童の神 (ハルキ文庫 い 24-7 時代小説文庫)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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  • Amazon.co.jp ・本 (456ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758443425

作品紹介・あらすじ

「世を、人の心を変えるのだ」「人をあきらめない。それが我々の戦いだ」
――平安時代「童」と呼ばれる者たちがいた。彼らは鬼、土蜘蛛……などの恐ろしげな名で呼ばれ、京人から蔑まれていた。
一方、安倍晴明が空前絶後の凶事と断じた日食の最中に、越後で生まれた桜暁丸は、父と故郷を奪った京人に復讐を誓っていた。
そして遂に桜暁丸は、童たちと共に朝廷軍に決死の戦いを挑むが――。
差別なき世を熱望し、散っていった者たちへの、祈りの詩。
第一○回角川春樹小説賞(選考委員 北方謙三、今野敏、角川春樹 大激賞)受賞作にして、第一六◯回直木賞候補作。

感想・レビュー・書評

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  • 大江山の鬼退治という童話のような伝説ともなっている話を、リアルでありながらファンタジックに、生き生きと描いた小説。

    平安時代。
    中央集権が進み、宮中文化が栄えた平安時代は、平和でも安心できる世でもなかった‥?
    安和の変が起きた962年に物語は始まります。
    京の都にも、ほど近い地域にも、「童」と呼ばれる、朝廷にまつろわぬ者たちがいた。「童」というのは、子供という意味ではなく、鬼、土蜘蛛、夷、滝夜叉、山姥などをまとめて蔑んで呼ぶ言葉。
    一方的に蔑む権力者に対抗して、乱が起きたのだが、あえなく鎮圧される。
    安倍晴明は、皆既日食を凶事と断じ、ゆえに恩赦が出るように事を運ぶ。じつは童と通じていて、囚われた彼らを救ったのだ。

    この年この日、越後で桜暁丸(おうぎまる)が生まれた。父は郡司で、流れ着いた異国の女性との間に子をなしたのだ。夷を差別しない人柄だったが、京に目をつけられてしまう。
    桜暁丸は父と故郷を喪い、「花天狗」という盗賊となった。のちの「酒呑童子」この童子という名が子供という意味ではなかったわけです。

    跋扈する盗賊や、表には出ずに山で暮らす人々との出会い。
    それぞれの強さと意気地、はかなさとしぶとさ。
    影に日に活躍する女性たちも魅力的です。
    実在する人物も、伝承を思わせる内容も出て来て、その描き方がスピーディで熱っぽく、きらきらと輝くよう。
    引き込まれて一気読み。

    史実でこれほど大規模な闘いがあったのかどうか。
    平安時代については、数字的なことがよくわからないのだが。
    赤い血の流れる同じ人間でありながら、秩序になじまないという理由で、否定する。
    元はそれぞれ離れた土地で、その土地なりに暮らしていただけなのに。

    世の制度が整っていくときに起きる残酷さ。
    時代の流れとはまた別な、異なるものを排除する心理。
    現代でも、根深く、あちこちで起きている現象のようにも思います。
    せめて、極端な差別や争いを起こさない方向へ、進んでいけたらと願うばかり。

    2019年初読。2023年、文庫で再読。

  • 「共に生きる」
    何度この言葉が出てきたことだろう。

    同じ一つの国の中で生まれ育ち、同じ赤い血の流れる”人”のはずなのに、貴族と庶民、京人と鄙の者、内と外、となにかと区別したがる”人”の弱さを思い知る。
    己の地位を確立するため、それを妨げる者を一方的に虐げる”人”の強欲さに胸苦しくなる。

    多種多様な人が混じり合い共に生きる、そんな忌まわしき境のない世が、きっと千年の後には出来ているはず、と期待を寄せた桜暁丸。
    桜暁丸の生きた世から千年後の世となる現代において、残念ながら桜暁丸の期待には応えられていなくて申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
    千年経っても変わらずに存在する、人と人との間を阻む大きな壁を打ち砕く”何か”を見出さなければならない。
    最後の最後まで熱き心を失わなかった先人たちに思いを馳せ、胸の奥をぎゅっと掴まれたまま頁を閉じた。
    史実とはいえ、結末が悲しすぎる。
    桜暁丸たちの魂の炎は、決して消えることはないと信じたい。

    『文庫版あとがき』によるとまだこの物語は終わっていない、とのこと。
    物語の続編が今からとても楽しみだ。

    先に『きつねの橋』を読んでいたお陰で、物語に入りやすかった。
    立場や目線が違うとこうも違うのか、と驚いた。

    • nejidonさん
      mofuさん、こんにちは(^^♪
      今村翔吾さん、すごく面白いですよね!
      疾走するように物語が駆け抜ける感じで、私も大好きです。
      女性の...
      mofuさん、こんにちは(^^♪
      今村翔吾さん、すごく面白いですよね!
      疾走するように物語が駆け抜ける感じで、私も大好きです。
      女性の描き方も上手いと思いません?
      大江山の鬼伝説がこの話で繋がって、私はそれが嬉しかったです!
      「きつねの橋」を前に読まなかったので、それを反省しています。
      後から読んでも大丈夫かしら?
      2021/03/02
    • mofuさん
      nejidonさん、こんにちは♪

      今村さんの作品はどれも面白くてハマってます!
      疾走感はもちろん、人情味もあって切なくなって。。
      キャラク...
      nejidonさん、こんにちは♪

      今村さんの作品はどれも面白くてハマってます!
      疾走感はもちろん、人情味もあって切なくなって。。
      キャラクターの作りがしっかりしているので感情移入しやすいのかも。色々な感情がこみ上げてきます(^^)
      今村さんの描く女性はみんなカッコよくて惚れ惚れしますね。今村さんの理想像でしょうか?

      『きつねの橋』は『童の神』とは立場が逆転していて読み比べできて楽しかったですよ。ただ朝廷側の人間の発言にちょっとムカッとくる時もあったけど(^_^;)
      nejidonさんもぜひ今からでも読み比べしてみてください。アッチの言い分とコッチの言い分の違いを比べるのも面白い読み方だと思います(*^^*)
      2021/03/02
  • 平安時代中期、安和2年(969年)の「安和の変」に端を発する物語。
    この時代のことを知らなかったので、読み終わってからここに登場する人物のことを調べてみたが、源頼光や渡辺綱ら四天王は酒呑童子ら都を荒らす悪党を平定した武人として紹介されており、この本を読んでからそれを知ると、ふ~ん、そうなんだという感じ。
    往々にして歴史は勝者によって都合良く書かれたものであるので、通念にある正邪をひっくり返し虐げられた側から書こうとした作者の企てはなかなか興味深い。その根底には人の生きる権利や平等に対する思いが流れているが、それを声高に叫ぶことなく、面白い読み物に仕立てあげられたところに値打ちあり。
    それにしても、袴垂に、酒呑童子とその配下、土蜘蛛、子持山姥、滝夜叉姫に安倍晴明…、数多の書物、伝承伝説から御伽草子や能、神楽まで呑み込んで、よくもここまでキャラとつながりを作り込んだものだ。対峙する四天王もそれぞれに個性あふれる人物として描かれ必ずしも悪役でないところもまた良し。
    色んな場面で映画のように映像が目に浮かぶ書き振りを楽しんだが、中でも、帝の意思に従い上洛した大江山の一行と京の民との祭りのような一瞬の交わりの場面が白眉であった。

  • 平安時代、運命の子として生まれた桜暁丸は、都から蔑まれていた童たちを率い、朝廷軍に決死の戦いを挑む。

     平安時代という馴染みのない時代や人物でしたが、魅力ある人物たちの活躍を読み進めているうちにすぐに物語に入り込む自分がいました。

     都から見た地方に住まう者たちの蔑まれた思いが熱量となって物語を支えているように感じました。

     その象徴である桜暁丸の強さと心の両面の成長の物語としても、読みごたえがありました。

     最後まで読み終わり、歴史に生きる者たちの祈りが伝わってきた感じでした。

     最終的に3部作になる作品とのことなので、これからも目が離せません。

     桜暁丸の思いが1000年後も日本だけでなく世界に届くことを願っています。


  • 「童」ー何の疑いもなく児童とか子供とかを表す感じ時と思うが、平安や鎌倉時代以前は奴隷という意味で使われていたとのこと。このことからこの物語を思いついたとあとがきで語られている

    夷、滝夜叉、土蜘蛛、鬼、犬神、夜雀・・・京人がつけた蔑称は枚挙に暇がない
    それらをひっくるめて自らに平伏する存在として「童」の字を充てた

    小さくは童の一字の意味、強いては人々の心に巣食う蔑みの心を変えるために世の中に大きな流れを起こそうとする桜暁丸

    三条天皇の和議を結びたいという書状を受け、溢れかえる好奇の人々の中を馬と徒歩で参内する桜暁丸一行
    その光景に人々の心に根付いた差別の深さを知らされる
    民も蔑む対象が下にいることで安心している。差別の構造そのものだ
    あと少しで桜暁丸や保輔が目指した世の中への一歩が記されると期待したのに・・・

    千年後、この国は多様な人々を受け入れる国になっているに違いないと桜暁丸は語るが?
    千年後に生きている私、当時の人々に誇れるような国になっているとは言い難いが、少しずつではあるが前進していると思いたい

    戦のない世の中
    人間が自分の好きなことに心ゆくまで没頭できる世の中を作る
    今村翔吾さんの作品で主人公に語らせる一貫した主張だ


  • 大江山の鬼と渡辺綱、源頼光の伝説を、鬼と呼ばれた側から描いた作品。
    人を蔑むことによって、自らが蔑まれない立ち位置を確保しようとする都人 その鋭い指摘は、現代にもつながる闇だ。
    その蔑みを、自らの誇りをもって打ち破っていく桜暁丸とその仲間たる童たちの熱い想い。
    仲間を守り、誇りを守るべく、最期の覚悟をもって闘う姿が心に残った。

  • 泣かされた〜!
    歴史において退治される側である桜暁丸が主人公に据えられている時点で結末は分かってはいる。
    だけどそれでも読む手が止まらないくらい惹き込まれた。
    蔑まれた彼らの生い立ちは誰もが皆辛いものだけど、それぞれの立場故に敵対し苦悩もする。
    幸せになってほしいのに、そうさせてくれない史実が悲しい…

  • そうそうこういう作品がまた読みたかったんだと個人的にはどストライクな小説。
    垣根涼介さんの室町無頼が好きな方にはおすすめ。

    さて内容はというと主要登場人物のすべてがキャラクターがしっかりあってすごく楽しめる。
    桜暁丸や晴明、滝夜叉、連茂、袴垂、鞠人など主人公の味方達だけでなく敵方の満仲のラスボス感や頼光と四天王のキャラクターも良く読み進めるほどどんどんと面白く深くなってゆく。
    個人的には藤原道長だけは許せんが。
    間違った思想によって虐げられ続ける人達の強い想いや虐げる京人側にも救いになろうとする人や従いながらも迷う人達。
    それぞれが一生懸命に生きた生き様が強く印象に残った。
    文庫で読んだのであとがきに続編というか安和の変の前と本作の内容の続きの三部作で構成されている様なので楽しみに待ちたい。
    絶対読もうと思う。

    2021/7

  • 酒呑童子の話を酒呑童子の側から見たお話。
    歴史は勝者が語るものなので、こういうことがあってもおかしくはないなと思うものがあります。
    登場人物たちが敵味方含めて魅力的な描き方をされているので(一部そうでない人物もいますが…)ぐいぐい惹きつけられるのですが結末が分かっているだけに読み進めるのが辛かったです。
    あとがきを見ると三部作になるらしいので、また出たらきっと読みます!

  • 水滸伝を読んでいる様な、合戦や戦闘の臨場感や哀愁、小説としての重厚感!昔話しを見ている様な物語の展開!漫画「キングダム」の山の民や暗殺集団等の奇抜な発想、懐かしい様な物哀しい様な心の動きがあり読み応えのある一冊であった。是非とも続編が出て欲しいと切に願います。

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著者プロフィール

1984年京都府生まれ。2017年『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』でデビュー。’18年『童の神』が第160回直木賞候補に。’20年『八本目の槍』で第41回吉川英治文学新人賞を受賞。同年『じんかん』が第163回直木賞候補に。’21年「羽州ぼろ鳶組」シリーズで第六回吉川英治文庫賞を受賞。22年『塞王の楯』で第166回直木賞を受賞。他の著書に、「イクサガミ」シリーズ、「くらまし屋稼業」シリーズ、『ひゃっか! 全国高校生花いけバトル』『てらこや青義堂 師匠、走る』『幸村を討て』『蹴れ、彦五郎』『湖上の空』『茜唄』(上・下)などがある。

「2023年 『イクサガミ 地』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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