2014年の夏に、写真を趣味にしようとしてから、けっこうフォトエッセイなど写真家が綴った文章は読んでみた。
田中長徳氏がなかなかの筆達者で多くの著作をものしているので数は一番読んだかな。写真好きなオヤジの薀蓄やこだわりを飲み屋で聞いてるような肩ひじ張らないトークが楽しい。藤田一咲という人の本、「~の時間」というシリーズものが出ているが、まとまりがなく印象は薄い。静物を撮った写真が綺麗だと思ったけど。佐々木悟郎という絵描きさんの「ライカ百景」という1冊は良かったなぁ。ライカで撮った作品が添えられているが、日本で撮ったとは思えない、異国情緒というか無国籍感が漂っていて味わいがある(真似したい)。文章も氏が描く水彩画のように透明感があってオシャレでいい。ただ、ふらっと立ち寄った店で、ライカのレンズやオールドカメラを衝動買いするエピソードが多く(恐らく高価なものだろう)、そのあたりが売れっ子絵描きの一般人とは違う金銭感覚なのかと羨ましくもあり。森山大道や植田正治、あとは海外の偉人達の書物も少し。 ブレッソン、ドアノーなどフランス人の文章はどうにも観念的で好きになれない。言語がそういう構成にならざるを得ないのかな。彼らの作品は作者の文章とは別のところで楽しめれば良いかなというのが正直な感想(いまのところ)。
そんな中、かなり後回しにしていたハービー山口氏の本書。なんと、これが一番、心に残る良い著作だった。
カメラ雑誌にはよく登場してるので前から名前は知ってたが、名前の印象、ミュージシャン(福山雅治、GLAYなど)のステージ撮影をしてるというから、芸能界ズレしたチャラチャラしたおっさんなのかと思って読むのを後回しにしてた一人。ところが本書、いろいろいいこと言ってて、若者に対するメッセージも温かく、随所でジーンときたフォトエッセイだった。
まずは電子書籍で1冊目を読んだ(3月頃)。今回、帰国してから本屋で2冊目が出ているのを発見して、も一度1冊目から2冊目と通しで読んでみた。
1冊目を読んだ時の感想は、「この本を読んで撮る写真が変わるかも」というのと、「息子にプレゼントしたい」という大きく2つだった。
写真については、よりいっそう人を撮るようになった。読後すぐに訪問したグルジアでの写真は、被写体とも向き合って会話を交わし笑顔を撮らせてもらう等、まさにハービー山口流の撮り方を実践。想い出深い写真が撮れたと自負している。
一方、「息子にプレゼント」と思ったのは、20代で渡英し写真家を志し、異国の地で苦労しながらも人との繋がりでその後の人生を切り拓いていったエピソードが非常に良くて、若者に世界に出ようという気を起させ、人と人との繋がり、人間関係を構築していくことの大切さ、その為の人柄、人間性を磨く努力をさりげなく説いている。中学、高校くらいの読者に読ませると丁度いいと思える一冊と思ったもの。
そして2015年10月。久しぶりに再会した息子は18の誕生日を迎えていた。僅かに父親の身長を追い越し、高校3年の秋ながら大学の推薦も勝ち取って意気揚揚だという。そんな息子に、これを読んでみろと贈った。幸い、写真も趣味だというので一石二鳥だ。彼がどこがいいと思ったか、あるいは、つまらない本と思うか、その感想を聞くのが楽しみだ。
とにかく、人への愛情と前向きな気持ちと、外の世界への探究心をこの1冊から学んでくれたらと思う。
ハービー氏が知人のカメラマン(ジョセフ・クーデルカ)と語った、この部分が全てを凝縮していて特に好きなところだ。
”ジョセフがある話しの途中に名言を言った。「写真とは、、!ネガをポジにする!!」
僕は「おーっ」という歓声を上げた。”