景観法と景観まちづくり

  • 学芸出版社 (2005年5月10日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (208ページ) / ISBN・EAN: 9784761531317

作品紹介・あらすじ

景観法の成立をうけて各地で景観まちづくりへの関心が高まっているが、景観法を実際の景観まちづくりに結びつけるには課題も多い。本書は、その課題を特に自治体の役割を中心に整理するとともに、課題解決の参考となる景観条例などの先行事例を都市景観、農村景観、町並み保全、市民との関わりなどのテーマごとに紹介する。

感想・レビュー・書評

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  • 景観法と景観まちづくり/社団法人日本建築学会編/学芸出版社

    東京大学 西村幸夫
    <景観法の特色>
    ・都市計画区域に限定されない。
    ・法律で全国レベルでの基準値やメニューを示すのではなく、各地方自治体が条例で示した基準値に根拠を与えている。
    <景観法の意義>
    ・景観法が整備されたことにより「景観規制はできるのか?」といったぎ疑心暗鬼の段階から「どこまで景観規制をおこなうのか?」といった実務の段階へと移った。
    ・合意形成のプロセスや地区の選定作業が必要であることはこれまでと変わっていないが、到達点のイメージが今までとは異なっている。都市計画の必須の配慮事項として景観の視点が挙げられることが「可能となった。」
    ・規制の中身はすべて条例に委ねており、法のもとでの条例を制定しなければ景観法の効力の多くはその地域に及ばない。
    ・景観法は、条例による規制の在り方の全体像を明確にするために「景観計画」の策定を行うように規定している。
    <景観法の到達点と課題>
    ?その効果は地方公共団体の努力にかかってるとはいえ、景観法は地方分権をいま一歩進めることにあずかって力があった。
    ?公法における仕組みが整えられてきたことから、事前予防的な計画規制を周到に課さない限り公法の不備を民事裁判によって司法的に救済を図るという道が険しくなっていくことが懸念される。
    ?形態意匠の規制がどの程度広範に行われるようになるか?
    ?従来、自主条例の下で先進的な自治体を中心に多種多様な試みが行われてきたこの分野に、標準型の規制枠組みが示されたことが及ぼす影響がどのように現れるか?
    ?景観計画や景観規制の分野で市町村と都道府県の関係を今後どのように構想するかという問題がある。
    ?依然として緩い都市計画規制一般との整合を今後どのように図っていくかという大問題がある。
    ・特別用途地区の種別化の自由化(1998年)、制限用途のメニューが最初から定められていない特定用途制限地域制度の導入(2000年)などに続いて、景観法では形態意匠を含む幅広い規制内容そのものを景観行政団体が独自に定めることとしている。地方の自主性が大幅に汲み取られた。
     ただし、景観法に関して言うならば、これは権限の地方移譲であるというよりも、当初から先行していた地方自治体の景観行政施策を中央政府がようやく国法によって公認したという性格のものである。
    ・先進的な自治体において総合的な景観施策が運用されてきたところでは、景観法の施行によって「委任条例」の部分と「自主条例」の部分とがあまりにも明確に色分けされすぎるとかえって一体的な運用を阻害することのないようにしなければならない。


    景観法成立を受けて自治体が工夫すべきこと
    東京工業大学 中井検裕/大阪大学 小浦久子

    1 景観計画制度
    (1)景観計画区域
    (2)景観形成基準
    景観形成基準は、法律では「行為の制限に関する事項」として、「政令で定める基準に従い」、以下のうち必要なものを決めるとされている。
      ?建築物又は工作物の形態又は色彩その他の意匠(以下「形態意匠」)の制限
      ?建築物又は工作物の高さの最高限度又は最低限度
      ?壁面の位置の制限又は建築物の敷地面積の最低限度
      ?その他、条例で届出が必要とされた行為のそれぞれについて良好な景観の形成のための制限
    (ただし、条例で届出が必要とできる行為は、木竹の伐採・廃棄物の堆積など政令で種類が決めれている)
    (3)届出・勧告・変更命令
      <変更命令の範囲>
       変更命令の対象は、?の形態意匠のみである。?の高さに関しては、変更命令の対象外。これは、現行の都市計画・建築規制を維持したままで、言い換えれば現行の都市計画・建築規制には影響を及ぼさない範囲内で制定された。その歪みがもっとも顕著に表れているのがこの部分と言ってもよい。
       ?の形態意匠の制限を工夫することにより、間接的に建築物の高さや大きさをコントロールすることが可能とも思われる。(例:「階数」、「ファザード面の高さ」を制限)
      <建築確認と連動しない>
       建築確認の時期と届出・勧告・変更命令の時期が同時ではない。→国が明示すべき。
      <条例で独自の手続きを付加できる規定が設けられていない>
       景観条例では、景観協議の場として景観審議会や景観アドバイザー制度等をこのプロセスに関与させる仕組みを有しているところも少なくない。

    2 景観地区制度
      景観地区では、市町村が都市計画で以下を定めることができる。
      ?建築物の形態意匠の制限・・・・・・・・・・・必須(認定制度)・・・確認制度に接ぎ木(?)
      ?建築物の高さの最高限度又は最低限度・・・・・任意(建築確認対象事項)
      ?壁面の位置の制限・・・・・・・・・・・・・・任意(建築確認対象事項)
    ?建築物の敷地面積の最低限度・・・・・・・・・任意(建築確認対象事項)
      (例)
      神戸市:(地区計画)+(景観条例に基づく景観形成基準や景観協定)
      京都市:(美観地区の建築条例基準)+(自主条例基準)の一体的運用による承認制度
      ※都市計画で数値基準を決めて建築確認対象とする内容は必要最小限にとどめ、他方で景観条例によりファザード面の高さによる街並みや壁面を揃えるルール、建物壁面以外の要素も含めて通りの建ち並びを誘導するルールなどを決め、これらを組み合わせることにより、協議誘導の可能性を高める運用が工夫されている。
     ◇良好な景観の形成には、ゾーニング型の仕様規制では限界があり、従ってそれをカバーする目的で導入された「認定制度」については、多くの地域で求められているダイナミックな景観形成の誘導の観点からは、自治体が地域の実情に応じて認定項目を自由に設定できることが望ましかったと考える。

    3 景観協定
      必ずしも全員同意を前提としない景観協定が用意されているのは、?本来地区計画で規制したいところだが、そこまでの合意に至っていない、あるいは、当面は自主管理によりまちづくり中で地域景観像の共有化を図りたいので、いわば暫定的地区計画としての景観協定、?地区計画や建築協定では規定することのできない項目や、駐車や荷捌き、花の手入れ、ゴミの扱いなどソフトな生活の作法も含めて、いわば地区計画と相互補完する景観協定の二つの理由であることが多いことには留意しておく必要がある。

    4 景観法と地区計画
     ・景観計画≒地区計画(建築条例なし)
     ・景観地区≒地区計画+地区計画等形態意匠条例(景観法に定められた規定に基づき)
    ・・・市町村による認定行為が可能になる。
      ※地区計画である限り形態意匠の項目はかなり自由度が期待されるといっても、最終的には敷地単位の物的環境規定にとどまることになるため、緑を含めた敷地内空地の使い方、近隣環境への配慮など、管理やソフトに関わるルールの規定はできないので、まちづくり協定などの組み合わせの必要性は残る。
     <景観法による制度と地区計画>

    景観計画
    地区計画
    (条例なし)
    地区計画
    (条例あり)
    景観計画
    地区計画
    (建築条例・形態意匠条例あり)
    用途
    ×

    ○(確認)
    ×
    ○(確認)
    容積
    ×

    ○(確認)
    ×
    ○(確認)
    高さ


    ○(確認)
    ○(確認)
    ○(確認)
    壁面位置制限


    ○(確認)
    ○(確認)
    ○(確認)
    最低敷地面積


    ○(確認)
    ○(確認)
    ○(確認)
    形態意匠

    (変更命令可能)


    ○(確認)

    (認定)
     
    5 自治体が工夫すべきこと
     ・現に景観条例を有しているといないにかかわらず、まずは自主条例を中心に考えること。
     ・景観協議会の活用。
     ・景観計画や景観地区をフル装備で使うのではなく、必要に応じて「軽やか」に使うことが考えられる。
      例:景観重要建築物に指定されれば建築基準法の緩和や相続税評価の優遇措置が受けられるので保全のインセンティブとしては有効であろう。
     
    景観法が拓く自治体法政策の可能性
    上智大学 北村喜宣

    <条例制定権の関する議論>
    ・条例が制定できる旨が明示されていないと条例は制定できない(通説)のか?

    <景観法の目的>
    ・種々の手法を規定しいるにもかかわらず景観法の法システムだけでは同法の目的を実現することはできない可能性がある。このことは、景観法が制定された後においても、自治体の自主条例による取組がなお重要であることを意味する。

    <景観法に関する条例>
    ・景観法は万能ではない。その場合には、自主条例として残ることになる。景観法は、自治体の景観形成政策についての唯一の法制度ではない。景観法の制定の意義は、過大に認識されてはならないのである。



    景観条例と景観法の一体的活用に向けて
    駒沢大学 内海麻利

    <景観条例の展開の経緯>
    ・京都市市街地景観条例(1972年)1996年全部改正により美観地区、伝統的建築物群保存地区を内包。
    ・神戸市都市景観条例(1978年)を始めとした「都市景観創造」を目指す条例が与えた影響は大きく、都市景観を積極的に創造するため景観形成方針及び基本計画、審議会、市民団体の位置づけなどを規定内容として盛り込む条例が増えてきた。こうした規定内容は、美しさ等、都市の景観要素は多様な捉え方があり地域的多様性や総合的調和性への対応、景観への取組みに最良の幅が生じる等判断基準の不確定性を回避するために、その正統性を担保する必要性から定められたと考えられる。

  • 景観法を「景観」だけに使うのはもったいない。それが根底にある。

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著者プロフィール

日本建築学会福祉施設小委員会(主査:森 一彦) 執筆者:森 一彦(大阪市立大学)、三浦 研(大阪市立大学)、松原 茂樹(大阪大学)、加藤 悠介(豊田高専)、古賀 誉章(東京大学)、井上 由起子(日本社会事業大学専門職大学院)、山田 あすか(東京電機大学)、室崎 千重(福祉のまちづくり研究所)、絹川 麻理(福祉のまちづくり研究所)、藤田 大輔(岐阜高専)、松浦 正悟(大和ハウス)、松田 雄二(東京理科大学)、橘 弘志(実践女子大学)、厳 爽(宮城学院女子大学)、黒木 宏一(新潟工科大学)、佐伯 博章(地域総合設計)、倉斗 綾子(千葉工業大学)、古賀 政好、小林 陽、北後 明彦(神戸大学)

「2012年 『空き家・空きビルの福祉転用』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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