戦後世論のメディア社会学 (KASHIWA学術ライブラリー)

制作 : 佐藤 卓己 
  • 柏書房 (2003年7月1日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (314ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784760123995

作品紹介・あらすじ

あいまいな日本の「世論」に挑むメディア論!戦後、輿論は世論と書かれるようになったにもかかわらず、読み方が「ヨロン」のままであるのはなぜか?玉音放送から2ちゃんねるまで、インデックス・メディアの分析から国民世論の「ゆがみ」に切り込んだ画期的な戦後史論。

戦後世論のメディア社会学 (KASHIWA学術ライブラリー)の感想・レビュー・書評

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  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
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  • 編者を中心とした研究グループで、輿論と世論という概念対を基調としながら、戦後の様々なメディアに現れた世論を追っている。執筆陣はメディア学の研究者から知識社会学、社会心理学、教育社会学の研究者などを含んでいて、視点の多様性がある。また取り上げられているメディアも、新聞やテレビ・ラジオなど典型的なものから、女性向け雑誌、デモ、フォークソング、インターネット(これは記述的にかなりの古さを感じる)といった素材に渡っている。

    いくつか面白い論文がある。例えば女性向け雑誌で取り上げられた、美智子皇后を巡る記事の検討がある。この頃の女性向け雑誌、特に『女性自身』などは成婚を巡って新聞各紙が結んだ報道協定に縛られずに様々な記事を書き、売り上げを伸ばした。そうした雑誌での取り上げられ方のうち、ファッションの取り上げ方に注目している。こうした雑誌の皇室報道は、戦後における天皇制そのものを問うような事はせず、まるでファッションリーダーとして美智子皇后を扱った。読者の方も皇室そのものには無関心である。こうした雑誌への読者の反応を絡めながら、象徴天皇制への世論を追っている。

    また、フォークソングについて取り上げた論文も面白い。フォークソングは反戦の歌詞にもあるように、政治的メッセージを担い、楽曲として支持されることで輿論を形成する機能があった。例えば、アメリカで9/11テロの後にジョン・レノンの"Imagine"が好ましくないとされたように、いまだにそうした力を保持しているものもある。ところが、日本ではフォークを始め、政治的メッセージが載ったポップミュージックが支持されることはほとんどない。著者はフォークソングをリアルなものとレトロのものに分けている。リアルなフォークソングとは1966年~1969年のほぼ3年間だけ存在したものとされている(p.180)。これは前述のような輿論を形成する機能を持ったフォークソングだった。といっても著者の見るところ、フォークソングは政治的なものというより社会的なものである。しかしその後に来るのは、そうしたリアルのフォークソングを過ぎ去りしものとして復活させようとするレトロなフォークソングである。つまり、リアルなフォークソングは1969年の新宿西口集会の排除をターニングポイント(p.178)として終わり、輿論形成機能を持たない「四畳半フォーク」となる(広場から四畳半へ)。それはせいぜい世情としての世論に訴えるに過ぎない。さらにその後の展開を考えるに、メッセージの個人化(恋愛や個人的悩みを扱ってばかり)、視聴空間の個人化(歌声喫茶や街角から、個人の部屋でのラジカセやヘッドホン、また機械化された閉鎖空間としてのカラオケ)によりそうした世論に訴える機能すら失っていることになるだろう。

    他には、デモ行進におけるスネークダンス(ジグザグ行進)の果たした役割、細川政権(別名、久米・田原連立政権)の成立に当たって久米宏氏と田原総一朗氏の果たした役割と日曜朝のテレビ政治討論番組の政治的機能といった論文が面白かった。ただどれも分量の制限からか展開を短く扱っているものが多く、掘り下げが足りないという印象を受ける。それぞれの章に応じた巻末の参考文献の充実ぶりはその代わりとなるだろう。

    タイトルにもあるように基本的には世論を扱ったものであり、輿論については述べるところは少ない。やはり輿論とは何なのかいまひとつ掴めないままだ。政治番組での議論が、キャスターによって引き出されているものだから輿論と呼んでよいだろう(p.238)という記述があるが、それはないだろう。それはただの一政治家の私見に過ぎず、輿論とは程遠い。それともそんなものが輿論なのか。

  • 本書において特徴的なのは「よろん」を輿論 と世論に分けた時点から出発した点にある。理性的な輿論、感性的な世論、現代では意味的に一緒にした世論という言葉が独り歩きして様々な領域で使われてしまっている。この点を見過ごしたままでは世論をという言葉がつくあらゆる研究が中途半端なものとなってしまう。そのように考えた編者が、まず序章において「世論」の定義をしっかりしてくれていることが本書の価値を高めてくれているといえよう。
     また本書には様々な分野の研究者が参加している。社会心理学、メディア史、歴史社会学、知識社会学、教育社会学、とこれら広い分野にまたがった学際的な試みのものとなっている。本書においては学際的なアプローチが成功しているといえよう。
    題目を見れば 四章 スネークダンスのテクノロジー 六章「受験地獄」の黙示録 八章私論と輿論の変換装置 などまとめようの無いものが並んでいるように思えるが、メディア社会学という視点から見ればひとつのカテゴリーに入れることはできるように考えられる。とくに近時の日々変化するメディア状況の中にいる学生に 視点のエッセンスを示唆するのに役に立つと考えられる。
    ほか、巻末にある44ページに及ぶ文献解題が便利である。本書を出発点にして多くの論文が生まれることが期待される。

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