時間と言語を考える 「時制」とはなにか (開拓社言語・文化選書 61)
- 開拓社 (2016年6月15日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (240ページ) / ISBN・EAN: 9784758925617
作品紹介・あらすじ
時制は出来事の時間的な配置を記すだけの仕組みなのだろうか。どうということのない構文に見えながら実はやっかいな問題をはらむ英語の現在完了や進行形と時制との関わりという言語学的なテーマから、言語習得、文学、さらには世界観との関わりという心理的・文化的なテーマまで射程を拡げた多面的な考察を通して、時制というシステムの本質的な機能と言語から見えてくる時間意識を探る。
感想・レビュー・書評
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時制は出来事の時間的な配置を記すだけの仕組みなのだろうか。言語学的なテーマから心理的・文化的なテーマまで射程を拡げた多面的な考察を通して、時制というシステムの本質的な機能と言語から見えてくる時間意識を探る。【「TRC MARC」の商品解説】
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【書誌情報】
『時間と言語を考える――「時制」とはなにか』
著者:溝越 彰(1948-)
開拓社 言語・文化選書;61
ISBN:978-4-7589-2561-7
発売日:2016年6月23日
定価:2,090円(税込)
版型:四六・240頁
時制は出来事の時間的な配置を記すだけの仕組みなのだろうか。どうということのない構文に見えながら実はやっかいな問題をはらむ英語の現在完了や進行形と時制との関わりという言語学的なテーマから、言語習得、文学、さらには世界観との関わりという心理的・文化的なテーマまで射程を拡げた多面的な考察を通して、時制というシステムの本質的な機能と言語から見えてくる時間意識を探る。
〈http://www.kaitakusha.co.jp/book/book.php?c=2561〉
【目次】
まえがき v
第1章 時間と時制の関わり合い 1
1.1. 時制のパラドックス 1
1.2. 時間のイメージ 4
1.3. 時制の成り立ち 14
第2章 時制のもう一つの顔 21
2.1. 発話と「心的態度」 21
2.2. 真偽判定のための文法的標識 24
2.3. 文法は聞き手のためのもの 25
第3章 英語の「完了形」が表すもの 28
3.1. 「完了相」と「完了形」 28
3.2. 「現在完了」の言語比較 29
3.3. やっかいな英語の完了形 33
3.4. 英語の現在完了の用法 34
3.5. 英語の現在完了の時間構造 37
3.6. 過去完了と未来完了 45
3.7. 現在完了の変化 51
3.8. まとめ: 真偽判断の二つのモード 52
第 4 章 英語の「進行形」が表すもの 54
4.1. つかみきれない英語の進行形の姿 54
4.2. 進行形の多彩な用法 57
4.3. アスペクトか時制か 58
4.4. 相対時制としての進行形 59
4.5. 進行形の表す時間 64
4.6. 「解釈」の用法について 75
4.7. 「接線」としての進行形 77
4.8. 感情的色彩 79
4.9. 増える使用率 81
第5章 英語の「未来時制」と近代的時間意識 83
5.1. 未来時制の性質 83
5.2. 英語の「未来時制」 85
5.3. 時間の近代化と疎外 96
5.4. アメリカ合衆国の時間事情 97
第6章 過去という時間領域の性質 100
6.1. とりあげる問題 100
6.2. 過去の文法的表し方 101
6.3. 英語の過去時制 102
6.4. スペイン語の二つの過去時制 105
第7章 「た」と日本語の時間意識 116
7.1. 過去を表すだけでない「た」 116
7.2. 「た」の意味 117
7.3. 失われた過去と固まった過去 118
7.4. 異なる見解 120
7.5. 日本人の時間意識 124
7.6. 日本における時間観念の成立 126
7.7. 「空間」としての時間 127
7.8. 「過去」と「昔」 129
7.9. 日本語のメンタリティー 130
第8章 英語の不定詞と真偽値 134
8.1. 不定詞は真偽値を持つか 134
8.2. 命令文 135
8.3. 従属節の原形不定詞 136
8.4. to 不定詞 137
8.5. まとめ: 英語の不定詞の経済性 147
第9章 言語習得と時制 148
9.1. 言語差の大きなシステム 148
9.2. 英語の時制習得 149
9.3. 他言語の例 152
9.4. アスペクトの理解 154
9.5. 時制の出現 156
9.6. 「過剰一般化」の道筋 156
9.7. 「心的世界」の出現 158
9.8. 理解力か情報処理能力か 159
9.9. 未来時制習得の意義 160
第10章 物語と時制 162
10.1. 時制と文体 162
10.2. 「説明」の時制と「語り」の時制 163
10.3. 時制の使い分けによる浮き彫り効果 165
10.4. 日本語の「ル形」と「タ形」 167
10.5. 「話」と「語り」 168
10.6. 昔話の特色 170
10.7. 物語の実験的手法 177
第11章 時制と「真理」の関わり 179
11.1. 時制と発話態度 179
11.2. 引用時制 180
11.3. 証拠時制 182
11.4. 時制の二重の働き 184
11.5. 「時」が真理値に関わる理由 188
第12章 非対称な過去と未来 189
12.1. 未来と過去の細分化 189
12.2. 過去の仕分け 191
12.3. 心理的距離 193
12.4. 現在と未来/過去とのつながり 194
12.5. ウォーフのホーピ語観 196
12.6. 得体の知れない未来 197
12.7. 過去と大地のつながり 199
12.8. アイデンティティの拠り所 201
12.9. 非対称な「砂時計」 202
第13章 時制と「世界の見え方」: まとめに代えて 204
13.1. サピア=ウォーフの仮説 204
13.2. ことばの強制力 206
13.3. 世界観との関わり 207
13.4. 結語 210
引用文献 213
索引 22 -
時制やアスペクトという文法の捉え方を一旦置いておいて、様々な言語の色々な用例から「時間」について考え、改めて英語(や日本語)の時制について捉え直すという本。哲学や心理学、文学の領域に自由に入り込んで考察が行われ、全体としては斬新な本、という印象。
これまで「時制」という項目を取り上げた文献について、「これらはいずれも事例や現象の記述と解説が主な内容であり、なぜそのような仕組みになっているのか、その『メカニズム』の説明には踏み込んでいない。時制なんて出来事の時間を表すだけの単純な仕組みにすぎないように見えながら、関連する『アスペクト』(相)を含めて、分かっていないことだらけである。」(p.vi)、ということで、「大風呂敷を広げていくつかの大それた提案も行うため、推論(speculation)も多い。本書のタイトルに『考える』とあるのはこのためである。」(同)だそうだ。「試論」的なもので、他の文献ではそんな話聞いたことない、というものが多いが、それでも確実な文献を参照しながら述べられているので、説得力はあるし、むしろそういう捉え方が理にかなっているのではないかと思った点も多々あった。
まず時を捉える時に「相対的/絶対的」という視点。これは絶対あると思う。分かりやすいのは「完了形は過去の一点を表す語句とは使えない」というのは有名な受験英文法のルールだが、「それはなぜか」ということが説明されている。I have come here two days before.は言えるらしい(p.40)。beforeは相対的、agoは直示的(絶対的)で完了形は「相対的に過去を表す構文」だからだそうだ。さらに完了形は「『現在の状況に照らして真である』ということを表す文法形式」(p.41)で、つまり「話者の発話態度として、『現状を見なさい、そうすれば私が行っていることの正しさが分かるはずです』という表現形式」(同)ということだ。よく「現在に引き付けて述べる」とか「現在との関連を感じさせる時に使う」とか、中2でもそんな解説をしたりするが、著者のこの言い方は結構分かりやすい、かもしれない。
ちなみに完了形に関しては、別の文献でhave goneが「アメリカ英語では『経験』を表すこともあるという」(p.44)ことが述べられており、have beenとhave goneの違いを生徒に問うのもある程度の慎重さが求められることが分かった。同じように「Comrie(1985:26)によると、アメリカ東部の英語では過去完了が『遠い過去』を指すようになってきているという。言い換えると、絶対的な時制の性格を帯び始めているということになる。」(p.51)という記述もあった。その文献から35年近く経っている今は過去完了は一体どうなってるんだ、と思う。ちなみに、「Ritz(2012:899)によると、オーストラリアの口語英語では、現在完了に過去の特定時点を表す副詞が使われるようになってきている。」(p.52)らしく、こうなってくるとむしろ受験英語のある特定の問題群は全部成立しないようになってきてしまうのでは、と思う。
次に「未来進行形」について、結構「そうなる予定」で使う、というのは強調して教えたし、「未来進行形をんと使えるのが英語の上級者の指標だ」なんて偉そうに生徒に言ったこともあるのだが、"I won't see you"ではなく"I won't be seeing you"という方が、同じようにI'll be driving in that direction any way.と言う方が、I'll drive...よりも「相手に負い目を感じさせることがない」(p.72)、という一種の「丁寧表現」として使う、というのはもっと強調して教えても良いかと思った。確かに、won'tとかwillとか言われると角が立つ。あと進行形と言えば「一時的な状態」と教えるが、The Ferris wheel is revolving at a rate of 15 minutes per revolution.(その観覧車は15分で1回転している)(p.78)のような進行形はどう説明するのか、というのは痛い指摘だ。これも「『一時的状況』というニュアンスは、あくまでも『ある時点や出来事に相対的』という進行形の基本特性から鋭的に出来る含みであり、このような特性のない単純現在形と比べて、その継続時間は短いと判断されることが多いというだけのことである。第3章で見た現在完了に伴う『現在との関連性』と並んで、構文の本質的な機能おこから副次的に派生される含みとを混同してはならない。」(p.79)という部分がグサッと来た。やっぱり記述英文法、の記述のレベルで「副次的」なものが他と等価に並んでしまう、ということもあると思う。それとここでも「相対的」という視点が必要らしい。つまり、p.166でも述べられているが、「英語の進行形は、出来事そのものではなく、『相対時制』として、その出来事によって特色づけられる『時間の特質』を表す」(pp.166-7)もので、「英語の進行形をアスペクトを表す形式であるとみなすことには無理がある」(p.166)ということだ。もうこうなってくると、大学で学んだ英文法もなかなか考え直さないといけない奥の深いものになってくると同時に、分かった顔をして中高生に説明するのもどうかと思えてきてしまった。
話は変わって、言語習得の話で、「時制体系習得の完成には時間がかかることも事実である。Wagner (2012:465)は、それは、出来事の時間的な特性が分からないというような『理解力』の問題ではなく、『情報処理』の負担の問題である可能性を示唆している。」(p.159)ということで、これは外国語の教育を考える時、例えば生徒のミスについて、それは文法事項を理解してないから、というよりは一挙に色々なことを考えてアウトプットできないから、という理由の方が大きい気がする。
最後に世の中の言葉には「証左時制」とか「引用時制」とか呼ばれるものがあるらしい、と言うこと自体も興味深いが、これに関連してIt is said that...とかHe is said to be...の"be said"の形について、「人づての情報ではなく、自分自身の煮え切らない発話態度を表すことも多く、(そう言いたいが)内容の信憑性に自分は責任を負わないというようなぼかした言い方としても使われる」(p.181)というのは指摘された気づいた。
ということで、色々勉強になる英文法の本だった。異色というか斬新というか、聞いたこともないような言語の例が豊富に出てきたり、「時間論」の話や「昔話の手法」など、興味が持続すれば面白い内容。(19/04/07)
