自然に学ぶ粋なテクノロジー なぜカタツムリの殻は汚れないのか (DOJIN選書22)

著者 :
  • 化学同人
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レビュー : 8
  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784759813227

作品紹介・あらすじ

いつも快適なシロアリの巣に学ぶ「無電源エアコン」、汚れ知らずのカタツムリの殻に学ぶ「洗浄不要のキッチン」、天井を走るヤモリの足に学ぶ「あたらしい接着の考え方」-自然のもつ完璧な循環から見えてくるあたらしいテクノロジーのかたち。地球環境をこれまでとは違った角度から捉える。

感想・レビュー・書評

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  • 著者の石田秀輝氏は、INAXでの材料研究を経て、東北大学
    教授として活躍する方です。

    本書は石田教授が提唱する「ネイチャー・テクノロジー」に関する
    考え方をまとめた本です。ネイチャー・テクノロジーとは、自然の
    メカニズムを科学の目で解析し、それを手本としてデザインし直さ
    れたテクノロジーのこと。例えば、石田教授自身が開発に携わった
    汚れにくいトイレやキッチンの素材は、カタツムリの殻が汚れない
    理由を解明し、それをセラミックスという現代のテクノロジーに応
    用したものです。

    実はこのような例は枚挙に暇がありません。以前から「バイオミミ
    クリー(生物模倣)」という考え方は紹介されていましたし、「昆
    虫力」(赤池学著)等の類似書籍も出版されていますから、本書で
    取り上げられる事例も決して真新しいものではありません。それで
    もシロアリの巣に学べば無電源のエアコンが作れるのではないか、
    とか、ヤモリの足に学べば全く新しい接着の考え方を生み出せるの
    ではないか、といった考え方には、とてもワクワクさせられます。

    本書の独創は、既にこのように最先端の研究として注目が集まって
    いるネイチャー・テクノロジーを「粋なテクノロジー」と捉え直し
    ているところにあります。江戸時代は現代と同じく人口減少の成熟
    社会でしたが、この江戸で育まれた粋な文化の根底に、足るを知り
    ながら、自然と共に生きることを楽しむ価値観やライフスタイルが
    あったのではないかと著者は述べます。そして、「諦、意気地、媚
    態」を三要素とする「粋」(九鬼周造)をヒントに、「自然、コミ
    ュニケーション、愛着、簡明」を四要素とする「粋なテクノロジー」
    を提唱し、これが循環型社会を実現するために必要な技術観になる
    と主張するのです。

    私達の社会には問題が山積みですが、中でも、人口減少、少子高齢
    化、地球温暖化、資源・エネルギーの枯渇といった問題は、これか
    ら10~20年の間に正念場が来る喫緊の課題です。企業 も個人も、こ
    の正念場をどう乗り切るかを考え、具体的な行動に移すべき時が来
    ています。その時に、本書が提唱する「粋なテクノロジー」という
    考え方はとても参考になります。是非、読んでみてください。

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    ▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)

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    自分たちで循環型社会がつくれないなら、なにかを手本にして考え
    たほうが近道かもしれない。私たちが知る中で唯一完璧な循環シス
    テムをもち、それをもっとも低いエネルギーで駆動しているもの、
    それは自然である。改めて自然の循環を考えてみる必要がある。

    自然の総体こそ知能であると思う。まさに「自然は倫理観をもった
    知能である」といっても過言ではない。

    ネイチャー・テクノロジーは、単にエアコンの機能をほかのものに
    置き換えるという概念にとどまらない。それは、だれでもそのテク
    ノロジーを「理解」でき、そのテクノロジーを使いこなすことに
    「参加」でき、結果としてそれに「愛着」をもち、それがきっかけ
    になって「あたらしいコミュニケーションを生み出す」という、単
    に道具としてのテクノロジーから、テクノロジーそのものが精神性
    をもつあたらしい概念の創出でもある。

    地球温暖化、エネルギーの枯渇、資源の枯渇のどれをとっても、ど
    うやら私たちは2030年頃までに、人類存続の興亡をかけた大きな判
    断をしなければならないことになる

    2030年までに、今あるテクノロジーを組み合わせ、生活者自身が資
    源・エネルギーを可能な限り使わない生活を楽しむ、あたらしいラ
    イフスタイルをつくり、生活者参加型のあたらしいテクノロジー観
    のもとで、産業構造を根本的に変えてゆかねばならないのである。

    江戸時代は、高度に醸成された日本人のもつ自然観がテクノロジー
    と融合し庶民のものとなった、おそらく世界でもきわめて特殊な形
    態を生み出したのである。そこでは、遊びの中に生まれた無意識の
    技、人に喜ばれる技に価値が認められ、自然に鍛えられた精神文化
    が、生きることを楽しむために物欲ではなく、精神欲をあおるエン
    ターテイメントのほうを選んだといえる。まさに、ここに「文化を
    まとったテクノロジー」が生まれたのである。

    日本人がもつ自然観や精神性がつくり上げた文化が粋であり、それ
    が「自然を基盤にして生きることを楽しみ」、「敗者をつくらず」、
    「足るを知り」、「宇宙まで取り込むメタファの概念をもつ」とい
    う四つの要素で構成されているなら、今求められている精神性を有
    するテクノロジーとは、まさにこれらの要素をテクノロジーの視点
    で見ればよいことになる。

    人の叡智が文化をつくり、テクノロジーの集積が文明をつくる。そ
    して文化と文明は共存してはじめて共栄するはずである。この二つ
    を継いでいたのが自然であり自然観であったのではと思う。この自
    然観をいかにテクノロジーやライフスタイルにとりもどすことがで
    きるのか

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    ●[2]編集後記

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    我が家では毎週土曜日の朝は一家総出(といっても三人ですが)で
    掃除をします。掃除機も併用しますが、基本はホウキです。それぞ
    れの身体に合わせた大中小のホウキを持ち、各自掃除に勤しみます
    (娘の場合は掃除というより、ゴミ遊びですが)。

    ホウキで掃除をするようになって良かったことの一つは、ゴミと丁
    寧に接するようになったことです。掃除機で掃除をしていたころは
    ゴミを征服するというか、征伐するようなつもりで掃除をしていた
    のですが、ホウキで掃除をするようになってからは、ゴミにどいて
    頂くというか、ゴミを労わりながらもこちらの生活のために場所を
    あけてもらう、そんな気持ちでゴミに接するようになったのです。

    実際、雑に扱っているとゴミは散ってしまう一方ですから、いたず
    らにホウキを振り回すことなく、最小限の動作で丁寧にゴミを集め
    てあげないといけません。おまけに日によってゴミの量や種類や湿
    気の感じも違いますから、「ああ、今日は湿気ているんだなあ」と
    か「今週はやたらと砂っぽいなあ」とか「ほんと一週間でよくたま
    るねえ」とか自然とゴミと対話をしている自分がいるのです。

    本当に道具一つの違いでこんなにも所作や心持ちが変わってくるの
    ですから、どんな道具を選ぶかというのはとても大事なのだよなあ、
    とホウキを使うたびに思い知らされます。

    考えてみると、近代的なテクノロジーから生まれた道具達は、人の
    振る舞いや気持ちを雑にする方向に持っていくものばかりでした。
    道具のせいにはしたくありませんが、やはりそういう道具に囲まれ
    ていると、知らず知らずのうちに、全てが雑になっていくのだと思
    います。これに対し、昔ながらの道具は、毎日を丁寧にしてくれる
    ものばかりです。電気を使わないからエコですし、これからはきっ
    と昔ながらの道具達が見直されてくるのではないかと思うのです。

  • 3.11より前に書かれているのが良い。日本人の持つ八百万の神といった完成は確かに大切。九鬼周造さんの「粋」について触れているのも面白い。確かにこのままの教育制度では、粋なテクノロジーはなかなか生まれてこないかもしれない。

  • すげ。自然から学ぶことは多い。
    ソフトウェアエンジニアとしてはどうだろう。

  • 『動物たちの生きる知恵 生命35億年のハイテク』のようなタイプの本を想像したのですが、ちょっと違いました。個々の生物を取り上げた部分はわずかで、環境について発想の転換を呼びかける著者の持論が内容の大半を占めます。

  • 元INAX役員の方の著書。データも豊富、ロジックも適当だが、途中どこか一辺倒というか、思想の偏りを感じざるを得なかった。全体の構成も微妙で、うまくやれば2/3のボリュームにできたはずだろうが。

  • 土壁のおうちに住んでみたいと思いましたっていうかちょっと前までの日本の家って 田舎の方では 結構家に占める土間の割合が高かったと思います町屋でもお台所は 土間だったりしていたはずもっと日本の気候に合わせた住まい方をしてもいいはず

  • 非電化の考え方と共同研究したら又広がっていくであろうと思いました。

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プロフィール

東北大学名誉教授

「2017年 『生き物の体のしくみに学ぶテクノロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

石田秀輝の作品

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