ファウストとホムンクルス―ゲーテと近代の悪魔的速度

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制作 : Manfred Osten  石原 あえか 
  • 慶應義塾大学出版会 (2009年9月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (155ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784766416695

作品紹介

ゲーテ、不朽の名作『ファウスト』。その第2部に登場する人造人間ホムンクルスは、フラスコの中の人工生命体という「不完全」な形でこの世に産み落とされた。「完全」な人間になることを願って彷徨うホムンクルスの姿に、ゲーテは一体、どのような意味を込めたのか。近代自然科学の発展にともない、神や神学支配からの解放が徐々に進んでいくなかで、ゲーテは自然科学の発展を評価し、自らも貢献したが、一方で、彼は自然の悪用に対して強い危惧を抱いてもいた。本書では、ゲーテ畢生の大作『ファウスト』等、後期3作品を解読し、近代の「悪魔的速度」や、人間の理性に潜む野蛮さ、暴力性に鋭い眼差しを向けたゲーテの思想の真髄をあきらかにする。

ファウストとホムンクルス―ゲーテと近代の悪魔的速度の感想・レビュー・書評

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  • 「ファウスト」はゲーテの代表作であり、ユングやニーチェといった後生の知識人たちの人生に重要な示唆をもたらしたことでも知られている。本書はその「ファウスト」の中でも第二部に登場する人造人間、ホムンクルスに関する考察である。
     「ファウスト的人物」と言われて思い浮かぶ人物像は様々であろうが、共通するものは飽くなき探求心とその結果としての悲劇であろう。「ファウスト」第一部においてゲーテがメフィストに語らせている通り、「運命が彼(ファウスト)に自分では制御できず/つねに前へと駆り立てる精神を授けたのだが/あまりに性急な努力は地上の喜びを飛び越してしまう」のである。
     著者はこの「ファウスト的性質」を「悪魔的速度」と呼び、現代社会の抱える加速化とそれに伴う不安に関連づける。「悪魔的速度Velozieferish」とは速度と悪魔(ルシファー)からなる造語で、ゲーテ自身がプロイセンの法律家にあてた書簡に記しているものだそうだ。
     社会そのものが加速化、効率化することによってかえって人間の生活に余裕がなくなり不安が募るという矛盾を著者は「ファウスト」第二部に読み取り、その解決のヒントをホムンクルスに見いだしているのだが、私としては言葉を尽くすよりもミヒャエル・エンデの「モモ」を一読した方が良いのではないかと感じた。
     エンデはゲーテの強い影響を受けており、「はてしない物語」にも「ファウスト」の影響が見られるが、ここで言われている「悪魔的速度」を最も端的に表しているのが「モモ」の灰色の男たちである。彼らは人々に時間の節約をすすめ、効率化を促し、余った時間を「時間銀行」に貯蓄させるのだが、人々の心は少しも豊かにならず、むしろ荒んでゆく。彼らに対抗し、人々の心を救うのが孤児であるモモの役割である。
     孤児であり、好奇心旺盛だが無垢であるが故に人間のもつ性急さから自由であるというモモの人物設定はすなわち「ファウスト」におけるホムンクルスに他ならない。ホムンクルスが人類の進化の過程を「ゆっくり」「逆向きに」辿るのと同様、モモはカメのカシオペアと一緒にさかさま小路を後ろ向きに歩き、時間の花=真実に到達するのだ。
    エンデとゲーテのつながりをあらためて認識させてもらったという意味で、非常に有用な本だった。

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