金融政策の「誤解」 ―― “壮大な実験"の成果と限界

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  • 慶應義塾大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784766423563

作品紹介・あらすじ

▼緩和一辺倒の政策手段から、いかに脱却するか

黒田東彦日銀総裁が遂行する「異次元緩和」政策は、目標に掲げたインフレ率2%の達成・維持と経済停滞からの脱却に至らないまま、「マイナス金利」という奥の手を導入した。この先の政策運営に暗雲が漂い始めているなか、日銀きっての論客と言われた筆者が、日銀を退職後、ついに沈黙を破って持論を開陳する注目の書!

日銀は何ができて、何ができないのか ――

感想・レビュー・書評

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  • 難しくて理解できませんでした

  • 金融緩和緩和とさんざん言われた結果どうなるのかみたいな命題に応えてくれる本かなぁと思って買ったもの。時間があれば、是非もう一度読んでみたい。

  • 元日本銀行理事・調査統計局長。日本有数のエコノミストで、統計分析から企業ヒアリング、マクロモデル、経済統計まで広く精通している著者の言は重い。特に、翁氏と揃って異次元緩和に警鐘を鳴らしている点は事態の深刻さを物語っている。

  • QQEの本質について:「実験的政策であり、それが成功するとすれば短期決戦のケースに限られる」
    リフレ派の理論は、経済学会の主流からは相手にされていない。それでもマネタリーベースを目標においた金融政策の実験を始めたのは、理屈はともかく、経験的に量的緩和が円安につながる可能性があり、市場に大きなショックを与えれば急激な円安もありうると踏んだから。
    出口戦略の問題性:日銀が超過準備金の付利引き上げによって金融引き締めが始まると、金融機関への利払いがかさんで年間数兆円単位の損失が日銀に生じる。この結果、長期に渡り日銀納付金を収められない可能性が生じる。この場合、赤字を出すとは思えないので、預金準備率を大幅に引き上げつつ、付利対象の超過準備を削減するというのが極めて自然な選択

  • ちょっと前に15人のエコノミスト・経済学者が語る「激論マイナス金利政策」という本を読んだが、その中で最もバランスがとれ説得力がありそうに思えた早川英男氏の著作を探して読んで見た。
    なるほど無理のないノーマルな主張に思える。普段読む日経新聞の最近のデータとも整合的な主張で「道半ば」などという言い訳など寄せ付けない説得力にあふれている。
    それにしても安倍政権に群がった「リフレ派」の経済学者のなんと犯罪的なことか。本書を読むまでもなく、現実を見ればリフレ派の主張が誤っていたことは明らかなのだが、皆沈黙するばかりである。彼らに学者としての矜持を求めるのは間違っているのだろうか。
    本書の分析はよく理解できたつもりなのだが、日本経済の先行きを考えると暗然とした気持ちを抱いた。どうも本書が懸念するシナリオが実現する可能性が一番たかそうだ。

    2017年4月読了。

  • 元日銀調査統計局長、理事による黒田日銀の金融政策の評価。
    著者はQQEは実験的政策であり短期決戦であった、と喝破し、いずれ持久戦に追い込まれると記している。本書の出版後に日銀が政策の枠組みを変えてきたのは、ご明察という他ない。
    日本の金融政策や経済政策については、精神論や期待という名の希望、底の浅い議論がとみに目立つが、本書は問題を直視しており、頭の整理ができる。300ページに満たない本だが読後感は充実していた。

  •  本書では、日本銀行が2013年より実施している量的・質的金融緩和政策(QQE)についての評価を述べている。
     著者の立場として、決してQQEに対して否定的というわけではなく(一部の日銀委員に対しては否定的)、日本全体を覆うデフレマインドの中では上手く機能しなかったことを指摘している。
     また、2016年より日銀が実施しているマイナス金利政策については、タイミングの悪さ(世界的な原油安)から本来であれば景気や物価にプラスの効果の政策があたかも円高・株安を招いたかの誤解を与えたと述べている。
     最後に、物価目標を達成した際について、同時に構造改革や財政健全化、増税の目処が立たなければ長期金利上昇に伴う巨額の損失により財政・金融危機に陥ると可能性があると指摘している。

  • 再読したい

  • 著者は元日銀統計局長。反リフレ派の立場を取りながらも、一定のインフレは継続的な金融政策のためにも必要とのスタンスを取る。本書では金融政策の基本的事項につき、時系列・QQEの結果検証・リフレ派の主張の検証から押さえた後、著者がデフレマインドの主犯と目する日本独特の雇用慣習に切り込んで行く。著者の金融政策についての立場は、「マネタリーベースの供給は必ずしもマネーストックの拡大に繋がらず、金融政策は名目金利の誘導に重きを置くべし」というもの。図らずも本書刊行後の9月の日銀金融政策決定会合にて、長短金利の誘導が今後の主眼となったことは興味深い。本書で言及のある「ワラス中立」を考慮に入れると、長期金利を動かすなどいう市場の裁定機能と明確に対立する政策が機能するのか少々疑問だが。

    最近、黒田総裁の情報発信が現状認識をストレートに示したものなのか、それとも「期待(本書によれば「誤解」)」の醸成を狙ったポリティカル・カーブボールであるのかが、分かりにくくなってきているように思う。タヌキの化かし合いではないが、市場に与える影響がこれまでのようにリニアではなくなってしまったのではないか。「バズーカ」のような外生的ショックの効果を、自ら薄めているような観がなくはない。

    本書の「QQEの結果、労働需給は改善したもののGDPに伸びが見られないという事実は、日本の潜在成長率が低下したことの証左に他ならない」という主張は単純が故に論駁し難く、成長をもって巨額の財政赤字の解消が可能と主張する一部のリフレ派にとって確かに不都合なものに違いない。しかし問題なのは、それが多くの一般国民にとっても受け入れ難いものだということだろう。本書で何度も言及される通り、リフレ派の主張の多くは過度に楽観的であり半ば精神論と化している。しかし、それでも彼らが一定の支持を集めているのは、「増税や財政均衡なんてしなくても、このノーリスク(なのは出口の理論をしないだけだからなのだが。それにしても「シニョリッジがあるから大丈夫」的な発言をする物知り顔の輩のなんと多いことか!)の金融政策のおかげでそのうち日本は良くなりますよ」という彼らの主張が、多くの日本人にとって耳に心地よい福音であるからに他ならない。我々の多くは「肥料の負担はしたくないけど果実は得たい」と考えており、「そんなフリーランチはありません」と冷たい現実を突きつける言説には耳を塞ぐ傾向が強いのだ。

     そして何より問題なのは本書でも暗に示されている通り、リフレ派が「分かっててやってる」ところだろう。道理が通らないと自分たちでもわかっていることを敢えてやっているとしか思えない。恐らくはベネフィットよりリスクの方が大きいが、痛みを先送りにするにはこれしか方法がないからやっている、そしてそれを表立って認めるわけにはいかない、何故ならそれはすなわち「期待」の醸成に逆行してしまうから。最早不合理な方法にしか頼ることができない、ここに日本の抱える最も深い闇があると思う。

  • 【書誌情報】
    著者:早川 英男[はやかわ・ひでお] (1954-) エコノミスト。
    四六判/上製/304頁
    初版年月日:2016/07/25
    ISBN:978-4-7664-2356-3
    Cコード:C3033
    税込価格:2,700円

    ▼緩和一辺倒の政策手段から、いかに脱却するか
     黒田東彦日銀総裁が遂行する「異次元緩和」政策は、目標に掲げたインフレ率2%の達成・維持と経済停滞からの脱却に至らないまま、「マイナス金利」という奥の手を導入した。この先の政策運営に暗雲が漂い始めているなか、日銀きっての論客と言われた筆者が、日銀を退職後、ついに沈黙を破って持論を開陳する注目の書!
     日銀は何ができて、何ができないのか ――
    https://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766423563/


    【目次】
    目次 [iii-viii]

    序章 QQEの実験から見えてきたもの 001
    QQEは「短期決戦」だった/長期戦の戦局は悪化していった/マイナス金利導入:起死回生策も不発/QQEが明らかにしたこと、隠していること/柔軟で透明な政策運営を

    第1章 非伝統的金融政策:私論 015
    1 「普遍化」する非伝統的金融政策 015
    「全く次元のちがう金融緩和」の衝撃 /非伝統的金融政策の分類/非伝統的金融緩和の歴史:日銀、FRB、ECBのイノベーション/リーマン・ショックとFRB/欧州中央銀行(ECB)の苦悩/マイナス金利というイノベーション/「非伝統的金融政策=量的緩和」ではない
    2 QQEの実験的性格 028
    QQEの効果を理論的に考える/マネタリーベースの増量/信用緩和/長期金利の押し下げ/現実の金融市場はちがう?/意味深長なバーナンキ発言
    3 非伝統的金融政策の倫理的側面 040
    嘘をつくことは許されるか/国民負担の問題
    【コラム】 日銀の作戦:なぜQQEは「バズーカ」になったのか 048

    第2章 QQEの成果と誤算 057
    1 QQEがもたらした成果 057
      (1) 大幅な円安と株高 057
    野党党首だったから許された円安誘導発言/反転上昇の兆しがあった株価
      (2) デフレ脱却の実現 063
    「デフレ脱却」未達感の理由/デフレ脱却の条件はクリアできたか
    2 QQE(アベノミクス)の誤算 066
      (1) 「2年で2%」の未達成 066
    「インフレ目標2%」は妥当な水準/三つの留意点
      (2) 経済成長率の低迷 070
    「長期低迷の主因はデフレ」とは限らない/最大のサプライズは輸出の伸び悩み/公共投資と駆け込み需要による攪乱
      (3) 人手不足時代の到来 081
    うれしい誤算/賃金上昇の実態/労働集約型産業で人手不足が深刻化
    3 QQEが明らかにした課題:潜在成長率の低下 086
    上がらない生産性/エレクトロニクス産業の不振が生産性押し下げ要因か/需給ギャップの推計をめぐって/資本ストックの不稼働問題/デフレ脱却は潜在成長率低下のおかげ?
    4 ハロウィン緩和の「誤射」 099
    不可解な緩和決定/「誤射」の結末:トリクル・ダウン戦略の破綻/ハロウィン・バズーカはミッドウェー海戦だったのか
    【コラム】 人口動態、過剰貯蓄とデフレ:「長期停滞論」再考 106

    第3章 「リフレ派」の錯誤 119
    1 「リフレ派」的思考法:主観主義・楽観主義・決断主義 119
    「リフレ派」を定義する / 「リフレ派」の主張は整合的か / リフレ派の困った議論①:後出しジャンケン /リフレ派の困った議論②:精神論
    2 期待一本槍の政策論:主観主義の錯誤 127
    リフレ派の大本はマネタリズム/自然利子率の概念/テイラー・ルール/マネタリーベースを金融調節の軸に据えるのは的外れ/資産価格への影響を考える
    3 さまざまな「期待」:市場と企業・消費者の温度差 136
      円安・株高のはじまりは外国人投資家/金融市場と実物経済の非対称性
    4 成長余力の過大評価:楽観主義の錯誤 142
      「日本経済は強い」という主張の根拠はどこにある?/リフレ派の空想的楽観論
    5 「出口」なき大胆な金融緩和:決断主義の錯誤 147
    「出口」をいつまでも意識しないでよいのか/日本に潜む「出口」までの困難/ジリ貧かドカ貧か
    【コラム】 マクロ政策で潜在成長率の引き上げは可能か 153

    第4章 デフレ・マインドとの闘い 161
    1 「デフレ・マインド」とは何か 161
    企業や家計の消極的な行動様式/賃上げに及び腰の労働組合/「学習された悲観主義」という日本病/三度の金融危機が慎重化を促進
    2 「日本的雇用」とデフレ・マインド 170
    いまだ「世紀末の悪夢」から抜け出せず/メンバーシップ型雇用の呪縛/イノベーションの波に乗り遅れる日本企業
    3 物価の「アンカー」 177
      「錨」〔アンカー〕としての社会の基底に根づくもの/安倍政権の逆所得政策
    4 マネタリーベースの誤解 185
      マネタリーベースの意味が大きく変わった/通貨発行益を考える/ヘリコプター・マネー?
    5 QQEの行き詰まり 194
      市場も怪しい雲行きに気づき始めた/国債大量買入れの限界
    6 短期決戦から持久戦へ:マイナス金利の導入 199
      金利政策への回帰/政策の枠組み変更の意義
    7 マイナス金利政策の功罪 203
      マイナス金利政策の効果と副作用/マイナス幅拡大の制約/マイナス金利付きQQEの問題点
    【コラム】 キャリー・トレードとしての量的緩和 211

    第5章 「出口」をどう探るか 225
    1 「出口」の必須条件:財政の維持可能性への市場の信認 225
    出口で何が起こるのか/長期金利上昇と金融システムの安定性/欧州債務危機の教訓/「出口」の成否を決めるもの
    2 「成長頼み」の財政再建計画 234
    あまりに遠い財政健全化/債務残高・名目GDP比率について/税収弾性値をめぐる議論
    3 経済成長優先の幻想 243
    潜在成長率の低下がネックとなる/消費増税の影響評価
    4 財政健全化の柱は社会保障改革 249
    消費税率アップだけでは財政健全化は達成できない/社会保障改革の本丸は医療・介護分野/成長戦略の役割
    5 QQEは市場を殺す政策 255
    国債を国内貯蓄だけで吸収できなくなる日が近づいている/市場からの警告が聞こえない/マイナス金利政策への純化を
    6 市場とのコミュニケーションの再建を 261
    日銀の発信情報はもう信じられない/ピーターパンの誤解:「王様は裸だ!」
    【コラム】 金融抑圧は可能なのか 266

    あとがき(2016年5月 早川英男) [277-280]
    参考文献 [281-288]

  • 2016.10.01読了。

  • リフレ派の主張が正しければ、原油価格が上がろうが下がろうが、とっくにインフレ目標は達成されていたはずだ。
    個別の物価の動きとそれを集計したインフレを峻別して考えろというのが岩田や原田の主張であり(原油価格が下がればガソリン代を節約した需要が他の財やサービスに向かうことからわかる通り、個別の物価の動きとインフレは無関係と説明されていた)、現状の政策で2%の物価目標に到達していたはずだ。
    目標未達の原因を原油価格に転嫁する日銀の説明は卑怯だ。
    緒戦(真珠湾攻撃)で破竹の勢いを示した黒田日銀は、ハローウィン緩和(ミッドウエー)を経て、現状は勝つ展望の全くない長期戦(マイナス金利はインパ作戦か)に突入しつつある。個人的には、早晩、ポツダム宣言を受託することになると思う。
    本書の分析は客観的でおおむね妥当であると評価する。ただし、著者と私とで決定的に意見の異なる部分もあるので、★4とした。
    本書が初著作だそうなので、今後の執筆活動に期待したい。

  • 日銀の量的・質的金融緩和政策(QQE)は、果たして効果があったのか。本書では、QQEについて、直近の日本経済の動向を踏まえてその効果を検証し、今後の金融政策の向かうべき方向性について著者の意見を記している。なぜ著者はQQEを”壮大な実験”とするのか等の論点ももちろん興味深かったが、完全雇用はアベノミクスの成果なのかといった論点も非常に興味深かった。QQEについてだけでなく、現在の日本経済や財政が抱える問題点や向かうべき方向性についてなど、示唆に富んだ一冊だと思う。

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著者プロフィール

1954年生まれ
77年 東京大学経済学部卒業、日本銀行入行
83-85年 プリンストン大学大学院留学(MA取得)
2001年 日本銀行調査統計局長
07年 同行名古屋支店長
09年 日本銀行理事 を経て 
2013年 富士通総研経済研究所入所
現在 同研究所エグゼクティブ・フェロー

「2016年 『金融政策の「誤解」 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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