人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか

制作 : 玄田 有史 
  • 慶應義塾大学出版会
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レビュー : 16
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784766424072

作品紹介・あらすじ

“最大の謎”の解明に挑む!

働き手にとって最重要な関心事である所得アップが実現しないのは、なぜ?
22名の気鋭が、現代日本の労働市場の構造を、驚きと納得の視点から明らかに。

▼企業業績は回復し人手不足の状態なのに賃金が思ったほど上がらないのはなぜか? この問題に対して22名の気鋭の労働経済学者、エコノミストらが一堂に会し、多方面から議論する読み応え十分な経済学アンソロジー。
▼各章は論点を「労働需給」「行動」「制度」「規制」「正規雇用」「能力開発」「年齢」の七つの切り口のどれか(複数もあり)を中心に展開。読者はこの章が何を中心に論議しているのかが一目瞭然に理解できる、わかりやすい構成となっている。
▼編者の玄田教授はまず、本テーマがなぜいまの日本において重要か、という「問いの背景」を説明し、各章へと導く。最後に執筆者一同がどのような議論を展開したかを総括で解題する。
▼労働経済学のほか、経営学、社会学、マクロ経済、国際経済の専門家や、厚生労働省、総務省統計局、日銀のエコノミストなど多彩な顔ぶれによる多面的な解釈は、まさに現代日本の労働市場が置かれているさまを記録としてとどめる役割も果たしている。

感想・レビュー・書評

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  • 別記

  • 2000年代前半、「仕事のなかの曖昧な不安」で若年層の"こぼれ落ちる人々"研究の第一人者となった玄田さんが、この本のタイトルとなっている「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか?」という極めて太い問いを行って、その1問のみの答えを巡って21名の研究者や実務家がその回答を披露、批評するという極めてユニークで知的な書。

    この問いの回答は当然に複数あるし、多面的である。特に印象に残っている論考は、「給与の下方硬直性による上方硬直性」説、「(2000年以降で最も雇用を増やした)介護・医療分野での昇給規制」説、「団塊世代の再雇用および女性の就業率向上に伴う雇用弾力性の充実」説、「コーポレートガバナンス強化およびグローバル経済の不確実性の高まり対策」説などである。おそらくどれもが賃金の上がらない明確な理由であり、かつ複雑に絡み合っているのだろう。

    このうち、会社を経営していてもっとも身近に感じる説は、「給与の下方硬直性による上方硬直性」と「コーポレートガバナンス強化およびグローバル経済対策」なのではないだろうか。行動経済学の原理として、人は得る喜びよりも失う悲しみの方が大きく、強く感じる(損失回避特性)。また、通常、人は現在の給与水準に生活をアジャストさせているので、給与が上がるよりかは下がるほうが実生活へのインパクトが大きい。給与が下がると給与を上げた時のモチベーション上昇以上のダウンが生じる。他方、コーポレートガバナンスの強化に伴い経営者は、株主還元や短期利益確保に対する配慮が以前よりもせねばならい。またリーマンショック的な世界経済の影響を受けやすくなって、結果として、給与以外での出費(や貯蓄)を余儀なくされており、人件費が上昇することに対して抑圧的なバイアスがかかることになる。

    この本は、それぞれの研究者がそれぞれの角度や手法で1つの問いの答えを得ようとするので、「知の武道会」と見えなくもない。他方、導かれる答えは同じものだったりすることも多いので、総括編集の玄田さんが序文で書いているように「読者の関心の近い層から自由に読む」ことをオススメする。また実は骨太の問いは2問あり、「賃金を上げることが今後可能だとすれば、いかにして実現できるのか?」という2問目の問いについての解答があまり言及がなかったり、「当面は難しそうだ」、「***についてより議論の高まりが待たれる」的な結論で終わってしまっているものが散見されたように感じ、これは残念であった。唯一、「団塊世代の再雇用、女性の就業率向上」主犯説は、明確にそれらの雇用の吸収が終わった後に真の人手不足が生じて賃金上方がある、と言っていたが、マクロで賃金を上昇させるとはそれほど難しいということなのだろう。。

  • 本書のテーマは今やエコノミストや経済学者のみではなく国民的関心事ではないだろうか。本書の「原因は一つではない」との視点に納得する思いをもった。
    賃金を上げようとしない経団連の圧力は眼に見えるからわかりやすい。大手企業は内部留保をひたすら増やしながら賃金に回さないのだから財務大臣から「守銭奴」と言われても仕方がない。
    しかし原因が「制度」や「規制」などの社会システムの場合、変革することは一朝一夕には難しそう。
    本書の専門家による多角的な検証は、それぞれ胸にストンとおちると同時に「日本を賃金が上がる社会にする」ことの困難さも理解できた。
    また、本書の考察のように原因が複合的ならば一つや二つの対策では不十分だろうし、日本の縦割り行政の下では実効ある政策の実施は難しいのではないかとも思えた。
    本書を日本の現状を的確に分析した実にタイムリーな本であると高く評価したい。硬い経済書にもかかわらず一気に夢中で読んでしまった。

    2017年7月読了。

  • 賃金が上がらない理由を、複数の経済学者が書いた16の論文をまとめている。だが、いずれもこれだと言う内容もなく、一部を除き目新しさもない。
    理由は様々あると思うが、労組の組織力の低下に伴う労働分配率の低下が大きな要素だと思う。
    役員の報酬は上がり続けているのに、労働分配率は低下を続けているが、労組は経営参加と言われてその気になって(もしくはそのフリをして)、戦うことを恐れる組織になってしまった。その辺りをもっと問題提起する人が居ないのが残念。

  • 賃金が上がらない事に関して様々な視点からの記載があり示唆に富む。

  • 各章毎に著者や内容が異なるので、つまみ読みでわかる。
    難しい内容もあったが、各章は短いのでなんとかいけた。

  • 賃金の下方硬直性ゆえの上方硬直性とか、世代間格差とか、統計的誤謬の可能性とか、非常に示唆に富む内容だった。個人的には産業の新陳代謝を高め、生産性の低い産業から高い産業への労働力の移動があるべきだと思う。

  • 賃金が上がらない構造的な理由についての検証を行っている。
    非正規雇用の増加、労働生産性の低下、企業の人材投資の低下(労働分配率低下)。
    団塊ジュニア世代は就職氷河期で、賃金が他の世代に比べて低い。

  • 少子高齢化の進展による生産年齢人口の自然減少。それでいて一部の産業や職種を除いて幅広く妥当する給料の上げ止まり感。経済学の基本が教えるところの需給バランスが成り立たなくなっているように見えるのはなぜか。本書の表題は、好むと好まざるとに関わらず、社会人の誰しもが関心を抱かざるを得ない一大トピックを体現している。

    福祉・介護分野で働く人間にとっては、特に第1章、第3章、第13章が参考になると思われる。このうち第1章はまさにこの分野を念頭に表題の理由を探る内容となっており、介護労働市場が一般の労働市場における需給曲線の例外的ケースに陥っている可能性を指摘している。また、第3章におけるバス運転手の賃金プロファイルの推移については福祉・介護分野にとっても興味深い項目である。あくまで私見だが、両章を勘案すると、介護報酬の価格決定過程において賃金プロファイルがほとんど考慮されていないことが、この業界の昇給制度が十分に機能していない原因の一つになっているのかもしれない。いずれにしても、読者に対して多角的に考える材料を提供してくれる良書である。

    なお、本書は編著であり、幅広い読者層を想定している性格上、いずれの章も紙幅の制約がある。そのため各章の末尾に掲げられた参考文献をあわせて読むと、理解が一層深まるだろう。充実した内容の割に価格が良心的なのも魅力的である。

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