- Amazon.co.jp ・本 (470ページ)
- / ISBN・EAN: 9784772413510
作品紹介・あらすじ
カウンセラーとクライエントの葛藤、面接の中断・停滞は、偶発事でありながら避けがたい心理面接の宿命でもある。ともすれば面接構造そのものを揺るがす悪循環に陥った心理面接が好転するとき、そこではつねに心理療法家によって緻密にプログラムされた言葉が物を言う。精神分析、認知行動論、システム論、体験的アプローチに依拠しながら、メタファーやパラドックス、リフレーミングや治療者による自己開示など、心理面接でクライエントが陥った悪循環を覆す言葉の技術を徹底考察。
感想・レビュー・書評
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医学部分館2階心理学 : 146.8/WAC : https://opac.lib.kagawa-u.ac.jp/opac/search?barcode=3410169931
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勉強をしてみたはいいものの、どれも今ひとつぴんとこず、どうしていいのかわからないでゐた。
たまたま見つけて、目次やまへがきを見てゐたら、自分の気持ちや、その場で伝へなければならないこと、伝へたいことをどのやうに伝へればいいのか、感じていたゐたことが並べられてゐて、まう読まずにはゐられなかつた。
心理療法とは、特効薬的にすぐに効くものではない。患者の体験する主観世界の再構築や、患者をとりまくシステムなど、患者の生きてきた時間の中で構築されたものはさう簡単に変るものではない。ひとはだからこそ安定した社会的生活を営める。
しかし、いつもいつもさうしてゐられるわけではない。状況が変れば、時にさうして構築されてきたもので余計にうまくいかない時があつてしまふ。
だが、それは構築されたものである以上、構築し直せないわけではない。構築のし直しをためらはせるのは、ひとの不安や恐れである。さうした時間の中で構築されてきたもの、変ることへの不安や恐れに気づかせ、面談の中で少しずつ体験し直し、少しずつ患者をとりまく世界になじませていくこと。それこそが心理療法家のできることではないか。
これらの再構築や体験のし直しには、信頼関係を築いた上で、継続して関はり続ける必要がある。信頼関係を築くには、患者のとる行動には何らかの解決への努力があり、さうせざるを得ない事情が必ずあることをまずは伝へることである。決してそれは取調べでも尋問でも非難でもあつてはならない。わずかな意味合いで、そのやうにとられてしまはぬやう、様々な工夫が挙げられてゐる。それは時に自己開示といふやり方も効果的である。
さうして築かれた信頼関係があつた上で、患者の体験する世界に例外や解決の糸口を開かせるやうな洞察、解釈が効果を成す。そして、そこには新たな行動変容につながりうる、帰属的コメントやリフレームが大切である。
技法といふものは心理療法を科学たらしめる意味においてとても重要である。誰がしても一定の効果があるといふことは、その再現可能性からして心理療法といふつかみどころのないものの輪郭を非常に明瞭にする。それは人間をこの社会にあはせるといふ意味で、都合のいいやうに変化させることをやがて可能にするだらう。
しかし、技法を用ゐるのはこの人間である。用ゐる人間の意図を無視して心理療法はあり得ない。どんなに技法的にただしくても、用ゐる人間が患者を前にしてその技法を用ゐなかつたといふなら、技法うんぬんより先にそのことを先に考へなければならない。そこに心理療法家としての腕や倫理といふものがある。