新装版 果しなき流れの果に (ハルキ文庫 こ 1-33)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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  • Amazon.co.jp ・本 (437ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758441780

感想・レビュー・書評

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  • ”「人間の認識能力は、人間の現実的状態の幸不幸に関係なく、とてつもなく、深遠で巨大なことを認識できる。しかし、その認識し得た認識は、その時の人間の状態を、ちっとも変えやしない。かろうじて、現実自体のルールで動いている人間的現実に、一刻休戦を勧告し、その闘争の苛酷さを、いくぶんとも緩和させるように、はたらきかけるだけだ。それも、有効範囲は、人間の相互関係の中でうみ出される人間的現実にかぎられていて、人間の、存在状態の方には、指一本ふれられやしないのだ」「だがその認識によって、人類全体は理想状態に、一歩一歩、ちかづいていくのじゃないのかね?」(中略)「そして、ついに、状態は認識に追いつけない」(p.364)”

     宇宙の管理者と反乱者との間の戦いを軸に、「宇宙の構造」や「知性の認識能力」といったテーマを扱った、壮大なスケールのSF。
     正直、後半はそのスケールの大きさに僕には制御不能で、怒涛の勢いにただ圧倒されるばかりだった。物語として破綻しているとは思わないが、魅力的なモチーフが次から次へと登場してきて、それらを秩序立てて整理するのはかなり難しい。乱雑としている感は確かに否定できない(そもそも僕が完全に理解出来ているわけでもないし)。しかし、個々のシーンで喚起されるイメージはとても美しく、それらを味わうためだけでも本書を読む価値はある。

     結論めいたものは出せなかったのだが、読んで思ったことが幾つかあるので、メモして終わりにしておく。再読した時の自分には続きを頑張って欲しい(笑)
    ・『日本沈没』の沈む日本、『日本アパッチ族』の燃える大阪、『復活の日』のパンデミックで死に絶える世界のように、手から零れ落ちてしまい、最早元には戻らないものに対する哀惜の念の描写が、小松左京の作品では印象に残っている。それが本書では、過去を改変することを阻止しようとする管理者(超知性)側に繋がるのだと思うが、管理者に反抗し、過去を改変することで未来を知性にとってより良いものにしようとするもう一つの勢力(反乱者)が描かれているのが、他の作品にはない傾向だと思う。しかも、ラストシーンでは反乱者Nと彼を追い詰めてきた管理者マツラが融合し、知性の高みに昇ろうとするのだが、勢いを失って「墜落」するというのも興味深い。
    ・「循環」というものが繰り返し描かれており、間違いなく本書のメインテーマの一つだろう。冒頭で提示される永遠に砂の落ち続ける砂時計は勿論のこと、N=野々村が墜落して元の居場所に帰ってくることが前半で既に予言されていること(p.72、75)、エピローグが二度語られること、など。ただ、これが知性の階梯構造(位階構造)という、直線的な、本書のもう一つの軸となるイメージと、どう整合できるかが分からない。

  • 日本SFの青春を象徴する一冊であり、かつ、世界レベルの傑作。何度目かの読み返しだけれど新たな発見がある。

  • 2021年10月8日読了。大学の研究員・野々村が教授に見せられた謎の砂時計、それに続く人々の失踪…。未解決のまま残された事件は、時空を超えた戦いの一部が表出したものに過ぎなかった…!随分昔に友人に薦められたSF、いやはやこんな話になるとは全く想像できない、ページを繰るたびに「なんじゃ!こりゃ!」と叫びだしそうな、イマジネーションが爆発するかのようなすごいSFだった…こんな小説が自分が生まれる10年も前の日本で発表されていたとは、世界の奥深さを思い知らされる…。語られる描写・説明のほとんどは「とにかくなんかすごいらしい」とちんぷんかんぷんなのだが、読者から見るとわけも分からず争い追いかけっこをしている登場人物たちの営みが、終盤になって「それこそが人間が人間であることの意味なのだ」とドーンと明かされる、そして最後にちっぽけな幸せに満ちた情景に帰結する、このうねるような展開にはとにかく圧倒された。スゲーSFだ。

  • 『星を継ぐもの』、『三体』、『タイタンの妖女』…今まで読んできた弩級SFたちを彷彿させる作品でした。何よりも読んでいてのワクワクと、ワイドスクリーンバロックの縦横無尽感、宇宙の深遠に吸い込まれてそこにあるのは"空"といった感覚などなど、面白かった。面白かったが、ちょこちょこ説明不足感というか、分からないけどすごい!ではなくて、えなんでだっけ?感を感じてしまったので、星4つ。あとがきにも書いてあるようにこれは「エスキース」っていう感じで、ぜひ本作を!と思う。小松左京は二作目でよくわかってないんですが、一応未完の『虚無回廊』が正式な後継者なのかな?そちらも読みたいです。この時代の日本SFの凄みを十分に感じた一作でした。とはいえ、やはり?というべきか、あまりにもジェンダーバイアスにみちた表現は読んでいてきついところもあったが…

    「…存在しつづけなければならないこと、存在するかぎりにおいて存在しつづけねばならないことが、われわれのー考えようによっては、この上もなくおそろしいー宿命だよ」

    「─ 正義だの、モラルだの、ヒューマニズムだのという視点から見る時、おれたち人間という奴は、まったく、 どうにもならないよ。あきれるほど同じことをくりかえし、それをやめたところで、なぶり殺しにされた何百億の人間が、成仏するわけでもなければ、生きかえってくるわけでもない。人間は、その発生から滅亡まで、終始けだものにすぎなかった、と考えるか、それとももっと別の、根本的にちがう可能性を、考えるべきなのか?」

  • 全体的なストーリーがどうこうと言うよりは、魅力的なイメージが多くてそれを追うのが楽しかった。謎の提示の仕方がうますぎる。これだけいろんなネタを入れ込んでこの長さに抑えているのもすごい。
    今読むとどうしても古びた部分も多いけど、数十年前にこの本が出た当時は相当革新的だったことは分かる。

  • ずいぶん昔に一度読んだが、もうひとつピンと来なかった作品。改めて読み直すと、スケールの大きな良い作品だと思う。

    日常からぐんぐんと世界が広がっている前半がとてもワクワクする。後半に入るとものすごくスケールが大きくなるんだけど、逆に大枠が見えてしまったワクワク感が減ったような気がする。空間と時間の広がりに、僕の歓声がついていけていないだけなのかもしれないけれど。

    大きな物語よりも、ひとつひとつの場面とか、そこに現れては消える脇役たちの姿や心情に切なさが感じられて愛おしく、苦しくなる。その苦しさが、最後にふんわりと救われたような気持ちになるのが、長編小説として「いいなあ」と思えるところだ。

  • 訳がわからない
    ただただ苦痛

  • いつもと違うジャンルを…と思い手にした一冊。
    SFっていいなぁ
    自由だなぁ

    驚きなのはこの作品が1965年に書かれているということ。
    実に56年前の作品。
    2021年に読んでも、時代が作品に追いつけているかどうか…
    叶うなら50年後ぐらいに読みたい作品です。

  • 時空を超えた壮大な旅、歴史に刻まれた、未来からの干渉を示唆する不思議な痕跡の数々。歴史を変えようと画策する一味と、大いなる意思に従って進化を管理し、歴史の秩序を守り、一味の活動を取り締まろうとする強大な勢力との間の熾烈な抗争を描いたSFの名作。

    これだけスケールの大きな作品が1965年に執筆されたというから驚きだ。今も通用する色んなアイデアが盛り込まれているし…。細部に分かりにくいところや気になるところもあったが、まあそこは気にしないということで。

    多元宇宙のアイデアも盛り込まれており、好きなタイプの作品だった。

  • まず恐竜同士のバトルが序章というのが、いきなりユニーク!w

    それから、現代パートではとあるミステリー要素が登場し、読者の好奇心をグッと鷲づかみにしてしまう。砂時計とか古墳っていうアイテムのチョイスがいちいち良い。
    そしてその好奇心が爛々と燃えたまま、SF的な世界は深化していく。時間移動や派閥争いといった良質なミステリーSFが展開されて、時間を忘れて物語に没頭してしまった。

    ラストの疾走感がまた凄い。疾走感だけじゃない。主人公が世界の真相にたどり着く、文字通りのグングン上昇していく感じがたまらない!
    そして弾けるように現実へと描写が戻り、伏線を回収しながら幕引きとなる。この牧歌的に慎ましい締め方がまた愛おしい…。

    こんな面白い国内SF小説を読み逃していたなんて…!今更だけど、読めてよかった。文句なしの名作。国内SFの必読書だ。

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著者プロフィール

昭和6年(1931年)大阪生まれ。旧制神戸一中、三校、京大イタリア文学卒業。経済誌『アトム』記者、ラジオ大阪「いとしこいしの新聞展望」台本書きなどをしながら、1961年〈SFマガジン〉主催の第一回空想科学小説コンテストで「地には平和」が選外努力賞受賞。以後SF作家となり、1973年発表の『日本沈没』は空前のベストセラーとなる。70年万博など幅広く活躍。

「2019年 『小松左京全集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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