潮流 東京湾臨海署安積班 (ハルキ文庫 こ 3-42)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758440905

感想・レビュー・書評

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  • <安積班シリーズ>第17作目(解説による)。
    今野さんの作品は良くも悪くも安心して読めるものが多いのだが、この作品は久しぶりにハラハラさせられた。

    安積班が四年半前に扱った<宮間事件>に冤罪の可能性が出てきたのだ。
    <宮間事件>の犯人宮間は逮捕された当初から刑務所に収監された現在まで一貫して無罪を主張している。しかもこの<宮間事件>と現在起きている三人の男女が毒殺された事件とは繋がっている可能性があり、臨海署を敵視している犯人によって須田まで毒を打ち込まれ救急搬送されてしまう。

    安積班のことだから強引だったり先入観に沿った捜査はしないと信じているものの、改めて調べていくと当時の安積が知らなかった事情や事実があったことが分かる。
    安積が<宮間事件>に対して『気になる』センサーが発動したのと同様に、他の警察官たちもこの事件に対しては様々な『気になる』を抱えていた。こうした小さな『気になる』の見逃しも積み重なれば事件の様相が違って見えてくる。

    池谷管理官や天敵の本部捜査一課・佐治係長が止める中、もし冤罪事件であった時は自身が責任を取るという覚悟を持って<宮間事件>を洗い直すことを決意した安積の格好良いセリフ、今回も頂きました。

    『真実を明らかにできないのなら警察官でいる意味はありません』

    佐治係長は安積側の視点で見れば本部の人間であることを傘に何かと安積のやることを潰そうとする嫌なキャラクターなのだが、逆に佐治の側から見れば安積はスタンドプレーの目立つ嫌な刑事なのかも知れない。
    皆が同じ方向を向いて事件捜査に当たらないといけないのに、安積は違う方向を向いているのだから。だから佐治のようなキャラクターもあっていいと思う。

    一方で今回も警察側と報道との間で機密事項を巡っての攻防が描かれる。
    番記者の山口友紀子が随分と大人になったというか、捜査上の支障と報道する自由とのバランスを考えながら取材しているように感じた。逆に遊軍記者の由良は遊軍であるがゆえだろうがガツガツしている。

    山口記者にしろ安積班に途中加入した水野にしろ、男性が多い職場や業界ではどうしても女性は目立つ。男性と同じやり方をしても真面目に仕事に取り組んでいても穿った見方をされてしまう。
    そんな彼女たちを気にかけること自体、彼女たちを特別視しているのだろうかと悩む安積が好きだ。
    そして情報漏洩や冤罪の可能性など様々な悩みを抱える安積に力強く『俺に任せておけ』という自信満々な速水が頼もしい。

    そして黒木。普段物静かな彼がこんなに熱い人間だったとは。でも安積班のメンバーは自分のことなら我慢出来ても安積班や臨海署の人たちのためなら怒ったり闘ったり出来る。勿論暴力は絶対ダメだけど。
    これは安積班のメンバーに限ったことではなく、野村署長はじめ、交機隊の速水に鑑識の石倉など臨海署の者皆同じ。
    またこれまで何かと安積をライバル視してきた相楽が自ら『私も臨海署の一員なんですよ』と言うなんて、感慨深い。
    安積も理想の上司だが、野村署長もまたいざとなれば自分が全ての責任を負う覚悟を持った素敵な上司だった。その野村署長の安積に対するセリフがまた粋で良い。

    最後にタイトルの「潮流」の意味が分かる。現在の何かと揚げ足を取ってしつこく叩きたがる世の中だとこうは行かないだろうが、せめてこのシリーズの中だけでも誠実さには誠実さで返すという爽快感があって良い。

    ところで安積の年齢設定は解説によると45歳。シリーズ当初から変わらない設定なので仕方ないが、最近の作品での安積は年齢以上に爺むさい感じがする。現在の45歳はもっと若々しいし、自分で火起こしして焚き火作れる人もそうはいないような。

  • 著者のライフワークというこのシリーズは、やはり安定した面白さがある。
    安積警部補を班長とした安積班の各メンバーがそれぞれ個性を生かし、チームとして事件に当たるのが特徴。
    湾岸署に救急搬送の知らせが入り、そこに事件を予感する異常事態を感じた安積班が行動を開始する。
    毒物で3人が死亡し、湾岸署が過去に扱った事件が浮上する。その事件の犯人に冤罪の疑いも持ちあがるが、安積たちは臆せず、事件の真相を明らかにすべく邁進する。
    捜査一課も乗り出し、安積班との確執も。本庁と所轄との関係、警察という男社会での女性の立場、99%の有罪率を誇る検察のあり方、さらに刑事と番記者との関係、情報漏洩問題、逮捕した時点で犯罪者扱いするマスコミ等々。
    著者は様々な課題を提示し、読者にも問題意識を持つよう促すかのよう。
    本作が、シリーズ№1との評があるが、シリーズ未読作品も読みたくさせる読後感。

  •  久しぶりに読んだ臨海署安積班もの。やはりおもしろい。懐かしの面々の活躍、味のある脇役陣、そして何より相変わらずの安積班長。まさに安心の安定感だ。長編なのもいい。事件はかなり突飛な設定で始まるが、それが昔の冤罪事件に結び付いたあたりから急転回し、正義は勝つみたいなできすぎの結末で終わる。きれいごとすぎると言ってしまえばそれまでだけど、安積班だからな。最後に啖呵を切った警視総監て竜崎という名前だったりしてとにやり。

  • 集大成的な作品。
    読みごたえのある一冊。

  • 黒木の件での署長の対応、これぞ組織の上に立つ者の理想形かもしれない。

著者プロフィール

1955年北海道生まれ。上智大学在学中の78年に『怪物が街にやってくる』で問題小説新人賞を受賞。2006年、『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞を、08年『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞を受賞。

「2023年 『脈動』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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