ベンサム―功利主義入門

制作 : 川名 雄一郎  小畑 俊太郎 
  • 慶應義塾大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784766420036

作品紹介・あらすじ

現代のさまざまな分野に、実践・理論の両面で大きな影響を及ぼしているジェレミー・ベンサム(1748‐1832)。本書は、彼の厖大な草稿類を整理・校訂するベンサム・プロジェクトを牽引し、新著作集の編集主幹をつとめる、「世界一ベンサムを知る」著者による本格的な入門書である。苦痛と快楽が基礎づける原理(功利性の原理)による立法の科学を構想し、共同体の幸福=「最大多数の最大幸福」を目指したこの思想家の全貌を平易に解説し、従来触れられてこなかった宗教と性、拷問に関する理論に言及するなど、最新の研究成果をもとに彼の功利主義思想を体系的に論じる。詳細な読書案内とともに、ジョン・ロールズ『正義論』(1971)における功利主義批判以降のベンサム研究の動向を論じる訳者解説(小畑俊太郎執筆)を付した、新しい功利主義入門。

感想・レビュー・書評

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  • 教科書的で面白くはないけどわかりやすくまとまっている。ベンサムの思想だけでなく来歴や研究側の資料整理の仕方などにも触れていて幅が広い。同性愛や安楽死など現代的なテーマにも関連づけられてる,というか現代でも通用するような議論をしていたベンサムがすごい。

    (おもしろかったところ)
    ◆ベンサムによる「ある」と「あるべき」の区別は古典的に定式化している現代法実証主義理論の出現をもたらした。結局これが同性愛や自殺(安楽死)など伝統的に罰せられてきたような行為が法的に禁止されたり処罰されたりする対象になるべきでなかったという結論に結び付く。

    ◆18世紀の段階でベンサムは「権力の座にある人々が改革に反対するなどとは考えたこともなかった。彼らは何か良いものを取り入れるべく,何が良いものなのかを知りたがっているだけだと考えていた(ジョン・バウリング)」が,(監獄・救貧を問わず)パノプティコン計画が挫折すると,既存の権力者は邪悪な利益(シニスター・インタレスト)にもとづいた意思決定を行っていると考えるようになった。1820年代までには代議制民主主義の信奉者へと転身し,イギリスの伝統的な議会政治を批判して,アメリカ合衆国の政治体制を賛美するようになった。19世紀前半はちょうど市民革命の時代で,法典の再構築がさかんに行われていた時期だったので,ベンサムは功利性原理にもとづく法典体系の確立を目指して,西は南北アメリカから東はロシアまで働きかけた。ベンサムの名声は広く知れ渡り,ナポレオンにも称賛された。(具体的な現代への影響はp22~p23にまとめられている)

    ◆ベンサムの功利性原理に対する主な批判には次のようなものがある。①利己主義的すぎるあまり利他的な行動を説明していない。②還元主義的であり人間の多様な動機付けを説明できていない。例:ノージックの経験機械(快楽装置)。③快楽や苦痛は計算できない。特に個人内比較はともかく個人間比較はできない。④少数派の抑圧を正当化している(ロールズ)。

    ◆あらゆる行為について功利性原則を適応する「行為功利主義」に対し,一部の権利を基底的(神聖)なものとして絶対的なものとして扱う(修正主義的な)「規則功利主義」は事実上直観主義を導入していることになるため,論点先取りを犯してしまっていると筆者は主張している。

    ◆誤謬とは,ベンサムによれば誤った見解そのものではなく,誤った見解を信じ込ませる言説,あるいはすでに信じられている誤った見解によって行為を何らかの有害な方向へ仕向ける言説。たとえば現在との関連では「若い」と呼ばれるべきであった時代が「古いという呼び方によって威厳を与えられ」ることは俗信であるが,この理屈を用いて邪悪な利益を守ろうとすることは「祖先崇拝者の誤謬」にあたる。あるいは,「○○専務」とよばずに「上」「管理職」などと呼称して誤った決定に異を唱えさせないようにすることは「寓意的人物崇拝者の誤謬」となる。現代において最も多く用いられる誤謬のひとつは「人格罵倒の誤謬」である。

    ◆16歳のときに行った信仰箇条への宣誓を後悔していることからもわかるように,若いころからベンサムは宗教的信仰に対して深い懐疑を抱いていた。彼の唱えた功利性原理は,虚構的エンティティは現実的エンティティに翻案されなければならないという考え方に基礎付けされている。この延長で,ベンサムは私たちが物質的な生き物であって,想像上の非物質的世界に存在するものは何であれ,私たちではありえない(来世などない)という結論に至っている。また,ベンサムのイエス観は次のようなものであった。「イエスの目的は『現世的野心に基づく自らの計画』を進めることに他ならなかった。王位に就くために,彼は富者と貧者の両方の弟子たちを必要とした。前者は金銭を調達するために,後者は軍隊を構成するために必要であった。それゆえに,イエスはその日暮らしのあり方を説教したのである。すなわち,すべての人間の持ち物は無償で譲渡されなければならず,翌日のことを考えてはならなかった。富はその所有者から取り上げられ,貧者に与えられる。すなわち,彼自身の弟子たちと,そしてそうすることによってイエス自身に与えられることを意味していた」(p177)また,ベンサムによれば,イエスは「テーブルの快楽(食欲)」や「ベッドの快楽(性欲)」を否定してはおらず,男娼を弟子として引き連れていたことから,同性とのセックスを行っていた可能性が高い。

    ◆その他:①自然権≒人権の概念に対してベンサムは存在論的な反論を提起していた。同様の理由で不変の法とされるコモン・ローにも厳しい批判を述べていた。②功利性原理は快楽と苦痛を感じる能力にのみ判断の基準を置き,知性などその他の能力は問題としない。③ベンサムはマルサスやアダム=スミスの著書から学んでいた。

  • とても洒落っ気が利いているし、ベンサムの思想のラディカルさも伝わってくるとてもよい本だと思う。
    ベンサムは、ただ「古典」としてだけではなくて、現在の私たちにも届きうる批判をする、とても重要な思想家の一人だ。ヒュームに肩を並べるような。
    本書は、その思想の「新しさ」を認識する手助けになる。

    ただ、「入門」といいつつベンサム全集の編集問題まで語っているのは、ちょっと余計だよね、当事者の重要な証言であって、学術的に重要なことが書いてあるのは確かなんだけれども。それは、、後ろに回しても良かったかもしれない。

  • 功利主義の泰斗であるベンサムについて扱った本。ベンサムの考える功利主義や彼の人となりについて扱われており、ベンサムについて広く網羅されている。

    中々難しい本だったので、エッセンスの吸収が難しかった。もう少し腰を据えて読めば良かったかもしれない。

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