世界でトヨタを売ってきた。

著者 :
  • (株)開拓社
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (211ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758970167

作品紹介・あらすじ

1971年~2012年、トヨタが世界のトップへと成長カーブを描く時代、新興国をフィールドにトヨタの海外展開を率いた男がいた。アジア、中近東、豪州、中南米、アフリカ・・・。世界70数カ国を駆け巡り、道を創る仕事に邁進したトヨタ自動車・元専務による「魂の記録」。

感想・レビュー・書評

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  • さらっと書いてあることが全部すごい。著者はトヨタで世界中の市場調査を担当した後、専務取締役になった人。東京工業大学で野外科学(フィールドマーケティングのような)を学び、それを仕事にも活かした。南米では調査会者に依頼するスケジュールが組めず、現地パートナーが集めてきたアンケートデータを著者が手作業で集計したらしい。どんなフォーマットなのか教えてもらいたい。海外では「現地パートナーと利害を共有するインサイダーとなる」の心がけで、中国では現地パートナーを通して政府機関と調整し、まだ個人ドライバーがいなかった中国で初めての自動車学校を作る認可を得る。現地の道路交通法を調べて1年かけて教本を作る作業が一番大変だったが、その後、中国全土で自動車学校が普及した。まさに単に車を売るだけでない仕事。「相手国の発展に貢献する意識をもつことで多くの協力を得られる」とのこと。著者は「民間だけの経済スキームで成功は難しい」と言いきっている。「官民の強調がないと進まない」と。強い者こそ自由競争からは抜け出して、しっかり官に取り入っているんだな、と覚めた気持ちになったが、官を取り込む原点は学生時代のボランティアにあったらしい。登山部でネパールに水道を作ったが、材料の持ち込みに関税がかからなおよう政府の認可をもらった。これは単に経費の削減でなく、政府の責任で無税措置をとってもらうことで、ネパール政府が水道計画成功のために主体的に参画したことになり、政府にとっても意義がある。
    サウジアラビアでは政府の意向で工場を作らされそうになったが、コストが高くつくことが明らかで見送った。サウジ製エアコンを搭載しなくてはいけないという理不尽なルールを導入されそうになり、エアコン組み立ての会社のみ妥協で作ったが赤字で細々と経営しているらしい。悲喜こもごも。ニュージーランドでは政府が製造業を育てる気がなく、工場閉鎖に至るが、現地社長はトヨタ本社の反対を押しきって輸入中古車のメンテナンス工場として多くの現地社員雇用を維持し、幹部は隣国オーストラリアに異動させた。現地発の斬新なアイデアでトヨタはニュージーランド国内トップを維持したそう。
    商品競争力だけなら自動車各社の違いはそんなにないが、実際には国によってメーカーの占有率が大きく異なる。それは代理店の販売力、サービス体制、マーケティング力だという。著者の言うマーケティングは某P&G部長のようにかっこつけてなく、現場で一人一人のお客さんの声を聞く力のこと。ふむふむ。メーカーは品質の向上、販売はマーケティング。世界のトヨタの言うことはシンプルで実務的。

  • • 海外で事業を行うにあたっては「現地と利害を共有しうるインサイダー」になることがもっとも重要(42)
    • 新興国での事業推進には価値観を共有化し、利害を分かち合えるパートナーの存在が不可欠(100)

    <新興国ビジネスを成功へと導く考え方>
    • ①現地社会と利害を共有できる、インサイダー化を目指そう(120)
     -現地社会に興味をもち、好きになる
    • ⑤新興国では即断即決が肝要だ(134)
     -変化は、リスクというよりも成長に向けてのプロセス
     -大切なことは、事前の検討よりもいかに早くその変化に対応するかということ
     -そのための考え方の選択肢を蓄えておく(頭の中の整理だけでなく、雑学も含めた知識や関係機関とのパイプ、頼りになる人脈)
     -完璧な答えを導き出す努力よりもスピード感ある行動
    • (⑧)新興国向けの人材の要素(142-3)
     -問題解決型の思考、行動ができる。
     -現地を尊重し、異文化との融合を果たせる。
     -時系列で物事を見通せる。
     -異端児たることを恐れない自立心をもてる。
     -”明るく楽しく元気よく”をモットーとする。
    • ⑩ビジネス上の交渉に勝ち負けはない。義をもって臨め(146)
     -勝った負けたという判断より、双方のギャップを埋めるためにお互いがどこまで歩み寄ることができたかがポイント
     -決まった方法論はない
     -2つの原則
      (1)目的を明確にし、それに大義(一方的な利害ではなく、双方の共通の目的、さらには社会のためになるという大義名分)をもたせること
      (2)あらかじめ相手の状況を把握し、幅をもった落としどころを決めておくこと
    • シーカ村プロジェクトから学んだこと(187)
     -野外科学的アプローチによる現地ニーズの把握(川喜田二郎):現場の生活実態、社会状況等を十分に把握し、潜んでいるニーズを引き出し、実現可能なものに絞り込む。援助を行う側の上から目線での発想ではなく、現地目線によるボトムアップ方式でアイディアを検討
     -隊員が皆素人:村人と一緒になって相談、村人の知識や技術を十分取り入れる
     -村人の全面的な協力体制:「物好きな日本人が我々の面倒を見てくれるから協力しよう」などという生半可なものではなく、「自分のために、村のために我々が動き出さなくてはならないんだ」という使命感による村人の主体的な参画

    • 10年後、あなたは何を失い、何を得ているだろうか?(192)
     -現在と10年後の対比
    • 興味のあること、好きなことを見つけよう。いま、夢中になれるものがないという人は、とにかく外に出て、人と交わってみよう。新しいことに出会ってみよう。少しでも興味があることを手掛かりに、一歩踏み込んでみよう。自分の感性を信じて自分の興味に賭けてみる。そのうちに「興味」から「好き」や「夢中」に昇格するものが出てくる。
    • オファーに応えるたびに能力、情熱、人間力が試され、全力で取り組むうちに、あなたは必要とされる人間になっていく
    • 「いま」を粗末にすると10年後、得るものがないままに、時間だけを空費してしまった自分を悔やむことになるだおう。(196)
    • チャンスは誰にでも巡ってくるが、降って湧いたチャンスということはめったにない。大切なのは、目標に向かって行動を起こす状況を自分で探り出すこと。(198)
    • 自分の前に道はないが、振り返ると自分のつくった軌跡が個人ベースではその人の人生になり、社会全体から見れば歴史となって時代を刻んでいく。パイオニアワークとは、己自身への挑戦なのだ。(199)
    • 物事は多数決ですべてが決まるのではなく小数意見をいかに尊重しながら社会形成をすべきか、それぞれ異なった者同士をいかに融和統合させるかという、現代社会にとっての重要テーマのヒントが、貧しいヒマラヤの山村生活の中にあった(211)
    • 異文化が尊重される人間社会を目指し、異質の統合をチームワークの手本とし、人を信じて任せるリーダーシップを信条とし、おおらかな人類愛にロマンを求めて地平線を開拓する人生(211)

  • 世界中で海外勤務に就いた経験から、様々な国の背景や商習慣、国民性などのエピソードが非常に魅力。
    自分が駐在した国のパートもあったので、あるあるを共有できてさらに楽しめた。

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。1966年東京工業大学工学部入学。「KJ法」の考案者、川喜田二郎教授に師事。1969年川喜田教授と「移動大学」を創立。1970年東京工業大学のヒマラヤ遠征隊としてネパールヒマラヤ・アンナプルナ南峰を試登後、現地の山村シーカ村にて簡易水道と無動力ロープウェイを建設。1971年トヨタ自動車販売株式会社(現トヨタ自動車株式会社)入社。海外市場調査を担当。以後一貫して新興国でのビジネス展開に携わる。2005年専務取締役、アフリカ・中南米を含む新興国全体を担当。2012年取締役退任、エグゼクティブアドバイザーに就任。2012年東海東京証券株式会社取締役副会長。現在、東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社顧問、川崎汽船株式会社社外取締役。

「2016年 『世界でトヨタを売ってきた。』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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