コミュニティと共生する地熱利用: エネルギー自治のためのプランニングと合意形成

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784761526788

作品紹介・あらすじ

規制緩和や技術革新により各地で導入が進む地熱発電。本書は地熱資源の基礎解説に始まり、優れた合意形成で地域と共生する国内事例から、事業化を支える制度設計に踏込む海外事例まで、エネルギー自治の為のプランニング手法を網羅。開発有望地の自治体、温泉事業者、開発業者や研究機関まで、あらゆる当事者に役立つ入門書

感想・レビュー・書評

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  • 地熱利用の促進に向けて、社会制度の課題を中心に、国内外の動向を整理した良書。

    ◯地熱資源の利用方法:温泉、発電、暖房・冷房、農業、漁業

    ◯発電方式
    ・ドライスチーム方式:熱水をほとんど含まない場合、湿分を簡単に除去した蒸気を直接タービンに送り発電(松川地熱)
    ・フラッシュサイクル方式:熱水を多く含む場合、汽水分離器(セパレーター)を経由した蒸気でタービンを回し発電(日本で最も広く用いられる)
    ・バイナリーサイクル方式:流体の温度・圧力が低い場合、ペンタン、ブタン、又はアンモニア化合物等の低沸点媒体を用いてタービンを回し発電(温泉には高温の源泉をバイナリー発電経由で適温に下げる)
    ・高温岩体方式:十分な貯留槽が形成されていない場合、地上から水を送り込むことで人工貯水槽を作り発電(開発実験、今後期待)

    ・初期投資の高さ:3万kWの建設費用210-270億円

    <制度的課題>
    ◯自然公園法の規制
    2015年〜地熱資源の7割の開発は可能
    ・第1種特別地域でも地域外からの傾斜掘削は許可
    ・第2種・第3種特別地域内でも地元地域との合意形成や環境への配慮がなされた「優良事例」と認められる場合、小規模な地熱開発に限り許可

    ◯環境アセスメントの期間

    ◯技術を後押しする経済的支援の不足
    FIT制度
    ・3年後の買取価格を「予約」できる
    ・リプレース事業をFIT対象に

    ・市減量調査、探査出資、アセス迅速化、開発債務保証、及び理解促進事業等の支援

    ◯資源探査:①広域調査段階、②概査段階、③精査段階
    →これまで10年程度を要する

    <技術的課題>
    1開発コストの低減:発電機器の高効率化、掘削ビットの能率・耐久性向上
    2開発リスクの低減:反射法の改良
    3自然環境との調和:エコロジカルランドスケープ
    4温泉バイナリー発電の導入拡大:スケール対策
    5地域との共生:簡易遠隔温泉モニタリング装置による継続モニタリング
    6既存発電所の利用向上:還元熱水高度利用技術によるスケール閉塞対策、冷水注入による地熱流体採取量の安定化
    7環境アセスメントの短縮化:数値シミュレーションモデルによる硫化水素を含む地熱流体の拡散予測の風洞実験の代替(評価期間と費用を半減)
    8地熱発電量の飛躍的拡大:東北地方深さ4-5kmの古カルデラの500℃程度の超臨界状態を活用した1GW規模の地熱発電開発

    <社会的課題>
    ・温泉権
    ・火山ガスと誘発地震

    ◯温泉事業者アンケートでは、地熱開発反対は2割。どちらとも言えないが半数

    ◯紛争発生の4要因
    1判断材料不足:情報の非対称性、不確実性
    2コミュニケーションの失敗
    3重大なリスクイメージ
    4メリットの欠如・不確実性

    ◯グリーンジレンマを乗り越えるリスクコミュニケーション

    ◯協議会への自治体の積極的関与が要点

    ◯地域の共有資源(ローカル・コモンズ)の発想

    ◯政策形成への科学的知見の活用:共同事実確認

    ◯海外の動向
    ・アイスランド:国家レベルのマスタープラン作成に基づく開発
    ・ニュージーランド:資源管理法に基づく広域自治体による地域資源管理

  • 具体的な事例、特に国内の地熱発電所の建設までの苦労や、その後の円滑な運営のためのヒントまでまだ記載されており、おもしろかった。
    今後地熱発電に関わる人たちにとってとても参考になる一冊だと思う。


    地熱発電が広がらない理由
     ・制度的理由:厳格な環境規制や高いリスクへのサポート
       1.1990年代に広がったが2000年代に縮小された。2011年の東日本大震災=原発の停止により、
        改めて緩和や補助が広がりされつつある
        地熱発電所の運開時期は、補助・サポートの拡大時期と重なっている。
       2.FIT拡充による売電価格サポート、掘削リスク対策としての融資や補助
     ・技術的理由:
       課題として認識されており、研究開発されている分野
       1開発コストとリスクの提言
        NEDOから東芝が委託され地熱複合サイクル発電システムの開発を実施。
        フラッシュバイナリー複合サイクルシステムを開発した。
       2自然環境との調和
        NEDOは2014年度から自然環境や景観に配慮したデザイン手法と設計支援ツールを開発
       3温泉バイナリー発電の導入拡大
        産総研2009年調べで、72万kW=720MWの資源量がある 
        NEDOでは2014~2016年度にスケール対策を施した高効率温泉バイナリー方式を開発した。
        温泉水のスケール除去後に、汽水分離器(セパレータ)に通して蒸気を抽出し、低沸点媒体を気化させる
       4地域(自治体、温泉観光業者など)との共生  
        NEDOは簡易温泉モニタリング装置を2016年度から開発した
       5既存発電所の利用向上
        NEDOは、還元熱水高度利用技術を2016年度から開発中。
        還元井の閉塞問題を解決し、追加的バイナリー発電で発電量を増大させ、
        コロイダイルシリカとして回収する。
       6環境アセスメントの短縮化
       7地熱発電量の飛躍的拡大
        超臨界地熱資源の開発(東北地方の深さ4~5kmに500度超臨界状態の水があり、
        1GW=1000MW規模の地熱発電ができる可能性がある
     ・社会的理由:
       ⇒この本の主題。

    国内導入ポテンシャル
     ・23.5GW=23,500MW
     ・2030年度までの目標=1,500MW
      ⇒まだまだ開発余力はある

    値段
     3万kWで建設費用:210~270億円と言われる⇒70~90万円/kW

    事例
     以下3件の温泉バイナリー方式をの事例が紹介されている
     地域住民や温泉関係者がいかにベクトルを合わせて組織(企業)を作り、
     足りないピースは外部に声をかけ(小売してくれる新電力、運営サポートしてくれるノウハウを持った企業)るかが大事だとわかった。

     小浜温泉バイナリー発電所
      源泉が105℃かつ15千トン/日。
      2011-13年度に神戸製鋼所のマイクロバイナリー72kW機x3台を使い、環境省事業で実証。
      半年もたたないうちに、発電の事業性が見込めなくなるほどスケールが溜まった。
      2014年度に大幅な改修工事を経て、温泉スケールを抑制した状態で事業化を実施。
      このとき、第一実業の機械に取り替えていると想定している(要確認)。
      発電所見学とまち歩きをセットにした小浜温泉ジオツアーなど、6次産業化のアイデアを検討中。
     土湯温泉バイナリー発電所
      源泉が139℃もある。福島県内の温泉地であり、原発事故による風評被害などもあり、観光客が激減(25万⇒15万人)。
      NPO法人土湯温泉街づくり協議会と湯遊つちゆ温泉協同組合により2,000万円の出資を受けて、元気アップ土湯を設立。
      Ormat社製440kW発電端出力で、2015年11月運開。稼働率は90%以上を維持。
      発電所の400m上流の沼から冷却水を調達。(上から落とすのでポンプも不要)
      冷却水の温度も21℃程度まで上がるため、温泉と混ぜてもう少し温度を上げて25℃にし、エビ養殖に利用。
      建設費用を、補助金(10%)やJOGMECの債務保証付きで確保できた。
      SPCとして元気アップ土湯の100%子会社でつちゆ温泉エナジーを設立して、発電事業を実施。
      市街地から離れているため、騒音やペンタン使用の支障がない。
      売電収入は約1億円/年を超える(メモ:40円/kWx400kWx24hx365dayx80%=112百万で1億円を達成)
      非常に円滑に建設・運営が行われている、稀有な例。
     わいた地熱発電所
      2MW出力のフラッシュ発電所。小売は新電力のエネット。
      合同会社わいた会が間にはいり、実運用は中央電力ふるさと熱電が実施。
        
      
    海外の状況
     フィリピン
      地熱発電設備容量は世界第2位の187万kW。国内発電量の13%を地熱が担う。
      すでにコスト競争力があるとみなされ補助がなくなったため、新規開発ペースが落ち込んでいる。
      地熱発電をおこなう企業(EDC等)が、社会に地熱発電が受容されるための多大な投資を行っているため、
      社会的に受け入れられている。例えば、社会人の職業訓練や伐採した森林の倍の植林など。
     インドネシア
      地熱発電設備容量は世界第3位の134万kW。国内発電量の13%を地熱が担う。
      大型で有望な地熱の開発は完了しており、新規開発は停滞気味。
      2016年度より、民間リスク低減のため調査井の掘削までを国が実施し、井戸を民間企業に競売する方式を開始。
      2017年度より、地域別FIT価格制度を導入した。
      そのため、案件開発が進むことが期待されている。

  • 武蔵野大学図書館OPACへ⇒ https://opac.musashino-u.ac.jp/detail?bbid=1000167515

  • 請求記号 501.6/Su 87

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著者プロフィール

京都女子大学現代社会学部教授

「2018年 『コミュニティと共生する地熱利用』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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