科学の剣哲学の魔法: 対談 構造主義科学論から構造構成主義への継承

  • 北大路書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784762824937

作品紹介・あらすじ

池田は,ネオダーウィニズム乗り越えのため,構造主義生物学探求の中で「構造主義科学論」を生み出していった。15年間無視され続けられたその発想を継承し,西條は「構造構成主義」をうち立てていく。世代の架橋となる2人の対話を収録。メタ理論をどう発想しどうつくりあげてるのか。軽妙な語りの中にエッセンスが詰まる。

感想・レビュー・書評

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  • *****
    日本の関係学界の主流は当然,私の理論を無視したが,私は別に気にしなかった。私は学会を牛耳るつもりもなければ,エラくなるつもりもなかった。何よりもステキだったのは私の研究(理論構築)にはお金が全くかからなかったことだ。科研費などビタ一文もらえなくとも全く困らなかった。これを世間では無敵という。(p.iii)

    …異常っていうのと正常というのとはレベルが違うんだよね。形質というのは実はシステムが作るわけで,システムの中でさまざまな遺伝子が次から次へと連関していって最終的にある形なり構造なりをとったとき,どっかその中の一つでも異常になればそのシステムはうまくいかなくなるから,形がおかしくなるのは当然なわけだ。だから,そのときにその遺伝子だけが形をつくっているとはいえないわけよ。(pp.3-4)

     脳を調べるとわかることもあるんだけど,それはごく一部だよ。いまの段階だと,脳ってやつは,還元主義的な手法で調べるしかないわけで,どこの細胞を壊せば馬鹿になるとかそういう程度のことはわかるけれども。それじゃその脳を調べたところによって,どういう情報を与えればその脳が健全に発達するかなんてことは,そんなものは脳を調べたってわかりっこない。やってみなきゃわかりっこないんだから,教育するのが一番だ。いろんなレベルの教育をしてみて,どれが一番いいかってことを調べることはできる。それはいまのところ試行錯誤でやるしかない。脳を調べてもどんな教育をしたらいいかまではわからない。(pp.24-25)

     たとえば,[ゆとり教育といった文部科学省による一斉実施同様]大学で教養学部を廃止したときもそうでしょ。廃止するところと廃止しないところを並立させて,それで10年ぐらいやって,それでどっちがいいかってことをやれば,教養学部があるほうがいいとか,ないほうがいいとかわかるけれども,全部廃止しちゃっているでしょ。
    官僚は何かしなければ無能とよばれる。しかし失敗の責任はとりたくない。官僚の責任のがれなんだよ。全部同じことやるっていうのは。(p.26)


  • 「哲学系の本はありますか?」心理学の学会大会で北大路書房のYさんに尋ねてみました。
    「心理学の大会なので心理学の本しか持ってきてないと思うけどなあ…」と苦笑しながらも探していただき,紹介していただいたのが本書です。

    買ってしばらく放置していたのですが,改めて表紙を見て驚きました。著者の一人は池田清彦。ホンマでっか!?TVの左端に座っているおじさん(失礼!)です。池田先生は生物学者。まさか心理学系の本に登場するとは思いもしませんでした。

    「なぜ生物学の池田先生が?」と思っていたのですが,本書を読んで納得。構造構成主義の土台となった科学論,構造主義科学論の提唱者が池田先生だからでした。

    池田先生が提唱した構造主義科学論とは科学を「真理を追求する営為ではなく, 何らかの同一性により, 現象を説明する営為」と捉える考え方です。簡潔に言えば,科学は真実を追求しているのではなく,ある枠組みから現象を説明しているだけですよと考えるということです。

    これを発展させて,「現象学,存在論,認識論,記号学,構造論,科学論,といったそれぞれの領域の諸成果を人間科学の原理として有機的に統一したのが構造構成主義」です。簡潔に...言えないので,詳しくはwikipediaをご覧ください。それでもあえて簡潔に言えば,ある枠組みは目的=関心に応じて人間が作る(=構成)もので,現象そのものを大切にしましょうという考え方です。ちなみに,構造構成主義をベースにして書かれたのが『感染症は実在しない』(岩田健太郎)ですので,そちらを読んでみてもいいかもしれません(ブログも書きました)。

    この小難しい構造構成主義を提唱した人はもう一人の著者である発達心理学者の西條剛央です。すなわち,本書は構造構成主義という最新のメタ理論の提唱者=西條剛央と,その礎となった科学論の提唱者=池田清彦の対談本でした。

    対談本は読みやすくて面白くていいですね。重要なことがさらっと書いてあったり,専門書では書けないようなことがふわっと話されていたり。専門書を読み込むためのヒントが散りばめられています。

    本書を片手に「構造構成主義とは何か」や「構造主義科学論とは何か」を読む。すべてが出版された後だから出来る贅沢だなあと思いました。

    ところで,理論系の本は「〇〇とは何か」というタイトルが多い気がします。〇〇の正体を明かすのが理論だ,と考えられているのかな,だから「〇〇とは何か」というタイトルになるのかなとふと思いました。
     

  • すごい二人の対談。
    現実と理論を見るときの視座が
    上がる感じがする。内容は難しいが
    読みやすい。直感で読んでいるので
    自分も軸をもって読んで理解したい。

  • 「構造主義生物学」および「構造主義科学論」の提唱者である池田清彦と、池田の議論を継承して「構造構成主義」を立ち上げた西條剛央の対談を収録しています。

    ただ、お互いに非常に近い立場にあるためか、理論的な問題について意見を戦わせつつ問題を掘り下げていくような議論は見られません。著者たちの研究の方法や学問に対する心構えといった、比較的ソフトな話題が中心になっています。

  • 人間の本質は表せるけれど、複雑。

    ―目が一つの人とか、無脳の人とかは生まれる事があるがすぐに死んでしまうよね。こういう人たちは人間の本質から外れているのか、いないのか、難しいね。手がゲジゲジみたいに百本生えているような人は一瞬たりとも存在したことは無いわけだよ。それは人間の本質から外れているって言ったって大丈夫だよね。だけど、平均の標準偏差みたいなものを出して、「ここから下は異常です」って言う。それで、この人は人間の本質から外れていると言い出すと、それはとんでもないウソになる。

    ―現在これまでに生まれた全人類の6~12%程度生きている。ネオダーウィニズムの考えでいけば、突然変化や進化が起こらない方がおかしい。システムは突然変異と自然選択じゃ進化できない。

  • 認知心の時にこれと構造構成主義研究1と2をまとめて買っていったので
    北大路書房さんにはどんだけはまってるんだと思われただろうなー。
    はまってないですよ。飛び込んだんですよ。意図性はある。

    楽しそうに話しておられていいなぁと思いながら読んでました。
    私はきっと、まだまだで、がっかりさせる発言しかできないのだろうな
    とも思いつつ。アウトプットの場数が少ないせいか?
    これからどうにかなるレベルなのだろうか。勉強せねば。

    「シニフィアン・シニフィエ・同型性」って何だったっけ?ということに
    なりました。補足説明でますます訳が分からなく。
    そういえばソシュールを真面目に読んだことが無かった。
    どちらにしろ恣意性は私の研究の中でかなり重要度が高いので
    やっておいても無駄ではないし、むしろやらねばならないことなんだろう。

    研究をしてる人が皆こんな風に優しくて賢くて謙虚な人ばかりだったら
    どれだけ素晴らしいだろうと。
    それは多様性が無くなるからだめなのか。
    そもそもそんな世界には私が入る余地なんてない。


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著者プロフィール

池田清彦(いけだ・きよひこ) 1947年生まれ。生物学者。

「2020年 『ポストコロナ期を生きるきみたちへ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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