相良藩 (シリーズ藩物語)

  • 現代書館
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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784768471364

作品紹介・あらすじ

家康と縁ある相良は牧之原市。相良の殿様は田沼意次が筆頭。意次は栄進中に築城、失脚直後に城は破却された。検証なきまま着せられた悪名。本書は、意次の真の姿に迫り、相良の来し方を細部まで綴る。

感想・レビュー・書評

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  • ・中村肇・川原崎淑雄「シリーズ藩物語 相良藩」(現代書館)は 実はいただき物である。著者の中村肇先生は血液透析に於ける私の大先輩である。私が移植できずにそのまま透析を続けてゐたとしても今年で30年目である。 中村先生は43年目であるといふ。しかも初めの頃は在宅透析を行つてゐた。現在は普通の透析生活を送つてをられるが、それでもさうして43年、さすがにこ こまで来ると身体にもいろいろと不具合が出てきてゐるらしい。そんな中での本書の執筆である。教員退職後は神職として務めながらの執筆である。さうして3 年して本書がなつた。それをいただくことができたのである。本当にありがたく思ふ。
    ・本書カバー表紙にはかうある。「宝永七年本多氏が立藩。板倉氏の支配の後、前後期の田沼氏の自由な文化政策で栄えた湊町。」それが相良藩、旧静岡県榛原 郡相良町、現在の牧之原市の半分である。田沼氏とあるのは、もちろんあの田沼意次である。意次がすべてではないにせよ、相良にとつて意次は大切な人であつ たらしい。私も意次については日本史の教科書に出てくる程度の知識しかないので、意次に良い印象は持つてゐない。月並みに田沼政治とか、賄賂政治家とでも いふところである。中村先生だけでなく相良の人々にはこれが気に入らないらしい。当然であらう。意次はそれだけの人、お殿様ではなかつたらしいからである。帯にかうある、「相良の殿様は意次が筆頭。意次は栄進中に築城、失脚直後に破却された。検証なきままに着せられた汚名。本書は、意次の真の姿に迫り云 々」といふわけで、本書は勝者による敗者の貶めの歴史を晴らすのを1つの目標にしてゐる。何しろ「相良の殿様は意次が筆頭。」である。そして「人間的で自由だった田沼文化」(86頁)である。これは江戸の話であるから、ここに出てくる人物は錚々たるもので、「意次の周りには平賀源内ら当時の自由人が集い、 オランダ渡りの文物、源内らが収集した物産、発明した珍品に囲まれた日常であったと思われる。」(86~87頁)といふやうな様子であつたらしい。司馬江漢、杉田玄白、大槻玄沢等に始まり、林子平や上田秋成、恋川春町等もこの時代に活躍した人であつた。それは「商人を保護し商人からの運上金・冥加金を取り 立て、さらには海外貿易で利益をあげる開放政策により、幕藩体制を補完しようとする田沼政治」(87頁)だからこそ生まれた文化であつたといふ。逆に、 「農民を土地に縛り付け、農民からの年貢により幕藩体制を維持しようとする統制・緊縮政策」(同前)を採る者には許すべからざる政策であり文化であつた。 だからこそ意次は賄賂政治家として失脚せねばならなかつた。保守と革新の対立で革新が負けたといふことである。意次は、言はば、早すぎた政治家であつた。 国元でも文化、経済面で先見的な政策を採つてゐたらしい。そんな名残の数少ない一つが大江八幡宮等に伝はる御船神事であるといふ。このおまつりでは幕府の 御船歌が歌はれる。いささか崩れてはゐても、詞章は明らかに御船歌である。旋律にももしかしたら幕府の御船歌の名残があるのかもしれない。私はなぜこんなものがここにあるのかと思つたものだが、実は意次が関係してゐたのである。こんなわけで、相良にとつて田沼意次は立派なお殿様であつた。決して悪名高き賄賂政治家などではなかった。この章の後に「田沼意次悪評の根拠を疑う」(93頁)といふ一章が続く。ここには「田沼冤罪二六ヵ条」(97頁)なる見出しもある。冤罪である。そんなわけで、私には本書は田沼意次発見の書であつた。しかし、本書は本当は書名通りの遠州相良藩の藩物語なのである。

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著者プロフィール

中村 肇(明治大学専門職大学院法務研究科教授)

「2018年 『新ハイブリッド民法1 民法総則』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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