卍とハーケンクロイツ―卍に隠された十字架と聖徳の光

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  • 現代書館
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レビュー : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784768457061

作品紹介・あらすじ

卍(まんじ)と〓(ハーケンクロイツ)は同じなのか、どう違うのか?その起源と世界中の分布、卍に対する人々の感じ方を調べ、聖なる卍への誤解を解き、卍の復活を目指す。

感想・レビュー・書評

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  • 異色である。
    バリバリのお坊さん、僧侶。裏表紙にある著者近影も、頭を丸めた袈裟姿でお坊さんそのもの。でもニューヨーク在住、奥様もアメリカ人。
    そんな著者が、どんなふうにこのハーケンクロイツを説いていくのか、ちょっとした興味本位で借りてみたのだが。

    卍の成り立ちから、ヒトラーがハーケンクロイツを自らの政治的シンボルとして採用するまでと、その後の捉えられ方を、驚くほど丁寧に、踏むべき段階を一つも外すことなく踏んで解明にあたったという感じ。
    そもそもこの研究を始める第一歩として、アウシュヴィッツを訪ね、ホロコーストの生存者を訪ね、果たすべき仁義を果たして理解を得たというのがいかにもお坊さんらしい。そして、もしその当事者たちが、そんなことはやめてほしいと言ってきたら、即刻この研究はやめようと思ってもいたそうである。
    このハーケンクロイツを取り上げること自体が、ニューヨーク在住の著者であるだけに、われわれ日本人が考える以上にはるかにセンシティブであるということを、心底よくわかっているからに他ならないのだろうが。

    多くの西欧人は、ハーケンクロイツ=ナチス、ホロコースト=邪悪と信じて疑わず、中には鉤十字を作ったのがヒトラーであると思い込んでいるひともいるらしい。知識人をして「卍はユニバーサルな邪悪なシンボルである」と言ってはばからないそうだから、その根は深い。

    私たち日本人にはなじみ深い卍は、実は3千年(ひょっとしたら5千年)前から、しかも世界中で、吉祥の象徴として広く浸透していた紋様なのである。
    インドや日本などヒンズー教国仏教国だけでなく、インディアン(ネイティブアメリカン)やカナダ、アメリカ、ヨーロッパ、古くは現在の十字架がシンボルとして採用される前のキリスト教や古代ユダヤ教でさえ、「スワスティカ」という名で(語源はサンスクリット語らしい)東洋の吉祥マークとして好まれていたのである。もちろん、著者は写真や文献など、その証拠も数多く示している。
    実は、この吉祥のマークとして、かつ仏教でいうところのアーリア(悟った人、聖者という意味)の象徴として、東洋のスワスティカが知られていたことが、ヒトラーに彼の政治的シンボルに採用された理由であろう、と著者は推論している。ヒトラーの「我が闘争」を丁寧に紐解き、ヒトラーの行動、ルターやワグナーとの関係などからその解答を導き出しているのだが、そこのくだりは非常に興味深い。

    アーリア人という人種は、ヒトラーの言葉を翻訳する際の翻訳の妙で、結果的にそういう民族がいるかのような誤解を生んだだけであって実在しないとか、本当は鉤十字はその中に十字架を隠すための鉤であり、十字架が隠されたてしまったがために、東洋のスワスティカがヒトラーのハーケンクロイツと混同され邪悪なものであるというすり替えが浸透してしまったという皮肉だとか、とにかく非常に面白い。陳腐な表現しかできない自分がもどかしいのだが。

    だからといって著者は、決してホロコーストで苦しめられた人々の気持ちをないがしろにするつもりなどもちろんなく、「原爆もホロコーストも以前はタブーとして扱われた過去を持つ(現在もそうかも知れない)が、タブーは「臭いものに蓋をする」のではなく、蓋を取り、臭いものを隠さず公開することにより、本当に乗り越えることができる」という信念のもと、キリスト教団体やユダヤ人の名誉棄損防止同盟など、鉤十字に対する強い批判を示してきた団体ともしっかり話し合いを持ちながら、彼らの後押しをも受けながらの研究成果なのである。
    歴史を理解し、異文化、異宗教相互を理解し合い尊重し合うことが、これからの国際社会では大切な姿勢であるとうたっている。

    そして何よりもっともすばらしいと思ったのが、3千年の文化と歴史が、ヒトラーの悪行によっていとも簡単に誤解され差別されるマークとなってしまった卍を、「あの」ハーケンクロイツとは別物の、守られるべき東洋のスワスティカとして、単に見て不快感を覚えたり誤解したりするだけに終わらせず、正しい知識を世界中に知ってもらいたいと、巻末に本来の歴史ある卍マークの説明を英文で掲載、日本であちこちにある卍マークにぜひこの文章を添えてほしいと協力を呼び掛けているところである。
    こんなのって今まで見たことがない!

    なんら期待せずなんとなく手に取った本書であるが、読み応え十分。
    著者の論理の展開も非常にわかりやすく、最後に全ての総括が簡潔にまとめられているのもまた理解を助けた。
    こうやって、自分の足と人脈で丁寧に調べ知り得た結果を実際の行動に結び付けていく、その真面目さというか真摯さに、ひどく心を打たれたのだった。

  • 図書館を散歩しているときに見つけた、以前から不思議に思っていた、お寺のマーク卍とナチスのマークハーケンクロイツはよく似ているな
    向きが違うから偶然似ているだけなのかなと思っていた、
    卍、逆卍はその起源は太陽であるとされている店
    太陽信仰から来た神聖なシンボル、仏のおまんじゅうが光の源、知恵の光、慈悲の光、仏の教えが光で表現される、光と言う漢字が卍似た形を
    ユダヤ人問題の最終的解決、神捧げ物、ホロコースト、
    鍵の十字架、キリスト教にとって古代からの聖なるシンボル、十字架のもとでの聖戦、
    どうすれば、ヒトラーのような恐ろしいことができるのだろう、基本的にどんな人間でも、環境、条件が整えば、恐ろしいことも、素晴らしいことをも行える、ホロコーストは愛と正義の行為、、と見ることができる

  • 数千年の昔から仏教を初め初期キリスト教も含めて(!)東西社会、宗教に於ける吉祥の象徴であった卍が、ヒトラーによって憎悪と邪悪の象徴とされてしまった。

    著者は、30年近く米国に住む仏教僧侶である。
    数年前の異宗教間の研修会における「スワスティカ(米国では卍全般をこう呼ぶ)はナチス、悪の普遍的なシンボルだ」との専門家の発言に困惑し、卍の名誉回復を決意する。

    著者の主張は極めて明快だ。ヒトラーが起こしたホロコーストは、キリスト教にある種内在する反ユダヤ思想に基づくもので、卍は本来それとは何の関係もない。ヒトラーが運動の象徴として原初十字架である卍を利用したために、濡れ衣を着せられてしまった。
    ヒトラーがハーケンクロイツ(鉤の十字架)と呼んだように、それはあくまでもキリスト教の十字架の一種であり、より普遍的なシンボルである卍とは異なる。
    責められるとすればキリスト教と十字架であるべきであるのに、その身代わりとして卍全般の名誉が損なわれているのは、余りにも一方的な西洋(ないしはキリスト教)中心主義である。
    「ハーケンクロイツ」の英訳にしても直訳のHooked-crossで済むものを、わざわざサンスクリット語に由来するスワスティカ(swastika)を使っているのは意図的な言い換えに他ならない。
    戦後約70年間の思考停止によって貶められてしまった、卍の、宗教、文明を越えて普遍的に共通する吉祥の象徴という意味合いを今こそ取り戻さなければならない。

    数年という短い準備期間、平易な文章、200ページ強の分量にそぐわない、奥深い内容とメッセージを含む本である。

    著者は本書と同様の内容を英語で発表し、かの地で卍の名誉回復に向けた草の根運動を始めている。
    本書が多くの人に読まれ、卍が本来の意味を取り戻すことを、切に望む。

  • 中垣顕實『卍とハーケンクロイツ 卍に隠された十字架と聖徳の光』現代書館、読了。仏教を表象する卍(スワスティカ)とナチスのシンボル鉤十字(ハーケンクロイツ)はそっくり。両者は何が違うのか。本書はニューヨーク在住の浄土真宗僧侶が、幸運のシンボルが歪曲された経緯を描く文化思想史。

    反ユダヤ主義の(逆)卍は西洋社会では邪悪なシンボル。ユダヤ人街ではその形象掲示ははばかれるという。ヒトラーはスワスティカの積極性を利用しつつ、それを十字架に表象し、あくまでも十字架的シンボルとして利用した。

    しかし、そうした誤用は積み重なる。『我が闘争』では逆卍はハーケンクロイツだが、英訳ではスワスティカのように。誤解は重なり吉祥の意義が歪曲され大量殺戮の象徴となっている。本書はその誤解をときほぐすと同時に、オリエンタリズム的歪曲(東洋的文化は西洋的文化に対してどこまでも下位に位置するというドクサ)に抗する異文化理解の好著。

  • 日本では地図の上に寺院の記号として普通にプロットされ、多くの寺院ではそこここに掲げられてる卍の文様。
    欧米ではナチスの紋章のイメージが強く忌み嫌われ、「ユニバーサルな邪悪のシンボル」と言い切る人まで居るという。
    東洋では仏教・ヒンズー教はじめ多くの宗教において吉祥のシンボルとして定着しておりその歴史は2000年とも3000年とも遡ることができ、アメリカインディアンにおいても全く別のルーツから吉祥のシンボルとして扱われていたものがナチスの党旗・ドイツ第三帝国の国旗デザインに採用されたことから憎悪の対象が如く扱われてきた。
    本書では「卍」の出自を探求するとともにヒトラーがどのような経緯でこの記号をナチスのシンボルに採用したかを追いかけて「卍」の本来の意味を拡げ、誤解を解消しようとするもの。
    元は英字で書かれた論文らしいが、是非欧米圏で一般書として読まれてほしい。

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