ」の根本にある理由や感情を、物語に載せて描いているからこそ共感したり教訓にしたりできるんだろうなぁと思う。

    紙の月はモノへの欲求ではなく、ゴールの見えない自己満足への欲求を感じた本。人間が、なぜ欲求や欲望を持つのかは結局のところ「自己満足」を満たせるかどうかかなと思う。自己満足に自分なりのゴールやその時々の終着点があれば、欲求=目的・目標で終われる。ただ、そのゴールが見えないと、満足できずにその次を求めてしまう。梨花は満足を推し量る対象が、自分ではなく壮太であり、世間でもある。だが、壮太とは確信的な約束事(例えば結婚のような)がないからこそ、次へ次へと満足と安心を追い求めていった。ゴールを目指しているように感じながら実際はそこからぐんぐん離れてしまう結果になったんだと思う。
    梨花自身は、もともと欲が強い女性ではない思う。ただ、「自己満足の度合い」が通常の人間よりもはるかに強くて、にも関わらず自分の中のゴールが決まってない。だからこその横領という迷走であり踏み外し、なのではないだろうか。また自己満足を他者の評価でしか満たせないからこそ、壮太へ見せたい自分を追い求めていったんだと思う。
    加速していく内容にハラハラしつつ、最後はすっきりと終わる良い本だった。

  • 主人公に共感しそうになり我に帰る

  • 手が止まらないほどおもしろかった。全能感も焦燥感も窮屈な感じも息苦しさも、全部全部うっすらとわかる気がした。働きだしたら/結婚したら、もっとわかるようになるんだろうなと思った。
    むちゃくちゃおもしろかったけどむちゃくちゃ落ち込みもした。梨花も、木綿子も、亜紀も、みんな自分になりうると思った。わたしはブランドものとかデパートに売っているものを買うことに関して関心がないけれど、年齢を重ねてそうなっていくかもしれない。あるいは働くようになることによって。
    わたしもアルバイトの数万円の変動でだって(先月は8万円だったのに、今月は6万円、、、)と、以前は6万円でも十分に暮らせていたはずが、収入が増えたことにかまけて余分に美容や買い物にお金を掛けたせいで、なんだか物足りなくなることがある。貯金もパーっと使ってしまいたくなることがある
    お水で働いてたくさんの稼いでいる友だちは、辞めた後きちんと暮らしていけるんだろうか、、、みたいなことを少し考えてしまった。一度の贅沢はその後の窮屈さを生み出してしまうんだろう、牧子のつらさもなんとなくだけどわかる。木綿子の子どもは締め付けたことでもっとお金に貪欲になるし、亜紀の娘もきっともっと貪欲になるだろう。「お金」というただの紙(生活に必要なのでされど紙でもあるけど)に踊らされず、収入水準に見合った生活を過ごしていかなきゃいけないな、と思う、その点わたしはデパートのコスメを買っているわけでもないのにどうしてこうなっているのか不思議だけど、、、

    これは「きみはいい子」を観たときと同じ感じのような気もするな、「わたしもいつか子どもを叩いてしまうかもしれない」、「節約に狂ってしまうかもしれない(今は持ち家へのこだわりはないが)」、「いつかブランド物の服やコスメやアクセサリーに狂ってしまうかもしれない(今はこだわりはないが)」、そして「いつか将来の夫が自分を対等な存在として認めてくれなくなる/抱いてくれなくもなる時が来るかもしれない」、すべて"そちら側"に陥る可能性が平等にあり恐ろしい、本自体にそういう意味で漂う不安感や窮屈さが充満していて、とてもおもしろくもあり感じの悪い本だった(いい意味で)

  • 普通の人が、犯罪に走る気持ちが手に取るようにわかった。 一見大人しく、容姿も良い普通の主婦の梨花。梨花はパートの銀行で働きだしてから、若い男性に入れあげて、横領をしてしまう。どう考えても横領をした梨花がいけないに決まっているのだが、その心理描写や周囲の人間の描写が巧みなので、共感してしまう。こうやって一線を超えるのだな...というドキドキが伝染する。転落人生モノが好きなので、非常に興味深く、面白く読んだ。

  • とにかく一番の感想は、しんどかったの一言につきる
    読書中、こんなに心がヒリつくのは珍しい。
    心がヒリついてザワついて、呼吸が苦しく我慢できなくなって本から目を離し、でも続きが気になって活字に目線を戻し、また心がヒリついて…の繰り返しでヘトヘトになる。

    実はこの小説、暴力描写もなく、凄いエロチックな場面もなく、死人どころかけが人すら出てこない小説なのに、怖いし痛いしサディスティックでマゾヒスティックでもある。角田光代はなんて小説を書くんやろ。

    (ネタバレあり)
    主人公梨花の経済感覚の麻痺の何が怖いて、日常誰にでもありそうな落とし穴にすっぽり嵌まってしまうところである。
    ドラッグやギャンブルに入れ込んだわけではなく、男に貢ぐ部分はあるが、ホストとかタチの悪いヒモとかではなく、ちょっと貧乏な映画好き大学生相手なんだから、普通安いもんだろうと思うんだが、そんな予想を覆す金遣いに圧倒される。

    買い物でストレス発散ってタイプの人に是非読んでもらいたい…いや、読まない方がいいか。俺は買い物恐怖症にかかってしまい、しばらくデパートに足を運びたくなくなってしもた。

    欲望があるから人生楽しいんだけど、暴走させると不幸にしかならない。知足って大事やなぁと。
    なんかの偶然に高級なワイン付きで極上のコース料理を食ったとしても、ストロングゼロにカップ麺が俺の帰る場所だと、しっかり心に持っておきたいなぁと。

  • 夫との不和から若い男との不倫、横領・・・転落していく日常の中で、巨額の金をつぎ込んでも心は癒されない渇望感が妙にリアルに感じられた。幸せと金はむしろ正反対の関係なのかも。

著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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