パンドラの種 農耕文明が開け放った災いの箱

制作 : 斉藤 隆央 
  • 化学同人
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本棚登録 : 109
レビュー : 11
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784759814989

作品紹介・あらすじ

人類の繁栄を築いたはずの農耕文明が、現代の災禍を招いていた。いったい何を間違ったのか?パンドラの箱に希望は残されているか?遺伝学と人類学の知見を駆使して、われわれの来し方行く末を追う。

感想・レビュー・書評

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  • DNAを研究することによって明かされる歴史。狩猟民族から農耕民族へと変化してきた人間に対して何が起こっていたのか…。そして著者の想像力は宇宙へと向かう。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「人間に対して何が」
      北海道新聞の書評で、気になっている一冊。
      農耕を始めていなければ、このような繁栄は無かったと思うのですが、そのよう...
      「人間に対して何が」
      北海道新聞の書評で、気になっている一冊。
      農耕を始めていなければ、このような繁栄は無かったと思うのですが、そのような範囲の話じゃなさそうなので、読むのが楽しみ、、、
      2014/05/19
    • komi333さん
      そうなんです。農耕にとどまらない内容です。
      あっという間に読み切ることうけあいです。
      そうなんです。農耕にとどまらない内容です。
      あっという間に読み切ることうけあいです。
      2014/05/19
  • 今、世のビジネスマンが一番多く見聞きするキーワードは「ビッグデータ」というものではないだろうか。巨大なデータを収集・分析してパターンやルールを見つけ出す。その上で、今を描き出したり、異変を察知したり、近未来を予測するために活用されるものだ。世界中で生成されるデータの増加とともに、ビッグデータへの注目度は一気に上がってきた。

    本書で描かれている内容も、ある意味においてはビッグデータの活用ということになるのかもしれない。とはいっても、ネットの普及以降に集められた20年分くらいのデータ量のものではない。我々人類の来し方、行く末を語るためには、1万年くらいのスパンによる情報が必要であったのだ。このとてつもなく長い歴史をデータマイニングした結果こそが、本書の成果になっていると言える。

    約1万年ほど前、その先の何世代も後にまで影響をもたらすような種が蒔かれた。ヒトは定住を始め、農耕を編み出したのである。それ以前の狩猟採集民は食料の供給源を見つけることをあてにしていたが、農耕民はそれ自体を作り出したのだ。

    農耕の発明は、人々に安定した食料を供給し、多彩な活動をする余裕を与えて文明を発達させる契機になったと言われている。しかし実際には、ポジティブな影響だけではなく、ネガティブな影響もあったのだ。それは現代社会の病弊にも、つながっているのだという。本書のタイトルにパンドラという単語がついている所以でもある。

    著者は遺伝学者であり、人類学者でもある人物。この二つの専門性を活かして、ビッグデータを集める。中でも特筆すべきなのは遺伝学の方である。2000年代に入ってヒトゲノムプロジェクトが完了し、それが大きな技術的進歩をもたらしているからである。

    ほんの数10年前まで、遺伝学の研究プロジェクトにおける制約因子は、仮説を検証するための十分なデータをそろえるという点にあったという。ところが今や、データは消火ホースからの放水のようにあふれており、難しいのは、それを解釈したうえで統計的なパターンを説明するための、さまざまな仮説を構築する作業となっているそうだ。

    しかしそのような作業は、我々のゲノムがかつて起こった出来事によってどのように作り上げられたのかを知る手立てを提供してくれる。現在生きている人のDNAに見られる手がかりを吟味することによって、はるか昔の世代に起きた出来事の証拠を見つけることができるのだ。

    この人間の体内に埋め込まれたとてつもないビッグデータの解析が、本書に書かれている内容のリアリティをぐっと高めており、実に効果的に機能している。例えば進化論の根幹をなす自然選択説(厳しい自然環境が、生物に無目的に起きる変異を選別し、進化に方向性を与えるという説)。この証拠となるようなものも、DNAレベルで見つけることが可能になっているという。

    シカゴ大学のプリチャード教授らの分析によって、ゲノムのなかに強い自然選択が起きた領域が数百個見つかり、それらが我々の染色体全体に散らばっていることが明らかになったのは2006年のことだ。

    驚くのは、その選択が人類6万年の歴史の中においては、かなり最近に起きていたということ。どれも、過去1万年以内の出来事であったのだ。過去1万年、人類にしてたった350世代ほどの間に何百もの自然選択が起きた形跡が発見されたことは、われわれの種がその期間に非常に強い選択圧を受けた事実を示唆してくれている。

    この1万年前という時期が重要なのは、人類が農耕を始めた時期と合致しているからである。われわれは動植物に手を加え、農耕社会を発展させたが、遺伝情報から判断するに、農耕社会がわれわれに手を加えもした可能性があるのだ。

    さらに驚くのは、自然選択の証拠を示している遺伝子の多くと、高血圧や糖尿病といったヒトの複合的な病気にかかわる遺伝子とのあいだに、重なりが見られるということである。

    今、現代人の大きな脅威となっている慢性病の一つである糖尿病には、倹約遺伝子型というものが大きく関与しているという説がある。この摂取カロリーの少ない条件でも生理機能を維持するための能力は、狩猟採集民には高い適応性を与えたと思われるのだが、現代の高カロリーの食生活には不適応となりえたのだ。

    結局、現代人を襲っているほぼすべての主要疾患 、細菌、ウィルスや寄生虫によるものであれ、非感染性のものであれ、われわれの主体と、農耕の誕生以来作り上げてきた世界とのズレに根ざしているというのが著者の主張だ。マラリア、インフルエンザ、エイズ、糖尿病、どれもが現代社会の世界的な厄災となりうるのは、人口密度が高まり、家畜の数も増し、移動の距離や頻度が高くなった結果にほかならないからだ。

    一方でこの問題は、体の病のみに限定した話ではなく、心の病にも多大な影響を及ぼしているという。農耕の変化がもたらした最初の結果は、食料の増加によって人が増えたということである。これにより第二の結果でもある共同体の誕生がもたらされたことに要因があるのだ。

    ダンバー数と呼ばれることでも有名な150人という集団のサイズは、狩猟採集民の集団の平均的なサイズでもあることはよく知られている。人口密度が高くて騒がしい農耕社会と、人口密度の低い狩猟採集社会、この二つの社会の間に見られるこ心理的な不一致が、多くの人の感じる不安の一因であることはほぼ間違いないとされているのだ。この他にも、現代の暮らしにはあれこれ「騒がしい」要素があり、社会の背景にあふれるそうした刺激が、大半の社会で精神疾患が増えている一因とも言えそうだ。

    このように、生まれてまだ1万年ほどしか経っていない新しい文化に、人類は体の面でも心の面でも適応しようとしている途中段階にあるということなのだ。人類の進化はいわゆる「突然変異」という言葉の持つイメージとは違い、環境の変化に比べるとずい分とゆっくりしたスピードで進行しているということが明かされたのである。

    環境と生体との間に見られる、この明白なギャップ。それなら人類は、狩猟採集民へと戻るべきなのだろうか?しかし、それも、ほぼ不可能な話だろう。我々はもはや狩猟採集民として必要なスキルを失ってしまったし、それでは文明の良いところも切り捨ててしまうことになるからだ。

    本書において、解決策がいくつか呈示されている。その一つが遺伝子テクノロジーである。高血圧や糖尿病など一般的な病気に影響する遺伝因子については、環境が最大の役割を果たしている可能性があるが、遺伝因子も確かに存在する。今後ゲノミクスという分野の発達により生涯におけるリスクが見積もられ、遺伝的な危険因子を考慮に入れたライフスタイルが「処方される」ことも考えられるのだ。しかし、この未知の領域にはヒトとして大切なものを失わないように留意しなければならない課題が山積みなのも事実である。

    もう一つが、我々の新しい倫理観を養うというものだ。狩猟採集民として従ってきた「自然の倫理」、農耕時代に培われた「共同体の倫理」、ここに地球という上限を意識した新しい倫理観を生み出すことで問題を回避する道筋が見えてくるのだ。著者は、様々な言葉を引用し、我々は「多くを望まない」ことを学べるのだと説く。

    言いかえれば、これは「足るを知る」ということでもある。ダボス会議における渡辺 謙のスピーチでも触れられて共感を生んだ格言であるが、もとは老子の言葉だ。つまり本書で為されていることは、1万年間にわたるビッグデータを解析し、2500年前の格言を説明してみせたということなのである。

    世の中は放っておけば、どんどんリアルタイムを指向する。クラウドコンピューティングしかり、ソーシャルメディアしかり。リアルタイムにデータは吸い上げられ、オートマチックに判断は下される。しかし意図的に逆の方向を突き詰めてみると、見えてくるのは太古のロマンだ。時間のスケールを変えてモノを見るということの、なんと面白いことか。

  • https://www.facebook.com/groups/720100098078534/permalink/753410334747510/

    どうも、人間の定住生活は実際的な理由(暮らしがラクになる)ではじまったものではありません。わたしの今の仮説では、文化的、ないし、授受的、つまり、心理的な問題が大きいとふんでいます。

  • 人類が発明した農耕が、実は人類にネガティブな影響も与えていた、という衝撃の事実が実にわかりやすく書かれている。
    遺伝学や考古学などを駆使し、世界各地を取材した著者だからこその一冊だ。
    以前読んだ「にわかには信じられない遺伝子の話」とかぶっている部分もあったが、こちらの方が遙かに読みやすかった。

  • ホモ・サピエンスが生まれてから20万年、遺伝子の変化の速度と多様性の研究からおよそ7万年ほど前には恐らくスマトラのトバ山の大噴火をきっかけに人口は1万人を切り、一説によるとわずか2千人ほどに落ち込んだらしい。今ならレッドリストに載っている。その後1万年前までには人口は数百万となり世界中に住み着いているのだが人口が増えたはっきりとした理由はこの本には適応力が増したと言うような事しか書かれていないが、ともかく衣服を着るようになり、石器のレベルが上がってきた事は分かっている。そして農耕が始まった。

    最近では分かってきているのが採取生活の旧石器時代が豊かな時代であった事。平均身長は20世紀後半のアメリカ人を超えている。当時の平均寿命は男性35才、女性30才と推定されており、平均寿命が延びるのは19世紀に入ってからだ。農耕は人口を大きく増やしたが、人類を不健康にした事を示していると書かれている。人口増加に食物の増加が追いつかず、一人当たりの食料が減ったからだろう。本書ではあまり詳しく触れられていないが生の食事は恐ろしく吸収率が悪い。加熱=調理は食物の吸収を助け、食事以外に使える時間を増やし、得られたエネルギーは消化ではなく脳に回ることになった。人口増加の最初のロケットは火を使った事で、二段目が農耕のように思える。

    死亡原因の推移では農耕生活が始まるまでは外傷と傷口からの感染がトップでやがて感染症が取って代わった。農耕生活は都市をつくり、家畜とともに暮らすことで例えばインフルエンザやペスト、天然痘など動物が媒介する病気が増えたのだ。抗生物質やワクチンの発達により現代では生活習慣病やがんなどの慢性病が死因のトップになってきている。

    著者は農耕により人口が増えたのが悪いと言ってるのではないのだが後半は人口増が生み出した様々なストレスや環境負荷の話がメイン。より抑制的な生活を選ばざるを得ないだろうということだ。しかし、農耕の話とはちょっと話が遠い。1万年間に農耕がきっかけで起こって選択された遺伝形質の変化の話がおもしろそうだったので、そっちの話が少なめだったのが少し残念。

  • 遺伝子研究でわかることって、その情報をどう加工して使うか、何処に視点を置くのかでどんどん広がるものなんだなと感じた
    遺伝子治療もそうで、可能性と倫理観の綱引きになる
    未来の人間はどう変化していくのだろう

  • 農耕は、気候の変動による寒冷化と乾燥の中で生き残るためにやむなく選択されたものだというのは目からウロコでした。
    そして、農耕という道に踏み出してしまったことで、良いことももたらしたが、悪いこともたくさんあった。疫病や心の病も、農耕を始めたことによって登場してきたのだという主張は、非常にエキサイティングで面白かった。
    ただ、最後の2章はなくてもよかったような気がする。

  • 人類が定住した新石器時代からの文明や環境変化、生活など様々な出来事が人類にふりかかり進化してきた。
    それぞれの分野の入口にたった手引きとしてお面白かった。

  • 第1章 地図にひそむ謎
    第2章 新しい文化が育つ
    第3章 体の病
    第4章 心の病
    第5章 遺伝子テクノロジー
    第6章 熱い議論
    第7章 新しいミトスへ向かって

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