- Amazon.co.jp ・本 (172ページ)
- / ISBN・EAN: 9784770027320
感想・レビュー・書評
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2010/5/16、LittleTokyo の Japanese American Museum で著者の講演を聴きました。日本国憲法GHQ草案を書いた25人の中の唯一の生存者の彼女は始終ニコニコと穏やかに流暢な日本語でお話をして下さいました。会場総立ちで私も大きな拍手を送ったその足で紀伊国屋に向かいましたが「1945年のクリスマス」は売り切れていました。どなたか講演に行かれた方が先に購入されたのでしょう。まさか1年後に Santa Monica Library で本書に出会えるとは思ってもみませんでした。
ポツダム宣言受諾の後、日本国憲法改正をめぐってすったもんだが繰り広げられます。日本政府が提示した憲法草案が軍国主義の色濃い明治憲法に毛の生えた程度のものだったことに焦ったGHQが、日本政府に民主的な憲法を「自主的に」作成させる望みを捨て、大慌てで委員会を設置し、一週間でGHQ草案を書かせました。
なぜこんな大切なことを超特急で決めるのかというと、ソ連が率いる極東委員会はその時点で既に発足しており、日本国憲法作成に嘴を入れられたくないGHQとしては、「もう出来ていますよ」と、事後報告の体裁を整えるために是が非でも憲法草案が必要だったとのこと。もちろん日本政府が作ったものとしてです。
この25人からなる委員会は、弁護士や経済学者の集まりであり、憲法専門家ではありませんでした。皆が途方にくれる中、ベアテ・シロタ・ゴードン氏は当時22才の若さで率先して戦後の焼け野原を奔走し、図書館で各国の憲法の資料を集めました。委員会が徹夜を重ねてまとめた草案を、日本政府の主張と突き合わせ日本語でまとめ直す作業にも、彼女は通訳として参戦していました。
「白洲次郎 占領を背負った男」では、松本草案作成→ GHQ草案を突きつけられてびっくり!→ 抵抗するも、結局GHQ草案を骨格として交渉、翻訳作業に突入→ 30時間の泥仕合→ 憲法発布。の流れが日本側から描写されています。本書と同時読みすると、まるでリアルタイムで討議を観ているような臨場感を味わえます。
メモ魔だったというルース・エマラン氏の克明な記録とは対称的に、ベアテ・シロタ・ゴードン氏の記憶は主観的で正直なのが印象的でした。
各界の知識人、地位の高い軍人に囲まれては自分の考えを口にすることもできずに悔しい思いをしたこと、でも大役に臆することなくできる限りの尽力をしたことが彼女の飾らない言葉で綴られています。日本国憲法に男女平等を書いた後も著者は精力的に活動され、ご自身の講演はもちろん、Japan Society、Asia Society の有能なディレクターとして、次々にニューヨークでの公演を企画し成功させていきます。恋の話あり、ご両親の話あり、母として妻として仕事と家庭の両立に悩む姿あり。全ての女性におすすめしたい一冊です。詳細をみるコメント0件をすべて表示