ル-マニア・マンホ-ル生活者たちの記録

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  • 現代書館
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784768468586

感想・レビュー・書評

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  • 以前、孤独について論じた本の中で、産まれた直後に捨てられ、十分な世話もされず、厳しい環境で育ったルーマニアの子どもについて書いてあるのを読んだ。そのような子どもたちは成長したらどうなるのだろうか?どこへいくのだろうか?という疑問を持ち本書を手にした。

    結果、そのような子どもたちの少し成長した姿を知ることができた。特に、社会的にどのような立場におかれ、どのように生活しているかという面において理解が深まった。

    著者は本書の最後のあたりで、マンホールの中で暮らす子どもたちとヨコの人間関係は結局築けなかったと述べているが
    「おまえらさ、自分たちが被害にあったことばかり強調して言うけれど、今の状況って自分自身には一切責任がないって本当に言えるのかな?孤児だって学校へ行って、普通に仕事している人もいっぱいいるだろう?親に捨てられようが何だろうが、頑張ってる奴はいるんだよ。孤児が全員マンホールに住んでいる訳じゃない」
    という、ある子どもに投げかけた著者の言葉を見れば、それはそうだろうなと思う。これは「イジメられる側にも原因はある。その原因をなくす努力はすべき」論と同じではないだろうか。子どもたちが恨んでいるのは、彼らを棄てた親、暴行を加えてくる人、ゴミを投げくる人、頭の悪い警官で、明確な加害者だ。マンホールの中にまで流れついたのにも、壮絶な文脈があるはずである。それなのに、傍観者然とした立場からのそのような言葉はあまりにも酷であり、真に彼らに寄り添っているとは言いがたい。子どもたちにとっては、まるで教師のようなタテの関係からの物言いにしか聞こえないだろう。
    「そうだな。そう思うよ、俺も。結局、自分が悪いんだ。おまえの言う通りだよ。」という、子どもの言葉少なな返事を読みながら、悲しい気持ちがわき上がった。

    「ルーマニアの恥」「人間の屑」「とぶねずみ」などと言われ、行き場を失った子どもたちが幸せを求めて行きついた果てが、このマンホールの中だが、最後、そのマンホールさえも閉じられてしまい、彼らはどうなったのだろうか?

    筆者が子どもに投げかけた言葉は、資本主義の権高なふるまいとあるいは言い換えられるかもしれない。自己責任という名のもとで、弱者は搾取され行き場をなくしひっそりと消えていく。
    社会主義によって生み出され、資本主義によって抹消される彼らの姿に、どうしようもないやるせなさを感じずにいられない。
    ルーマニアの激動の時代とその中でふるい落された弱者中の弱者たる彼らの現実から、社会主義と資本主義の限界を同時に見た気がした。

  • 辛すぎて読み進められない。

  • 時間があれば

  • レポート執筆の息抜きに読もうと思っていたのが、内容の面白さについ熱中して読んでしまった。
    ルーマニアの事なんて地理的にも文化、歴史的にも全く知らなかった。マンホールに住んでいる子供たちの存在なんてロシア位のものかなと思っていたので聞く話はどれも新鮮かつ衝撃的なもので未知の扉をこっそり開いてのぞき見したような感覚がした。
    この著者の語り口から参与観察するということが一体どういったものなのかをなんとなく読み取れる。どれだけ馴染み、心を通わせようとそこにある絶対的な溝は一生埋まることはない。結局自分たちは日本に生まれ教育を受けるという機会に恵まれ、他国へ飛んでいける財力を持ち、興味本位でそこの問題に首をつっこみ、いざとなったら自分たちの居場所へ帰っていける権利を持っている。しかし、彼らにはやめようと思っても自分たちの生活をやめることができない、限られた選択肢を強制されている。その隔たりはどれだけ乞い願ってもなくすことはできない。だからといってそれで友情や信頼関係を築くのが不可能だとは思わない。けど、ことあるごとにその溝は目の前に現れ、互いの立場を確認させるだろう。その障害を解決する術があるとすれば、お互いがその障害を理解し、自分たちはわかりあえないものを持っているということをわかった上でそれでも相手を理解しようと努める姿勢だと思う。理解しようとすることを諦めたら、それまでだ・

  • 「マンホール生活者」とは、日本で言うところのホームレスに近い。だが決定的な違いがあって、まずその多くが年端もいかぬ子供であること、そして子供「だけ」で暮らしているのもけっして珍しくはないことだ。
    まがりなりにも「先進地域」のヨーロッパに、かくも多くの孤児が存在することに驚かされた。よく耳にする第三世界の悲惨とは、また違った衝撃があった。

    著者も悩んでいるように、これはもとより何かを「解決」できる物語ではない。いかに現地語ができようと、どれだけかれらとフランクに語り合おうと、ひとときマンホールの中に「下りて」きた著者は、結局地上へと「帰って」いく。両者は決定的に隔てられ、「ヨコの人間関係」を結ぶことなど叶わない。
    だが、ハリウッド映画のカタルシスこそ無縁でも、おエラい「ジャーナリスト様」のルポとはおよそレベルが違う。先にも書いたがルーマニア語が使え、かれらの目線に最大限寄り添おうとする著者の力量あらばこそ、何も「解決」できなくとも、本書は十二分の価値を持つ。まずはこの問題が人口に膾炙したものとなるために、広く読まれるべき本である。

    地中生活を送る子供たちとの対話が本書の主眼だが、たまさか「外の人びと」が登場することもある。その、ほんのわずかの記述から——紛れもなく「かわいそう」なかれらが、しかしひたすら「かわいそうなだけ」の存在ではないことがまざまざと知れるのだ。
    けっして揺らがぬ冷静で理性的なまなざし、これぞ著者の真骨頂である。真のジャーナリストとして、得がたい資質を持った人だと言えるだろう。

    2012/2/10読了

  • つらーい
    だけどこれが現実なんだなあと。
    たくさんの人に読んでもらいたい。

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著者プロフィール

早坂隆
1973年、愛知県生まれ。ノンフィクション作家。『世界の日本人ジョーク集』(中公新書ラクレ)をはじめとするジョーク集シリーズは、累計100万部を突破。『昭和十七年の夏 幻の甲子園』(文藝春秋)でミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。他の著作に『指揮官の決断 満州とアッツの将軍 樋口季一郎』(文春新書)等。主なテレビ出演に「世界一受けたい授業」「王様のブランチ」「深層NEWS」等。Twitterアカウント:@dig_nonfiction

「2023年 『世界のマネージョーク集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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