口紅のとき

  • 求龍堂 (2011年12月16日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (112ページ) / ISBN・EAN: 9784763011435

感想・レビュー・書評

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  • 一人の女性の一生を描いた物語。そばにはいつも口紅があった。
    静かで暗く、でも優しい言葉できれいな描写。うるっと涙が出てきた。
    私たちは知らぬ間に老いる。心は変わらないのに。悲観しなくて良い、素直に素敵に年を取ろうと思えた。…と思っている。

    母の化粧に不安に思う気持ちの描写に、昔のことがぼんやりと思い出された。
    私も母の化粧や鏡台、あの辺りの匂いが嫌いだった。なぜだろう…
    サンリオのいい匂いのする可愛いリップに嬉しく
    高校を卒業した春に本物のお化粧セットを買ってもらった時の弾んだ気持ち
    他人に紅筆で色を入れられた時の違和感と嫌悪感
    「どこで買ったの?どこの何番の口紅?」と唇の色を褒められた時の嬉しさと気恥ずかしさ…
    …ふふふ…口紅とグロスを重ね塗りして編み出した私だけの色なのよ…
    そんな色も年とともになぜか似合わなくなってくる
    そしてマスクの下、口紅すらしない昨今……
    今の私に合うのはきっと、肌の色に合ったスモークカラー
    マスク生活が終わったら、またわたし色で口角上げて街を歩こう。

    なんだ…私にも口紅の物語が、ある!

  • 一人の女性の口紅にまつわる物語を6歳から79歳まで順に追った連作短編集。
    いかにも企画物と言う感じで疑心暗鬼で読み進めたが、なかなか良かった。
    あとがきにも書いてあるように口紅って女性にとっては特別なものでもあるし、だれしも共感できる部分があると思う。

    特に最後の79歳の章が良かった。
    介護施設に入っている主人公が若い女の子に化粧をしてもらいながら回顧する記述にグッと来た。
    やはり角田さんだ、巧い。

    この章を呼んで思い出したのは米寿で亡くなった夫の祖母。
    長い闘病生活を経て42歳の若さで亡くなった義母の代わりに夫の兄弟たちを立派に育て上げた祖母。
    普通ならばのんびり余生を過ごす年齢でありながら難しい年頃の子どもたちを育てるのは並大抵の事ではなかっただろう。
    そんな祖母だが初めて出会ったときからとってもお洒落な人だった。もう70代半ばだったと思うが、外出の時は仕立てた洋服に帽子をかぶり必ずお化粧をする。もちろん口紅も。
    普段の姿とは違ってパッと華やかに、可愛らしくなった。
    それまで私の周りにここまでお洒落な人はいなかったから、ちょっとした衝撃だった。
    苦労を重ねても歳をとっても女を忘れずに紅を塗る。
    人生を彼女なりに楽しんでいたんだろう。

    それに引き換え、私の体たらく。
    最低限の化粧はするが口紅最後に塗ったのいつだったかな・・・。
    リップをするかグロスがせいぜい。
    紅筆どこいっちゃっただろう。
    祖母の事見習わなくちゃいけないな(笑)

    • まろんさん
      しがらみ活動をなんとか終えたまろんです。
      (「しがらみ活動」のネーミングセンスに笑いました。さすがvilureefさん!)

      おばあさま、お...
      しがらみ活動をなんとか終えたまろんです。
      (「しがらみ活動」のネーミングセンスに笑いました。さすがvilureefさん!)

      おばあさま、お洒落で素敵な方だったんですね。
      孫たちを育て上げながら、女性としての身だしなみや佇まいにも気を配れるなんて。

      私も、ピアノのレッスンをする日以外はお化粧もしないで過ごしているので
      たまに回覧板を持ってきた生徒に「!!!」という顔をさせてしまったりして。。。
      大いに反省して、おばあさまを見習わなくては(>_<)
      2013/05/16
    • だいさん
      口紅とは、女性にとって特別なものらしい。
      (男にとっては別な意味でアピール力がありますが)

      vilureefさんも時々口紅を塗って「...
      口紅とは、女性にとって特別なものらしい。
      (男にとっては別な意味でアピール力がありますが)

      vilureefさんも時々口紅を塗って「女であること」を楽しまないと!
      2013/05/16
  • 真っ赤な本の装丁が実に素敵です~。
    口紅を題材にした「6歳~12,18,21,38,47,65,79歳」の超短編集。
    さらりと読める1冊ですが、最初では、亡き母親を思い出してほろりとさせられたり、最後の79歳では、人生振り返りジーンとさせられた。
    口紅って、いつの年代も輝かせてくれる特別なものなんですよね!女性でいる限り、化粧しなくっても薄紅は、し続けたいなーって思いました。

  • 「だれにも教わらなくとも、なぜかきちんとぬることができた。」
    という言葉が印象的。
    そうだったかもしれない。たぶんそうだ。

    この本の中には6歳、12歳、18歳、29歳、38歳、47歳、65歳、79歳の私がいる。
    もう通り過ぎた時間とこれから会いに行く時間、もしかしたらたどり着けない時間もあるかもしれない。

    でもまぁいいか、と思う。
    こんな物語を持っている女性が1人でもいるならそれで十分だ。
    その誰かの物語を私は愛せる気がした。

    写真もとても素敵。

  • ・このくちべにをつけて恋はしないよ。このくちべにをつけて、新しく恋をしただれかに会いにいったりしないよ。(18歳)

    ・今から私と典洋がはじめるのは、とくべつなことじゃないんだ。真新しいくちべにのような、きらびやかなことを、私たちははじめるのではない。もっとさりげない、もっととんでもない、そう、この使い慣れたくちべにのようなことを、二人ではじめていく。(29歳)

    ・たしかに、くちべにをぬるときの母は、私の、私だけの母ではなかったんだろう。ひとりの女性に戻る、ささやかな瞬間だったのだろう。私の母は、そんな瞬間を決して手放さなかったのだ。(38歳)

    ・だれかのためにくちべにをぬれることは、なんてしあわせだったんだろう。(65歳)

    ・皺の一本一本に、しみのひとつひとつに、私の過去がある。私の過ごしてきた日々は、すべて私の顔のなかにある。その日々を、赤いくちべにが美しく光らせている。(79歳)

  • あれPresentsって確かこの人のだよね?それに似た感じ。年を重ねてまた違ってくる口紅。なんかいい。

  • 6歳の少女が79歳のおばあちゃんになるまでの人生において口紅にまつわる短編集。
    きっと誰もが体験したであろう子供の頃にお母さんのお化粧をしている様を見ていた時に感じた事や、口紅に対する興味、大人になる少し手前の頃に抱いた赤い口紅への憧れ、いくつになっても口紅を塗ることでしゃんとする女という自覚。
    人生の移ろいと口紅との関係性が短いお話の中でも至極納得出来る要素が凝縮しており、自分の口紅の思い出話を記憶の奥から引き出されるようでした。

  • 口紅をテーマに一人の女性の人生が書かれたもの。
    6歳、12歳、17歳、29歳…とその年齢での口紅の思い出が綴られている。

    母親が化粧をする姿を見て嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになるというのを読んで、自分の小さな頃のなんともいえない気持ちが思い出された。

    今慌ただしく過ごしている時間がとても大切で愛おしいものだと気付かされた作品。

  • 口紅を塗るという そのときめきを
    大切にしたいと思えた 、
    歳をとっても、女の子のままでいたい。

  • ひとの、くちべにと共に生きる一生を、女性の一生を。
    自分の今まで生きてきた人生とお母さんと、おばあちゃんに重ね合わせてみらいを見ることが出来て涙が最後に溢れてきた。みじかい話なのに。
    ひちぶんいちぶんが、じんわりとひろがる。

  • 一人の女性の6歳から79歳。物心つく頃から認知症予備軍のような状態になるまで、くちべには事あるごとにぬられてきた。
    女の子から大人の女性になり、パートナーの最期を看取り、老いていく女性。どの時期が彼女の人生のハイライトだったのかはわからない。わからないままでいい。全部が終わったあと、彼女自身が選びたければ選べばいいだけのこと。

    ---------------------------------------

    くちべにをしっかりとぬっている人が苦手だ。威圧されているような気分になってしまう。
    くちべにが歯についてしまっている人も苦手だ。指摘するのもわるいから何も言わないが、赤く染まった歯を目で追ってしまう。

    くちべには大人のアイテム。自分も大人になったはずだけど、まだくちべにの魅力に気づけていない。

  • こんなに本を愛しいと思ったことはありませんでした。手元に置いて読むたびに、女であることの悦びを感じさせてくれる本です。素晴らしい!

  • 短い文章だけど、書き留めておきたい言葉がたくさんあった。化粧をすること、もっと大事にしなきゃ。

  • 口紅の思い出かぁ。
    母親が口紅をつけている場面というよりも七五三のときに口紅をつけてもらってちょいといつもと違う雰囲気にワクワクしたことを1番に思い出す。
    彼氏にプレゼントされるなんて素敵♪
    人にプレゼントしたこともされたこともないなぁ。
    口紅のプレゼントってアリなのかぁ。

  • 「口紅」の威力というか、魔法を私はまだ知らないと思った。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「魔法を私はまだ」
      子どもの時に、お芝居(学芸会と言う奴です)で、口紅塗らされて、ゲっとなりましたが、
      大学の時、アルバイト先の女性で、唇を...
      「魔法を私はまだ」
      子どもの時に、お芝居(学芸会と言う奴です)で、口紅塗らされて、ゲっとなりましたが、
      大学の時、アルバイト先の女性で、唇を真っ赤にしている人が居たのですが、その時はゲっとは思わずに、、、ドキドキしました。

      でも何故か、ベッタリ口紅を塗っている人とは、お付き合いしたコトなく、本当の口紅の味?は知らないままです。。。
      魔法に掛かってみたいな、、、←コラコラ
      2012/07/09
  • 口紅の特別感はちょっと分かる。そういう意味では香水に似ているかもしれない。
    確かにアイシャドウやマニキュアとは少し違う。
    昔の口紅を使う描写があると、古くなった口紅の独特の嫌な香りは気にならないのだろうかと思った。
    著者自身も古い口紅を大切にされているようなので尚更。

  • 口紅をテーマに日常の中の些細なきらめきを切り取った掌編小説集。
    女の人を主人公として年齢順に短編を並べる連作は『presents』、『なくしたものたちの国』と似ている。
    本作は1編が10ページもない短さゆえか、特別印象深いものはなかったものの、どれもポッと心があたたかくなるようなお話だった。

    読み終えて、手鏡を取り出し自分も口紅を塗ってみた。
    確かに口紅を塗る時、マスカラやアイシャドウとは違う何か特別な事-神聖な儀式のような-をしているような気持ちになるのはどうしてだろう。

  • ジェンダーレスがささやかれる世の中だけど、歳によって口紅とともに想い出がある女性の人生って素敵だなと思った。
    自分の人生についても考えるきっかけになった。これからどう歳を取っていくのか、少し怖いし、考えたくない気持ちもある。
    今を大事にして、未来の私が少しでも後悔が少ないような生き方をしていきたい。

  • 6 12 18 21 38 47 65 71歳とそれぞれの年齢で口紅にまつわる掌編小説。
    リップとは言うけど”口紅”ってあまり言わないなぁ。
    口紅はやっぱり特別なものなんだね。
    コロナからこっち、マスク生活がすっかり日常になってまったく口紅はしなくなった。
    メンソレリップはするけどね。
    女の人が鏡に(三面鏡だと尚いい)口紅を丁寧に塗ってる姿っていいね。
    私も久々にゆっくり丁寧に口紅をひきたくなったよ。

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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