がんをつくる社会

  • 株式会社共同通信社
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784764104655

作品紹介・あらすじ

がんの原因はほぼわかっている。それなのになぜ、がんは増えつづけ、問題の根本的解決が先送りにされるのか。気鋭の科学史家が政界、産業界、医学界のタブーに挑む。

感想・レビュー・書評

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  • がんの理論は時と環境によって変わる。細胞環境か生活習慣や遺伝的なものなのか判断するのも困難である。
    がんは太古からある病気であり、腫瘍のあとは一億年以上前の恐竜の骨、五千年前のエジプトのミイラの組織にも見られる。病気を治療する人は紀元前1500年にがんの在ることを指摘した。

    20世紀のある時期までがんはだいたい女性の病気とされてきた。ル・コントはがんが男性よりも若い年齢の女性を襲うことに気付いたが、このこと自身なぜかという疑問を提示した。そしてこの差が女性の身体が「よりかよわい」ことと関係があるのではないかと考えた。リゴニ・ステルンは、子宮と乳房に特殊な動きがあるため、がんは「本質的に」女性に多いのだろうかと考えた。女性ホルモンそのものに発がん性があるという説もある。これは、いま避妊薬、食肉に添加する合成ホルモン、閉経やうつ病や心臓病の治療薬に含まれるホルモンの発がん性が恐れられる一つの理由である。20世紀のある時期まで子宮がんや乳がんといった、女性のがんは男性よりも診断しやすかったという説明も可能だ。

    1950年にオックスフォードで開かれたシンポジウムで、胃がんは工業国でよく見られるのに対し、ジャワやアフリカでは珍しいことが分かった。すい臓がんは豊かな国では稀だが、ウガンダには多かった。胃がんはアメリカンの女性よりもスウェーデンの男性にずっと多い、といった具合であった。こうした調査結果が意味するのは、人種的な説明はさておき、がんにかかる可能性の大小は人々のいる環境で決まるということだった。

    がんの原因と最善の治療法をめぐる見解が時とともに大きく変わった、がんの原因も時とともに大きく変わった、という二つの意味で歴史的な病気である。18世紀以前のヨーロッパでは病気は一般的に身体の体液のアンバランスの結果だと考えられてきた。16,17世紀に病気には特異的で物質的による、また局所的な原因があるのではないかという疑念がうまれはじめた。パラケルススはがんの原因を「砒素」にまで遡った。伝染するのではないかという説も生まれた。ジョージ・ベルは乳がんの原因は動脈の閉塞、突発的な重い風邪、循環を妨げる怒りや恐怖や不安、特に「女性のデリケートな身体」における「循環の衰え」であるとした。そのほか、酸の刺激作用、こぶや擦り傷といった外傷をあげるむきもあった。がんの物理的な原因を示す早期の例に、煙突のすすとタールが原因で生じる陰嚢がんがある。
    19世紀になると、がんの増加が不安を呼び始め、あれこれ原因探しがなされた。都市化、食事の欠陥、過食、運動不足の生活、豊かさ、気候の変化、身体の外傷、性的役割の倒錯などすべてが精査された。モラルの変化が時に非難され、生の禁制、性の乱脈、母乳保育反対、遺伝的な身体の欠陥が槍玉に挙げられた。心理学的な議論も横行し、ストレス、うつ病、考え事をして動かない状態のせいかと疑われた。

    がんに関する原因の研究史を追う限りでは、様々な議論がなされているものの、確実な原因として挙げられるものは少ないということが分かる。本授業においてはがんを防ぐための提言として、おもに生活習慣を整えること、バランスのとれた食事が提言されている、ということが語られていることを学んだ。しかし、一歩踏み込んで学問的な研究を垣間見てみると、現在の学説はあくまでもデータとして見られ、語られていることであり、現在においても膨大な研究が進められていることが分かる。
    これらの研究からのアプローチを通して、環境が要因であると見る分には環境を整えることを心がけていきたいものだ。

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