マンガで学ぶ動物倫理

  • 化学同人
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  • Amazon.co.jp ・本 (152ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784759818130

作品紹介・あらすじ

ペットの殺処分,肉食,動物実験,外来種,野生動物の保護と駆除,動物園,イルカ・クジラ問題など……,人と動物の間には考えるべき重要な問題がたくさんあります.人間の命を奪うことは許されないが,動物は必ずしもそうでもない.同じ動物でも,ペットは愛され,外来生物は駆除される.なぜこのように扱いが違うのでしょう.その違いに根拠はあるのでしょうか.動物倫理とは,人間は動物とどう接するべきか,人と動物のあるべき関係とはどんなものか,ということを考える考える分野です.高校生2人組が結成した「生き物探偵」が人と動物をめぐるさまざまな「事件」に出会うマンガを通してみなさんも一緒に考えてみましょう.

感想・レビュー・書評

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  • 「マンガで学ぶ動物倫理」。
    正直なところ、最初は「え? マンガで動物倫理?」と思ったのである。しかし、化学同人といえば、いわば「堅い」科学系の出版社である。さすがにフザケた本ではなかろうと読んでみることにした。
    ・・・唸った。ものすごくわかりやすい。そしてこれは同時に、ものすごく「厳しい」本でもあった。
    少し中身を紹介してみたいと思う。

    登場するのは、高校2年の琳太郎と清音。幼なじみだが、カップルではない。琳太郎はミステリ好きで研究部を立ち上げているが、他の部員は名ばかりで部室も取り上げられそうなほどである。同情して入部した清音は、実は動物好き。部を盛り上げるために「生きもの探偵」をやってみるのはどうかと提案する。
    最初の依頼は「ペットのしつけ」。やたらと隣人に吠え掛かるうるさい犬。近所からは苦情が絶えないが、飼い主は「しつけなんて人間のエゴだ」という。飼い主のおばあさんを説得してくれ、というお話。高校生2人の話を、おばあさんが意外にすんなりと聞き入れ、犬はしつけ教室に通うことになる。
    うーん、めでたしで終わってよかったけど、いやいや、そんなに簡単にいくかな、と思うわけだが、これは小手調べ。
    コミックに解説が付く。伴侶動物とは何か。伴侶動物の問題行動とは何か。伴侶動物を飼うことで生じる責任とは何か。飼い主が死んだら伴侶動物はどうなるか。畳みかけるように論点が提示されていく。このあたりから唸り始める。

    次の問題は「殺処分と去勢」。日本における動物(犬や猫)の殺処分は、関係者の努力で減少しつつはあるが、ゼロにはまだ遠い。猫の場合は、屋外で生まれるいわゆる野良猫の子猫が多い。みすみす殺すのなら、生まれないように去勢すべきだ、という立場と、病気でもないのに手術なんてして、しかも子供が生まれなくするなんてかわいそう、という立場がありうる。解説では、日本の現状にも詳しく触れ、殺処分を行わざるを得ない担当者にも目を向ける。

    そうして、琳太郎たちはさまざまな問題に取り組んでいく。
    「化粧品の動物実験」「肉食と集約的畜産業」「動物園」「外来生物」「医療のための動物実験」「野生動物による被害」「イルカ・クジラ漁問題」。
    難問続出である。すんなりと白黒が付けられない問題ばかりなのだ。
    いずれの問題にも複数の立場があり、それなりにどちらも「正しく」どちらも「誤って」聞こえる。

    最終章「人間と動物の権利」で、琳太郎は1つの驚くべき結論に到達する。
    ここまでの問題はすべて、人間が動物に対して「優位」であると見ることから来ているのではないか。それならば、最終的な決着法は1つではないか。
    ・・・彼がどんな結論に達したのか、それに対する他の人々の意見はどうだったのか、それは本書で確認していただくことにしよう。

    動物倫理に関しては、さまざまな立場を取る人がいる。いずれの立場にも、それなりの論拠がある。もう1つ難しいのは、動物を取り巻く状況が時代によって刻々と変わることだろう。江戸期なら放し飼いにされていた犬は、今やつながれて飼われる。猫も室内飼いが推奨されるようになってきている。昭和期、犬ならば「犬ころ」と呼ばれるようにモノと見なされていた。今や、家族の一員と見る見方が主流で、服を着せたり、手の込んだ手作り食を作る人もいる。外で飼うなんてかわいそうと思う人がいれば、猫かわいがりしておかしいんじゃないのと感じる人もいる。
    常識が多様で、しかもそれが時代の空気とともに変化する。現在の動物と人との関わりにはそれが顕著だ。
    伴侶動物との関わりであれば、「飼い主とペットの間でよければいいんじゃないの」である程度は済むが、実験動物、動物園の動物、野生動物となると、ことはすべての人に関わってくる。
    しかもここには、環境保護、種の保存、農作物管理、動物福祉といった、複数の異質の観点が絡み合ってくるわけである。論点のすれ違い、噛みあわなさが生じる理由はここにもある。

    どれも本当っぽいけど、どれもどこか弱い点がある。その中で、自分が一番大切にしたいのはどこなのか、よくよく考える必要がある。
    けれど、同時に、他の人にとっては別の点がより譲れない視点かもしれないことを忘れてはならない。
    つまり、自分の依って立つところを信じつつ、それが世界のすべてではないことを理解せねばならない、ということになる。
    ・・・厳しい。
    しかし、自分は門外漢だけれど、哲学というものはそもそも厳しくかつ危険になりうるものなのだろう。突き詰めて突き詰めて考えていくというのはそういうことだ(多分)。
    そして自分の信念を持ちつつも、別の信念を持つ他者とも共存していくというのは、おそらく、現代人に課された命題でもあるのだ。

    もう少し、本当に自分のものと言えるものが掴めるまで、琳太郎と一緒に唸りながら考えていきたいと思う。

  • 小樽商科大学附属図書館蔵書検索OPAC
    https://webopac.ih.otaru-uc.ac.jp/opac/opac_link/bibid/BB10298441

    「動物倫理」という分野の包括するテーマは様々です。例えば伴侶動物、いわゆるペットに関する問題や、食肉の倫理的是非、実験動物の権利についてなど、その内容は多岐にわたります。  そんな動物倫理の各テーマについて、本書ではマンガ形式で分かりやすく学ぶことができます。「私たちは動物とどう付き合っていくべきなのか」を考える入り口として、非常におすすめの一冊です。

  • 漫画で学ぶシリーズとしても、かなりわかりやすい本。特に動物倫理に関してはみんなが自分の感情で物事を言いがちだが、この本は感情を無視するわけではないが、理論的な話も入ってきて多角的に考えることを促進してくれる入門書だと思う。

    実際子供から大人まで、どう言うテーマのことについて考えるのかと言う時にこう言うテーマ別で話が漫画形式に進む本というのはある程度の大枠を捉えるのに非常に役に立つものだ。

    この本はその大枠を、ざっくりとだが捉えてくれる。そして、興味がある分野はさらに専門書を読めばより理解が深まる。

    昨今、倫理というものに対してとても熱を帯びてきているので、これ流れを機に動物愛護というとのだけでなく動物倫理に触れてみるのもいいのかもしれない。

  • ペットのしつけは虐待?動物園は監獄?

    所蔵情報
    https://keiai-media.opac.jp/opac/Holding_list/search?rgtn=091984

  • マンガ。
    図書館のティーン向けのコーナーから借りましたが、扱っているテーマは非常に難しく、大人も答えは出せないでしょう。
    10章で主人公が辿り着いた答え、自分は完全に同意します。
    年齢問わず読んでほしい一冊。

  • ペットのしつけや去勢から動物実験、捕鯨まで。
    ヒト(ホモサピエンス)には許されないことが、なぜ動物には許される(行われる)のか。
    その議論において、何が論点となっているのか。
    漫画の部分と解説の部分で非常に理解が深まる。
    もちろん、簡単に答えが出る問題ではなく、作品中にも答えはないが、しっかりと考えなければ、と思える本。

    近年の中流からすれば、動物に全く配慮しなくていいという立場を擁護することは倫理学的には困難で、「動物の権利論」をある程度は当然の前提として、人間と動物の関係をより豊かにしてゆく方法を探ることが求められている。

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB99838605

  • 読みやすく、わかりやすいけれど、軽い内容にはなっていない。こちらに考えさせるような感じ。

  • 『マンガで学ぶ動物倫理――わたしたちは動物とどうつきあえばよいのか』
     伊勢田哲治 [著]
     なつたか [マンガ]
     出版年月日 2015/11/15
     ISBN 9784759818130
     判型・ページ数 A5・152ページ
     定価 本体1,100円+税

    【出版社の内容説明】
     ペットの殺処分,肉食,動物実験,外来種,野生動物の保護と駆除,動物園,イルカ・クジラ問題など……,人と動物の間には考えるべき重要な問題がたくさんあります.人間の命を奪うことは許されないが,動物は必ずしもそうでもない.同じ動物でも,ペットは愛され,外来生物は駆除される.なぜこのように扱いが違うのでしょう.その違いに根拠はあるのでしょうか.動物倫理とは,人間は動物とどう接するべきか,人と動物のあるべき関係とはどんなものか,ということを根本にさかのぼりながら考える分野です.高校生2人組が結成した「生き物探偵」が人と動物をめぐるさまざまな「事件」に出会うマンガを通してみなさんも一緒に考えてみませんか.
    http://www.kagakudojin.co.jp/book/b212398.html

    【目次】
    1.ペットのしつけ――動物に言うことを聞かせるのは人間のエゴか?
    2.殺処分と去勢――なぜ伴侶動物の殺処分がなくならないのか?
    3.化粧品の動物実験――人間の嗜好品のために動物の命を奪ってもよいか?
    4.肉食と集約的畜産業――犬や猫と、豚や鶏は違うのか?
    5.動物園――動物には自由に行動する権利がないのか?
    6.外来生物――外来生物は「愛護」されなくてよいか?
    7.医療のための動物実験――実験動物のマウスには生きる権利はないのか?
    8.野生動物による被害――野生動物の保護と駆除は矛盾しないか?
    9.イルカ・クジラ漁問題――クジラやイルカをどのように扱うべきか?
    10.人間と動物の権利――人間と動物への態度に筋を通すことはできるか?

  • 結論は特に無く論点の整理のみだが、さすがは著者、わかりやすく深い洞察へ誘ってくれる。

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著者プロフィール

1968年生まれ
1999年 京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学
2001年 メリーランド大学よりPh.D.(philosophy)取得
    名古屋大学大学院情報科学研究科准教授等を経て
現 在 京都大学大学院文学研究科教授

著書:
『動物からの倫理学入門』(2008年、名古屋大学出版会)
『科学技術をよく考える』(共編、2013年、名古屋大学出版会)
『宇宙倫理学』(共編、2018年、昭和堂)他

「2022年 『宇宙開発をみんなで議論しよう』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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