頭山満伝―ただ一人で千万人に抗した男

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  • 潮書房光人社
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レビュー : 2
  • Amazon.co.jp ・本 (624ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784769816027

作品紹介・あらすじ

日本が揺れ動くとき、いつも微動だにせず進むべき道を示した最後のサムライ。西郷隆盛の志を継いで日本とアジアの真の独立を目指しながら、戦後はその存在を全否定、あるいは無視されてきた叛骨の男の実像。

感想・レビュー・書評

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  • 好著です。

    西郷隆盛を師と仰ぎ、混迷の時代にサムライスピリッツを発揮した歴史に埋もれた傑物、それが当時の快男子1位に選ばれた頭山満でした。

    その精神は楠木正成まで遡り、高山彦九郎、吉田松陰、西郷隆盛と引き継がれてゆきます。

    しかし、当時の日本人が誰もが知っていた頭山満の名前は、戦後なぜか消え失せてしまいました。

    その経緯を丁寧に解き明かすのがこの本の存在意義と言ってもいいでしょう。

    この本を読むまでは、右翼の親分くらいの認識しかなかったのですが、権力に属さない一人の市井人であったにもかかわらず、歴史の局面を読む洞察力と行動力のすごさは圧巻でした。

    萩の乱で捕まった人参畑塾の高場乱と取調官のやり取り(P84)は必読です。

    また20歳そこそこの杉山茂丸が伊藤博文を亡き者とせんがために、山岡鉄舟に紹介状を書いてもらい面会できることになった話も面白い。
    その紹介状には「この者は田舎出の正直者だが、片かじりの政治思想にとらわれており、閣下に怨恨を抱き候。この種の青年は他日国家の御用にも相立つゆえ、一応ご引見よく、ご説諭、ご教訓賜りたく・・・凶器持参の可能性あり」という内容を知ったうえで、伊藤博文は対峙した。
    まずは、杉山の言い分に耳を傾け、伊藤自身が幕末のころ、攘夷運動に身を挺した自分自身の体験も交え、誤聞や浅はかな知識だけで行動することを戒め、最後に鉄舟の紹介状を広げていった。
    「君を国家のため惜しめばこそ、鉄舟はかかる手紙を書いたのじゃ、わかるか」
    杉山は一言もなく平蜘蛛のように低頭した。(P219)
    その後の、抵当物は貴殿の首1個とする・・という顛末も面白い。

    そして彼らの見立て通り、杉山は頭山の懐刀として大いに活躍しました。

    芸者との「拙者都合により死去候なり」(P305)も微笑ましいエピソードです。

    玄洋社の生きざまをある人物を引き合いにしてこんな言葉で表現しています。

    「一介の日本男児としてすくっと立ち、自分にできることをやり、世の中の一隅を照らし、そのまま死ぬ、名利を求めず国に尽くし、淡雪のごとく消えていく。こういう小さな者たちが集まって国が支えられている」(P321)

    インド独立研究のために来日していたボーズを、政府が英国の顔を立てるため捉えようとしたとき、頭山の機転で脱走させたとき、「どうかインド人を出してください。さもなければ私どもは首にされます」とうなだれる見張り役の刑事に頭山は「君たちが首になっても、人の命が助かったからよかろう。君たちは良い功徳をした。インドの志士を助けることはインド3億の民を助けることにつながる。たいした手柄じゃないか」と諭した。(P482)
    ちなみに、この時のボーズはチャンドラ・ボーズではなく、ラス・ビハリ・ボーズで彼がかくまわれた中村屋にカレーのレシピを教えたらしい。

    米国が日本人の入国を禁止する排日条項のある新移民法を成立させたとき、頭山は「米国は表には正義とか人道とか言ってはいるが、ペルリが来朝したのも東洋併呑の瀬踏みだった。米国の言う正義人道は米国の都合の良いときにのみ適用する主義である。彼らは、日本の進歩発展を阻害するため、遺漏なく魔手を広げ、我が国のみでなく、全アジアの平和を乱すであろう」(P502)とは現在にも通じる慧眼です。

    そして、関東軍の暴走によって裏切られた蒋介石は、日本降伏時に、食糧難の国内事情だったにもかかわらず、2百万人を超す日本兵にコメ2升づつを配給し、物品も持てるだけ持って帰還するよう指示したのは、日本政府のためではなく、頭山からの教え(徳をもって怨みに報いる)と友情によるものだった。(P562)

    少数の多数という言葉の真意。
    「本当の仕事は、何時も少数から生まれる。万事は犠牲的精神に燃える少数の人々の奮起にある。真面目なものなら一人の志も奪うことはできぬ。下らぬ奴はどれほど多数いても容易に奪われる」(P585)

    「四民平等もやり方次第で大変な違いを生じる。遺憾ながら農工商を士に引き上げる平等ではなく、士を下に引き下げる平等であった。惜しいことをしたものだと、遺憾千万に思っている」(P589)
    など先を見越すぶれない眼差しは、私心を捨てたからこそできる芸当なのだと思う。

    頭山満の歴史的再評価に資する好著です。

  • かなり勉強になった。現代人にはなかなか理解しにくいけれども、民主主義以前の社会における政策決定プロセスだったのではないかと思う。

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