死刑でいいです --- 孤立が生んだ二つの殺人

制作 : 池谷孝司 
  • 共同通信社
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784764106048

作品紹介・あらすじ

反省はしないが、死刑にしてくれていい。開き直った犯罪者の事件が続く。秋葉原の無差別殺傷事件、茨城県土浦市の連続殺傷事件…。彼らは他人と自分の死を実感できていたのか。死刑にするだけでなく、なぜそうなったか、どうすれば防げるかを考えるべきではないか。そうでないとすぐ次の凶悪犯が生まれるだけだ。16歳で母親を殺害した男が再び犯した大阪の姉妹刺殺事件を追い、日本社会のひずみをえぐりだす渾身のルポルタージュ。

感想・レビュー・書評

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  • 16歳で実母を殺害し、少年院を出所後、再び2人の姉妹を殺害。
    死刑を希望し、25歳の若さで死刑になった山地悠紀夫死刑囚のルポ。
    驚くのは少年院に入所中アスペルガー症候群だと診断され、いくら未成年だからと言っても殺人を犯したのに3年で出所。
    さらには後のフォローが驚くほどない!!
    19歳で両親もなく、中卒の障害を持った前科者にどう生きて行けというのか。
    もっと行政のフォローがあれば、2つ目の事件は防げたのではないかと腹立たしい。
    「自分は生まれてくるべきではなかった」と言い、特に世間への怒りを露わにするわけでもなく死刑を望む。
    それならば何故自殺の道を選ばないのか。常人にはわからない思考回路。
    本当に単なる快楽殺人鬼だったってことなの?
    もちろん罪が許されることではないけれど、山地の幼少期は、貧困と母親との関わりが薄く、あまりにもかわいそうすぎるので一つ目の母殺害はなんというか起こるべくして起こったような感じもする。。。
    周りには多少理解者もおり、母親殺害の時は署名運動まで起きたというのに
    その後、誰も彼をフォローせず、2度目の事件を防げなかったことが残念。
    今現在の少年院、少年犯罪への対応はどうなっているんだろう。
    凶悪な少年犯罪を犯し、少年院を出所した人達は今どうしているのかと思うと。。。おそろしい。

  • 色々な識者へのインタビューもあり、客観的な視点から冷静に書かれています。
    一度目に母親を殺害してから、数年後姉妹を殺害するまでどんな事が有り、その2つの事件の間で何とか防ぐことが出来たのではないかという事が主眼です。
    彼も可哀想な人間だったという論調であれば読みたくありませんでしたが、同じような気質、先天的な精神疾患が有る人に対して、どういう事をしていればその後の犯罪抑止につながったのか?という事を追及している本なので興味深く読みました。
    ただ、どうしても、自分の家族が同様の目に有るのではないかと想像すると、怒りと処罰感情がむくむくと湧いてくるのを止められませんでした。
    犯人が死刑を望み実際に死刑になっているのですが、そうなると本当にこの姉妹の命というのはどんな意味が有ったんだろうかと思います。一気に娘を失った親だとしたら、何処に怒りを向ければいいのか皆目見当がつきません。

  • アスペルガーは空気を読まなきゃいけないというコミュニケーション上の風潮が生み出したKY排除の正当化理由だとおもう。

  • 「発達障害というハイリスクな子じゃなくても、中卒で、ムショ上がりで、親がいないと大変ですよ。」アスペルガー障害という生きづらさに加え一人の人間に幾重にも重なった孤独という名の壁の厚さと転落のスパイラルはものすごいねじれ方をしながら高スピードで加速度を付けて落下していく。眼の見えない人間の苦悩を体感するように「共感」できない障害を抱えた者の苦悩をわかろうとする困難さを考える。アスペルガーの特徴以外にも彼特有の貧困から来るねじれ、性格上傷つくことを恐れるプライドの高さも生きづらさに関連していたと思う。そもそも両親からも社会からも学校からも排除され共感されたこともないごみみたいな彼の短い人生を考えると、反省だの共感だの求めても困惑してしまうだろう。経験した人間にしかわからないこともある。彼の中の完全なる絶望の世界観を「アスペルガー」というどこにでもある普通の障害名だけで片付けるのも無理がある。貧困問題も含め、色んな社会的大人の事情で彼は生まれ育ち常にレールの外にいた。排除され孤立無援を生きる人間関係の取り方はかつて彼がそうされてきたように、人を寄せ付けない。もう傷つかないために。周囲の彼に対する本音は一貫して「深入りはゴメンだ」という距離の取り方だったんだろう。人間関係の取り方は彼がされてきたことを如実に再現する。彼の周辺のコメントは保身が見えるが、最後の彼の言葉にある通り、「生」そのものがあるべきではなかった。と思わせしめる独特の距離感を感じさせるものだ。

  • 本書によると、犯人はアスペルガーで、極貧で、母子家庭で、学力が低くて、いじめにあっていて、孤独であったそうだ。
    このような強烈な要素が何拍子もそろっていても、真っ当に生きている人の方が断然多いじゃないかと簡単に言い退ける人がいる。
    だが私はいつも思う。人は、その時、そうすることが一番いいと選択する力しか持ち得ないのだと。
    「死刑でいいです」という言葉は、あの時の彼がそれを最善と思って発したのだ。この世は絶望と苦渋に満ちた世界でしかなかったのだろう。

  • 2005年11月に起きた大阪姉妹殺害事件の犯人は、2000年7月に母親を殺害していました。
    犯人は、2009年7月に25歳で死刑が執行されました。

    本書は再犯防止という観点から、障害があるとされた者がどのように追い込まれて事件を起こしたのかを丁寧に取材されたルポルタージュです。

    犯人の「死刑でいい」という言葉がどこまで本心か分かりませんが、本心であるとすれば、そういう人間に対しては真の反省や、厳罰化による抑止効果は全く期待できず、社会はそういう人間が生まれ、犯行を起こすまでは何もできないということなのでしょうか。

    他人の特性を障害という枠にはめ、人としての可能性を狭めることは許されないと思いますが、結果的に孤立した人たちへのバックアップやコミュニティをNPO団体に頼らざるを得ない社会ではただ事件の発生を待つだけになると思いました。

  • この本の元になった連載記事は「疋田桂一郎賞」受賞。

    問題への接近の真摯な姿勢に好感。

    山地の露悪的態度は本心か演出か。広汎性発達障害か人格障害か診断が難しい。

    貧困、母親の器質、出院後の引受人の不在など幾重にも困難な状況があった。それぞれの問題に対応できていたら、広汎性発達障害であろうが、人格障害であろうがここまで悲惨なことにはならなかったかもしれない。

    しかし何よりも忘れてならないのは、突然、命を奪われる被害者を起点とする視点だろう。

  • 発達障害とはどういうものか凶悪犯罪と病気の因果関係を丁寧に取材してると思う。

  • 母殺し、姉妹殺しをした犯罪者の人生を語るとともに、何故そのような人間が生まれたのか、防げなかったのか、という因果関係を社会に求めた作品。タイトルからは、刺激的な内容が予想されるが、実際は社会システムの分析を専門家の話を挟むなどして説く、建設的な内容。

  • 丁寧に取材されていると思う。
    山地が母親を殺した気持ちとかが、成育歴、動機が絡まり合いどのような背景のもと殺害が生まれたのかがわかる。
    識者インタビューが間にあり、飽きさせない構成になっている。
    周りがどうにかしなければならないと思わせてくれる本。

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