- Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
- / ISBN・EAN: 9784772695312
作品紹介・あらすじ
なぜ、ひとの目は、横ではなく前についているのか?なぜ、ひとは、カラフルな色覚を進化させたのか?なぜ、ひとの視覚は、錯覚に陥るようにできているのか?なぜ、ひとの脳は、人工的な文字をうまく処理できるのか?最新の発見・考察をとおして、ひとの目の驚くべき4つの能力を解き明かす。
感想・レビュー・書評
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目の4つの能力を取り上げる。表題にはテレパシー、透視、予見、霊読といった怪しい表現を用いているが、内容は至極科学的。視細胞の3つの錐状体の波長の感度は、人間の肌の色を捉えることができる絶妙に調整されていることを丁寧に説明している。表音文字の用いられる頻度が実世界に見られる形の頻度と一致しているとの指摘は、圧巻だった。
波長の長い赤を0度に置き、波長が短い順に時計回りに青が90度になるように並べると、赤と緑が左右に、青と黄色が上下に配置される。赤と緑の軸はLとMの錐状体との比較で、青と黄色の軸はSと他の2つの錐状体との比較で検知される。
人間の肌の光の反射率は、S錐状体の感度の波長(青)で低く、MやLの感度の波長で高い。MやLの錐状体の感度のピークの波長では、肌の内側のヘモグロビンの濃度によって反射率の大きく異なる。そのため、血流量が少なく、ヘモグロビンの濃度が低いと、S錐状体の反応との差が大きくなって黄色く見え、血流量が多く、ヘモグロビンの濃度が高いと差が小さくなって青く見える。青は倦怠や息詰まりを意味して重さや悲しみを連想させ、黄色は幸せと結びつけれらる。
また、肌の光の反射率は、MとLの錐状体それぞれの感度のピークの波長で谷と山になっている。ヘモグロビンの酸素飽和度が高いと山が高くなるため、MとLの錐状体の反応の差が大きくなって赤く見え、ヘモグロビンの酸素飽和度が低いと山が小さくなるため、差が小さくなって緑に見える。緑は貧血や息切れを意味して病気を連想させ、赤は激しさや興奮を意味して強さや怒りを連想させる。
鳥類や爬虫類、魚類、昆虫の錐状体の感度は、一定間隔の波長に配置されている。カメラも同じ。霊長類の中で、色覚を持たない種の顔は柔毛に覆われており、色覚を持つものの顔には、むき出しの部分がある。人間の視覚錐状体が反応する波長は、肌の色を最大限に検知するように配置されている。衣装で使われている色は、赤、青、白が多い。
目が横向き付いている方が、後ろを含む全体を見渡せるメリットがある。目が前向きに離れて付いていると、どちらかの目で葉の先を見通すことができるメリットがある。葉を好む動物は、体重が大きくなるほど目が前向きについている度合いが大きくなり、葉を好まない動物の目は横向きに付いている。
文字は、自然界に見られるものの構成部分に似せてデザインされた。表意文字も表音文字も、その形が用いられる頻度は、実世界に発見される部分的な形の頻度とほぼ一致している。 -
知的満足が大きかった
普段意識することのない視覚は実はとてつもない能力を持っている
すべては生存と発展のための進化の産物
錯視は視覚のバグだと思っていたが、未来予測のための正常な反応
文字を読むことは誰でもできることだが、これは読みやすいように文字の方が進化してきたというのは面白かった
少々難解な部分もあるが面白いので挫折はしなかった -
ポピュラー・サイエンスと呼ばれるような読み物は、どんな人が書いたかで2つに大別できる。ひとつはプロのサイエンスライターが書いたもの。もうひとつは研究者本人が書いたもの。ふつうサイエンスライターはテーマの周辺を幅広く取材してバランスのとれた本に仕上げる。また、ある特定の研究者に取材した伝記みたいな本もある。いずれにせよ文章が本職の人たちであり、読み物としてこなれている。
けれど、もしその気のある書き手さえいれば、研究者が一般向けに書いた本の方が面白いことが多いように思う。代表格ではグールドやドーキンスがいるし、日本でも福岡伸一、池谷裕二など売れっ子がいる。また、本書の著者の同僚であった下條信輔も一般向けにかなり面白い本を書いている。
サイエンスライターが書いた本には、どうしても「調べて書きました」感とでも言うべきものが拭い難く漂っている気がしてしまう。さらに言えば、サイエンスライターが取り上げるのは学界で通説となっている説が中心である場合がふつうで、少数説に肩入れして書くというのはなかなかやりにくいし、適当なことでもないと思う。ところが研究者本人が書いているのであればそんなことはない。もちろん通説でないことは明示した上でだが、自分が唱えている説であれば少数説であろうが構わずに書くのが当然だ。
この少数説を敢えて唱えるような本を読むのは楽しい。反証可能性が科学の本質だとすれば、批判と検証のプロセスを素人なりに追体験させてくれるのはありがたい。それに、内田樹が書いていたことだが、少数意見を唱える人ほど他人を説得するにあたって丁寧に語る必要がある道理なのだ。
本書は、人間を中心とした視覚の進化について、極端な異説ということでもなさそうだが、なかなかユニークな新説を唱えている本だ。
例えば、色覚は果物が色づいているかどうかなどの判別のためだとか、人間の両目が前向きについているのは立体視のためだとか、どこかで聞いた覚えのあるような通説に、さまざまな証拠を示して挑んでいる。読んでみて必ずしも100%納得した訳ではないが、なかなか刺激的な論考だ。
ワタクシも「片目だと立体視ができないので不便」という常識を小学生の時に教わって以来漫然と信じてきたが、実はそうでもないらしい。片目であっても、運動視差などを手がかりに、ほぼ正確な奥行き知覚を得ることができるのだ。片目のパイロット、カーレーサー、外科医もいると言う。さらに一人称視点のテレビゲームをする時も、われわれは一つ目の視界を見ているようなものだが、あまり奥行き知覚の欠如で困ったりはしない。
では、両眼視は何のためにあるのか?本書ではヒトの祖先が森に住んでいた時代に遡り、その進化的な理由は”透視”能力のためであると唱える。ここでわざわざキャッチーなネーミングをするのはこの著者のサービス精神なのだが、詳細は読んでのお楽しみとしておこう。
他にも錯視の背後にあるメカニズムや、人間がかくも複雑な文字をサクサク認識できる理由などが述べられていく。 -
2012.11.02 HONZで見つける。
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視覚についての本では『視覚の文法』や『サブリミナルマインド』もよかったが、こちらは進化という観点から見た視覚に絞って書かれており、読みやすくわかりやすい。
「肌色」を言葉で表現しにくいのはなぜか、という点からスタートして最終的には資格をキーワードに文字の誕生までを追う良書。 -
視覚について興味をもつのに、絶好の書かと思う。
さくさくして読みやすい。 -
人の視覚が進化論上どのような淘汰圧を受けたのかについて4つのトピックを取り上げた本です。
4つのトピックはいずれもラディカルかつトリッキーな仮説を結論として提示していて、その結論に至る論理展開とエビデンスの提示はさながらミステリーを読んでいるような刺激的な味わいがあります。以下には、その各結論を書きますが、この本の本領が論理展開とエビデンスにあるため、結論を先に知ってしまっても本の魅力が減じられることはありません。
(1)テレパシー(色覚)…人間の肌は血流量と血中酸素濃度により可視光線のスペクトルの反射分布が変化し、この2つのバロメーターの両極(都合4つ)が色覚上の4要素となる。
(2)透視(前向きの目)…2つの目が前向きに付いていることで、目間より細い物(草など)であれば、前にあってもどちらかの目でものの向こうが見えるので、2つの目で見える光景を合成してものの向こうが透けて見える。
(3)未来予見(錯視)…目が刺激を受けてから知覚として認識されるまで0.1秒程度のラグがあるため、刺激の0.1秒後を慣性的に予測して補正することでラグを解消し、これが錯視を生み出す。
(4)霊読(文字認識)…人は物を階層をなす位相として認識していて、位相の各種類を要素とみなした際の自然界における分布に似せた形を文字がとることが、文字を速く読む手助けになっている。
(1)から(3)が人間の淘汰圧による進化であるのに対し、(4)は人間の進化の結果による視覚能力に合わせるように文化を進化させたという質の違いがあり、この文化を進化させる能力が人間が質的に新しい種であるといえます。
この刺激的な各仮説が今後どのように評価されていくかは注目に値するものであり、視覚の原因となるものに対し意識的になることで、新たなものの見方が出来るようになることでしょう。 -
4つのすごい視覚能力!
一番最初の「感情を読む力」が一番面白いトピックスでした。「透視する力」、「未来を予見する力」もおぉ~と思いながら読みました。「霊読する力」はまだ理解できないけれど。