孤独なボウリング: 米国コミュニティの崩壊と再生

  • 柏書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (689ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784760129034

作品紹介・あらすじ

つよいアメリカを支えた市民的つながりの減少は、いつ・どこで・なぜ起こったのか?様々な人と人のつながり=社会関係資本が、幸福な暮らしと健全な民主主義にとっていかに重要かを膨大な調査データから立証した全米ベストセラー。

感想・レビュー・書評

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  • タイトルの「孤独なボウリング」とは、もともと複数人のチーム・リーグ形式で、歓談をしながらプレイされるのが当たり前であったかつてのアメリカのボウリングが、レーンの上に設置されたテレビを見ながら孤独にプレイする様子へと変貌したことを示している。この不吉な変化が表象するのは、公的・私的な領域における人々との関わりがなくなることによって、地域の民主主義や経済的発展、犯罪件数等の安全性の低下などがすべからく引き起こされるということであり、それが本書のテーマとなる。

    こうした人々との関わりを本書では、Social Capital=社会関係資本という概念として定義し、民主主義において社会関係資本の果たす重要性を、圧倒的な定量データの統計的分析と歴史学的手法に基づいてまとめあげた本書は、社会学という狭い文脈を飛び越えて、20世紀の社会を語り、21世紀の展望を描く上で、欠かせない一冊と言える。500ページを超える大著ということもあり、長年、いつか時間ができたら読みたいと思っていたが、いざ読み始めると、明快な主張とそれを支える膨大な定量分析と多様なチャート、そしてこの分析から引き出される含意に圧倒されてしまった。

    本書では、人々との関わりあいを社会関係資本として、公的(政治活動や地域コミュニティの活動、PTAなど)・私的(近隣住民との井戸端会議やバー・レストラン等での集まり、スポーツや合唱など)の両面からなる活動として定義する。20世紀のアメリカを対象とした膨大な定量的分析が明らかにするのは、20世紀の後半からこうした社会関係資本が軒並み低下していること、そして州別の比較分析から、社会関係資本の低下と「教育水準と児童福祉」、「地域コミュニティの安全性」、「住民の健康と幸福感」などの低下に、強固な因果関係が示されるという事実である。

    また、こうした社会関係資本の低下をもたらした要因として、パットナムは以下の要素を挙げている。

    ・社会関係資本が強固だった時代に生きた老年層から若年層への世代変化
    ・受動的なテレビの娯楽番組の常習性
    ・スプロール減少と長時間の孤独な自動車通勤
    ・労働時間の長時間化・金銭面でのプレッシャー

    そして、何よりも本書が世間での注目を集めたのは、同じく社会関係資本が低下し、様々な社会問題が頻発しながらも、そこからの巻き返しに成功した19世紀末のアメリカの状況をヒントとして、21世紀に社会関係資本を復活させるための処方箋を示している点にあろう。「若者と学校教育」、「職場」、「都会と都市デザイン」、「宗教」、「芸術と文化」、「政治と政府」という6つの領域において、具体的な方向性が示され、そこからは確実な政策へのインプリケーションが得られる。

    2000年の発表ということで、この10年間に起こったスマートフォンとSNSの普及のような変化は当然触れられていないものの、それでも20年前ということを感じさせないほど、本書のインプリケーションは古びておらず、未だに政策的な価値を持っているのは間違いがない。

  • 政治、宗教、教育(PTAなど)、会社(労働組合)など、アメリカの地域生活を支えていたコミュニティに参画する人が減っている現状を多角的に分析している。その中でも、ボランティア活動やインターネット上のコミュニティだけは活性化しているようで、「地域のコミュニティ」から「個人の関心のネットワーク」という形態に移行している実態を指摘している。 なぜか、という項では、女性の社会進出、都市化の影響を取り上げ、仮説を掘り下げている。 「個人主義志向が強まった影響」ということよりも、地域コミュニティを支える構造変化がコミュニティ活動の魅力を損ねる結果に陥っている・・、そんな印象を覚えた。 ボンディング、ブリッジングに関する説明はあるものの、上記分析とのつながりまで読み解くことができなかった。再読して明らかにしたい。

    • yai0303さん
      政治、宗教、教育(PTAなど)、会社(労働組合)など、アメリカの地域生活を支えていたコミュニティに参画する人が減っている現状を多角的に分析し...
      政治、宗教、教育(PTAなど)、会社(労働組合)など、アメリカの地域生活を支えていたコミュニティに参画する人が減っている現状を多角的に分析している。その中でも、ボランティア活動やインターネット上のコミュニティだけは活性化しているようで、「地域のコミュニティ」から「個人の関心のネットワーク」という形態に移行している実態を指摘している。

      なぜか、という項では、女性の社会進出、都市化の影響を取り上げ、仮説を掘り下げている。

      「個人主義志向が強まった影響」ということよりも、地域コミュニティを支える構造変化がコミュニティ活動の魅力を損ねる結果に陥っている・・、そんな印象を覚えた。

      ボンディング、ブリッジングに関する説明はあるものの、上記分析とのつながりまで読み解くことができなかった。再読して明らかにしたい。
      2008/07/06
    • yai0303さん
      「民意」とはなにか、
      一人ひとりの有権者には意図があり、全体としてみるならば個別の意図を超えた何らかいの集団的な意図を、事後的にではあれ見...
      「民意」とはなにか、
      一人ひとりの有権者には意図があり、全体としてみるならば個別の意図を超えた何らかいの集団的な意図を、事後的にではあれ見出すことはできる。そのような期待と前提のうえ、代議制民主主義は成立してきた。

      しかし、昨今ではそのような民意の存在を疑う声は少なくない。有権者の集団的意図というものがあるとしても、それは勇断的な人格であるような、単一の意志ではなく、むしろ、果てしなく個別化した一つのひとつの意志の瞬間的な集合に過ぎないのではないか。

      2005年9月、郵政民営化を中核とし小泉首相の改革を支持する「民意」が形成されたが、2007年7月参院選では小泉改革の結果がもたらした格差問題に批判的な「民意」が形成され、ねじれ国会を生む要因となった。

      現代の民主主義を語るに当たり、多数の声を素朴に想定することはますます難しくなっている。「自分らしく」ありたいと思う、一人ひとりの個人の異なった声と向き合うことなのである。
      個別化、断片化した声をくみ上げ、そこに共通の地平を築くような、より高度な感度を持った民主主義が今こそ求められている(東大准教授 宇野重規 日経やさしい経済学)
      2008/07/06
    • yai0303さん
      「民意」とはなにか、一人ひとりの有権者には意図があり、全体としてみるならば個別の意図を超えた何らかいの集団的な意図を、事後的にではあれ見出す...
      「民意」とはなにか、一人ひとりの有権者には意図があり、全体としてみるならば個別の意図を超えた何らかいの集団的な意図を、事後的にではあれ見出すことはできる。そのような期待と前提のうえ、代議制民主主義は成立してきた。 しかし、昨今ではそのような民意の存在を疑う声は少なくない。有権者の集団的意図というものがあるとしても、それは勇断的な人格であるような、単一の意志ではなく、むしろ、果てしなく個別化した一つのひとつの意志の瞬間的な集合に過ぎないのではないか。 2005年9月、郵政民営化を中核とし小泉首相の改革を支持する「民意」が形成されたが、2007年7月参院選では小泉改革の結果がもたらした格差問題に批判的な「民意」が形成され、ねじれ国会を生む要因となった。 現代の民主主義を語るに当たり、多数の声を素朴に想定することはますます難しくなっている。「自分らしく」ありたいと思う、一人ひとりの個人の異なった声と向き合うことなのである。個別化、断片化した声をくみ上げ、そこに共通の地平を築くような、より高度な感度を持った民主主義が今こそ求められている(東大准教授 宇野重規 日経やさしい経済学)

      Posted da
      2008/07/06
  • 日本でいえば「孤独なカラオケ」ってところか

  • ロバート.D . パットナムの「孤独なボウリング」の序章は以下のような調子で始まる.

    「1920年, 女性が投票権を獲得して以来1960年までの間,大統領選挙の参加率は4年ごとに1.6%ずつの割合で上昇していたので,ある指導的な政治学者が後に述べたところでは,単純に直線を延長すれば1976年の米国建国200周年には投票率は70%近くに達し,さらに上昇を続けると期待するのも無理が無いように思われた.」

    政治参加に加えて,社会的な信頼も上昇の一途をたどっていったのが60年代だった.

    「大半の人は信頼できるという質問に賛成した人の割合は,第二次大戦中,戦後にすでに66%の高さに達していたが,1964年には77%の高みにまで上り詰めた」(12)

    この時代は人種差別がなお強く,公共の場は男性で占められてはいたものの,米国人のコミュニティの参加,アイデンティティの共有と互酬性の感覚は最高潮に達していた.

    「孤独なボウリング」のタイトルはこうした時代にあって社交の場として栄えたボウリングクラブに参加する人が減ったことを示しているが,この本の主題は反映を続けると思われたアメリカのコミュニティが70年代以降に衰退の一途を辿った背景を探り,解決策を提示することにある.

     筆者が鍵概念として用いるのは「ソーシャルキャピタル」,日本語だと社会関係資本という定訳があるが,最近では言語のまま使われることが多くなったこの言葉は,コミュニティを基盤としたネットワークとそこから生じる互酬性と信頼性の規範を概念化したものだ.世俗的な表現で言えば「つながり」というやつだが,キャピタルという単語から連想されるように,パットナムはソーシャルキャピタルの「正の外部性」に注目している.すなわち,ソーシャルキャピタルを単につながりをたくさん持っているひとは昇進しやすいなどのような個人的な資本に帰するだけではなく,それが規範をもたらすことで集合的な側面を持つことを強調するのだ.具体的にどのような正の外部性をもたらすのかと言えば,効果について論じた17章「教育と児童福祉」18章「安全で生産的な諸地域」19章「経済的繁栄」20章「健康と幸福感」21章「民主主義」といったように,実に多岐に渡るのが分かる.パットナムは信頼は社会の潤滑油というように,信頼や互酬性の規範(互酬性というのは,こなれた表現だとお互いさま意識,お礼に対して返礼をすると行ったような交換関係の規範だ)がそのコミュニティの凝集性cohesionや連帯solidarityを強めることで経済に貢献するといったような話は,何となく分かるだろう.もちろん,経済的な側面だと,失職したときに知り合いから職の紹介があると行ったような,ネットワークが個人に対して発揮する機能もある.ただ,パットナムが強調するのはその集合的な側面だ.例えば,貨幣が流通していることには,鋳造する政府への信頼が無くてはならない.また,コミュニティになんらかの分断(例は良くないかもしれないが,例えば人種間の対立)があれば,その土地の経済は上手く回らないこともあるだろう.そういう風にして,同じようなこと,つまりソーシャルキャピタルがそのコミュニティや組織にあると,組織が回りやすくなったり効率が増すことが強調される.このように,パットナムのソーシャルキャピタル論はかなり公共政策に応用されやすい側面がある.実際,この本は国連にまでソーシャルキャピタルの調査をするインパクトを与えたと言われるし,日本でも翻訳された後になって政府が調査を開始している.特に,今後人口が減少していく社会の途上にある日本にとっては,ソーシャルキャピタルのような「掘り起こしがいのある」概念は政策に上手く利用されることになるだろう.その是非はともかくとして,パットナムが与えた影響はとても大きい.経済以外にも,ソーシャルキャピタルが高い地域は政治参加が盛んだとか(これは逆も然りで,因果関係については厳密に考える必要は無いだろう)人々の幸福感が増すとか,コールマンなんかはソーシャルキャピタルが高い学校は高いパフォーマンスを示すなどといってたりするようだ.

    本書は,そうしたパフォーマンスの側面にも注目はしているが,どちらかというとどこから持ってきたんだという大量の統計を駆使して,いかなる軌跡でアメリカのコミュニティが衰退していったかを描いている.この第三部とアメリカ市民社会の変動を描いた第二部を合わせて相当なボリュームを占めているのだが,背景がこれまた議論を呼びかねないものになっている.実際のところはよく分からないのだが,パットナムのこの著書はパフォーマンスや解決策の部分が強調されたのか,背景についてはあまり言及がされていないようだ.第15章「市民参加を殺したものは何か?その総括」というタイトルの章では,それまでの背景要因の分析を総合して,「時間と金銭面のプレッシャー」「郊外化(スプロール化)」「電子的娯楽(テレビ)」「世代変化」である.最初の要因は,共働き家族の増加は彼らのコミュニティ参加を阻んでいるというもの,2番目は通勤時間の増加,さらに郊外化に伴い,家々が孤立したものになるという側面が指摘される.3番目は余暇時間がテレビに奪われたというもの,4番目の世代変化というものは要は市民参加が盛んだった世代がそうでない世代に移り変わったというもので,社会に参加している人自体が入れ替わったという説明になっている.重要なのが,なぜ昔の世代(1950年代に生まれ現在60-70歳代の人々らしい)は市民参加に熱心だったのか.パットナムは強調しないが,それは少なくない部分が「戦争」で説明されてしまいかねないからと思われる.

    「われわれの抱える中心的問題を世代的観点から再定式化したことによって浮上した可能性に,国家的統合と愛国心という,1945年に最高潮に達した千字の時代精神が市民的傾向性を強化したというものがある.外的な衝突が内的な凝集性を増加させるというのは,社会学ではありふれた物言いである」

    社会学者ウォーナーがある町における戦争の影響を調べた本で述べた以下の言葉を再引用すると「無意識の幸福感は…私心からではなく,今日長身を持って共同の事業に必死で何らかの協力を誰もが行った」かららしい.共通の目的に参加することは仲間意識と幸福感を高めるようだが,それが戦争への協力という文脈で強制的,かつ大規模に行われたことがその後の市民参加を高めたのだとすれば,「どうすればソーシャルキャピタルを高められるか」という問いを提出できなくなってしまう.一番手っ取り早いのは「戦争を起こすこと」だとしたら…

     少年,青年期に身につけた価値観はそう簡単には失われない.戦中から戦後に生まれた世代は戦争によって培われた愛国心と市民意識を引き継いだのだろう.それはまぎれの無い事実だとしても,そうした世代と戦争の記憶を薄れた形でしか知らないこれからの世代の社会的な連帯を比較することは不可能なのではないか,そうした諦め声も聞こえてきそうだ.


     パットナム自身は最終章でソーシャルキャピタルを高めるための10個の政策提言をしているが,その中にはもちろん「戦争を起こそう」とは書いていない.市民に政治参加などを促すような価値観を身につけることがコミュニティの持続や発展につながるのは分かるのだが,価値観に対するアプローチはパターナリスティックな側面を含むことは否定できないだろう.どれだけ正当性を持って政策を実行できるのか,パットナムは全ての政策提言について起源を2010年に求めているが,パットナムの主張はどれだけ通り,そしてアメリカ社会のソーシャルキャピタルの再興につながったのだろうか.

  •  手に取るのは約10年ぶり。以前より強く自覚したのは、「社会関係資本(SC)」という概念立てが自分には刺さってないということ。

     これは仮想敵が立っていないと言い換えてもよい。経済的資本や階級意識などの要素が脱色されていて、どうも心が動かない。

     ただ、SCの課題である、①利益団体化、②経済社会的地位の増幅器に留まりかねないこと、③団体創立者はバイタリティが強く極端化し得ること、④凝集性と排除が表裏一体化する場合があること などは、脱色されている要素と多少関連しているように思う。

     SCの衰退理由として、「時代性の違い」を切り札的に登場させていたのは面白かった。歴史の縦軸で見れば、全体的には豊かになったということなんでしょう。

     だからこそ「では何をするのか?」ということになるのだろうが、人と一緒に何かをするのが楽しいという感覚が自分にはあんまりない。なので「困ったなぁ」というのが、正直な今の気持ち。

  • 大学院の授業聴講で、ところどころ少々飛ばしながらも読了。
    緻密なデータで、アメリカにおける社会関係資本の衰退を示す。仮説→データ検証の繰り返し。
    オンライン上の繋がりや子どもの資本については、粗野な部分も多いが、90年代社会学バックラッシュが起こっている今、「社会関係資本」のバイブルともいわれる本著を読む意義を感じる。

    ハンナ・アレントは、死んだ後に残るのは「文字」だと言ったが、同じくらい、もしくはそれ以上に大事なのは「人とのつながり」だと最近思う。
    「資本」としてそれを捉えることに、躊躇がないわけではないが、そういう側面が大きいことは確かだと感じる。

  • 社会関係資本について研究した代表作の一つ。
    アメリカ単独の研究でありながら、州、地域ごとの研究を丹念に行うことで社会関係資本の重要性を明確に主張している。

  • 米国だけの現状を調査から描いたものである。教育と子どもでも、高額でエリートのみしか行くことが出来ないという米国の大学の教育についてはひところも書いていない。
     恐ろしいほどの自国だけの調査である。ピケティの21世紀の資本論が少なくとも世界多くの国を扱おうとしていたのに対してこの本の米国主義の限定が残念であり、学生には米国について知ることが必要なものにしか推薦できないのが残念である。

  • 2021.35
    まじ分厚い!!!!

    ソーシャルキャピタルについての世界的な良本にしっかり当たれたのはよかったー

    マッハーとシュムーザーという概念がおもろかった。

  • [出典]
    100分de名著 大衆の反逆
    第4回, 2019.02.25

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