菓子屋横丁月光荘 歌う家 (ハルキ文庫 ほ 5-1)

  • 角川春樹事務所
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感想 : 75
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758441940

作品紹介・あらすじ

家の声が聞こえる――
幼い頃から不思議な力を持つ大学院生・遠野守人。
縁あって、川越は菓子屋横丁の一角に建つ築七十年の古民家で、
住みこみの管理人をすることになった。
早くに両親を亡くし、人知れず心に抱くものがある守人だったが、
情緒あふれる町の古きよきもの、そこに集う人々の物語にふれ、
自分の過去にむきあっていく。
人もものも、記憶を抱いて生まれ変わることができる。
心のいちばんやわらかな場所にやさしく沁みる新シリーズ、第一作。

感想・レビュー・書評

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  • 幼い頃から『家の声が聞こえる』不思議な力を持つ大学院生の遠野守人。家族との縁が薄い彼に、大学の先生からの紹介で川越の菓子屋横丁にある古民家で住み込みの管理人をすることに。早速家主や先生と古民家に入った守人は、そこで家が歌っているのを聞き…。

    予想していた内容とは違って守人はその不思議な力を人前で披露することはないし、家の歴史や過去の物語について謎解きすることもない。この辺りが私の好みとは少し外れていて物足りなかった。
    ただ二話どちらの物語も温かなものだった。

    家は大事にされればそれこそ何百年と生き続けるのだから、その中で幾世代も、幾人もの人や家族の人生を見守っている。
    その人生では楽しいこと嬉しいこと幸せなことがある一方で辛いこと悲しいこと苦しいこともある。
    二話とも家が守人に悲しみや苦しみの声を聞かせるのではなく、温かで楽しい声を聞かせてくれたのが印象的。
    守人が両親の死をきっかけに家を出ることになった幼い頃の想い出のシーンでは、幼い守人の悲しみに共鳴するかのように家も慟哭していた。
    ということは、今の守人の心の状態、そして家と寄り添おうとしている姿に家も共鳴しているのだろうか。
    またはかつての住民が過去は苦しくても今は穏やかに前向きに生きていることを教えようとしているのか。

    一歩違えばホラーになりそうな設定を温かなファンタジーに展開してくれたのは作家さんの持ち味だろうか。
    初めて読む作家さんなので知らなかったが、他のシリーズとのリンクもあるようだ。

    『草食系』を通り越して『仙人』と呼ばれるほど周囲からは内を見せない不思議な青年と見られている守人。そんな彼と対照的なキャラクターにしたいからか、後輩の『べんてんちゃん』こと松村果歩はグイグイ入ってくる。私は少々苦手なタイプだが、彼女の積極性で話が進むところもある。というより思うところをなかなか口に出せない守人では全く話が進まないのだから、べんてんちゃんに任せるしかないだろう。

    この第一作ではそうして守人は家の物語を知り、『声』との答え合わせをする構成になっているが、第二作以降はどうなるのだろう。
    守人に変化が起こるのか。

  • シリーズ一作目。
    「活版印刷三日月堂」シリーズと同じ、川越が舞台。
    古い建物の声が聞こえるという大学院生の遠野が主人公。
    川越のそのような建物を改修して、住んだりお店にしたりといった中でストーリーが展開する。ほっこりなごみ系。

  • 川越の街並みや古民家はテレビで観たことがあり馴染み深い。
    古くて情緒溢れる街並みだけに、ちょっと不可思議な現象が起こるのも不思議ではないように思える。

    建物には、かつてそこで暮らした人々の記憶が宿っている。
    建物の中に居て微かに感じる息遣い、話し声、歌声、掛け声。
    それはかつて暮らしていた人達が、確かにそこに居た、という紛れもない証。
    建物はいつまでも覚えている。
    例え人は亡くなっても、その建物がこの世から消えない限り永遠に。

    神秘的で、どこか懐かしい気持ちにさせてくれる物語だった。
    舞台が同じ川越ということもあり『活版印刷 三日月堂』とのリンクが楽しめた。

  • 川越の古民家を舞台にした物語。
    大学院生の遠野は、ある日ゼミの木谷先生より、川越の古民家の管理人みたいなことをしてみないか?と持ち掛けられる。
    亡くなった祖父の家に一人で住み続ける遠野は、大学から近くなること、今住んでいる家を伯父たちが処分したがっていることから、引き受けることに。
    1作目である今作は、舞台となる「月光荘」の歴史や、「月光荘」を取り巻く川越の街並みの説明がほとんど。
    川越の街並みが目に浮かぶようだが、説明が多く、やたら知り合いが次から次へと湧いてきて、なかなか話に入り込めない。
    遠野の家の声が聞こえるという特殊な能力も今後どのように活かさせて来るのか、1作目だけでは分からず…
    木谷先生のコレクション・古地図の話も今後はもっと出て来ると、さらに面白くなりそうだが、どうだろう・・・
    「活版印刷」「紙屋ふじさき」が好きな作品なだけに、つい個人的なハードルが上がってしまう…

  • タイトルと、家の声が聴こえる・・・という内容から、もののけの出るお菓子屋さんの話かと早合点した馬鹿です。
    読みはじめたら、川越にある菓子屋横丁という場所のことで、古民家に引っ越してくる、遠野守人という大学院生の話でした。(ちなみに、彼は草食系を通り越して仙人と呼ばれていると、他のブクログレビュアーさんのレビューにあり、納得!)

    この本に出てくるのは、古地図、古民家、和菓子、和三盆などの古くから伝わる伝統的な産業、文化を持って川越にやってくる人たちです。それが地元の商店の人たちと縁を持って、川越で店を持ったり、資料館を開いたりして実現していきます。

    登場人物の広がりが、物語をどんどん膨らませていくので、家の声が聴こえる・・・というファンタジーなしでもいいのではないかと思ったくらいです。
    その土地に残されている歴史や、手仕事を見つけ出すこと。地元の人と、外から入って来て新たな魅力を発見する人たちとのコラボレーション。
    そして、ほしおさんの物語の根底にあるのは、いつも家族。人々の横のつながりと、それぞれが持つ家族や祖先という歴史のつながりが、物語を深くしているように思えます。
    市井の人々を描く物語が好きなので、引き込まれます。
    「活版印刷三日月堂」と同じ川越が舞台なので、ご近所繋がりの店も出て来ました。
    その後のシリーズでは、さらにスピンオフの物語が出て来ます。

  • 家の声が聞こえる守人。怖い話ではなく、ほんのり温かい話。川越は行ったことがないけれど、古い町並みがとてもいいところということが伝わってくる。孤独な守人は、川越の家と人々に触れて変わっていくことだろう。たわいのない話だとは思うけれども、でもいい話だった。真夏の中の一陣の爽やかな風のようだ。

  • ほしおさなえの菓子屋横丁月光荘 歌う家を読みました。
    主人公は、幼い頃から家の声が聞こえると言う不思議な力がありました。
    大学院生になり、通学に片道2時間かかっていたのですが、教授から川越の築70年の家の管理人の話があり、川越に住むことになりました
    川越は蔵造りの古い建物がたくさんあり、改築するにあたり、黒漆喰など建築家の私にとって興味深いものはたくさんあり、その建物とその周りの人たちの温かいやりとりがとても面白かったです。
    シリーズの第一作なので、他の続編も読んでみたいと思います。

  • 登場する川越の街並みが、実際に出かけたことがある場所だったので、普段読書の世界で味わうことのない楽しみかたがあった。
    ただ、 主人公が持つ特殊な力を存分に発揮できないまま、物語が終わってしまい…。

  • 「活版印刷三日月堂」が終わっちゃったのでこちらを。

    同じく川越のお話。

    主人公の守人は家の声が聞こえる。
    そして、その声のを感じながら家を守る人、
    ってことでしょうか。

    優しいお話でしたが、少々物足りない。

    べんてんちゃんは明らかに主要人物だけど、
    わたしはが少々苦手かな。

  • 活版印刷三日月堂シリーズと同じく川越が舞台。三日月堂に登場したお店の名前等々が話の端々にでてきて三日月堂の世界と繋がっているのがうれしい。
    個人的には三日月堂に比べてウェット過多で時々読み心地がわるい。
    でも基本的にはいいお話でした。家の声とは住人の想いでもあるのかな。
    ただ話を動かすのに必要なのかもしれませんが、べんてんちゃんが天然を理由に他人の事情に無遠慮に踏み込むのには嫌悪すら感じました。天然と称すれば悪気なくとも他者への配慮のなさが許されるわけではないです。
    次巻があるならこういう無神経な形で話を動かす手法ではないといいなと思います。

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著者プロフィール

1964年東京都生まれ。作家・詩人。95年「影をめくるとき」が第38回群像新人文学賞優秀作受賞。2002年『ヘビイチゴ・サナトリウム』が、第12回鮎川哲也賞最終候補作となる。16年から刊行された「活版印刷三日月堂」シリーズが話題を呼び、第5回静岡書店大賞(映像化したい文庫部門)を受賞するなど人気となる。主な作品に「菓子屋横丁月光荘」シリーズ、『三ノ池植物園標本室(上・下)』など。

「2021年 『東京のぼる坂くだる坂』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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