自傷・自殺する子どもたち (子どものこころの発達を知るシリーズ 1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (167ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784772611459

作品紹介・あらすじ

悩みや苦痛を抱えたときに一人で抱え込み、誰にも助けを求めないこと。これこそが最大の自傷的な行動であり、同時に、子どもの将来における自殺リスクを高める根本的な要因なのです。
 子どもの傷つけられた体験を理解し、子どもを救うためにはどうサポートしていけばいいのかを考えます。
■杉本彩さん推薦!

感想・レビュー・書評

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  •  自傷行為をする中高生にどういう声かけをするのか、自傷行為と自殺との関係、などを説いた本。同じ著者の詳しい版『自傷行為の理解と援助』を読んだので、それの簡易版。
     内容についてはその『自傷行為〜』と同じなので、今回はその他に気になったりした部分のメモだけ。自傷行為とは何か、という点で、「『身体の痛み』で『心の痛み』にふたをする」(p.80)というのは端的で分かりやすい表現だなと思った。そして、まず自殺企図の場合の「苦痛」が「耐えられない、逃げられない、果てしなくつづく痛み」なのに対して「間欠的もしくは断続的なもので」「『寄せては返す波のように』ときどき激しく痛むものの、しばらくするとその痛みは和らぎ、しかしまたしばらくしたのちに痛むといった精神的苦痛」(p.21)だそうで、これは一種のうつと同じなのかなと思った。波がある感じ。逆に言うと自殺する人というのはこういう波がない状態、ということなのだろうか。次に自傷行為が一種の「アディクション(嗜癖)」になっている、という話について、「相手のことを憎み軽蔑しながらも、相手から離れることができない」(p.44)人間関係に似ている、という話だったが、こういう関係のことを「共依存」という(p.45)らしいので、おれは「共依存」の意味を誤解していたようだ。そしてこういうアディクションの恐ろしいところは、「ストレス耐性の低下」という話で、「以前ならば気にもとめなかった出来事にも感情的苦痛を感じるようになってしまう」(p.52)という部分で、「ささいな出来事に対しても、自傷しないではいられない」(同)という状態になる、というから本当やっかい。そして操作性を帯びる、というのは前の本にも書いてあったが、「家族、あるいは友人や恋人は、自傷することにもしないことにも、驚くほど早く慣れてしまいます。自傷にふりまわされることに疲れはてた家族、さらには援助者までもが、しだいに自傷に対して冷淡な態度をとるようになっていきます。」(p.55)という、つまりいかに操作されないで長く対応し続けられるか、という点がポイントであることは分かったけど、それが難しそうだなと思う。それにしても家族でさえも「驚くほど早く」慣れてしまう、というのはそういうものなのだろうか。そして自傷から自殺に至るプロセスの中で、「人を自殺へと追い詰める3要因」(p.63)の総和が「閾値以上の強度となる」(p.65)と、自殺に至る、というのは原因が3つある、ということが明らかになっている分、分かりやすい。①「身につけられた自殺潜在能力」、②「負担感の知覚」、③「所属感の減弱」だそうだから、①はどうしようもないにしても、②、③について意識的にアプローチできるところはあるかなと思う。ちなみに②は「自分が生きていることが周囲の迷惑になっている」という意識のことらしい。そしてここからは、いよいよ援助者として出来ること、声かけの話になるが、まず「切った」というカミングアウトに対して「いまは、切る/切らないよりも、信頼できる人に心を開ける方がずっと重要」(p.77)ということを伝える。おれがやってしまいそうなのは、「『あなたが切ると私の心が痛い』などと、相手に理不尽な罪悪感を抱かせる発言も好ましくありません。それは相手の問題を、援助者の川の都合にすり替える発言になってしまいます。第一、もしも本当に『心が痛い』のだとすれば、そのように距離がとれない援助者のあり方自体が問題とされなければならないですし、あるいは口先だけの方便であったならば、そのように援助者の『嘘』を起点とした援助がうまくいくとは、とうてい思えません。」(p.78)という、その通りだなと思う。気をつけよう。こっちの心が痛くなる、というのはもう距離の取り方に改善の余地がある、というのは新鮮かも。確かに、というかまして家族でない仕事として援助する立場のあるべき心情なのかもしれない。共感はするけど…、みたいな。そしてやるべきこととして、「自傷衝動に対する置換スキルを試みるよう提案」(p.117)する、ということで、具体的な置換スキルは前の本にあった。繰り返しになるが、まず「あわてて騒ぐことなく、静かで穏やかな態度で、正直に自殺念慮を告白してくれたことをねぎらい、『自分のきもhcいを正直に語ることはよいことである』というメッセージを伝える」(p.126)、「自殺を考える人の真理は矛盾に満ちて」(p.130)いるので、イライラせず、「『そういうものなんだ』とあらかじめ心得ておく」(同)←これなんか思春期の生徒と同じだよなあと思った。
     余談になるが、学校現場には時々、自治体?政府?から薬物乱用やめようとか、そういうリーフレット的なものがまわってくるが、「極論かもしれませんが、自傷経験のない9割の生徒の多くは、薬物乱用防止講演など聴かなくとも、そもそも薬物には縁のない生活を送り続け、他方で、1割のハイリスクな生徒の場合には、そのような講演を聴いても薬物に手を出すときには手を出すのではないか」(p.147)というのは、その通りなのではないかと思った。結局こういう教育は大人のアリバイ作りなんだろうなあ、とか。
     手っ取り早くエッセンスを読みたい、という人には、ページ数も多くなく、ちょうどよい本だった。ポイントも何度も述べられていて分かりやすい。(23/04/02)

  • 非常にためになる内容だった。
    今後の勉強にぜひ活かしたい。

    ✏「自傷は他者に対するアピール的意図から行われる」といったことを支持するエビデンスなどどこにもない。
    エビデンスが明らかにしているのは「自傷の96%は、ひとりぼっちの状況で行われ、しかも、そのことを誰にも報告しない」ということである。

    ✏自傷は、わが国の10代の若者のおよそ1割に見られる、ありふれた現象であるが、周囲の大人はそのことに気づいていない。

    ✏自殺とは「苦痛しか存在しない世界からの脱出」であり、自傷とは「苦痛に満ちた世界に耐え忍ぶこと」である。
    その意味では、自殺を考える者の脳裏にはもはや絶望しかない一方で、自傷を考える者の脳裏には、まだ多少とも希望が残されているといえるのかもしれない。

    ✏繰り返し身体的虐待という肉体的苦痛を受けている子どもは、その度に脳内でエンケファリン(脳内麻薬の一種)産生が刺激されるために、いつしか生理学的な痛みにたいして鈍感になる。
    結果的に、静かな環境で孤独に過ごしている時には、逆にエンケファリンは減少するために、被虐待児は相対的なエンケファリン離脱状態に陥り、不安と緊張が増大した状態に置かれる。
    このような状況において、自傷はエンケファリン産生を高める刺激として機能し、緊張と不安を軽減させる。

    ✏繰り返し手術や医学的処置をウケなければならなかった経験があること、あるいは、先天的な身体的奇形をもっていることが、後年の自傷に関係するという指摘がある。
    こうした経験は、身体に傷をつけることに対する抵抗感を減弱させたり、自らの身体に否定的なイメージを抱きやすくさせたりして、自傷の発言を準備すると考えられる。

    ✏【自傷と解離の関係】
    幼少期に虐待やネグレクト、あるいは友人からのいじめや激しい家族間暴力の目撃といった体験をしてきた人は、怒りや恥の感覚、あるいは恐怖に耐えるために、解離による「心理的無感覚状態」となる習慣を身につける。
    このような人にとって、自傷には「不快感情→解離による無自覚→自傷による痛みや血液といった知覚刺激→現実感回復」という「反解離効果」があるといえる。

    ✏【自殺行動の対人関係理論】
    人を自殺にいたらしめる究極的な危険因子
    ①身に着けられた自殺潜在能力…自傷、拒食・過食、物質乱用・依存といった自己破壊行動を通じて獲得する「身体の痛みに対する慣れ」
    ②所属感の減弱…「自分の居場所がない」「誰も自分を必要としていない」という感覚
    ③負担感の知覚…「自分が生きていることが周囲の迷惑になっている」、「自分がいないほうが周囲は幸せになれる」という認識
    →これら3つの要因の総和が一定の水準を超えたとき、人は自殺を決意する。

    ✏自傷は自殺とは異なるが、自殺関連行動である。

    ✏彼らの自殺リスクを高めている究極的な要因は、リストカット自体ではなく、辛いときに援助を求めることができないこと、あるいは、助けてくれる大人がいないことにある。

    ✏「あなたが切ると私の心が痛い」などと、相手に理不尽な罪悪感を抱かせる発言も好ましくない。
    それは相手の問題を援助側の都合にすり替える発言になっており、第一、もし本当に「心が痛い」のだとすれば、そのように距離が取れない援助者のあり方自体が問題とされなければならない。

    ✏今後エスカレートする可能性を伝える時、「あなたはきっとそうなるはずだ」と決めつけるような言い方はすべきでない。「あなたは違うかもしれないが、私の経験では〜」といった伝え方が好ましい。

    ✏非自発的入院という、いわば「自己決定権の剥奪体験」が、退院後の自殺リスクを高める可能性がある。

    ✏自殺念慮者や自殺未遂者の援助においては守秘義務の原則は適用されない。
    もしも家族と連絡を取らないまま対応し、その後まもなく自殺既遂もしくは再企図となった場合の訴訟リスクは大きい。

    ✏「自殺しない契約」は、信頼できる人との継続的な援助関係を前提として初めて効果を発揮する。

    ✏若者の自殺既遂者を調査した結果わかったこと
    ①30歳未満の若い自殺既遂者は、中高年以上の自殺既遂者の場合に比べると、自殺直前に明確な精神科診断がつくような人が少なかった一方で、自傷経験者が多かった。このことから、子どもの自殺予防という観点から自傷に注目することの大切さがわかる。
    ②家族に精神障害を抱え、現在精神科治療中であるといった人が多い。このことは、精神科医療関係者は、自分たちが治療を担当している成人の患者だけでなく、彼らの家族にも注意を払う必要があることを示している。

    ✏自殺のリスクが高い子どもの背後には自殺のリスクが高い大人がいる。

    ✏自傷に及んだことのある子どもにとっては、薬物に様々な弊害があることをしっていてもーいや、知っているからこそー一種の自傷として薬物に手を出す可能性がある。

    ✏「命の大切さ」を訴える生命尊重教育は好ましくない。これは、本来、メンタルヘルスの問題である自殺予防教育を道徳教育にすり替えてしまっている。
    「命を大切に!」といった話を聞かされた後には、「命が大切ならば、どうして自分はこんな目に合うのだろうか」と混乱し、人に相談するどころではなくなる。

    ✏自傷する生徒にとって一番のゲートキーパーは友人だが、自傷の発見が友人だけに留まる限り、返って本人が孤立したり、自傷が伝染してしまい適切な支援に結びつかないことが多い。

    ✏もしも友人から「秘密にして」と頼まれても、その通りにしてはいけない。彼らには専門家の助けが必要である。

    ✏最も「自傷的」な行動とは、リストカットでも薬物乱用でも摂食障害でも危険な性行動でもありません。それは「悩みや苦痛を抱えたときに、誰にも相談せずに一人で抱え込む」ということなのだ。

    ✏だからこそ、いかにして子どもたちの援助希求能力を高めるのか、といった議論こそが、自傷・自殺予防教育で重視されるべきなのだ。

    ✏信頼できる大人の条件
    ①子どもの問題行動を叱りつけず、冷静に理由を聞こうとする姿勢がある。行動の背景事情に関する情報を収集できる。
    ②問題を1人で抱え込まず、気軽に相談できる専門家やその他の援助者のネットワークを持っている。

  • 図書館で借りてきた本だけどとても参考になった。必ず手元に置いておきたい本。

  • 自傷がどのように自殺に繋がるか、それを如何に周りが防ぐかについての本。
    私は首吊り自殺未遂で現在精神病院に医療保護入院中、19歳です。
    自分は自傷経験無しでの自殺未遂だったから自分に当てはまる部分は少なかったけど、周りの子に当てはめてとても参考になった。特に、初手に「そんな事されたら悲しいでしょ」って言葉を使うのは援助希求能力の妨げとなることはもっと知られるべき。そう言われるって分かったら確かに自傷行為を報告しづらくなる。何より自傷行為を把握する事が第一って認識。
    信頼できるような大人になれるように頑張ります。助けを周りに繋げられる能力、真っ先に否定しない。3人に1人もその条件を満たす大人が居るとは思えない。一般的な意味で「信頼出来る大人」は結構居るけど、適切な対応を取れる大人が3人に1人は居ない……(´・ω・`)

  • 大人の対応をどうしたらいいのか書いてくれていて、とても良かった。援助希求力を伸ばせる心理士になりたいな。その前に私が援助希求できるようにならないとだし、クライエントの利益のためにも支援者が色々な人や機関と繋がってることが必要なんだなぁ

  • 「援助希求能力」という言葉が一番頭に残った。助けてと言えない子どもが、助けてと言えるようになるための大人のあり方を考えさせられた。援助希求能力は子どもだけではなく、大人も含めた全ての人にとって一番必要な力のひとつだと思った。

  • 自殺した彼を理解したくて読んだ本だった。彼の痛みも苦しみも載っているはずがないとわかっていながら、何か心に折り目をつけたいと。
    精神論じゃなく、「死」を理論的に数字で理解しようとした。

    過去を考えながら読み始めた本。


    読み終わったあと
    「3人のうちの1人でいたい」
    「援助の声を救い漏らさない大人の存在でいたい」
    未来で在りたい自分に出会えた気がした。


    折り目はついてない。
    それともずっと前からついていたのかも。

  • 教員としてこのような児童と接する時にどのようなことに配慮すべきであるのかを学びたいと思い読んだ。
    子供たちが何を思ってそのような行為をするのか、どのように接して欲しいと思っているのか、だけでなく、親はどのような反応をしてしまうのかなど、いろいろな視点で描かれていてとても勉強になった。
    しっかりと生徒のことを考え、生徒の抱える悩みを少しでも解決できるよう手助けをしっかりとしていきたい。

  • 子どもの自傷・自殺に関する「なぜ?」「こんなときどうする?」がわかる本。(医療・福祉や教育の)専門外の人間にもわかりやすく書かれています。

    ●自傷は、周囲の関心を引こうとする「アピール」ではない。

    ・・・逆に、大半の自傷は、一人のときに他人に気づかれないように始まる。

    →(1)その後、自傷をコントロールできなくなり周囲に気づかれる。その結果、自傷することで他者を動かすという「アピール」的な状況になる。
    →(2)上記の状況に慣れ、疲弊した周囲の人が、自傷者に冷淡な態度になる(「切りたければ切ればいい」と言うなど)。
    →(3)自傷による心の痛みをまぎらわせる効果も、周囲との絆を感じる効果もなくなり、自傷から自殺の実践へと移行

    ●自傷は、「生き延びるため」に行われる。

    自殺の原因=”苦しみから逃れるためには死ぬしかない”という絶望
    自傷の原因=苦しみを逃れ、一時的にしのぐこと
    ただし、初めての自傷に限っては、死を目的とすることも少なくない。

    ●だから、「『自傷をやめなさい』はやめなさい!」

    ●自傷者に対して控えたいセリフ
    =「親からもらった体を大切にしなさい」「あなたが傷つけると私の心も痛い」「やってはいけないよ」

    ●自傷・自殺は感染する。

    ●なによりも大切なもの=困ったとき、助けてと言う力

    ●「おわりに」・・・読者へのたった一つの「お願い」

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著者プロフィール

医師、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所依存症研究部長。
主な著作に『自分を傷つけずにはいられない―自傷から回復するためのヒント』二〇一五年、講談社。『誰がために医師はいる―クスリとヒトの現代論』二〇二一年、みすず書房。『世界一やさしい依存症入門; やめられないのは誰かのせい? (一四 歳の世渡り術)』二〇二一年、河出書房新社。『依存症と人類―われわれはアルコール・薬物と共存できるのか』C・E・フィッシャー著、翻訳、二〇二三年、みすず書房。ほか。

「2023年 『弱さの情報公開―つなぐー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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