牛を屠る (シリーズ向う岸からの世界史)

著者 :
  • 解放出版社
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本棚登録 : 217
レビュー : 40
  • Amazon.co.jp ・本 (140ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784759267242

作品紹介・あらすじ

大学卒業後に務めた出版社を退社後、埼玉の食肉会社に入社した著者は、翌日から牛豚の解体を生業に働きはじめる。入社初日から「ここはお前なんかの来るところじゃねえっ!」と怒鳴られたものの、しだいにナイフ捌きをおぼえ、牛の皮剥きに熟達していく。牛を屠る喜びと、屠りの技術を後輩に伝えるまでの屠場での十年の日々。
「職業を選ぶ」「働き続ける」とは、自分の人生にとってどういうことなのか――。
屠畜解体従事者への世間の恥知らずな差別と偏見はあろうと「牛を屠る」仕事は続けるに値する仕事だー―。これから世の中に出て行こうとする若い人たちに向けて、著者最初の小説作品である『生活の設計』以来、一度も書かれなかった屠場仲間の生きざま、差別をめぐる闘い、両親・家族をめぐる葛藤をまじえて描く。芥川賞候補作家による渾身の書き下ろし。

感想・レビュー・書評

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  • 数年ほど前に内澤旬子さんの「世界屠畜紀行」を読み、他、マタギの熊を仕留めた後の話も読んだ。去年テンプル・グランディンの番組を見て、牛や豚にストレスが少ないシステムを考案して…という内容を見て、O-157や狂牛病などの問題が出る前はどうなっていたんだろうと思い借りた一冊。


    肉はほぼ毎日我が家の食卓にのぼるし、みんな魚よりも肉が好きなので、私たちの口に入るまでどういう過程なのか気になって探した本。


    今はもう違うだろうけど、大宮と芝浦の差に驚いたし運ばれてくる牛や豚の状態などに驚いた。そして怪我をして競走馬として走れなくなった馬まで運ばれてくる時もあるという…。


    漢方薬の「牛黄」は牛の胆石。「熊の胃」は豚の胆嚢。


    佐川さんが職場から離れてから3か月ほどで社名も変わり、システムも変わりトラックから牛や豚が降りる姿さえ見えないようになり、匂いも啼き声さえも外にもれないようになる。


    “ことさら隠すから余計につけあがるのだ。「いのち」などという目に見えないものについてあれこれ語るよりも、牛豚の匂いや啼き声といった、現実に外にはみ出してしまうものをはみ出させたままにしておくことのほうがよほど大切ではないかと、私は思っている”=135ページ=

    の一文に激しく動揺&同意してしまった。なんでもかんでも便利になればいいのか。便利になればなるほど捨てられていく誇りのようなものがあるんじゃないかと…ふと感じた。


    毎日、口にするものを余すことなく大切に食べようと思いました。感動とも衝撃とも違う、だけど心に響くものを受け取った。


    薄い本だけど読むのにとても時間がかかってしまった。それだけ内容が濃い。巻末のイラストがあって分かりやすかった。

  • 筆者が実際に「大宮市営と畜場」で働いていた時の仕事のやり方や、そのときに思ったこと、起こったことなどを綴っている作品。
    とくに「同和教育」や「被差別部落解放運動」に力を入れて描かれているわけではなく(筆者もそういった視点から取材することを目的として就職したわけではなく)、淡々とした筆致で描かれている「と畜場」での日常は、普段私たちが食べている「肉」がもともとは「生きもの」であったということを力強く訴えてくるように思います。
    一概に善悪を主張することもできませんし、知識がないので「屠殺」という言葉のもつ歴史的な背景を踏まえた議論はできないのですが、「穢れ」というイメージが付きまとっていた時代とは異なり、機械化がすすみ「作業」というイメージが強くなっている現在だからこそ、この作品を読む意義があるように感じます。

    いろいろな人が力を尽くしてくれているからこそ、私たちは肉を食べることができるのだし、私たちが食べるために飼われ、殺される動物がいるのだということを「知っている」ことが必要なのだと思います(常日頃から意識することは現実的ではないし、苦しいですから)。

    決して読んで楽しい作品ではありませんが、どこかのタイミングで生徒たちには触れてほしい作品です。

  • オートマ化して、デジタル化して、
    どんどん便利でクリーンな世界になっていく。

    でも、生きるって、もっと生々しいものだとおもう。
    飢えを満たすために、今日も私は他の生物の命をもらって、
    汗かいて、排泄して、死に向かって歩くんだ。

  • 屠刹場で働いている人の話
    潔いくらいにそれ以下でもそれ以上でもなく牛を屠る話に尽きる
    迫力があって熱気が伝わってくる

    作者の屠刹の仕事をする経緯については偶然であるが
    屠刹という仕事のバックにある黒いものについては
    あえてはっきりとは語っていない

    あえて語っていないところにいろいろな含蓄を感じるし
    簡単に語れないアンタッチャブルな部分であることを推察する

    ただ、やはり食肉関係の仕事に従事するということは
    社会的には色眼鏡で見られることが多く
    実際結婚などに支障がでているらしい

  • ナイフを片手に10年以上も牛の相手をした作者自身の経験が淡々と丁寧に書かれています。苛酷な職場において「働く喜びを得た。」と佐川さんは語ります。自分の知らない世界を少し覗いてみませんか。(浦河町)

  • ドキュメンタリーとして面白い。仕事というものへの眼差しというか姿勢というかそんなものへの愛情が感じられる

  • Kさんに勧められた本

    読む価値あり

    牛、豚を、大事に食べる!再確認

    こわごわ読みだしたが、
    あっさり、読めた

    仕事に悩んでいる人に
    転職を考えている人に読んでもらいたい

  • 魚は〆て捌く映像がメディアや書籍などで公開され、当たり前の行為として扱われている。
    一方で、現代社会においては魚以上に消費量が増えている「肉」に関しては、上記の過程は一切表に出ることはない。水中で生きる哺乳類についても同様である。
    命を奪う行為であることは同じであるにも拘らず、どこかで線が引かれる。表に出ないことで、線の引かれ方はその世界の中と外との関係のようにも機能し始める。屠る世界の内側にいる人々と外側にいる人々との間に線が引かれることになる。
    この境界部分に向き合い、共通認識として線を引く試みを行っていないことが、海外との捕鯨や海豚漁でのやり取りにおいて、自らの文化として語れない日本の現状にも繋がっているのだろう。

  • おすすめ。
    作者の奥さんは元「どくんご」の人だった。世間は狭い。

  • ワナ猟のペーパー免許を持つ夫(あまり本は読まない)が、面白かったというので読んでみた。一つだけ読んだことのある著者の小説はあまり好みではなかったので、さほど期待してなかったが、これは確かに読みごたえがあった。心身ともにがっぷりと仕事に取り組んだ人にしか書けない重みがある。

    屠殺(著者はあえて負の歴史を背負うこの言葉を使っている)という仕事の現場を、そこで働く人の立場から書いたものって、他にもあるんだろうか。内澤旬子さんの「世界屠畜紀行」の中で東京芝浦屠場が詳しく紹介されていて、たいそう興味深く読んだのだが、これも鎌田慧氏の「ドキュメント屠場」も、外部の人によるルポだ。根強い偏見がある中、熟練を要する仕事に職人として携わる心性が、日常の描写から浮かび上がってきて、強い説得力があった。

    内澤さんが同じことを書いていたが、佐川さんも部落差別について実感としてほとんど知らず、屠殺についてそうしたことと関連づけて考えたことがなかったそうだ。この点は、関西在住者の感覚とは大きく違う。忌避感はしぶとく潜在していて、何かの拍子に表に出てくる。本書も「世界屠畜紀行」も、屠畜といえば避けて通れないこの問題を、あえて主眼に置かずに書かれたものだが、それがかえって問題の本質を考えさせることになっていて、良書だと思う。

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著者プロフィール

佐川光晴(さがわ みつはる)
1965年東京都生まれの小説家。北海道大学法学部入学後、恵迪寮で学生生活をおくる。出版社勤務ののち、1990年から10年間にわたり大宮の屠畜場で働く。
2000年『生活の設計』で第32回新潮新人賞受賞。おもな著書に『おれのおばさん』シリーズ4巻、『ジャムの空壜』『家族芝居』『ぼくたちは大人になる』『静かな夜』などがある。ノンフィクションに『牛を屠る』。ほか、『主夫になろうよ!』など。

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