セレンディピティー―思いがけない発見・発明のドラマ

制作 : Royston M. Roberts  安藤 喬志 
  • 化学同人
3.21
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  • 本棚登録 :58
  • レビュー :7
  • Amazon.co.jp ・本 (356ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784759802498

作品紹介・あらすじ

小さな偶然とそれを見逃さなかった洞察力が、かずかずの成功へと導いた創造の過程を追う。サクセス・ストーリーを超えた示唆に富む人間のドラマ。

感想・レビュー・書評

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  • 日本経済新聞社


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    リーダーの本棚帝国ホテル会長 小林哲也氏
    人との出会いを入り口に

    2016/1/17付日本経済新聞 朝刊

      心を打つ時代小説を楽しむ。ホテルマンらしい人への強い関心が、読書にも表れている。











     高校時代に吉川英治の『親鸞』を読んだのが、読書に目覚めるきっかけでした。面白くて徹夜で読み、翌朝の野球部の練習をさぼりました。


     家が浄土真宗なので宗祖の親鸞に興味があったのです。宗教は難しいものではない、「南無阿弥陀仏」と唱えれば浄土に行けると説き、様々な苦労をされた。当時、僧侶に許されなかった妻帯をするなど、人間的な生き方に強い印象を受けました。


     それから山本周五郎を読んで無私の愛を教えられ、司馬遼太郎や藤沢周平、隆慶一郎へと続きます。


     座右の書といえば、菊池寛ですかね。「入れ札」と「忠直卿行状記」が特にいいですね。「入れ札」は、捕り方に追われる国定忠治が、残った11人の子分たちと別れるとき、連れて行く3人を、子分たちに入れ札つまり投票で決めさせるという話です。


     不人気の子分が、自分は選ばれそうにないが、ぜひ親分について行きたいと葛藤し、ずるいと知りながら自分の名前を書きます。案の定、1票だけで落選です。そのとき「この野郎」と思う仲間がついてきて、阿(あ)兄(にい)の名を書いたのは自分だと言うのです。ウソに腹が立ち、危うく斬りそうになりますが、もっと恥ずかしいことをした自分が情けなくて、思いとどまるところで終わります。


     解説を読むと、いろいろな選考会で落選ばかりする作家の心境はいかにと思いやったのが執筆の動機だそうです。苦労人の菊池寛は優しい人だなと思いましたね。


      読書は豊かな出会いを生む。


     週刊新潮の「写真コラム」を長らく書かれた山本夏彦さんに私は大変かわいがられました。文芸春秋の常務のご紹介です。「先生、この人は帝国ホテルの宿泊部長の小林さんです」。「菊池寛の『入れ札』を読んで感激した、そういう人です」。山本さんは「『入れ札』で感動したって。うれしい話だね」と喜んでくださり、話が大いに弾みました。


     年末年始に帝国ホテルに泊まっていただくようになってからのことです。私は入社以来、正月は休んだことがありません。「先生、ご一緒に食事でもいかがですか」と申し上げたら、「いいねえ」となり、以来十数年、元日に山本先生と食事するのが恒例になりました。


     先生は頭に詰め込んだコラムの構想を「小林さん、キャンペーンというのはね」という具合に話してくれました。「それは面白いですね」と感想を言いますと、3週間くらいすると「写真コラム」になるんです。


     山本先生の文章はエスプリが利いて秀逸です。編集者からは「あの先生と3時間もよく食事ができますね」と言われました。でも面白いし怖い顔が笑うとかわいいんですよ。


     「お世話になった客室係の諸嬢によろしく」と、絶筆になった葉書もいただきました。これはいかんと客室係の女性とお見舞いに駆けつけると、椅子に座っておられましたが、3日後には面会謝絶になり、その3日後に惜しくも他界されました。


      関心の赴くまま、小説以外のものも幅広く読んでいる。


     私は狂歌にも興味があるんです。日栄社の大学受験の参考書『国文解釈要綱』で知り、狂歌って面白いなと頭に刻み込みました。


     例えば藤原俊成の「夕されば野辺の秋風身にしみて 鶉(うずら)なくなり深草の里」という和歌がありますね。狂歌師の大田南畝(なんぽ)(別号=蜀山人)にかかると「ひとつとりふたつとりては焼いて食ふ 鶉なくなる深草の里」になる。わびさびの風情が食欲に変わるのですから、滑稽でしょう。


     労務課長のころ、書店でなだいなだ著『江戸狂歌』を偶然見つけて興味がよみがえり、読んだら面白いの何のって。高じて『大田南畝全集』にまで行きました。狂歌は言葉の遊びと言ってしまえばそれまでですが、教養の要る遊びです。


     読書によって知識を整理できていると、思いがけない様々な出会いを生かせます。偶然の発見を意味する「セレンディピティー」という言葉に魅せられて、それを題名にした本も読んでいます。


     就職の際、人間が好きで人との関わりの多い仕事に就きたくて、脳裏にパッと浮かんだのがホテルでした。実際に内外の多くの素晴らしい方々との出会いがあります。職業選択は大当たりで私にとり最大のセレンディピティーです。


    (聞き手は森一夫)






    【私の読書遍歴】




    《座右の書》


    『藤十郎の恋・恩讐の彼方に』(菊池寛著、新潮文庫)。この短編集に収録された「入れ札」と、徳川家康の孫の松平忠直がへつらう家臣にいら立ち乱心する悲劇「忠直卿行状記」は繰り返し読んだ。


    《その他愛読書など》


    (1)『ながい坂』(上・下、山本周五郎著、新潮文庫)。主人公主水正と妻との関係も興味深い。この著者は短編にも秀作が多い。


    (2)『三屋清左衛門残日録』(藤沢周平著、文春文庫)


    (3)『影武者徳川家康』(上・中・下、隆慶一郎著、新潮文庫)


    (4)『坂の上の雲』(一~八、司馬遼太郎著、文春文庫)


    (5)『天切り松 闇がたり』シリーズ(浅田次郎著、集英社文庫)。泥棒の物語の舞台に戦前の帝国ホテルが登場。『天切り松読本 完全版』に一文を寄せた。


    (6)『江戸狂歌』(なだいなだ著、岩波書店)


    (7)『セレンディピティー』(R・M・ロバーツ著、安藤喬志訳、化学同人)


    (8)英国のジェフリー・アーチャーのミステリーやサマセット・モームなど海外の小説も乱読。




     こばやし・てつや 1945年生まれ。69年慶応大学法学部卒、帝国ホテル入社。客室の清掃から帝国ホテル東京総支配人まで務め、2004年社長。13年から現職。

  • 【配置場所】特集コーナー【請求記号402||R
    】【資料ID】91132167

  • 化学、物理学や工学における偶然から始まる大発見について紹介した本である。

    セレンディピティ (serendipity) とは「偶然に予想外の発見をしたり幸運に恵まれる才能」のことであり、形容詞的にはセレンディピタス (serendipitous) と呼ぶ。

    ノーベル賞を受賞した研究成果においてもちょっとした偶然やミス、誤解が大発見につながったものが多く見られることが述べられている。ただし、発見者らは幸運だっただけではなく、予想外なことが起きた時に、それに注意を向け、その原因を追求することができたからこそ大発見につながったのだ、ということも述べられている。そういう意味では、それらの幸運は彼らのそれまでの知識や豊富な知見のたまものである。

    各項目は簡潔にまとめられていて門外漢にもわかりやすく、知的好奇心をくすぐられる出来となっている。★5つとする。

  • セレンディピティーに必要なもの、偶然に出会う人の洞察力/旺盛な好奇心/認知力。幸運に、偶然に対する心構えとして、これらのことが大事だということ。科学者としてやっていくにあたって、一番大事にしたいことですね。   
    36項目のセレンディピティー、すべて興味深かったけど、お気に入りの項は、ゴム、ナイロン、テフロン、ノーベル、X線~、現代への贈り物。

  • これくらいの科学の本がちょうどいい。

    今では常識になっているものの偶然の発見をつらつら書いた本。
    著者はセレンディピティーを「探してもいない貴重なあるいはすばらしいものを見つける才能のことで、辞書によれば偶然に幸運な予想外の発見をする才能」と定義し、擬セレンディピティーを「追い求めていた目的への道を偶然に発見すること」と定義している。

  • 偉大な発見はすぐ傍にある。

    科学を中心に考古学や天文学などの学術分野における「発見」。
    それは意図せず訪れるものや、待ち望んだ結果偶然得られたものもある。
    ただ、どちらにも共通するのはその偶然が起こった時に受け止める心構えがあったことだ。
    予想外の結果を「失敗」と考えるか、「新たな知見」と見るかは人それぞれだ。
    だが、失敗と発見を分けるためにはその分野に精通する必要と、純粋な探究心が必要だと思う。
    これは一体何が起こったのだろう、と突き詰めていく過程は非常に心躍る展開だ。
    自然科学の喜びは、発見した瞬間はもちろんだが、正誤分からずともその過程にもあると思う。

    ところで、本書は一般向けに書かれているそうだが、文章のみで説明しようとする割合が高くてそれが逆に分かり辛かった。
    研究過程を述べているのだから、図や式があった方がイメージがつきやすい。
    個人的には、化学反応式を言葉で説明されると理解に時間がかかってしまった。(普段文章で理解することが少ないからかもしれないが)

    日々、「偶然」は起きている。

  • 科学者として勇気づけられ、憧れる物語が載っています。知っている話も多いですが、それでも良し。事実は小説よりも奇なり。

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