ニューロダイバーシティと発達障害 『天才はなぜ生まれるか』再考

  • 北大路書房 (2019年12月20日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (296ページ) / ISBN・EAN: 9784762830914

作品紹介・あらすじ

発達障害は人類本来のヴァリエーションである。歴史に大きな業績を残した偉人のエピソードをもとに,進化心理学・神経科学の知見をふまえ,様々な障害が強みに働いた過程を考察。障害のもつ特色を見出し均質化した現代人の生のあり方に「ふくらみ」を取り戻すことを試みる。好評書を全体的に見直し新たに三章分を加筆した。



【主な目次】



序章 人は皆、障害を持ったサルである

第1章 洞窟壁画の無名の画家たち

第2章 うわの空のエジソン

第3章 無筆の勝負師 坂田三吉

第4章 癇癪持ちのアインシュタイン

第5章 外国語のできないレオナルド

第6章 古典嫌いのアンデルセン

第7章 付き合いべたなベル

第8章 落ち着きのないディズニー

第9章 遊芸人としてのモーツァルト

第10章 発達障害はなぜ進化したか

感想・レビュー・書評

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  • 知識は大事

  • 以下、興味を引かれたエピソードの抜粋。

    他の障害に比べ発達障害の発生率が高いのは、大昔はその特異な能力が社会に必要とされていたからではないか、という意見になるほどと思いました。

    ラスコーの壁画は動物の絵は非常に繊細に描かれているが、人の絵は同じ人が描いたとは思えないほど稚拙になっていて、これは自閉症者に通じるところがあり、自閉症者が高層ビルやロボット、鉄道に興味を持つのも、その時代のトレンドである物に惹かれるから。

    エジソンが小学校を三ヶ月でやめされられたことを多くの伝記では母親が元教師だったからなどと現実とは違うことを書いてでも無理やり正当化している。
    この本のすべての事例で、学校教育が役に立っていないが、伝記としてはそれでは困るから多くはそのように美化されている。

    グラハムベルは人とコミュニケーションを取ることが苦手だったがろうあ者の女性に思いを伝えたい一心で発明に打ち込み、その第一弾として電話を発明した。
    電話はろうあ者には役に立たなかったが、社会で予想外の反響を巻き起こした。
    結局、思い通り結婚することは出来たが、妻との良好なコミュニケーションをとることはできなかった。
    要は、それまでコミュニケーションが取れなかったのは妻がろうあ者であることてはなく、ベルがアスペルガーで他人の気持ちを理解することが苦手だったから。
    離婚はしなかったが、ベルは死ぬまで孤独に生きた。
    非常に悲しいエピソードだった。

    今は発達障害者にとって生きにくい世の中。
    昔なら『異能の才』とされていたものがその能力を生かす場がなくなってきている。
    発達障害者は音や色彩に敏感な人が多いが、現代のの機械音や派手な看板などで埋め尽くされている街はかなりのストレスとなっているはず。

    モーツァルトのエピソード中に、『からすたろう』という絵本の話が出てくる。
    この絵本の先生のような人がもっと社会に増えればいいのにと思う。

  • 本書は著者が2003年に刊行した著書『天才はなぜ生まれるか』に加筆・修正したものである。だから副題で「再考」となっているわけだが,この経緯を知らないとどのあたりが再考なのか正直よくわからないであろう(その意味で,この経緯はあとがきではなくまえがきで述べた方が良かったと思われる)。

    というのも,著者の主張「発達障害ないし学習障害に由来する特徴こそが天才を生んだ」は,昨今においてはある程度広まっていると思われるためである。『天才はなぜ生まれるのか』が刊行された2000年頃の様子はわからないけれど,それから約20年経た今では,「障害」は「個性」(これについて賛否両論ある)と言われるほど,「障害」についての認識は広がり,研究内容も多様化していると考えられるからである。なので,単純に新しい本として本書を読んでしまうと,現状(2020年現在)に対する著者の認識がずれているような違和感を抱いてしまう。

    また,タイトルでは「発達障害」と銘打っているのに対し,まえがきの冒頭で,「この本は,広義の意味での学習障害を持って生きた人々の物語である。」(p.ⅰ)と記される。あれ?発達障害の話ではないのか,まあ,でも,広義の学習障害に発達障害を含めるのかな,と思って読み進めると,次のページ(p.ⅱ)で,「学習障害の範疇からは少し逸脱するが,例えば自閉症が良い例である。」と記される。え?自閉症って発達障害ではないの?それが学習障害の範疇から逸脱とするのであれば,タイトルには発達障害よりも学習障害の方が適しているのでは?と思わされる。ただ,本書の中では発達障害(自閉症)として紹介される事例も出てくるのだが。。。学習障害への本質的な対策を考えるにあたり,まず障害を細かに診断することが,絶対必要条件(p.267-268)と記している著者だからこそ,発達障害と学習障害との関係性(両者の位置づけ)を曖昧にせず,それらの関係性について簡単にでも良いので触れた方が良かったのではないかと思われる。

    タイトルに関しては,ニューロダイバーシティも少しミスリーディングであるように思う。ニューロダイバーシティとは脳神経系の多様性であり,この観点から発達障害/学習障害を紹介する本を寡聞にして知らなかったので大変興味を持った。しかし,脳神経系の話は散りばめられているものの多くはなく,認知心理学的な観点からの紹介といっても問題はなかったように思われる。特にモーツァルトはニューロダイバーシティの観点からみてどのあたりに「障害」を見いだせるのか,そもそも「障害」を持っていた人物として描いていいのか本書を読んだだけでは疑問を持った。

    さらに,「学習障害を持ったがために真にユニークな存在に障害者をするための支援というものを,私たちは考えなくてはならないのだ。」(p.272)と記される。この主張には賛同し,「障害」を持つ人を「できない」存在としてみるのではなく,「できる」存在として捉え,どのように発達していくかの環境を創造することが重要だと私も思う。しかし,著者の想定する支援には,発達環境の創造というよりも,「できない」点の補償が前提とされているように思う。おそらく発達環境の創造が難しいためにそうなってしまうのではないか。補償ではなく,「障害」を持つ人がどのように発達できるのかということを考えなければならないと思う。

    本書内容ではなく,出版社の意図についての疑問。あとがきによると,自閉症児は黄色を嫌う(p.276)とされている。研究結果の図も掲載されており(図a),その図に従えば,ピンクも好まれないことが読み取れる。しかし,本書のカバーは黄色とピンクが目立ち,カバーを外すと全面黄色である。発達障害/学習障害について記した本,それもダイバーシティ(多様性)について記した本が,発達障害に非フレンドリーな色遣いをしているのはなぜなのだろうか。少し悲しい気持ちになった。

    辛口のコメントになってしまいましたが,一応断っておくと,ある人の人生を読み解きながら,認知心理学,神経心理学への興味を喚起するという一般的専門書(専門書と一般書の中間くらいの内容)として本書はとても面白いです。小難しくなく,しかし,優しすぎず,ちょうど良い塩梅で読める心理入門書かなと思います。そのような本書を上記のような辛口の視点で見てしまうのは正直心痛いですが,一応心理学の専門家として書いておいた方が良いかなと判断しコメントしました。

    最後に,気づいた限りでの誤植と思しきものを以下に列挙します(p.○ーL☆,○頁☆行目という意味)。

    p.12-L6,L7:NT→ND(非定型)
    p.13-L14:1000→10000
    p.14-L10:1000→10000
    p.31-L3:視覚的→知的
    p.31-L6:知的→視覚的
    p.102,図4-1:↓の位置
    p.119-L8:ルーフ→ループ
    p.213-L6:ぃ→い
    p.227-L2:陣→人
    p.235の最後の段落:双方や後者とあるが,どこを指しているのか分からない

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著者プロフィール

1954年大阪生まれ。専門は、ヒトを含めた霊長類のコミュニケーションの研究。
1983年 大阪大学大学院人間科学研究科博士課程修了
現 在 京都大学霊長類研究所教授

[主著]
ケータイを持ったサル 中央公論新社 2003年
音楽を愛でるサル 中央公論新社 2014年
自閉症の世界(共訳) 講談社 2017年

「2019年 『ニューロダイバーシティと発達障害』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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