神の火を制御せよ──原爆をつくった人びと

  • 径書房
3.63
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784770501974

作品紹介・あらすじ

1940年、アメリカには、アインシュタインをはじめヨーロッパからの亡命科学者が多数いた。 彼らは核兵器の破壊力を知らないアメリカ政府に口々に訴える。「ナチスが核兵器を作っている! ナチスが核兵器を完成させたら大変なことになる!」

「原子爆弾を使うことにはならないとお考えですか」
「使うか否かにかかわらず、アメリカは原子爆弾をつくるべきだ。それもできるだけ速やかにね」

アメリカ政府は、彼らの声に押されるようにして原爆の開発を開始。若い女性科学者ジェーンや青年科学者スティーブは、原爆の開発・兵器として使用に反対する。

「核兵器の製造には加担したくありません」
「誰が好きでやるものか。悪魔の仕事だ。だが、ほかの悪魔が先に作ったらどうする?」

原子爆弾という最終兵器があれば、使わずとも戦争そのものを終わらせることができるかもしれない。そこに望みをつないで開発を進める彼らは1945年7月16日、ついに世界初の原爆実験を成功させる。

「やったぞ」バートは絶叫した。「やったぞ。我々は成功したんだ」
彼はスティーブの肩に腕を投げかけ、泣き笑いを始めた。
「新しい神の世界だ」バートはすすり上げた。「新しい天と地……みんな、これは黙示だ!」
「新しい時代には違いないが、果たしてそこは神が住む世界だろうか」スティーブは暗い気持ちで反問した。

原爆実験の成功を知った アメリカ政府は、日本への原爆投下を決定。
アメリカ政府に原爆を開発するよう働きかけてきたハンガリーの亡命科学者は、原爆の使用に反対する署名を集めるために駆けずりまわる。

「原子爆弾を使う必要はない。日本は必ず降伏する。すでにひざまずいている。日本人は誇り高い民族だから、無条件降伏なんか言い出しちゃならない。ただの降伏でいいじゃないか。それなら彼らの名誉が保てる。そうじゃないか? 戦争を終わらせることが大切だ。そうじゃないか?」

「投下はやめて、お願い」ジェーンは両手で顔をおおい、スティーブもまた投下をくい止めようと、ビラを撒いて日本政府に降伏を呼びかける。

1945年8月5日、ワシントンは蒸し暑い夏日だった。熱気を含んだ雲が上空に垂れこめていた。依然として日本から返事は来なかった。陸軍長官は特別警告を発し、さらに大量のビラをまいた。その日が暮れたが回答はなかった。真夜中に憔悴しきった長官は口を固く閉じた若い科学者のほうを向いた。「スティーブ君」声は穏やかだった。「やれることはすべてやった。研究所へ戻りたまえ」

恋愛・苦悩・スパイ・夫婦の確執……
原爆を作った人々の愛と葛藤を描いた問題小説。
被爆国に生きる我々は、この小説をどう読むのか!

感想・レビュー・書評

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  • ラジオの朗読で読まれていて購入しておいた。

    私の頭脳では核分裂や核融合、中性子の理論は理解できない。そういう人のためか史実に基づきながら創作で登場人物間の恋愛まで描かれている。科学者も普通の人間と言うことでの表現か。でも、単純な事実と科学者の開発に対する感情の揺れをもっと詳細に知りたかった。
    西洋人の心の襞はこの程度なんだろうか。

    解説者には「なぜこの本が和訳されてこなかったのか!」という強い気持ちがあるようだが、著者の描いた感情表現は単純であまり感情移入できないのは日本人だからだろうか。どうせなら実名の歴史小説にしてほしかった。
    ただ、ひとつ、日本兵の捕虜に対する扱いを書いたものを読んで主人公の一人は原爆の開発に携わることを決心する。日本人の卑劣な行為に対する正義。それはアメリカ人ならばそうするだろうと納得できた。

    アメリカ人の怒り,憎しみは変な言い方だけど明るく自分が一番でしかるべきという観念からストレートに表現されるのに対し、日本軍が捕虜に向けたような怒りや憎しみはアメリカ人に理解できないような暗さ、陰険さ、湿度があってそれも簡単には爆発させずじわじわと責める。それは征服するもののやり方ではなく、弱いものがもっと弱いものに対する方法だから。

    西洋人の心の揺れはいつでもキリスト教の尺度にあり、その揺れ方は何かに自身の在り方を依存してるように思え(これも日本人脳で考えるからだろう)天然自然に思えない。

    こんなつらいことが日本人にもアメリカ人にも世界の国々もあったのに、安保法案の成立が国会で議論?されてる今。
    木枯らしが吹くような寂寥感。
    核兵器が使われたとき、世界はすべての生命は息絶え、氷に閉ざされたようになるっていうじゃないですか。

    初パール・バック。

  • ふむ

  • 戦争の惨さは計り知れない。数人の政治家、軍の上層部の意思だけで多くの国民を巻き添えさせるのはあまりにも酷い。現代でも北朝鮮、中国など共産、独裁主義的な国家では国民の意思の自由が無惨にももぎ取られ政府の言うなりにならざるを得ない国を見ると「同じ人間なのになぜ」が浮かぶ。「人間の貪欲さ・孤独であるが故の恐れて独裁的制裁」は余りにも浅ましく見える。日本人に生まれてきて良かったと実感するが、国内外の情勢を冷静に判断できる諸外国に恥ずかしくない首相であってほしい。

  • 原爆開発に関わる多くの人々の苦悩と喜び(?)を見事に描いた問題作。非常におもしろかったので、読後、オッペンハウマーの伝記も読んでしまいました。単に歴史の転換点となったプロジェクトの話しというだけでなく、自分自身の仕事を時間軸でその位置付けを考えるきっかけになりました。

  • 『文献渉猟2007』より。

  • 原題『Command the Morning』は旧約聖書「ヨブ記」の一節からの引用されている。

    “お前は一生に一度でも朝に命令し 曙に役割を指示したことがあるか”

    「朝に命令」し、「曙に役割を指示」するのは神のみ業であり、「お前は一生に一度でも朝に命令~」したことがあるかという言葉には、信心深く豊かに生きながらも不条理な災難に見舞われ、やがて世界を、自己中心的にみるようになっていたヨブをたしなめる意味がある。


    これはアメリカの小説家による、加害者側の視点で描かれた原爆小説だ。著者パール・バックは『大地』などで知られるノーベル賞作家である。

    「マンハッタン計画」に関わった実在の科学者たちをモデルに、その開発過程と葛藤に彼らの恋愛、夫婦や親子の確執、ソ連との諜報戦を盛りこんだ、原爆のもたらした悲劇や、その成否を問うものというよりは純粋なエンターテインメント作品。
    主人公は美貌の女性科学者・ジェーン。彼女の目を通して、科学者たちがどのような思いを抱いて原爆を開発したのか、なぜ、それを日本に投下したのかを描いてゆく。

    著者はジェーンに「原爆は使用させてはならない」と言わせている。本書が書かれたのは1959年。冷戦真只中という世界情勢であることを考えるとすごいことだが、原爆を使用することで起こる悲劇の実態には全く触れられていない。
    原爆を投下された都市が、そこに生きている人びとがどうなるのか。
    実体もなく、痛みを伴っていない描写で終始したあたり、最初は「パール・バックでもこの程度か」と思った。しかしエンターティメント作品として世に出て読まれるものであると考えると、これが当時の開発国側の、ヒロシマ・ナガサキの一般的な国民の認識度だったのかとも思う。

    科学の力を使い、神のごとき力を得たと思い、「朝に命令」しようとした人間たちの驕りと無責任を描いた点で、読んでみるべきと言える作品。

  • 人間模様が多過ぎて、メインテーマがぼやけてないか

  • 8/6。
    ヨブ記の引用からして、人類の高慢やエゴについて著者は一家言あったことを想像した。散々苦労のあった作家であろうから。

    はじめて原爆の本を読むような人には読みやすくおすすめ。
    男女ドラマなどがからみ、物語としてよく進む。

    原爆や戦争というのは、一時の迷いではなく、人類ならまた過ちを繰り返しそう、と心配にもなった。
    その危機感を持ち続けることは間違いではあるまい。

  • 最近ざっと読んでしまうのだが…読書となるとなんでせっかちになってしまうんだろう??
    少し前にNHKラジオで橋爪功さんが朗読したので興味をもった本。
    登場人物がそれぞれ負うところをもち、揺らぎながらその日に向かう。キリスト教とアメリカを表しながら、人々の心理が抉られている。悪者などいない。しかし惨事は起きてしまう。

  • 恋愛・苦悩・スパイ・夫婦の確執……原爆を作った人々の愛と葛藤を描いた問題小説。被爆国に生きる我々は、この小説をどう読むのか。

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著者プロフィール

(Pearl Sydenstricker Buck)
1892-1973。アメリカの作家。ウェスト・ヴァージニアに生まれる。生後まもなく宣教師の両親に連れられて中国に渡り、アメリカの大学で教育を受けるため一時帰国したほかは長く中国に滞在し、その体験を通して、女性あるいは母親としての目から人々と生活に深い理解をもって多くの作品を発表した。1932年に『大地』でピュリッツァー賞を、38年にはノーベル文学賞を受賞。また1941年に東西協会設立、48年にウェルカム・ハウスの開設と運営に尽力するなど、人類はみな同胞と願う博愛にみちた平和運動家としても活躍した。

「2013年 『母よ嘆くなかれ 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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