- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784758444958
作品紹介・あらすじ
古民家〈月光荘〉のイベントスペースとしての運営を任されることになった遠野守人。
修士論文提出後の小正月、「庭の宿・新井」で開かれる繭玉飾り作りを取材しつつ、イベント開催の段取りを学ぶ。
そこに、守人と同じく家の声が聞こえ、かつて養蚕を営む家で育った喜代も参加することになった。
将来に向けて動き出した仲間たち、思いがけない再会、大切な人との別れ──。
土地と記憶をめぐる四世代にわたる物語、感動のシリーズ第五作。
感想・レビュー・書評
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「菓子屋横丁月光荘」の5冊目。
冒頭、修論に明け暮れて、秋が来て、冬になり、大晦日から元日になる、ただ守人の生活を描いているだけなのだけど、十年一日のごとく馬齢を重ねていく身にとっては、時間の移ろい 時間の流れが愛おしく思えるような描写が続き、やはり、ほしおさんの文章はいいなぁと思う。
そこから、川越の近くに伝わるお正月の繭玉飾り作りの話になり、養蚕やそれにまつわる「金色姫」の伝承へとつながっていく。
ほしおさんの本を通じて、それほど遠い昔ではない日本のそこかしこにありながら、もはや見かけることもなくなった風景や行事について知ることが多いがこれもまたそのひとつ。
このことと、思いがけないはとことの再会からつながった祖母の記憶と、守人と同じく家の声が聞こえ喜代さんが燃やす命の存在の、それぞれがうまくつながった部分はとても良かった。
一方、伝承の強烈な内容とともに養蚕における女性の役割への言及などなかなか面白いと思いつつ、後で効いてくるところがあるとはいえ、やや頁を割き過ぎと思うところはあり。
久しく付き合いのなかった親戚との再会の話は、その後の会う人会う人にこの話を繰り返すという感じで、守人の境遇を考えるとまあいいんだけど、お話としてはあまり面白みを感じないところはあった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
シリーズ5作目。
前作で修士論文の目途がついて来たかと思ったが、あっという間に年が明けて、守人も大学院を卒業。
「月光荘」の運営を本格的に始めようとする守人に、また新たな出来事が起こる。
「家の声が聞こえる」不思議な大学生の物語かと思ったが、今作ではまず養蚕の話から始まる。
イベントで行った「繭玉飾り作り」。そこに養蚕を営む家で育った田代の祖母で守人と同じく「家の声が聞こえる」喜代も参加する。
楽しいひと時を過ごした守人だったが、卒業を控えたある日、守人の曾祖父の縁者がいることを知り合いから伝えられ、両親を亡くして以来、疎遠になっていた母方の親戚たちと再会することになる。
今はもうないと分かりつつ、子供の頃の記憶を辿る守人の様子はとても切ない。
それでも、もう会うことも叶わないと思っていた両親のお墓参りにも行け、人生の節目を迎える守人。
そんな守人には、最後にもう一つ、とても大きな出来事が待っていた・・・
最初の頃の話からは、だいぶ逸れて来た感じはするし、作者がこの物語の着地点をどこに置きたいのかも分からない。
それでも、悲しいような、寂しいような、でも心は温まる話を紡いでいく。
作者自体がまるで繭玉のような気がする。 -
シリーズ第五弾。
修士論文の提出を終えて、〈月光荘〉のイベントスペースとしての運営に本腰を入れることになった守人。
「庭の宿・新井」で開かれる“繭玉飾り”作りを取材しつつ、イベント開催の段取りを学んでいくことに・・・。
今回は、序盤の“繭玉飾り”を作るイベントを皮切りに、一冊を通して“養蚕”関連についての事に多く触れられています。
蚕にまつわる金色姫伝説や蚕影神社といった信仰の事や、蚕を育てる女性達の話など興味深く読ませて頂きました。
そして、建築士・真山さんを通じて守人の母方の親戚と思わぬ再会をすることになり、それをきっかけに守人のルーツを辿るうちに忘れていた(封印していた?)祖母との記憶も蘇り、亡くなった両親のお墓参りもできて、何よりでした。
このシリーズが始まったばかりの頃は、天涯孤独で人との間に壁があった守人ですが、川越での地域活動を通して、沢山の知り合いができましたし、この巻では親戚とも会えて、ご縁がどんどん広がっていく感じですね。
中でも、守人と同じく“家の声が聞こえる”田辺さんの祖母・喜代さんとの出会いは、彼にとって尊いものだったのではと思います。
出会いもあれば、寂しい別れもありましたが、家が守人に語ってくれてた「イナクナッタワケジャナイ・・ダイジョウブ、ココニイル、ズット、イル。」という言葉が胸に染みました。
新たな一歩を踏み出した守人ですが、今後どのような繋がりを見せてくれるのか、楽しみです。 -
本当に読むと優しい気持ちになります。不思議な世界ですが、子供の頃絵本を読んでいた自分を思い出して温かくなる感じです。登場人物も少しづつ成長しているのがシリーズを通して読んでいるとわかりますね。大学院を卒業した守人がどんな社会人になっていくのかたのしみです。
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シリーズ5作目。気がついたら涙が頬を伝っている素晴らしい物語だった。主人公の記憶が解かれていく様子がまさに絹糸のようで美しい。
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静かに進んでいく。
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ついに親戚と再会。祖母との思い出の場所を訪ねたり、激似と噂の曽祖父の写真と対面したり、実り多い日々。風間の血筋にもう一人くらい、家と話せる人がいたら良かったのにな。
卒業式の後の木谷先生とのひとときが素敵。 -
皆がそれぞれに将来に向けて歩き出していて、その中で色んな人から掛けられた言葉の一つ一つが光る。
若い皆もしっかりしてるけど、周りの大人もちゃんとしていてそれが言葉に滲み出ているので、心に刺さる言葉になっているんだなと思います。家も皆も包み込むように暖かい。 -
前の巻までに高まってきた緊張感がほぐれていく展開。
守人はとうとう修士論文を提出し、大学院を出る。
同じ「家の声を聞くことができる」喜代さんとの別れ。
重病の父を介護する安西さん姉妹にも、お互いの理解が生まれてくる。
守人の後輩石野さんも、だんだん自分の道を見つける。
そして、守人はとうとう遠野の家に引き取られて縁が切れてしまっていた母方の親戚である風間一族と再会し、自分の過去を次第に受け入れられる心境になっていく。
今までのさまざまな問題が少しずつ整理され、新しい局面へ移行する。
こんなにあれこれ「解決」してしまって、次の巻はどうなるの? といらぬ心配までしてしまうが…。
物語として、とても感動的な場面が多かった。
この巻は「金色姫」とあるように、蚕、養蚕のエピソードが随所に配されている。
蚕を育てた人々の営みや思いも描かれ、興味深い。
私の育った場所も昔は養蚕が盛んだったと聞いているので、そのせいでどこか懐かしさを感じるのかもしれない。
人と深いかかわりを持つこの生き物が、完全に形を変え、かたや絹糸となり、かたや羽化して次の世代を生む。
こういう営みのなつかしさだけでなく、厳しさもうかがわせるところが深みがあってよかった。
その繭ともかかわりが深い喜代さんが、この巻でとうとう亡くなる。
体という重荷から死によって解放され、自由になるという考え方にはっとする。
理想的な死の受け入れ方のように思う。