特別活動と人間形成-改訂新版

  • 学文社
3.00
  • (0)
  • (0)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 5
感想 : 1
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784762020865

作品紹介・あらすじ

学校の教育活動の一環として計画され、展開されている特別活動が、児童期や青年期の人間形成にどのような役割をもっているのか、またその役割を十分に果たすために児童・生徒の諸活動をどのように組織し、指導することが望ましいのか等の問題について、今日の教育研究の成果を踏まえて考察する。





【執筆者】山口 満、安井 一郎、高田 喜久司、宮崎 州弘、増田 実、福司山 和宏、矢澤 雅、吉田 武男、滝沢 利直、橋本 定男、中園 大三郎、佐藤 真、中井 孝章、山田 真紀

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 特別活動の理念が知りたくて手にとった。

    ーー
    「世界の国々で実施されている教科外活動の実態を紹介する。そしてそれらが実施される社会的・歴史的背景についても考えていきたい」(山口満「改訂新版特別活動と人間形成」, 2010)

    「世界の国々の学校で教科外活動が導入された社会的・歴史的契機についてみていきたい。教科外活動の源流は2つある。ひとつは変化する社会に対応した、新しい資質を子供たちに形成するために学校に導入されたという源流であり、これは主に『自治的活動・クラブ活動』導入の契機となっている。もうひとつは国民国家を形成するために必要な国民意識を涵養するための装置として、また学校教育制度を定着させるための啓蒙装置として導入されたという源流であり、これは主に『儀式・学校行事』導入の契機となっている。教科外活動に相当する活動は、社交や学生自治を目的として、古代ギリシアの学校や中世ヨーロッパの大学においても行われていた。これらの活動が教育的意義を持つものとして普及したのは19世紀以降であり、その契機となったのは次の3つの事柄であったといわれている(山口満「特別活動の歩み(1)その3つの源流」日本特別活動学会編『キーワードで拓く新しい特別活動』東洋館出版社, 2000, pp60-62)。

    第1に、ペスタロッチの教育思想の普及である。子どもの生活体験に根差した知識や問題解決能力を重視する彼の思想は、20世紀初頭に世界的に展開された新教委行く運動に大きな影響を与えた。その結果、伝統的な教科中心の学校教育に、作物の栽培・動物の飼育・紡績など、子どもの生活経験を豊かにするさまざまな活動が導入されるようになった。

    第2に、イギリスのパブリックスクールにおけるチームスポーツの導入である。19世紀後半に名門ラグビー校の校長に就任したアーノルドは、大英帝国の指導者として求められる社交性、手段的忠誠心、指導力といった諸資質を集団的なスポーツを通して形成しようとし、ラグビー・クリケット・ボートなどのスポーツをクラブ活動として奨励した。これが、エリート学校における教科外活動の源流になったといわれる。
    第3に、アメリカ合衆国のハイスクールにおける教科外活動の教育課程化である。20世紀初頭、アメリカ合衆国では民主主義社会の担い手となり、急激に変化する社会に適応していくことのできる資質を若者たちに身につけさせるために、演劇・討論・新聞・合唱・野球・テニスなどのさまざまな活動をクラブ活動として実施するようになった。1920年代になるとこれらの活動は時間割の一部に組み込まれるようになり、この履修により単位が出されるようになった。これは教科外活動の教育課程化である。その後、教科外活動を含みこんだ教育課程のあり方は世界の学校教育のひとつのモデルとなり、諸外国の学校教育のあり方に影響を及ぼしている。(山口満「改訂新版特別活動と人間形成」, 2010)

    したがって、「世界の学校には教科指導のみを行う学校から、多くの教科外活動を行う学校までさまざまなバリエーションがあり、さらにどのような内容の活動を行うのかという点にも多様性がみられる。そのため教科外活動の実施状況に注目して、世界の学校を類型化することができる。ひとつの試みとして、比較教育文化論の視点から世界の学校を紹介した二宮皓の類型がある(二宮晧『世界の学校』福村出版, 1995, pp3-5)。そこでは世界の学校を、①ヨーロッパ大陸の国々にみられるような教科指導中心の学校、②社会主義国のように生徒指導的ケアは学校外の教育組織で行う仕組みになっている学校、③イギリスやアメリカ合衆国のように教科外の教育活動を教育課程に組み込んでいる学校、の3つに分類している」(山口満「改訂新版特別活動と人間形成」, 2010)

    「二宮は、『ヨーロッパ型』に分類されたかつてのフランス・ドイツに、教科外の教育活動があまりない理由として、子どもの教育に対して知育以外の領域に公権力が介入することを好まない個人主義的な文化があり、子どもの成長にとって知育以外のケアが必要であると保護者が判断した時には、それらを提供してくれるさまざまな教育施設が準備されているためであると指摘している。」(山口満「改訂新版特別活動と人間形成」, 2010)

    「しかしながら、教科中心の学校教育の代表格であったフランスやドイツであっても、次項で述べるように、近年の社会変化の影響のもと、学校で行われる教育活動の構造に大きな変化がみられる」(山口満「改訂新版特別活動と人間形成」, 2010)
    「近年では、人々の移動が活発になり、異なる民族的・宗教的・言語的なバックグラウンドをもつ人びとが同じ社会に暮らすようになったため、多くの国々では、多様性を尊重しながらも、国家や社会を成立させるための基本的振る舞いを子どもたちに伝達する必要に迫られている。それは『市民性』という概念として学校教育のなかに導入され。教科や教科外の活動のなかに浸透している。近代国家成立という観点だけでなく、他民族状態における国家の維持という点も含めると、どの国の学校教育であっても、少なからずこの社会的役割を担っていると考えてよいだろう」(山口満「改訂新版特別活動と人間形成」, 2010)

    「以下では諸外国の教科外活動のうち、フランス・ドイツ・イギリス・アメリカの実践事例を紹介し」、IBのCAS活動の紹介につなげたい。「これらの国を取り上げるのは、以下の理由による」(山口満「改訂新版特別活動と人間形成」, 2010)

    「フランスとドイツについては、前節で述べた通り、近年、EU統合による移民の急増や失業率の上昇などの社会変化のなかで、暴力・怠学・薬物依存など、青少年に関するさまざまな社会問題を抱えるようになり、『知育偏重』の学校カリキュラムに変化がみられるからである」(山口満「改訂新版特別活動と人間形成」, 2010)また、イギリスでは、アメリカは

    「以下、これらの国で実際にどのような教科外活動が実施されているのかをみていきたい。教科外活動にはさまざまなタイプの活動が含まれるので、日本の学習指導要領(小学校)における分類を参考にして、①学級活動に類する活動、②児童会・生徒会活動などの自治的活動、③クラブ活動、④学校行事の4つの観点から整理する」(山口満「改訂新版特別活動と人間形成」, 2010)ことができるが、ここでは特に③クラブ活動に着目する。

    「フランスのコレージュ(中学校)では、スポーツ競技については、体育担当の教師がクラブ活動を担当することが多い。これは体育担当の教師の管轄が青少年スポーツ省から国民教育相に移管された際に、教師の勤務内容に週3時間のクラブ活動を含めることを法令で定めたためである。

    さらにコレージュには、「社会的活動のホワイエ」という活動がある。これは授業が始まる前、お昼休み、授業のない時間帯に開かれ、活動に参加したい生徒は、生徒指導主任専門員の承諾を得て参加することができる。この活動は、生徒指導主任専門員が学校スタッフや保護者の多雨s家を得ながら責任をもって指導・運営しているものであり、コーラスや楽器の演奏などの音楽的活動亜y、ダンスや演劇、手芸や美術、チェスなどに加えて、ビデオ鑑賞やトランプ遊びなどの娯楽的要素の高い活動もある」(山口満「改訂新版特別活動と人間形成」, 2010)

    ドイツでは、「プロジェクトデー・プロジェクトウィーク」がある。「これは予防教育的な活動(差別撤廃、葛藤解決、暴力予防、薬物中毒予防)や、健康安全・」多文化。環境・芸術などのテーマのもとで、生徒が集中的に活動を行うものである」(山口満「改訂新版特別活動と人間形成」, 2010)

    クラブ活動としては、「多様な活動が提供されている。クラブ活動が盛んになった背景として、2000年以降に主日学校が運営されるようになり、学校ソーシャルワーカーが活動を開始し、学校を統括する行政組織である学校局により、クラブ活動が指定された学校時間の枠内に位置づけられたことが指摘されている。クラブ活動が実施されているのは、生徒に想像力・芸術的能力・運動能力など多様な能力を伸ばす機会を与え、ぴあ手段とのかかわりのなかで社会性を育み、さらに学校生活を魅力的なものにするためである」(山口満「改訂新版特別活動と人間形成」, 2010)

    「教科外活動は、子どもたちの余暇の充実や学校生活の楽しみを超えて、重要な教育的価値のあるものとして存在感を増している。これまでみてきたように。脅威課外活動は学校とそれを取り巻く社会との接点で発達してきた活動であり、教科外活動の分析を通して、われわれは「その社会において学校はどのような役割を担うことが期待されているのか」という学校教育と社会との機能的関係を明らかにすることができる」(山口満「改訂新版特別活動と人間形成」, 2010)

全1件中 1 - 1件を表示

著者プロフィール

編著者:(やまぐち みつる)関西外国語大学。筑波大学名誉教授/びわこ成蹊スポーツ大学名誉教授。

「2019年 『特別活動と人間形成-改訂新版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

山口満の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×