陸軍人事: その無策が日本を亡国の淵に追いつめた (光人社ノンフィクション文庫 805)

著者 :
  • 潮書房光人新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (303ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784769828051

作品紹介・あらすじ

なぜ石原莞爾は満州事変勃発時に関東軍作戦参謀なのか。なぜ辻政信は失策しても要職を渡り歩いたのか。栗林忠道は懲罰人事によって硫黄島に派遣された…。日本最大の組織・帝国陸軍の複雑怪奇な"人事"を解明する!

感想・レビュー・書評

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  • 軍人とはいえ上層部は官僚にすぎない。太平洋戦争は軍組織の硬直化がもたらしたともいえるのかな。

  • 年功主義と学歴偏重によるエリート軍人たちの統率。
    日本最大の組織・帝国陸軍の複雑怪奇な人事を解明する。
     はじめに
     第Ⅰ部 人事施策が成否の鍵
     第Ⅱ部 陸軍における人事の全体像
     第Ⅲ部 常に問題を抱えた人事
     第Ⅳ部 長期計画とドクトリンの欠如
     おわりに

    とても興味深い本です。決して読みやすくはありませんが
    なぜ、陸軍が暴走したのかを人事の観点から分析しており、
    簡単に首肯できない部分もありますが、なるほどと思わせ
    る部分が多い内容です。本書は今後、日本陸軍を語る上で
    必読の書と言えます。

    かねてから日本が戦争を避けられなかったのは、多くの人
    が戦争を望んでいたからではないかという疑問がありまし
    た。本書を読むと、陸軍が日露戦争時に大量に採用した陸
    士18期生、19期生をどう扱って人事を進めていくかと
    いう難問を抱えていたことがわかります。また、2・26
    事件の後始末のためかなり強引な粛軍人事を行ったことも
    あり戦時体制への移行を期待する雰囲気があったと推測し
    ています。(平時にはポストが限られますが、戦時体制に
    移行した場合軍備が増強されポストが増え、将官も戦時補
    職されます)

    また、視点が面白かった点を列記すると

    ○2.26事件の山下奉文の行動については、事態を穏便
    に収束させようとしてあおりをくったという見方をしてい
    ること。

    ○当時は人事管理の重要な一項として、構成員の安全、衛
    生という意識がまったく希薄であり、過度の飲酒や喫煙が
    生活習慣病をもたらすという考えがなかったため、健康を
    害したものや早世したものが多く、人事に多大なる影響を
    与えたということ。(大正末の陸軍軍人の平均寿命を46
    歳としている)

    ○昭和19年7月に梅津美治郎が参謀総長に就任したこと
    は日本が和平へ舵を切ったことを示唆している。
    (ただし人事権者の東条英機の思惑は、梅津を参謀総長に
    することにより、後継首班となる芽を潰すことにあった。)

    ○戦時に軍司令官になる軍事参議官
    (大将を処遇する閑職という認識であったが、そういう一
    面もあったのか)

    という点があげられます。陸軍首脳部が病人ばかりであり
    精彩を欠き、本命ともくされていた人々が早世したことに
    より、意外な人物が棚ぼた式に抜擢されているのは歴史の
    皮肉を感じます。

    残念な点もあります。参考文献一覧は無く、出典も明記さ
    れていないのは、再現性に欠く点であり評価できません。
    また、著者は、歴戦の小沢治三郎ではなく、戦下手の井上
    成美を海軍大将に就任させた事を取り上げ人事の硬直化を
    批判していますが、小沢は連合艦隊長官に就任しており、
    井上は海軍次官であった事(階級ではなく役職の適材適所
    という点)を考えると、この批判は的外れな気がします。
    (なお、両者とも大将親任を打診され断っている点、井上
    の大将親任は不意打ちであった点、米内が井上を海相にと
    考えていた点も考慮する必要があると思います。)

  • 本書を読む前、陸軍人事のイメージは陸大を出ればエリートコースというこことと、戦死すれば二階級特進ということとくらいだった。そんな省部や昇進の話だけでなく、一般の兵士に召集令状が届くまでについても網羅している。
    簡単ではあるが、中国戦線の拡大が人事の面から触れられている。各地方の連隊は戦争が始まると予備役を招集し、師団は平時編成から戦時編成へと生まれ変わる。生まれ変わるというのも、兵士の人数が倍増するのだから大げさではないと思う。そして出征した師団の留守に、特設師団が設けられてまた新たな人員の動員が始まる。師団増設の連鎖の始まりである。
    佐官で予備役だった者はポスト確保に向けた敗者復活戦の好機だし、尉官の者は組織の拡大による昇進の好機だし、下士以下の兵士にとっては戦闘による給与の割増という好機であった。しかも、下士官であっても出世しやすい環境だったという。
    これは本当は非常に重要なことなんじゃないかと思う。出先が戦線拡大を自ら助長しやすい環境であるからだ。さらには憶測だが、戦前の日本が海外への移民を積極的に行っていたことを思えば、足りない国内の雇用の解消への希望だったのかもしれない。戦線の拡大が当時の国民の多くにとってメリットだったことをもっと知る必要がある。

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著者プロフィール

軍事史研究家。1950年、神奈川県生まれ。
中央大学法学部法律学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科修士課程修了(朝鮮現代史専攻)。著書に「日本軍とドイツ軍」、「レアメタルの太平洋戦争」、「日本軍の敗因」(学研パブリッシング)、「二・二六帝都兵乱」、「日本の防衛10の怪」(草思社)、「陸海軍戦史に学ぶ負ける組織と日本人」(集英社新書)。「陸軍人事」、「陸軍派閥」、「なぜ日本陸海軍は共同して戦えなかったのか」(潮書房光人社)、「帝国陸軍師団変遷史」(国書刊行会)がある。

「2020年 『知られざる兵団 帝国陸軍独立混成旅団史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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