プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?

制作 : 小松 淳子 
  • インターシフト
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784772695138

感想・レビュー・書評

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  •  「書かれた言葉」と「語られた言葉」の脳に与える影響力とその重要性の違いについての解説があり、それが現代のネット社会においてはどのような意味合いを持つか、について論じられている。
     特に気になったのは「指導なくして与えられた情報は『知識』ではない」ということ。本来の知識は面倒な選択を経て最終的に得られるものであり、その過程における思考も理解のためには避けられない。秒単位で得られるネットからの情報はそういった過程をあっさりと省き、思考の浅薄化を促進しかねない、ということ。

  • 人類がいかにして文字というツールを獲得し、どのように脳を機能させて文字を活用し、理解に役立ててきているのか、読字障害、ディスクレシア患者の症例などを通し、生誕後に読むという能力をいかに獲得していくのかがまとめられています。

    文字の歴史の話、脳の機能の話などは専門的にも思えますし、興味のない人には退屈かもしれません。しかし全体的には読むという極めて普遍的な行為をいかに発展させてきているのかを具体的な事例とともに説明がなされています。
    やはり多くの事例がとても興味深く、この本の内容を際立たせていると思います。
    言語によって使う脳の部分が異なる、ソクラテスが文字による教育を避けた理由と、現代にまで通ずるその懸念、ディスクレシアである著者の息子の独自の空間把握能力など、とても興味深い話ばかりです。

    自分自身がリテラシーの中に溺れていないか、ということを省みようと思います。
    幼児から初等教育に関わる人、そしてすべての親に、子どもが本を読むことの重要性を知る上でも、ディスクレシアに対して正しい理解を行うためにも、読む価値がある一冊だと思います。

  • 本読みには、堪らなく面白い一冊。読字は、脳のどの領域を賦活させるか。それは、中国語や日本語、アルファベットでも異なる。読字能力というのは後天的に習得されるもので、文字の生誕以降、人類の歴史は飛躍する。

    後半、ディスレクシアに著述の大半を割いたのは、同障害を抱える息子への励ましか。少しくどい。サヴァン症候群が見せるように、一部脳の欠損があれば、脳の他の領域が、通常以上に働き、補う。ディスレクシアでは右脳域だが、優れた芸術家が多数存在する。脳の可塑性には、驚かされる。しかし、では、通常のバランスを保つ脳であっても、一部領域に過負荷をかける事で、天才を創る事が可能だろうか。加圧トレーニングのように。そんな所に興味の向きが逸れた。

    ソクラテスの読字への警鐘についても、触れる。ソクラテスの杞憂は、彼の時代よりも、不安視するなら、ネット社会である、今でしょ。と著者は、言っている。ソクラテスの懸念は、一部、ショーペンハウエルの発言とも重なる。自らの思考を奪い、盲目的に書物に従うならば、確かに危険だ。至近の、論文コピペ問題にも通ずる。論文や教科書を盲目的に信じ切るのは、確かに危険だ。表現の自由が担保されず、未熟な倫理観の時代ならば尚のこと。

    さて、読む事は、疑似体験を齎し、新たな回路を形成、あるいは、強化する。従い、真理に近づくためには、負荷を感じる位に、読みまくるべきなんだというのが、この本を読んだ結論だ。

  •  読字によって、現実と本の世界というパラレル・ワールドを持つことができること。そのため、孤独を感じることがなかったという筆者の幼少期の思い出話に共感する所が多かった。
     本書の構成は、文字の起源から、シュメール人の読字指導法、ディスクレシアという普通とは異なる編成の脳についてなど、興味深い内容ばかり。ここで挙げられたディスクレシアは、1つの具体例であり、人間の多様性、潜在能力について今一度、問いかける本であったように思う。また、ディスクレシアの息子を持つ筆者の探求書であるため、疑問に思う部分が余すところなく拾われていた。
     単語の意味、形成されている文字が世界のどの部分を指しているのかを認識することは、自分自身の役割を社会の中で見つけていく作業に似ている。そう考えると、「読む」という行為が自分の考えの投影というのも頷ける。他人の思考を知るのに、こんなにも素晴らしい道具は他にない。
     そして、熟考するという、一見退屈な行為の積み重ねの先にあるものを求めて、”流暢な解読者から、戦略的な読み手”へ。

    • hongming8888さん
      筆者はディスクレシアの息子さんがいるのでしたか。
      筆者はディスクレシアの息子さんがいるのでしたか。
      2013/11/07
  • 人類が文字を習得した歴史と、子供が文字を読めるようになるプロセスと、ディスレクシア(読字障害)の話。人類が2000年かけて身につけた文字を、子供は2000日で身につける。

    文字の発明
     シンボルによって何かを指し示す
     シンボルを体系化する
     音とシンボルを対応させる

    シュメール人
     6~7年の特訓で文字を学ぶ
     音や意味で文字を分類
     (エジプトの文字は各方向が決まっていなかったが、シュメール人は、左から右、次の段は右から左、次は左から右、とつづら折りのように書いていたらしい)

    インカ文明
     結縄による記法
     スペイン人が焼却(野蛮だなぁ)

    ソクラテス
     口語と文語は違う
     文語は死んだ言葉、柔軟性に欠ける。記憶を破壊する。知識を使いこなす能力を失わせる。


    子供
     5歳までに、よみきかせの経験によって3200万語の差が生まれている。
     読み聞かせと、文字の音読の経験が文字の習得に大事

    読み手の能力レベル
     文字が読めない
     読字初心者
     解読に取り組む読み手
     流暢に読解する読み手
     熟達した読み手
     (文字が読めても流暢に読めない人はいる)

    ディスレクシア
     読字に支障(米国の15%、日本でも3%前後いるらしい)
     そもそも脳は文字を読むためにできたわけではない
     複雑な要因、多様な症状
     脳そのものの障害、知覚以前での支障
     エジソン、ダ・ヴィンチ、アインシュタイン、ピカソ、ジョニー・デップ、ガウディ。。。みんなディスレクシア
     空間把握能力に長けていたりする事が多い
     が、多くの場合幼少時にスポイルされてしまう
     才能の無駄

    泳ぐのが先天的に苦手なイカも存在し、生き延びてきている。ディスレクシアも、読字にはむかないが才能がある。長所を活かし合えるような社会を。

  • 目次に目を通して、この辺りに自分の興味がありそうなことが書かれてあるなとあたりをつけて、最初から読み始めた。それが、第5章【子どもの読み方の発達史】、第8章【遺伝子と才能とディスレクシア】、第9章【結論ーー文字を読む脳から“来るべきもの”へ】なのだけれど、ギッシリと意味の詰まった言葉で、書かれた文章なのでゆっくりと読み進めなければならなかった。まるで、サイドプレーキを引いたままアクセルをふかしているようだった。気は焦るけど、いま目に入ってくる言葉が繰り出すメッセージの理解がはかばかしくいかなかった。
    でも、印象に残ったのがソクラテスが口承伝達に拘っていた姿を想像しながら、その理由を読み進めることかできたこと。そして、弟子であるプラトンが師の拘りを踏み越えて、時代の流れに適応して書き言葉を重視し、師の言葉を書き残していったこと。このふたりのあいだに生じた、言葉に対する見通しの違いは、まさに現在の“文字によって獲得する知識”から“ネットによる知識の活用”の分水嶺の現象に似ている。
    でも、このソクラテスからプラトンへと移行する知性の獲得命題と相違するのは、ネット社会は人類の知性の向上は眼中になく、結果としての知識社会の向上にあることであり、そこには人類の知性を高めるための脳の高度化を図ることではなく、外部化した知識を活用するための脳に変化させることを強いることにあるという点だ。
    まさか、ソクラテスはこの時代を予測していたとは思わないが、この本を読みながら『だからいったこっちゃない。人間というものはこういう処に行き着いてしまうんだから』と哲学者ソクラテスが嘆く姿を想像してしまった。

    最近読んだ『ネットバカ』で著者が危惧していたネット社会が作り出す人類の脳、それを備えた人類たちとはどう想像しても分かり合えない薄気味悪さを感じていたのと通じる読後感がある。

    こんなこと書いてしまったが、この本はとても丁寧に読字から書字へ、そして言葉が与える脳の賦活状態を説明してくれているし、ディスレクシア(読字障害)を詳しく説明することによって、読字を解読する脳の仕組みを分かりやすく炙り出してくれた。

    そうか、ディスレクシアは多様な脳の一形態の結果であって、文字を獲得した人類社会にあってはその側面から世の中を見つめると、不利に見えるかもしれないけれど、ディスレクシアの人が社会のコミュニケーションツールを創造していたら、全く違った世の中になっていたのかもしれないのだ。
    今私は人類の過去に遡った仮説の話しをしたが、この空想は人類の未来においても起こりえない話ではない妄想にも発展できる。

  •  文字を読むということは脳の遺伝子にインプットされていないので、人間は幼い頃からくり返し学習して身につける。
     幼い頃に耳から入ってきた語彙の量が、その後の読解力や思考に影響していく。
     読解力を伸ばすのには、大人の心からの励ましが必要。

     アルファベットと漢字では、読む時に使う脳の部位が違うって!
     ディスクレシアの人の脳も、補う働きをする部位が活性化して、特別な才能を開花させるのだとか。

     脳についてのところは難しかったけど、読めることはあたり前ではないのだと思った。
     

  • 読書と脳の働きの関係についての研究。
    幼児期の言語環境の大切さを再確認した。



    P125
    数十年来の研究により、子どもが親や好きな人の朗読を聞いて過ごした時間の長さは、数年後の読字レベルを予測するよい判断材料になると確認されている。なぜか?上に挙げた場面をもう少し突っ込んで考えてみよう。年端もいかない子どもが大人のひざに載って、色とりどりの絵を眺め、昔話や新しい物語に耳を傾けながら、ページに記されている線は文字であり、文字は単語を作り、単語は物語を作り、物語は何度でも繰り返し読めるものであることを学んでいる。この幼い頃の場面に、子どもの読字の発達に不可欠な前段階の大半が含まれている。

    P126
    早期リテラシー
    書記言語を耳で聞くことと愛されていると感じることの結びつき

    P128
    子どもたちは話しかけられる機会が多いほど、音声言語を良く理解するようになる。読み聞かせてもらう機会が多いほど、自分を取り巻く世界の言語すべてがわかりやすくなる。こうして語彙を増やしていくのである。

    P131
    情動の発達と識字の相互関係
    幼い子どもたちは読むという行為に触れることによって新しい感情を体験することを学ぶ。

    P142
    我が子もおそろそろ文字の名称がわかりそうだと思ったら、何歳であっても、親は思い切って子どもに手を貸すべきだ。

    P155
    語彙の貧困と”夕食時の語らい”


    P211
    読解プロセスが目に見えて向上するのは、子どもたちが予備知識をつむぎ合わせ、悲惨な、あるいは素晴らしい結末を予測し、あらゆる危険に満ちた窮地で推論を下し、自分の理解に穴はないか検討し、新たに得た手がかりや意外な新事実、追加された知識の断片が自分の知識をどう変化させるか解釈する時である。

    リチャード・ヴァッカ
    戦略的な読み手とは
    「読む前、読んでいるあいだ、読んだ後に予備知識をどのように働かせればよいか、文章のなかで何が重要であるかをどうやって判断するか、情報をどのように合成するか、読んでいるあいだと読んだ後にどうやって推論を導き出すか、どのように質問するか、そして、いかにして自己モニターを行い、読解に欠陥があれば修復するかを知っている読み手」である。


    P327
    読字の熟達につながる発達の変化は、小学校時代ではなく、幼児期に始まる。親やその他の大好きな人々に読み聞かせてもらった時間の長さは、後の読字能力を予測する最良の判断材料のひとつである。象のババールやガマくん、小ざるのジョージ、、それに『おやすみなさい、おつきさま』などの物語を毎夜読み聞かせられるうちに、ページに記されている得体の知れない記号は単語を作り、単語は物語を作り、物語は自分を取り巻く世界をつくり上げているありとあらゆる物事について教えてくれることを、子どもたちは徐々に悟っていくのだ。

    幼い子どもたちは会話に加わるほど、たくさんの単語と概念を身につけていく。読み聞かせてもらう機会が多いほど、本に書かれている言語をよく理解し、語彙と文法の知識、そして、単語に含まれているちっぽけだが大切な音に対する認識を増やしていく。

  • 読書(文字を読む)という行為を、どのように脳は獲得しているのかを説明した脳科学の一冊。

    ちなみにイカの話は少ししか出てこない。

    人間が読字という能力を得てから、わずか数千年しか経っていないという当たり前の事実と、そのために(読字の能力は遺伝で獲得できないために)誰もが努力して獲得する必要がある、というのは当たり前すぎて見逃してた。

    アレクレシア(読字障害)に対する現在の教育の問題点、ソクラテスの文字に対する懸念、卓越した読み手はどのように文章を読んでいるのか、といった読字に関する話題から、インターネットの影響や脳科学をもとにした文字の誕生の仮説まで、かなり話題豊富でボリュームが多い。

    文字を目で追いつつ、思考する時間を持つなど、普段は意識していない読字についての幅広い知識を得ることができた。

  • この世に初めて生まれた赤ん坊が初めて笑った時、笑い声が粉々に砕け散って、かけらのひとつひとつが妖精になった。それが妖精の始まりだよ
    バリー

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