逃げる公家、媚びる公家: 戦国時代の貧しい貴族たち

著者 :
  • 柏書房
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784760140725

作品紹介・あらすじ

命が大事か、家か、それとも金のためか?天皇を京都に残して、地方へ脱出。朝廷の仕事もサボタージュ。乱世を生き抜く非武装の男たち。

感想・レビュー・書評

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  • 主に中世の公家の生き方をいくつかの視点から描き出す内容です。​

    公家というと、「ノホホホ、まろはプリンが食べたいでおじゃる」みたいな印象しかなかったものですから、お恥ずかしながら、中世の公家の​生活なんてこれまで考えたこともありませんでした。

    食い扶持を確保するために書物の書写をしたり、地方へ出向いて大​名と交流したり、荘園を守るために自ら地方へ下って戦って死んだ​り、etc.食うためとはいえ、意外な公家連中の必死さ、たくましさを垣​間見ることができました。

  • 近衛文麿こそ逃げる公家代表だと思う

    本書ではテンプレ的に台頭する軍部に抵抗できず、大政翼賛会結成・日独伊三国同盟締結を勧めたが道半ば・・・のような書きぶりにはいささかガッカリした

    台頭する軍部とは海軍・陸軍が予算分捕りの浅ましい官僚であり、戦争体制への抑止に必要であった議会制民主主義を、新体制運動で壊したのは近衛文麿であり、戦争へ国民を引きずり落とした罪は大いに活字に残してほしかった

    だが本書は随所に刺激ある内容があるのでご安心を

    荘園からの年貢が滞ると貴族は下向して荘園経営(メンテナンス)にいそしむ(著者の研究上播磨事例がふんだんにみられる)
    一条兼良・三条西実隆・冷泉為広・清原宣賢・橋本公夏・柳原資綱・柳原量光・冷泉為純・寿桂尼(今川氏親妻)・三条の方(武田信玄妻)一の台(豊臣秀次妻)

    朝廷との関わりを記述の第5章も興味深い
    「羽柴」「豊臣」創姓の意味も分かりやすかった

    地方に逃げる公家たち(参内も怠る)が多い中で朝廷の威信を如何にたもったか、日常の駆け引きでわずかな権益を守ろうとしたか

    応仁の乱は鎌倉時代~南北朝時代で気づきあげた社会秩序を灰塵にしたであろうが、どっこい貴族もしたたかで、文化という強み、室町時代特有の権威や見栄矜持の環境を上手く利用して実利を得たものも多いと感じた

  •  学校の授業で習うような日本史から、関連がないわけではないけれどもちょっと離れたところの、しかし事実としてそういうこともあったであろう歴史の話である。
     平安時代に登場する藤原道長に代表される平安貴族の子孫たちが繰り広げる処世術。おそらく彼らが最も落ちぶれて不安定になった時期、どのようにその時代をやり過ごしたのかという、なかなか興味深い読み物に仕上がっている。
     特に荘園の既得権益をなんとか守ろうとするエネルギーは、このように落ちぶれた中にあって相当なものだったようである。それにしても、10世紀頃から成立してきた荘園が、15世紀から16世紀にかけても、その一部が依然として公家の権益に属していたというのは驚くべきことではないだろうか。武士たちに多くは浸食されていたとはいえ、とにかく最低限度は保っていたわけである。数百年もよく守ってきたものである。
     さまざまな時代の流れの中の出来事にあって、朝廷がいかにして存在してきたのか、日本の社会制度や思想を考えるうえにおいて、現代にも通じる何かのヒントを得られるようにも思える。

  • 室町~戦国~安土桃山~江戸時代と、
    幕末・明治時代以降の公家の生き方。
    何はともあれ学問は身を助けております。
    でも、交通手段が貧弱だった時代に、
    意外と広範囲で移動しているのは驚きです。
    武士たちとの攻防と交流は興味深いものでした。

  •  「戦国の貧乏天皇」と対を為す、不遇の時代を生きた公家の奮闘の歴史書である。

     同じ著者の「戦国の貧乏天皇」にも登場した一条兼良や西三条実隆ら戦国を生きた公家達の生き様を紹介している。
     戦国時代の中心といえば当然武士であって、教科書レベルでは天皇ですら影は薄く、公家などほとんど出てこない。それでも日本の身分社会において公家はしっかりと一つのレイヤーを構築しており、武家レイヤーと綿密に絡み合って歴史を編み上げる。確かに武家レイヤーは派手であるが、公家レイヤーがあって細部に神が宿る。

     ともすれば脳筋などと揶揄されがちな戦国武将たちであるが、それでも文化、芸能を尊ぶ大名、武士もいて、その指南役として生き延びた公家も少なくない。まさに「芸は身を助ける」である。
     そもそも大名達も数代遡れば貴族に辿りつく者は多く、素養はあったのである。

     そんな中で異質な存在として君臨したのが豊臣秀吉であって、(諸説はあるが)百姓身分から成り上がって関白に至ったのであるが、それがいかに異例かといえば、公家の中にもランクがあって、摂政、関白に昇進できるのは摂関家と呼ばれるわずか五家のみだったのである。
     貧乏天皇が貧乏ゆえに何らかの儀式を簡略化しようと思っても数百年の歴史を紐解いて前例を探すような公家社会で、二代続けて関白となった豊臣家はどう見られていたのか。内心は煮えたぎる想いを抱きつつ、長続きなどしないと、いずれ復権はなると信じていたのだろうか。
     本書では江戸以降も軽く触れられており、第二次大戦の敗戦、日本国憲法の制定に並行して貴族、華族制度は終わった。現在も末裔として各界で活躍する家があれば、歴史の中に消えていった家もある。過去の記憶となりつつある中、鎌倉以後800年の不遇を生きた公家という存在に改めて想いを馳せるのも悪くはない。

  • 室町時代以降なので、知らない人ばかり……。
    なので、若干難しい印象ですが、読みやすく。

    最後は近現代も書かれていて、ボリュームたっぷりでした。

  • 武家社会が続いた時代にも天皇や公家・朝廷が存続していたのは何故か、ずっと不思議なのだけれど、なかなかすっきりした答を出してくれる本に出会っていない。この本でもすっきりはしなかった。政治的な実権はなくとも、文化的な面で武家を圧倒する、権威があった、武力だけで人は尊敬されない、と書かれた「おわりに」に到達して、そうか、とは思ったものの、それだけなの?とやっばり、不思議。これはもう、人の心理にかかわることになってくるのかな。
    公家社会からみた日本の歴史を眺めることができたことは、面白かった。公家社会を扱った時代小説はないのかな。探してみよう。

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著者プロフィール

(株)歴史と文化の研究所代表取締役。専門は日本中近世史。
『豊臣五奉行と家康 関ケ原合戦をめぐる権力闘争』(柏書房、二〇二二年)、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』(星海社新書、二〇二一年)、『関ケ原合戦全史 1582-1615』(草思社、二〇二一年)、『戦国大名の戦さ事情』(柏書房、二〇二〇年)。

「2022年 『江戸幕府の誕生 関ヶ原合戦後の国家戦略』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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