勇者たちへの伝言 いつの日か来た道 (ハルキ文庫)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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本棚登録 : 321
レビュー : 37
  • Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758439626

作品紹介・あらすじ

ベテラン放送作家の工藤正秋は、阪急神戸線の車内アナウンスに耳を奪われる。「次は…いつの日か来た道」。謎めいた言葉に導かれるように、彼は反射的に電車を降りた。小学生の頃、今は亡き父とともに西宮球場で初めてプロ野球観戦した日を思い出しつつ、街を歩く正秋。いつしか、かつての西宮球場跡地に建つショッピング・モールに足を踏み入れた彼の意識は、「いつの日か来た」過去へと飛んだ-。単行本刊行時に数々のメディアで紹介された感動の人間ドラマ、満を持して文庫化!

感想・レビュー・書評

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  • 勇者(ブレーブス)、北朝鮮、プロ野球、魔法
    勇気、阪急

  • 阪急ブレーブスの話だと思っていたが、半分はあたっていた。なかなか趣向に富んだ複雑な構成で描かれている。おかげで、興味深く読めたもののテーマが分散していて、何が言いたかったのがははっきり判らない。
    主人公とその父と父のかっての恋人、安子の物語が文字通り時空を超えて交錯していく中で、西宮球場や阪急ブレーブス、阪急ブレーブスに関わった人々の事が描かれる。いつの間にか在日の話が入ってきて、やがて北朝鮮の帰国事業が語られ始める。北朝鮮の帰った人々の悲惨な状況が描かれるがどこまでちゃんとした取材ができているかは少々疑問。プロトタイプ的に描かれる悲惨な北朝鮮の生活、という感じがしないでもない。
    最後に主人公は「放っておけば歴史の中の闇に埋もれていく声を、何かの形に残していく。そういう仕事に就こうと思う」と語り、なんと無く本書に繋げていく。そして、自ら選んだその道で、懸命に生きたすべての人々が、人生の「勇者」であったことを、と物語を締めくくるのである。

  • 『勇者たちの伝言 いつの日か来た道』(著:増山実)

    いわた書店さんの「一万円選書」の1冊(7/11)
    今年の3月、キャンセル待ちに当選して、届いたカルテに記入し、待ちに待った本が届きました

    カルテに書いた私の希望は「小説が読みたい」
    選ばれた11冊の本はどれも素晴らしく
    しばらく小説を読んでいなかった私の胸のスポンジに
    たくさんの感情の雨を降らしてくれました

    また一万円選書をお願いしたいけど、大人気で再度は無理のよう・・・
    いわた書店さんに選んで頂いた本から、自分で新たな世界を広げていきたいと思います
    いわた書店さん、小説の素晴らしさをまた思い出させていただいて
    ありがとうございました!

    11冊の中には、テンポ良く読み進めてしまって付箋すらつけずにいたものもあります。
    付箋が付いている本は付箋部分を紹介
    付いていない本は備忘録としてタイトルのみご紹介します。

    ・人は人生のよくわからない部分を、適当に、何かそのときに都合のいい、意味のある言葉で埋め合わせ
     なんとか脈絡をつけながら、毎日をつなぎあわせて生きているのだ(p17)

    ・勇気を持ちや。生きていくのには、勇気が必要や(p23)

    ・人生とはなんと不思議なものだろうか。たまたま飛んで来たボール一個が、この人の人生を変えた(p47)

    ・未来なんか誰にも予見できん。何が起こるかは誰にも分からん。そういう世界や。ただ、選手は、予見できん未来のために
     準備することはできるんや(p175)

    ・自分らは最初のレンガを置いただけや。それでええんや(p258)

    ・比べて、あれがいやこれがいやと行動を起こさんより、今ある条件で最善の努力をすることや(p335)

  • 書店で見付けて手に取り、ノスタルジーな物語?と、購入。
    読み始めは、感動もののファンタジーかと思ったが、全然違う方向へ。
    「手紙」の章では壮絶な北朝鮮の状況から目が離せない。まさかこんな展開とは思わず、早く結末が知りたくて、最後まで一気読み。
    キーワードの「勇気」という言葉。
    自分は勇気を持って生きているのか?
    生きる、を改めて考えさせられる。

  • 「これは果たしてどの程度ご自身をモデルにしているのかな?」などと邪推をしながら、そして私が作品世界の中心である西宮市民ということもあり、序盤からスルリと楽しく入り込むことができた。
    そんなライトな気分で読み進んでいたら、中盤以降、戦中戦後の重い時代を背景に、舞台は朝鮮半島、さらにはカリブ海の島国にまで広がっていき、見事に読中のテンションをコントロールされたというか。
    北朝鮮国内の情勢など、真実がどうだったのか私には分からないが、取材と考証を存分に重ねたであろうと容易に推察できる。
    全体のヴォリュームに比すとあるいはちょっと要素が多いかな、という気がしないでもなく、また各ブリッジの渡し方も若干ぎこちない印象はあるが、本流たる骨格が非常に強固で、読み応え充分だった。

  • 思っていたのとは別の方向へどんどん進んでいきびっくりです。最初は正秋と亡くなった父・忠秋との時空を超えた再会の話だろうと思っていたのだが、そこには父の過去、父の恋人の過酷な運命、そして奇跡が詰め込まれていてただの過去の話ではなく、感動の物語でした。

  • 6年ほど西宮に通っていたけれど、西宮ガーデンズの辺りが球場だったことを、実は今年の1月まで全く知らなかった。
    上階のギャラリーも通りかかったことはあるけれど、「写真が飾ってある…なんかそういう企画展なのかな」くらいの印象で、気にも留めていなかった。
    この本は、そんな西宮球場「跡地」を舞台に、球団・阪急ブレーブスや彼らのファンであった勇者たちの人生が交差する、SF(少し不思議)なお話である。
    単純なノスタルジー小説だと思って読み始めたのに、思いもよらない壮絶さを目の当たりにしてしまって、とても一口では語れない…
    大阪ほんま本大賞に選ばれたのも納得の、関西に住む(あるいは住んでいた)人の涙腺を緩める一冊だった…

  •  不思議なお伽話のテイストの、それでいて濃厚に北朝鮮帰還者たちの過酷な人生が描かれていたり、読み始めの印象を次々と裏切る、ある意味雑な、ある意味ファンタジーなお話だった。

     主人公は放送作家の工藤正秋。サラリーマン人生も終盤、離婚歴あり、父親を若いころに亡くしている等々、自分と同世代ということもあり主人公への感情移入はスムーズだった。
     ある日、阪急線の車内アナウンスの「次は、、西宮北口」を「次は、、いつの日か来た道」と空耳したことで不思議な世界へと舞い込んでいく。
     小学生の頃に一度だけ父と一緒に行った西宮球場、初めての野球観戦、今はなき西宮球場跡地に建つショッピング・モールに展示されている球場ジオラマを見ているうちに、主人公の意識は「いつの日か来た道」へ飛んでゆく。40年前のあの日へと。
     そこからは、当時の父の想い出を共に辿り、さらには父が生前語らなかった自分が生まれる前の話を聞く。その話の中に出てくる父親の初恋の相手安子。40年前の夢の世界から舞い戻った主人公は、西宮球場を本拠地としてた阪急ブレーブスの選手たちのその後をたどる過程で、安子からの手紙を偶然にも手に入れる。

     次は、安子によるモノローグ(手紙の文章)が続く。内容は、在日だった安子、さらには他の北朝鮮への帰還者たちの壮絶な人生が綴られたものだった。この昭和34~58年まで行われた在日朝鮮人の北朝鮮への集団帰国(実に9万人以上!)。薔薇色の生活を約束する北朝鮮は単に労働力が欲しかったから。日本は生活保護者や犯罪率の高い在日朝鮮人を排除したいという思惑があり、いわば国家レベルの詐欺のようなものだ。悲しい歴史のヒトコマ。
     安子の夫となる同じく在日の北鮮帰還者の江藤も、西宮界隈で暮らしたことのある男で、その波瀾万丈の運命と、日本への郷愁が終盤まで綴られる。
     そして手紙の中には安子も不思議な体験(タイムスリップ?)を経て、「いつの日か来た道」、あの日、正秋と父親が初めて野球観戦した日に舞い戻っていたことが綴られていた。
     こうして、昭和44年の西宮球場の最終戦の「あの日」が時空の鍵を握る日時となって(映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で言うところの1985年10月25日みたいなものね)、不思議な縁(えにし)が語られていくという筋立てだ。

     まぁ、かなり漫画的なストーリー。あるいは、大人向けのお伽話というところか。タイムスリップ的に「あの日」に戻るところになんら理論的な説明も背景説明もない。そんな不思議なことが正秋と安子の間に起こり、若き日の父と安子の想い出とその後の人生の経糸が、昭和の時代と当時の出来事、様々な人間関係という横糸と交わり、「あの日」と野球と北朝鮮、そして阪急ブレーブス(と当時の選手たち)で着彩した大きな絵巻物になっているというお話だった。

     悪くないんだけど、タイムスリップで懐かしい昭和を振り返るテイストかと読み進めれば、話は一転北朝鮮に飛び、過酷な人生の中、思い出すのは西宮球場での野球の想い出。当時の選手たちの様子や引退後の人生なんかも主人公による職業(放送作家)を活かしての取材で描かれる。 取材に応じてくれた選手の一人がバルボンで、彼の故郷はキューバだったことから、キューバ革命の話も少し出てくるのみならず、安子の夫となる男性の父親(朝鮮人初の職業野球選手だった)はキューバにも暮らしたことがあるとかで、話がどんどんテンコ盛りだ。 細部をすっ飛ばしたあらすじを記しても、なかなか話の主眼が見えてこない様相。
     さらには、主人公が幼少期に見ていたTV番組のぬいぐるみショーの演者が、これも実在の在日の方だからと話に出てくるのだ。永山一夫さんという方で、北朝鮮に戻ってからは消息不明となっている(Wiki情報)。 その永山さんと思われる人物が、安子の脱北を助けるなんて登場のしかたは、なんだかもう、全部載せの上にアブラマシマシなしつこさを感じるほどだ(安子が北朝鮮でこっそり歌う想い出の日本歌謡が小畑実の『星影の小経』。小畑実も平壌出身の朝鮮人という、さらに味濃いめな演出)。

     「在日」朝鮮人の故郷を持たない(持てない)苦労や悲しみは伝わってくる。それと人生の終盤を迎えようとする主人公の思いがどうクロスするのかが、いまひとつ描き切れていなかった気がしてしかたがない。

     かつての阪急ブレーブスの名選手梶本投手の「負け越したことが誇り」という言葉、父とはじめて観戦したプロ野球の試合は「負けたけど、おもしろかった」という感想。主人公は「これからの人生もまた、そう言えるものであれば」と、さすが50に達したという境地を述べている。同世代としてその感慨は合点するところも多く、そうした振り返りを、西宮球場の想い出と、不思議なタイムスリップを通じて確認するというファンタジーであればストンと腑に落ちる。

     そこに濃厚に絡んでくる在日帰還者の人生、あるいはキューバから遥か遠く日本の地にやってきたバルボンの話。安子に「故郷とは何だったのでしょう」と語らせ、
    「今になって私は思うのです。「故郷」とは、きっと追い求めるものではなく、ふりかえったときに、「ただそこにあるもの」なのかもしれません。」
    というクダリや、バルボンが自分の人生を重ねて外国から来た若い選手に言う
    「この国に長くいたいと思うんなら、比べるな。優劣を比べるな。(中略)比べて、あれがいやこれがいやと行動を起こさんより、今ある条件で最善の努力をすることや」
     これらの言葉は、故郷を離れた者の、達観した覚悟のようなものを提示しているのだろうが、主人公の人生折り返しの感慨とどう結びつくのかが稀薄だ。

     もう少し整理できたらよかったのかな。。。
     全体を通しては、今はなき「阪急ブレーブス」に生きる勇気をもらった様々な人々が、21世紀の今まで生きてこれたことへのささやかなエールなのだろう。生きてるだけで丸もうけ、でもないが、生きながらえた彼らこそが「勇者」なのだということか。
     だから、「いつの日か来た道」から改題された本書のタイトルが「勇者たちへの伝言」なのだ。”勇者たちの伝言”でも、”勇者たちからの伝言”でもなく、彼らや、その他の命を長らえたもの、非業の死を遂げたもの全ての”勇者たち”への伝言、エールなんだな(と理解しよう)。

     当時の阪急ブレーブスの応援団長の今坂喜好氏(実在の人物。今坂氏にも取材している)の言葉を胸に、彼らは今後の人生を全うしていくのだろう。

    「健闘を祈るよ。おれはいつでも、勇者を応援しとる」

  • 仕事に行き詰ったベテラン放送作家の工藤正秋。
    電車の中でうたた寝をしていた時に、聞こえてきたアナウンスが
    「次は・・・いつの日か来た道。いつの日か来た道。」

    それは空耳で、実際は「西宮北口」と告げていたのでした。
    そのアナウンスにつられるように、西宮北口で下車した正秋は、
    思い出の地、かつての西宮球場跡地を訪れます。
    そこで正秋は8歳のころの時代へとタイムスリップしてしまい・・・。
    と、ここまで読んで、タイムスリップしちゃって、最後は感動が待っている親子の話かな?なんて、うがった見方で読み進めていると、
    現在も大きな問題となっている北朝鮮での暗く悲しい歴史が関わってきたり、
    大きな歴史の流れに翻弄された人々の話が織り込まれたりと、
    読み応え抜群、どんどん話にひきこまれていきました。

    うがった見方で読んでしまって、ごめんなさい。そう著者に謝りたくなりました。
    今の自分が歩んでいる人生は、誰かが歩んできた、
    「いつの日か来た道」の続きを歩いているんだな、と
    何か大きな毛布にくるまれているような、あたたかい気持ちになりました。

    図書館スタッフ(学園前):トゥーティッキ

    ----------
    帝塚山大学図書館OPAC
    http://opac.tezukayama-u.ac.jp/mylimedio/search/search.do?target=local&mode=comp&category-book=1&category-mgz=1&materialid=1100392486

  • 書店でたまたま手に取り、読み始めた本作。
    予想を超える面白さだった。
    重松清の「赤ヘル1975」のような作品かと思っていたが、まったく別物。壮大なファンタジーだった。
    今はなき西宮球場を軸に、非常に緻密にすべてのエピソードが結びついていく様は見事と言える。
    タイトルも読み終えた後に「なるほどね」と納得。
    次回ガーデンズに行く際には、阪急西宮ギャラリーに行ってみようと思う。

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