歴史は実験できるのか――自然実験が解き明かす人類史

制作 : ジャレド・ダイアモンド  Jared Diamond  ジェイムズ・A・ロビンソン  James A. Robinson 
  • 慶應義塾大学出版会
3.20
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感想 : 35
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784766425192

作品紹介・あらすじ

自然科学の実験室の実験(ラボ実験)のように、歴史学や経済学は実験を行うことができない。様々な要因が存在してそれをコントロールすることが不可能であるからだ。しかし、近年、計量・統計分析が洗練され、ラボ実験やフィールド実験が盛んに行われるようになってきた。さらにまったくコントロールされない現実の対象を分析するための自然実験も行われるようになってきた。
 本書は、歴史学、考古学、経済学、経済史、地理学、政治学など幅広い専門家たちが、それぞれのテーマでの比較史、自然実験で分析した論文を集めたものである。比較も2つの対象から81の島々の対象や233の地域を対象にしたものまで、地域は太平洋の島々からアメリカ、中米、ヨーロッパ、インドまで、また時代は過去から現在まで幅広く扱っている。

感想・レビュー・書評

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  • 自然科学の実験のように人類史を実験できるのか?実験したら何がわかるのか?ジャレド・ダイアモンド、アビジット・バナジー、ダロン・アセモグルらが野心的に比較考察し、統計データを取り込む理系的アプローチを軸にしながらパターン、法則性を見つけようとする「自然実験」をまとめた著作。

    特に面白かったのが第2章、第3章、第4章、第6章、第7章。
    第2章の「アメリカ西部はなぜ移民が増えたのか」は植民地の成長の三段階、すなわちブーム、バスト(恐慌)、移出救済、で進むという。
    第3章の「銀行制度はいかにして成立したか」はアメリカ、ブラジル、メキシコを比較しつつ、なぜアメリカは競争がうまく機能したかを官僚の権限と決定権の範囲、参政権などの要素から分析する。
    第4章の同じカリブ海に浮かぶイスパニョーラ島のドミニカ共和国(東側)とハイチ(西側)が、豊かな前者と貧しい後者で極端に別れた理由を分析する。そもそもハイチの方が豊かだったにかかわらず逆転した理由を、スペインとフランスの統治、アフリカからの奴隷の受け入れ、気候など自然環境の違い、後に現れた独裁者の振る舞いかどから考察する。
    第6章は「イギリスのインド統治はなにをもたらしたか」。地域ごとにばらつきがあった地税徴収制度の違いによって発展度合いが大きく違ったという。
    第7章は「フランス革命の拡大と自然実験」。ドイツ、というより旧プロイセンのフランス革命・ナポレオン戦争前後の封建制度の崩壊=農地改革と成文民法、ギルド廃止、ユダヤ人解放のそれぞれの軸で評価される。

    学者らの仮説をつくる大胆さと、統計学的アプローチで丁寧に論を検証する謙虚さが浮かび上がる。学者は殻に閉じこもるのではなく、開かれた世界で学問横断的な姿勢で研究にあたるべきなのだろう。この本で取り上げたテーマに対する批判についてもオープンであるのは印象深い。私は研究者ではないが
    こういう姿勢は本当に尊敬に値する。

    最後に、P126とP252の言葉は特に心に残ったのでここにも残しておく。
    「パターンが当てはまるかどうか評価する作業は歴史学者が得意とするところだが、歴史学者は自ら研究分野以外での疑問にも積極的に取り組まなければならない。ほかの分野の言語やテクニックを学び、比較研究の枠組みで考えることが肝心だ。」

    「歴史や社会に関する従来の研究よりも、自然実験が優れているのは、エピソードの決定要因を詳しく理解できる手段が与えられるからだ。本章では、このようなアイディアを具体的な状況に改める際には何が関わってくるかを紹介し、現実の社会現象を自然実験として採用するために、どんな嫌悪に取り組むべきかを詳述している。歴史は、実験にふさわしい出来事で満ち溢れている。これまでは、歴史学者が自然実験について考えたことがなかっただけだ。自然実験を系統的に行えば、歴史、社会、政治、経済などの分野で変化の長いプロセスを促した。重要な力について理解を深めることもできる。」

  • 歴史にIFを持ち込む、ジャレド・ダイアモンド編による一冊。異なる分野のスペシャリストが、それぞれの分野の「歴史」について考察する。

    「歴史にIFはない」という正しいのか間違っているのか、よくわからない(根拠が明確でない)「縛り」を取っ払い、仮定をして実験してみる、とだけ聞くと「本能寺の変がなかったらどうなっていたのか」といった感じで正直うさんくさい。ただこの本で繰り広げられていることは、あらん限りの数値を用いて、考えられる限りの変数を持ち込んでいて、なかなか説得力がある。

    たとえば「奴隷貿易はアフリカにどのような影響を残したのか」という章では、結果「XXという結果を残した」という結論だけを重視せず、その結論を得るまでの過程、プロセスをいかにして組み立てたのか、因果関係と相違関係をどのようにして見分けたのか、得られた結果をどのように理解するべきなのか、に多くのページが割かれている。

    同様の内容が「仮に」新聞に掲載されたとすると、『今も残る帝国主義の爪痕』といったタイトルに、奴隷貿易がもたらした結果だけが記事として添えられ、貧しいアフリカの農民の写真も載せられていることだろう。(それが「なんとなく正しいあり方」であると感じるのはあまりに素朴だと思う)

    そういった素朴さと無縁の世界が覗けてとてもよかった。

    https://twitter.com/prigt23/status/1018133148100542464

  • ジャレド・ダイアモンドやダン・アセモグルなど、世界の知性と呼ばれる方々が、社会科学の領域で、自然実験の検証を行うもの。ドミニカとハイチは同じ島の東西に位置しているのに、どうしてドミニカは裕福で配置は貧困国から抜け出せないのか。フランス革命とナポレオン戦争の結果、フランスが支配した地域は他の地域と比べ発展しているというのはなぜか、など、人為的に「実験」できない事象を丁寧に比較して分析する手法。世界をみるのにこんなやり方がるのかと新鮮な驚き。

  • ナラティブな手法がメインと思われる歴史学だが、統計分析を用いた量的な自然実験や比較研究法と呼ばれる手法もある。そういった手法を用いた8つの研究を紹介。
    ポリネシアの3つの社会の地理的条件に基づいた比較、アメリカ西部の移民増加の背景に物資や情報、マネーの移動や移民のイメージ向上があったこと、メキシコ、ブラジル、アメリカでの銀行制度の定着度の違いに民主的な政治制度の違いが関わっていること、イースター島の森林破壊は環境の影響要素が大きかったように、ハイチとドミニカ共和国の発展の違いに環境の要素もあったが、奴隷が多く人口密度が高く国民がクレオール語を話すハイチの不利、奴隷貿易がアフリカの発展に与えた影響、イギリスのインド統治において地税徴収制度が与えた影響、フランス革命がドイツに拡大したことがどのように影響を与えたか、制度が経済発展に与えた影響、そういった研究。

  • http://naokis.doorblog.jp/archives/Polynesia_and_Frontier.html【書評】『歴史は実験できるのか』ポリネシアとアメリカ西部開拓 : なおきのブログ

    <目次>
    プロローグ
    第1章 ポリネシアの島々を文化実験する パトリック・V・カーチ
    第2章 アメリカ西部はなぜ移民が増えたのか
     ――19世紀植民地の成長の三段階 ジェイムズ・ベリッチ
    第3章 銀行制度はいかにして成立したか
     ――アメリカ・ブラジル・メキシコからのエビデンス スティーブン・ヘイバー
    第4章 ひとつの島はなぜ豊かな国と貧しい国にわかれたか
     ――島の中と島と島の間の比較 ジャレド・ダイアモンド
    第5章 奴隷貿易はアフリカにどのような影響を与えたか ネイサン・ナン
    第6章 イギリスのインド統治はなにを残したか
     ――制度を比較分析する アビジット・バナジー+ラクシュミ・アイヤー
    第7章 フランス革命の拡大と自然実験
     ――アンシャンレジームから資本主義へ
     ダロン・アセモグル+ダビデ・カントーニ+
     サイモン・ジョンソン+ジェイムズ・A・ロビンソン
    あとがき 人類史における比較研究法
     ジャレド・ダイアモンド+ジェイムズ・A・ロビンソン
    原注

    2018.06.10 偶然見つける。ダイアモンドの新刊。
    2018.06.16 予約 17人待ち
    2018.08.21 読書開始
    2018.08.27 読了

  • 歴史学という学問は一般的にナラティブで定性的な叙述の積み重ねによるものだと理解されている節があるが、本書では自然実験という統計学のアプローチを用いた歴史学の世界のパースペクティブを極めて明快に提示してくれる。

    自然科学において何かしらの因果関係を証明しようとする際には、原因にあたる因子を盛り込んだ実験群と、その因子以外の条件を全て同一にした対照群とで、比較実験を行うアプローチが一般的である。一方、社会科学たる歴史学においては、当然そのような純粋培養された研究室で測定できるような実験は不可能である。

    そうした社会科学において取り得る統計的アプローチが自然実験というもので、これは自然環境などの先天的条件や制度・規制・統治方法等の後天的条件などの組み合わせにより疑似的に複数の実験群と対照群を分析する方法論である。

    本書では以下のような8つのケーススタディが示される。
    ・アフリカの奴隷貿易は、その後から現在に連なるアフリカの経済所得の低さと関係しているのか
    ・太平洋諸島で森林破壊が発生する要因は何か
    ・アメリカ、メキシコ、ブラジルの銀行制度の設立に影響した因子は何か

    本書の面白さは、自然実験というアプローチを、対象が広範囲かつ時間軸も長い歴史学の中でどのように導入することができるかを読むだけでも面白いケーススタディを通じて学べる点にある。これらを通じて、自然実験という統計的手法について同時に理解することができ、歴史学に興味のない人にこそ読んでほしい一冊。

  • 比較研究法で、歴史を分析する。論文のような本なので、一般人よりも研究者向けかもしれない。私は研究者ではないので、内容が難しすぎてついていけなかった。まあでも、比較◯◯学といった分野はこのような研究をしているのだろうか。人々の営みを歴史的出来事や地政学的なこと、人の心理も含めて、統計的に分析するのは、よく分からないが、人類の未来をよくするためには重要な学問のように思えた。社会学を学ぼうとしている学生には、入門書として良いのではないだろうか。本書をきっかけに、さらに深く学べばいいような気がする。

  • 気候が異なるポリネシア諸島、ハイチとドミニカ、アフリカの奴隷による人口流出の状況などによって、同じ条件のもとどう変わっていくかを見ていった。ポリネシアでは争いが大きくなっていった(イースター島)。アフリカでは奴隷は豊かな国でより取られ(貿易が盛んだったので)それによりその地域は没落していった。ハイチとドミニカは、連行されてきた奴隷の構成(ドミニカの方が多様性がなくコミュニケーションが取れていた)、独立時のリーダーの国土に対するアプローチにより大きくその後の繁栄度合いが変わった。

  • 「統計でそんなことがわかるのか」という面白さがあった。統計に使う要素を見つけてくるところは「さすが専門家」と、うならずにはいられなかった。本当に、よくそれを比較しようと思ったなあ、と。

    それでも、「とりあえず統計でいろいろ調べてみよう」という取り組みでも、面白い結果が出たりするのではないか。

  • 著者の前著と重複してる内容が多い。

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著者プロフィール

1937年生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校。専門は進化生物学、生理学、生物地理学。1961年にケンブリッジ大学でPh.D.取得。著書に『銃・病原菌・鉄:一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』でピュリッツァー賞。『文明崩壊:滅亡と存続の命運をわけるもの』(以上、草思社)など著書多数。

「2018年 『歴史は実験できるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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