「僕のお父さんは東電の社員です」

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784768456712

感想・レビュー・書評

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  • 真山仁さん著作「そして、星の輝く夜が来る」の参考文献に載っていてメモしていたもの。

    毎日小学生新聞の2011.3.27に掲載された「東電は人々のことを考えているか」という経済ジャーナリストのコラムに対し、父親が東電社員のゆうだい君が反論の手紙を書き送った。それが紙面に掲載され、さらにそれを読んだ全国の子供たち・大人たちから意見が届き、それらをまとめたのがこの本。
    小学生の誤字や文章の構成などもそのまま掲載されていて、リアルな子どもの考えが伝わってくるようだった。

    後半の、著者による「僕たちのあやまちを知ったあなたたちへのお願い」という部分がとても分かりやすく、勉強になり考えさせられた。「同調圧力」についての話や、組織とそこで働く個の人間は同一でないという話がとても興味深かった。またこのような事故を目の当たりにしながらも、今まできちんと原発問題について考えたことのなかった自分も、未来の人々に対してごめんなさいという気持ちになった。過去の原子力事故などについても調べてみたい。

    図書館では児童書の棚にあったけど、いろんな世代の人に読んで考えて欲しい本だなー。

  • 震災の半月後、福島第一原発事故に関して、東京電力を非難する声が高かった。そんな中、毎日小学生新聞のニュース解説もまた、東電の責任を問う主旨の論説を掲載した。それに対して、東電社員を父に持つ小学生が一通の手紙を寄せた。

    「突然ですが、僕のお父さんは東電の社員です」で始まるその手紙は、大きな反響を呼び、多くの返答が寄せられた。
    本書は、東電社員の息子「ゆうだい」君の手紙と、そもそもの発端となった解説、さまざまな年代の人々からの「ゆうだい」君への返事、映画監督・森達也による総括、編集部のあとがきをまとめたものである。
    子ども達にも、いや、子ども達にこそ読んで欲しいということだろう。全編にふりがながふられている。

    「ゆうだい」君の手紙は、東電を非難するだけでよいのか、原発を造ったのは東電だが、電気を必要とした「みんな」にも責任があるのではないか、と問うている。お父さんが東電社員でなければ書かれなかった手紙ではあるのだろうが、「東電が悪い」というばかりの世間に対する「義憤」に近いものが感じられる。

    それに対する返答はさまざまである。小学生新聞だけに、小学生の返信が一番多いが、大人の返答もまたある。
    真摯な返答が多く寄せられているのは、「ゆうだい」君の真摯さに誘発されてのことだろう。

    小学4年生のものは、おそらく学校の授業の中で取り上げられたのではないかと思われる。ひまわりや菜の花を植えたらよいという提案が多く出ていて、似通った意見も多かった。資料として先生が用意した中にあったのかな、あるいは友達の発表を聞いて、皆、これがよいと思ったのかな、と思わせる。
    電気の使い道として、まず出てくるのがゲームやテレビという子が多かったが、小学生的にはそんなものなのかな・・・?

    森さんの総括は平易であり、やはり真摯さが滲んでいる。
    原発や放射線についてもわかりやすくまとまっていると思う。
    ただ、原発建設に至った背景を考察する中で出された、ミルグラムの服従実験(俗に言う「アイヒマン・テスト」)と過剰進化(マンモスやツノゼミの発達しすぎた器官に関して)に関しては、個人的には適切な例なのかどうか、反射的な違和感はあった。中にはこの機会に興味を覚えてより深く知ることで糧とする子どももいるかもしれず、それはそれでよいのかもしれないが。

    要望は2点。森さんの総括は総括として、発端となった解説を書いた北村龍行さんの「ゆうだい」君に対する返答があってもよかったのではないか。
    それから、さまざまな意見が寄せられた後での、「ゆうだい」君の感想・意見がちょっと聞きたかった。

    皆がひとごとと思わず、自らの問題として考えるべきとした問題提起が、この本の、そして「ゆうだい」君の手紙のキモであり、深めていくのはこれからなのだろう。
    誰かに責任を押しつけて終わり、という問題ではない。
    お仕着せでない、自分の答えを探していかなければならないのだ。子どもも大人も。

    • usalexさん
      すごくローカルな話で恐縮なのですが、うちの向かいは東電の社宅なのです。子どももたくさんいます。私も、お仕着せでなく自分の頭で考えて行きたいと...
      すごくローカルな話で恐縮なのですが、うちの向かいは東電の社宅なのです。子どももたくさんいます。私も、お仕着せでなく自分の頭で考えて行きたいと思います。
      2012/01/28
    • ぽんきちさん
      usalexさん
      そうですか・・・。東電社員の家族で、つらい思いをされた方も多いのだろうな、とこの本で改めて思いました。

      思考停止せ...
      usalexさん
      そうですか・・・。東電社員の家族で、つらい思いをされた方も多いのだろうな、とこの本で改めて思いました。

      思考停止せず、建設的な方向に進んでいかなければな、と思います。
      2012/01/28
  • 毎日小学生新聞に掲載された小・中学生たちの白熱論議。お父さんが東電社員の「ゆうだい君」の意見に多くの子供たちが必死で考えて書いている。一つだけ気になるのは「~が悪い」という判断基準が子供たちに共通していること。犯人探しの思考形式につながる。森 達也さんの文章が秀逸。子供たちへ噛んで含めるように考えることを促している。

  • 今年の地震の後、3月末の毎日小学生新聞に載った「僕のお父さんは東電の社員です」という小学6年生のゆうだい君の投稿。それに対して、子どもたち、大人たちがそれぞれの立ち位置から意見を述べて…。



    我が家にはとっくの昔に小学生はいなくなったというのに、なぜか毎日小学生新聞を定期購読してまして、だから、この、ゆうだい君の投稿もリアルタイムで読みました。

    あのころ、原発事故の恐ろしさゆえに「東電叩き」が加熱していたのは確か。そして、実際、あんまりじゃないの、東電!という思いは私にもありました。
    そんな中、「僕のお父さんは・・」と、いわゆる身内からの目線で、原子力発電所を作ったのは東電だけれど、そのきっかけを作ったのは日本人であり、世界中の人々であり、その中には「僕」も「あなた」も入っていると説く彼。
    一読して、なんてしっかりした文章を書く子だろう、と感嘆。ただ、100パーセント、うんうんそうだよね、だから東電を叩くのは間違っているよね、とも思えなかったんですよ。
    その後、彼に賛成する意見、反対する意見が、子どもからも大人からも続々投稿されて、う~~ん、わかるところもあるんだけどなんか違うんじゃないかなぁ~~と思っていたら、森達也さんがそれらに対して、丁寧な考察をつけてこの一冊を上梓。あぁ、この“論争”を本にしようと思うところが森さんらしいなぁ、と思いながら、ゆっくりと読みました。

    森さんは、私にとって、常に世の中のことに対して多角的な目を持とう、人と同じ方向へ何も考えることなく突っ走るのではなくてできるだけ自分自身の頭で考えよう、と思わせてくれる人、なんですが、やはり、今回も、そっか・・・、私ってば何にも知らないで、人の言葉を借りて考えてたんだ…ということがたくさん。

    そもそも、原発とはなんなのか。原発は、費用が安いとか、エコである、とか、資源に乏しい日本には必須である、とか言われてきたことの実態をひとつひとつ、穏やかな語り口で、実は全然違ったんですよ、と。

    これはこんな事故が起こった後だから言えるんじゃないの?という見方もあるだろうけど、これまでなんというか、いいとか悪いとかを語る人たちがどちらもヒステリックな論調になるのがイヤで、つい目をそむけてきた私には、今だからこそ読めた、ようやくしっくりくる解説書だったように思えます。

    そして・・・ゆうだい君の主張も、東電は責任を負え、という主張も、「群れ」というキーワードで解きほぐしていく手法はさすが森さんだなぁ、と思う。


    ・・・・・・・・・
    責任とは罰を受けることだけではない。なかったことにすることでもない。本当の責任とは同じ過
    ちを繰り変えなさいようにすること。
    だから、何か変だな、と思ったら、リーダーや多くの人の意見と違っても、「何か変だよ」と声をあげること。

    ・・・・・・・・・・・・・・

    これって、原発のことだけじゃなくて、何にでも通じる姿勢だよね。
    ただの主婦でしかない私だけど、変なことは変だって小さな声でも口に出していきたい。それによって、少しだけでも空気が変わるかもしれないじゃん、なんて、今年最後の本の感想にふさわしいような、気恥かしいような、ですけど。

  • これを1冊の本にまとめた意義は大きいと思う。
    森達也氏の寄稿は総括にはなっているのだがちょっと蛇足な気もする。

  • サブタイトルに「小中学生たちの白熱議論! 3・11と働くことの意味」とあるように子供たちが原発の必要性、原発事故の責任について熱く語っているのだが、子ども達の情報は年齢のみで住んでいる場所がわからない。しかし在住地の情報は絶対に必要だと思う。例えば「責任は福島にある」と言う子どもが何人か出てくるが、その子が福島に住んでいるか、東京に住んでいるか、あるいは遠くの福岡に住んでいるのかでは、発言の意味合いが全く違ってくるからだ。そう言ったフィルターをかけない為にあえて伏せているのかもしれないが、それは違うんじゃないかなあ?

  • 毎日小学生新聞に載った文章を1冊にまとめた本。
    お父さんが東電の社員であるゆうだい君(仮名)が書いた手紙が紙上に掲載され、それを読んだたくさんの人が自分の考えを投稿している。
    小学生、中学生、高校生、大学生、お父さん、お母さん、‥たくさんの人が真剣に自分の思いを書いている。私も真剣に読んだし、自分なりに考えた。
    そして今までの自分の態度が恥ずかしくなった。
    森達也さんが指摘している通り、私もずっと無関心だった。そしてそのことをちゃんと認めていなかった。
    中途半端な知識しかないのに、その自覚もなく考えたり話したりしていた自分が恥ずかしい。
    分からなかった、知らなかったというつもりか情けない、そういう気持ちだ。

    たくさんの意見を読んで感じたことがもう一つあった。
    特に小学生の意見に多かったのだけど、この人達が悪いと断言する文章をこわいと感じた。
    その中には東京に住む人達が悪いという意見もあって、私はその東京に住む人だからというのもあると思う。でもそれだけではなくて、ちゃんと節電しない人や地震の被害を受けずにそれまで通りの生活を続けている人に対する苛立ちも数は少なかったけれど存在したし、おつりを募金することへの批判なんかもあった。
    その文章から伝わってくる不快感と怒りがとても恐ろしかった。
    どの人も真剣に考えているし、実現可能かは分からないけれどとても具体的な解決方法を書いている人もいた。とてもすごいことだと思う。
    でもその人から見て、自分より真剣に考えていないように見える人や、行動していないように思える人達に非難の目を向けるのは待ってほしいと思う。
    たぶん何も考えていない人なんていないし、みんなが自分に出来ることを探している。出来ることをしていると思う。それが見えにくかったり、見る人が考えていることではなかったりするかもしれないけど。
    節電する人もいれば、電力を使うことで何か出来ることを見つける人もいる。
    そう伝えたくなった。

  • 耳が痛くなる本でした。

    「無知」「無関心」であることの「無責任さ」を痛感させられる一冊。

    お父さんが東電の社員だという、ゆうだいくんが寄せた一通のお手紙。
    それに対する子どもたち、中学生、高校生、大学生、おとなの意見交換。
    そして、森達也さんの総括。

    子どもたちは、稚拙な言葉で、ちゃんと自分たちの意見をいっぱいいっぱい述べている。
    大人がどれだけ言い訳がましいか、はっきりとわかります。
    子どもたちの率直な意見のなかで
    この事故を再び起こさないためにどうしたらよいか
    「勉強する」
    「行動する」
    ただ、じにんしろ!中止すべきだ!と言うのではなく
    具体例をあげたうえで 反対・賛成してもらいたいという意見も。
    ヒマワリや菜の花が放射能を吸ってくれるとか、ちがう形で電気を作れないかとか、子どもたちは小さい頭で懸命に考え、お手紙を書いてくる。
    おとなはなにしてるんだ、と思う。
    じぶんふくめ。

    森さんの見解のなかで
    「なぜ人は数が増えると間違えるのか」
    という問いかけがあった。
    みんなと同じ方向に歩けばおとがめなし、という考えは、社会にも学校にも、家庭にすら根づいてしまっている。
    日本人の過ちは根深い。

    第二次世界大戦で2回の原爆を受け、
    戦争後のアメリカ水爆実験で水爆を受け、
    日本は原爆と水爆の被害を身をもって知る唯一の国となった。
    それなのに、原発保有国第三位。
    日本を代表とする漫画、アトムにも、8マンにも、サイボーグ009にも、ドラえもんにだって、小型原子炉が埋め込まれている。
    「原発は絶対に安全です」
    「でも近くには置きたくありません」
    「福島さん豪華なオマケをたくさんあげるから、お願いしますね」
    日本の過ちは根深い。
    私の年代、それ以下の子どもたちは、どうしたって向き合わねばならない。
    原発と、日本と。

  • 人間は弱いから群れる。
    群れると個々の人間は一個の歯車と化し、全体の流れに逆らえなくなる。
    全体が負の方向に向かっていても、それを個人が是正するのは不可能に近い。
    それがドイツのユダヤ大虐殺へと導き、同じようなことが日本にも起きた。
    個々の人間は大丈夫かな?と不安に思っていても、全体的に原発へと邁進した。

    最後に森さんは、次世代の子供たちへと謝罪する。
    日本みたいな地震国に54基もの原発を作って、あげくこんな大災害を起こし、
    はてはその後始末を子供たちへと残してしまったことを。

    思いのほか、子供たちを含めいろんな考えを面白く読んだ。
    今の原発事故を考えさせてくれる良書だった。

  • 原発について賛成か反対かと問われれば、もちろん反対と答える。
    原発を無くすために協力できることがあれば喜んで協力していきたいと思う。

    そんな自分の態度やただ「反対だ、反対だ」と言ってる世の中を見て、なんとなく違和感を感じている。

    反対と言うのは簡単だ。それだけでいいのか。

    これを読んで、少し答えが出た。
    そうなんだ、自分がいろんなことに無関心だったことに反省をしなくてはならない。謝らなければならない。
    原発を建てたのは政府や東電というけれど、建てるときに反対しなかった昔の自分もいけないのだ。

    自分が日頃もやもやとしてたことを代弁してくれるような本。
    たくさんの人に読まれることを望みます。

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