- Amazon.co.jp ・本 (156ページ)
- / ISBN・EAN: 9784772001885
感想・レビュー・書評
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ホッケの『文学におけるマニエリスム』を読んで、現代短歌界のマニエリストって言ったらやっぱり塚本さんだよなぁと思ったため、久しぶりに歌集を。
『日本人靈歌』は昔より深く理解できる歌が増えた気がした。前は『水銀伝説』や『緑色研究』の昏くぎらぎら輝くかっこよさに心惹かれたし今も好きだけど、世の中がキナ臭くなってきたせいで、『日本人靈歌』が問うた〈戦後日本〉の問題点が肌感覚でわかるようになってきたのだと思う。
日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係も (喜遊曲)
は勿論として、
汗してパン、媚びて和を得つ 肅然と枝卸されし夏の翌檜
殺意ひめて生きつつ今日は従順に胸部寫眞を撮らるる梟首
檻に頬すりつけて火喰鳥見つつつひに空白の出日本記 (出日本記)
など、塚本ボキャブラリーでしたためられた”サラリーマン短歌”的な趣きの風刺が効いた作品が多く、かなり「わかる」。
あとこの選集のいいところといえば、『感幻樂』の「花曜」が収録されてるところ!初句七音スタイルを現代短歌界に広めた特別な連作だが、章題や小唄をなぞった詞書までこだわりぬいて描きだされる、武家の男のエロスとタナトスの世界にとにかくうっとりする。刀を握る男たちの戀を、短歌という詩型を使って極めてフィクショナルに描いているので、河出文庫で小説から塚本さんを知ったひとにはぜひ「花曜」をすすめたい。ちなみに本書には収録されてない『感幻樂』の跋文、「この短歌なる煉獄の中に、私はこの後も言葉の血を流しつつ生きよう」もかっこよすぎる。
収録されてるエッセイもどれも面白いのだが、なんと言ってもやはり寺山修司による「塚本邦雄論」である。私は元々この文章を手元に置きたくて本書を買いました。杉原一司は亡くなっていたとはいえ、塚本さんが読むこと前提で二人をランボーとヴェルレーヌに重ねた寺山はすごすぎる。詳細をみるコメント0件をすべて表示