尖閣問題の核心: 日中関係はどうなる

著者 :
  • 花伝社
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  • Amazon.co.jp ・本 (324ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784763406569

作品紹介・あらすじ

紛争の火種となった外務省の記録抹消・改ざんを糺す!
尖閣紛争をどう解決するか

「棚上げ合意」は存在しなかったか?
日中相互不信の原点を探る
日米安保条約は尖閣諸島を守る保証となりうるか?

感想・レビュー・書評

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  • 尖閣問題を中国側の立場から書いた本。
    著者は、東洋経済の記者、アジア経済研究所研究員を経て、現在は横浜市立大学の名誉教授であり、中国の近現代史を専門に研究された方のようである。

    日本の政府や政治家は、尖閣問題については、「我が国固有の領土であることは、歴史的にも国際法上も明らかで、領有権の問題はそもそも存在しない」という発言を繰り返しているが、本書は、これを真っ向から否定するものである。

    尖閣の領有権に関する日本の立場は、1895年1月に無人島であり、清国の支配が及んでいないことを確認のうえ、国際法に基づき尖閣諸島を日本の領土に編入した、というものである。

    一方、中国は1895年4月に日清戦争の結果締結した不平等な馬関条約(下関条約)により、台湾全島および付属島嶼を割譲することを強いられ、釣魚島(尖閣諸島)は、台湾の付属島嶼として日本に割譲された、というもの。

    このほかにも、尖閣諸島を巡る日中の対立に関する中国側の主張は、下記のとおりである。
    ①釣魚島は、中国(明)が、14,15世紀から支配していた中国固有の領土であり、無主地ではない
    ②カイロ宣言で、中国に返還された台湾の付属島嶼に尖閣諸島も含まれる
    ③サンフランシスコ平和条約の締結で、日本は台湾および澎湖諸島の領有権を放棄したが、尖閣諸島は台湾および澎湖諸島に含まれる。また、アメリカが委任管理下に置いた南西諸島に尖閣諸島は含まれない。
    ④沖縄返還協定で、釣魚島などの島嶼を返還地域に組み込んだことは不法である。

    これらの対立点について、著者は中国側の主張を支持するのだが、このほかに著者が本書でいいたかったことは、日本の外務省が、日中国交回復時の記録を改ざんしたという点である。

    改ざんされたもののひとつは、1972年に行われた田中角栄と周恩来会談にて、両首脳が尖閣問題を棚上げすることに合意した事実。日本がこれを認めると、「尖閣諸島が日本固有の領土」とする日本の主張に矛盾が生じることになるという。

    ただ、本書によれば、棚上げを最初に提案したのは、周であり、田中はそれに同調しただけである。そうすると、中国が尖閣を固有の領土との主張と矛盾するのではないか。
    つまり、仮に改ざんが事実としても、改ざんされた箇所(棚上げ合意がなかったとすること)が、ことさらに日本にだけ不利になるものとは思えない。


    また、著者は、尖閣諸島を中国固有の領土だという中国側の意見に与する一方、日清戦争勃発前から日本人(古賀氏)が尖閣諸島に定住し、同島を開発していた事実などには一切触れていない。
    日本人が定住していたことと領有権の問題は別だという反論もあろうが、であるならばむしろ、日本人が定住していた事実を正面から取り上げたうえで、それを論破する新たな事実を提示すべきではなかったか。

    とはいえ、日本人による中国寄りの尖閣論は新鮮であったし、普段メディアなど語られないことも述べられており、現在の日本人の尖閣問題に対する認識に一石を投じるものとはいえる。

  • 共産党さえ支持している日本の立場(領土問題不存在)を否定する本。中国側の資料を分析した結果,日中国交正常化当時の尖閣諸島をめぐる資料が日本外務省によって改竄・廃棄されている疑いが強まったという。
    著者は中国研究者で,かなり舌鋒鋭い論客として知られるようだ。張戎『マオ』の書評を読んでから,根拠を挙げて俗説を否定していく著者は気になる存在だったのだが,この本をどう評価していいのかはまだわからない。

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著者プロフィール

1938年生。東京大学経済学部卒。東洋経済新報社記者、アジア経済研究所研究員、横浜市立大学教授を経て同大学名誉教授。朝河貫一博士顕彰協会代表理事、21世紀中国総研ディレクター。『朝河貫一とその時代』(2007年)、『日本の発見――朝河貫一と歴史学』、『尖閣問題の核心』、『敗戦・沖縄・天皇』、『南シナ海領土紛争と日本』(2016年)、『沖縄のナワを解く』(2017年)、『習近平の夢』(2017年)、『中国の夢』(2018年)、『コロナ後の世界は中国一強か』(2020年)など著書多数。

「2021年 『天皇制と日本史 朝河貫一から学ぶ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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