インド洋圏が、世界を動かす: モンスーンが結ぶ躍進国家群はどこへ向かうのか

制作 : 奥山 真司  関根 光宏 
  • インターシフト
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本棚登録 : 59
レビュー : 4
  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784772695329

作品紹介・あらすじ

中国・インドの台頭によって急速に変貌しているインド洋圏は、どこへ向かおうとしているのか?アフリカ東部から、アラビア半島、インド、東南アジア、中国まで、現地取材をとおして、その複雑な力学と多極化する未来の構図を明らかにする。米政権ブレーンにして、「100人のグローバルな思索家」に選ばれた著者による徹底考察・未来戦略。

感想・レビュー・書評

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  • ○この本を一言で表すと?
     モンスーン各地域の歴史と現状からの考察を並べた論文集の本


    ○この本を読んで興味深かった点・考えたこと
    ・モンスーン各地域について、その地域の歴史や民族構成などの土台から今後どのようになっていくかを考察していて内容が充実した本だと思いました。アメリカの立場から見た各地域の考察も興味深かったです。

    ・各章ごとに説明する地域とその周辺の地図が載せられていて、著者の説明する地政学的状況が分かりやすかったです。

    ・インド洋沿岸地域の資源や海路としての位置づけが述べられていました。この地域は欧米諸国からすると目が届きにくく、把握しづらい地域で、人口が多くさらに拡大傾向で、資源の産出・輸送地域でもあり、地理的に閉じられた場所でありながら中国がバイパスとしてこの地域への進出を目指しており、インドは地域大国として勢力拡大を目指しているという状況を概観できました。(第1章 垂直に拡大する中国、水平に拡大するインド)

    ・モンスーンの規則的な風向の変化で紀元前の船舶でもインド洋を行き来しているというのは他の本でも読んだことがありますが、それを発見し、続けてきた当時の人はすごいなと思いました。ペルシャ湾の出口に位置し、紅海の出口からも近く、インド洋に面しているオマーンの立地が寄港地として重要で、昔から様々な文化がここで交錯していたというのは興味深いなと思いました。商人の宗教とも言えるイスラム教がこのオマーンを通してインド洋沿岸地域に伝わっていったということも興味深かったです。(第2章 オマーン、多文化の融合)

    ・インド総督だったカーゾンのイギリスが帝国を維持できなかった理由は海だとして、砂漠も海と見なした考え方は面白いなと思いました。海と砂漠の街・集落を隔てるものとして、また交易通路としての共通点や位置づけは確かに似ているなと思いました。(第3章 西洋とは異なる発展の指標)

    ・オマーンを建国したイバード派が聖戦を奨励するハワーリジュ派の一派でありながら他の教派の人々に対しても寛容な教派だったというのは、オマーンが文化の交錯する場所になることの一要素だったのかなと思いました。(第3章 西洋とは異なる発展の指標)

    ・オマーンでは王政を維持しつつ近代化が起こり、その中心に反動的なサイード国王を追い出した息子のカブース国王が民主的な要素を取り入れつつ進めたというのは、通常の民主主義より優秀な独裁者による国家の方が栄える例の一つだなと思いました。ただ、カブース国王には後継者がいないらしく、その後継者によってオマーンという国の行く末が大きく変わりそうだと思いました。(第3章 西洋とは異なる発展の指標)

    ・オマーンのサラーラ港で大規模な港湾開発が進められており、ドバイ以上に好立地であることからさらに発展しそうだというのは興味深いなと思いました。(第3章 西洋とは異なる発展の指標)

    ・ポルトガルが最初の海洋帝国になったことは世界史上有名な話ですが、その実体として、航海に出た者がかなりの割合で往路において死亡するほど過酷だったこと、それでも進出する者が多かったのは十字軍のようにイスラム教徒が進出している地域全てを敵と見なし、その地域を征服することを信仰と考えたものが多かったというのは初めて知りました。上の方針だけでなく、一般の船員でもそういったモチベーションがあったのだなと思いました。それでいて実際の航海では海を知っているイスラム教徒の手を借りていたというのは興味深いなと思いました。先駆者が既にいる中で、後発のチャレンジャーとして大規模に打って出たことで一時的にとはいえかなりの進出ができたのかなと思いました。(第4章 海の世界帝国)

    ・パキスタンの海側の地方、バルチスタンとシンドの状況を中心にパキスタンを論じていました。核武装国であり、インドとよく諍いが起き、イスラム過激派との関係などもニュースになりつつ、アメリカとの関係もそれなりに良好というふわっとしたイメージでしか知りませんでしたが、バルチ・シンド・パシュトゥーン・パンジャブの4民族を中心とした多民族国家で、民族間の衝突があることを始めて具体的に知りました。パンジャブ人が過半数を占めていることは知っていましたが、パンジャブ人中心の政治体制で民族格差ができているそうです。(第5章 バルチスタンとシンド、大いなる夢と反乱)

    ・パキスタン南西部のバルチスタンの海岸沿いに位置するグワダルについて詳しく述べられていました。グワダルを開発して発展させる計画が以前からあるそうですが、著者が訪れた時は寂れた漁港でしかなかったそうです。立地としては問題ないですが、政府の能力と国内の混乱から開発を進めることは困難だというのが著者の読みでした。バルチ人とシンド人は民族独立運動を続け、それをインド等の周辺諸国が自国の利益のために支援したりしているそうです。バルチスタンのグワダルと同じような位置づけでパキスタン南東部のシンドのカラチについても挙げられていました。カラチはそれなりに発展しているそうです。(第5章 バルチスタンとシンド、大いなる夢と反乱)

    ・パキスタンの「建国の父」であるムハンマド・アリー・ジンナーはトルコのムスタファ・ケマルと同様にパキスタンを世俗的な近代国家にしようと考えていたそうです。能力はあったかもしれませんが、トルコとは時期も異なり、民族構成も異なり、ムスタファ・ケマルのように民族浄化が可能なほど民族のシェアもなく、無理だったようです。著者としてはパキスタンの可能性に触れつつ、内部事情から発展は無理とは言わないが困難、という意見であるように思えました。(第5章 バルチスタンとシンド、大いなる夢と反乱)

    ・インドの中でも海外進出・財閥の排出等で経済的にも活発なグジャラート州について、当時の州首相のナレンドラ・モディに焦点を当てて述べられていました。この本が書かれた時はモディの率いるインド人民党が政権交代に失敗した後だったようですが、現在では政権交代に成功し、モディが首相になっています。このモディがグジャラート州の首相に2002年に就任した時、イスラム教徒が駅の客車に火をつけてヒンドゥー教徒58人が死亡した事件が起き、州最大の都市アフマダーバードで哀悼の日を設け、そのために好戦的なヒンドゥー教徒が何千人と集まり、イスラム教徒が殺害・強姦され、それを州政府が支援したと言われているそうです。著者がモディにインタビューした時にその話題に触れても解答はなく、間接的にイスラム教徒を認めない発言があったようです。著者も書いていることですが、2002年の事件以降はモディ政権において一度も同様の事件を起こさず、現在においても他の本でかなり評判の良いインド首相として紹介されていたりするなど、かなりうまく統治しているそうです。(第6章 グジャラート州、インドの希望と困難)

    ・モディの属するインド人民党等のヒンドゥー至上主義の層に一度アピールした後は、必要なことをしないというのは、マキャベリの君主論に書かれていた残酷さの適切な使い方を心得ているようにも思えました。(第6章 グジャラート州、インドの希望と困難)

    ・モディがグジャラート州で進めているGIFT(グジャラート国際金融技術都市計画)は、著者のインタビュー時には滞っていたようですが、現在はそれなりに進んでいるようです。(第6章 グジャラート州、インドの希望と困難)

    ・インドの地理的な観点から見た現状について述べられていました。周辺国のミャンマー・ネパール・パキスタン等が不安定な中で中国との関係を強め、また陸だけでなく海でも中国が進出しようとしていることに対し、かなり大規模な海軍をインドが備えようとしているなど、陸における地政学と海における地政学が交錯しているなと思いました。インドの良好なインド洋における立地と、遠方まで手を伸ばしたくても近隣の状況が不安定なために困難な状況など、強みと弱みが同居していてこの国の舵取りは大変だなと思いました。(第7章 インドの地政学的な戦略)

    ・バングラデシュでは天候に大きく左右され、国民のほとんどが不安定な状況に置かれており、また政府の力が弱いため、その代わりにNGOが大きな力を発揮しているということが書かれていました。他のバングラデシュについて書かれた本でも同様のことが書かれていましたが、グローバルなNGOと異なり、地域密着型のNGOや、ムハマド・ユヌスのグラミン銀行やバングラデシュ農村向上委員会(BRAC)のような営利活動も行っている団体など、複雑な状況に対応できる組織ががんばっているようです。(第8章 バングラデシュ、権力の真空地帯で)

    ・農村地域では問題ないようですが、都市部では政府が弱く、チェック機能が効かないことからイスラム過激派の温床になりやすいようです。ミャンマーからの難民が国境地帯に逃げてきて、現地住民と衝突することもあるそうです。(第8章 バングラデシュ、権力の真空地帯で)

    ・西ベンガル州にあるコルカタについて述べられていました。バングラデシュと隣接した地域ですが、かなりの発展を遂げている都市で、他の発展した都市と異なるところも多い都市だそうです。他の都市では上流層の地域とスラム地域がはっきりとわかれていますが、コルカタでは上流層と下流層が同じ地域に混然として住んでいるそうです。その中で新富裕層がゲート付きコミュニティで分離するなど、複雑な状況にあるようです。(第9章 コルカタ、未来のグローバル都市)

    ・イギリスが貿易でなく植民地化を始めたのはコルカタが起点ですが、ロバート・クライヴという一人の人間の存在が、すでに植民地化しつつあったフランスやオランダを撃退し、インドがイギリスの植民地となることを決定的にしたそうです。歴史の流れを、一人の軍事的天才が変える例はいくつもあると思いますが、かなり劇的な事例だなと思いました。(第9章 コルカタ、未来のグローバル都市)

    ・インド総督(副王)を務めたカーゾンがインドの建造物等の保護に努めたことから初代首相のネルーなどにも称えられていて、今になってネオ・カーゾン派と呼ばれる人たちがインド人の中に現れているそうです。征服ではなく商業的協力関係によって国境の垣根を低くする考え方だそうで、アジア圏全体にインドの影響力を拡げることを目的とするそうです。詩人タゴールが「民族主義は美しくない」と言ったこと、混淆主義者であったことから、ネオ・カーゾン派の目指すところと一致しているところがあるようで、文化的な融合・交流で垣根を低くするというのは、かなり壮大な考え方だなと思いました。(第10章 戦略と倫理―大インド圏構想の推進)

    ・スリランカのハンバントタ(スリランカ南東沿岸の街)が重要な寄港地として中国の投資を受けて開発されていることが書かれていました。古来より海路交通上の要衝地であったそうで、少数民族迫害で欧米諸国からの援助が途絶えてから中国が支援に乗り出したそうです。(第11章 スリランカ、インドと中国のはざまで)

    ・仏教徒のシンハラ人が多数派を占め、ヒンドゥー教徒のタミル人が少数派ながらインド南東部にタミル人がスリランカの人口の何倍も存在していて常に衝突しているようです。その中で「タミル・イーラムの虎(LTTE)」を創設したベルピライ・プラバカランという一人の人物が民族紛争を過激な方向にもっていったそうです。複雑なのは、LTTEがキリスト教徒のタミル人という少数派で構成されていて、シンハラ人だけでなくヒンドゥー教徒のタミル人もテロの対象となり、状況を激化させたそうです。このプラバカランが存在しなければ、何十万人という人が死ななくても済んだというのは、これも一人の人間の影響力の負の方向性が大きく出た事例だなと思いました。(第11章 スリランカ、インドと中国のはざまで)

    ・シンハラ人の政府側も腐敗していて、ジャーナリスト等の都合の悪い人物を暗殺したり、処刑されたりする事例が続出したそうです。著者は結論として、「どんなに野蛮であっても、権力はないよりもあった方が望ましい」とホッブズの説を挙げていました。(第11章 スリランカ、インドと中国のはざまで)

    ・ミャンマーが多民族国家であり、ビルマ族とそれ以外の山岳民族との衝突について述べられていました。著者が山岳民族の代表者と会い、政府がいかに山岳民族を迫害してきたかをインタビューしていたのが印象的でした。ビルマ建国の父で、アウンサンスーチーの父であるアウンサン将軍が地方分権化された連邦制度、山岳地帯における各民族の首長権の是認、連邦から離脱する権利の承認を原則とした協定を結ぶ途中で暗殺され、その後より強力な中央集権化を特徴とする憲法が施行され、現在の状況に至るというのも、一人の人間の影響力の大きさを感じました。(第12章 ミャンマー、来るべき世界を読み解くカギ)

    ・アウンサンスーチーはあくまでビルマ族の民主化の象徴でしかなく、山岳民族からは関係されていないそうです。仮に民主化に成功しても、民族問題は残りそうで、困難な状況はまだまだ続きそうだと思いました。(第12章 ミャンマー、来るべき世界を読み解くカギ)

    ・人数的には世界最多のイスラム教徒を抱えるインドネシアについて述べられていました。M9.3の津波に襲われたことで、戦争に勝るほどの被害や、自然の猛威から反西洋的なムスリム活動家が活発になるなど、国家として大きな脅威であったものの、海賊の激減やNGOの進出による地域の安定、ゲリラ活動家との和平に繋がるなど、よい影響もあったそうです。(第13章 インドネシア、熱帯のイスラム民主制の行方)

    ・インドネシアでは国民の85%がイスラム教の国教化に反対し、多元的共存や民主制を肯定する建国五原則パンチャシラ(唯一神信仰(特に宗教を限定せずそれぞれの宗教の神への信仰を指す)、民族主義、人道主義、民主主義、社会的公正)を支持しているというのはかなり良い傾向ではないかと思いました。元々穏健な宗派のイスラム教が伝わっていたことに加えて、近代的な考えをもたらした改革思想家アブドゥフの主張によって世俗的穏健性と原理主義的急進性の両方がもたらされ、その信仰から津波等の災害に対しても心の安定に繋がっており、メディア等も宗教に対する意見が活発になっているというのも明るい方の状況に入ると思いました。(第13章 インドネシア、熱帯のイスラム民主制の行方)

    ・マレーシア、シンガポール、インドネシア島のマラッカ海峡を取り巻く国家の歴史と現状について述べられていました。中国系住民が経済的に成功してどの国でも資本シェアが高くなっていることに対する反発と、中国の進出やその影響力から最大限に配慮しなければならない状況など、複雑だなと思いました。中国系住民のシェアが最も大きいシンガポールが、中国の進出を最も恐れているというのも、複雑な関係だなと思いました。(第14章 海域アジアの変貌)

    ・中国が海軍に力を入れ、また西太平洋・インド洋でのプレゼンスを発揮するに当たり、アメリカとしては対抗しつつ協力するという体制が現実的だと述べられていました。著者の考えでは中国とインドという2大国とのバランスを取る役割をアメリカが担うべきだと考えているそうです。相対的なアメリカの海軍力の低下から、そうせざるを得ないこと、地理的にも一つの超大国がインド洋の覇権を握ることは困難なことなども述べられていました。(第15章 中国の海洋戦略の本質)

    ・アフリカの政府による統治の状況についてざっと述べられ、海賊の活動状況がメインで述べられていました。ソマリアの海賊が近年活発化しているように言われているものの、この地域には昔からずっと海賊は存在しており、どの時代のこの地域を航海する者も海賊の被害を受けていたというのは興味深いなと思いました。ただ、特に近年活発化しているのは、元々ヨーロッパによって人工的に区切られた国家体制が徐々に崩壊している証拠ともいえるそうです。(第16章 アフリカをめぐる、統治とアナーキー)

    ・アフリカ大陸の東に浮かぶザンジバルについて述べられていました。インド洋航海の重要な寄港地だったこの島は、様々な文化が混じった建築様式の建物があるそうです。また、様々なルーツを持った住人がいるそうです。(第17章 最後のフロンティア、ザンジバル)


    ○つっこみどころ
    ・翻訳本にありがちですが、タイトルと内容が一致していなかったなと思いました。この本はサブタイトルまで微妙でした。この本はモンスーン地域の歴史と今後の動向、それとアメリカの影響・アメリカへの影響について触れた本で、インド洋圏「が」世界を動かすという話ではなく、一部を除いて「躍進」国家群でもなかったと思います。

  • 久々に読み応えがあり、知的刺激に富む労作でした。それにしても、アングロサクソンは、物事を俯瞰的に捉え、一つのテーマで絡め取ってしまう稀有な才能があります。読み終わると、見事にカプランのロジックでインド洋圏を見る自分がいました。
    中国は敵対すべき相手ではなく、ソフトなパワーバランスこそが、これからもリーダーシップを保持する米国の道だと説いています。「100人の思索家」とされる筆者の視点は胸に留め置きたいと思います。インド洋圏の国々の歴史や現状に無知であったので、基礎知識を得ることもできました。

  • 本書の著者、カプラン氏は元々は国際的なジャーナリストとして知られており、2008年からはワシントンにあるシンクタンク「新米国安全保障センター」の研究員の職につき、現在アメリカ国防総省の防衛政策協議会のメンバーでもあります。

    本書は著者が実際にインド洋沿岸各国に赴いた時の経験をもとに執筆されており、これらの国家の発展が21世紀の世界にどの様な影響を与えていくかと言う点のみならず、アメリカの政策に影響を与える立場にいる著者がそれらの動きに対してどの様な考えを抱いているかと言った点がうかがい知れる本となっています。

    内容の方は1章でインド洋圏をめぐる中国とインドの動き等、この地域の将来見通しにふれ、21世紀は世界の中心はインド洋圏になると言う考えを紹介しています。
    その後、アラビア半島の先端にあるオマーンから東へ順番にインド洋沿岸各国の内情を解説し、インドネシアまで紹介した後、中国のインド洋戦略の根底にある考えを解説。
    そしてアフリカに戻り、海賊で有名になったソマリア、その南にある島、ザンジバル島について解説し本書を締めています。


    本書によれば、

    インド洋圏は元々モンスーンを利用した貿易活動により、ヨーロッパ人が侵入してくる以前から密接な結び付きがあったと言う点。
    そして同地域は、貿易活動と共に普及したイスラム教の影響が強く見られる地域でもあると言う点。

    この2点が将来の同地域、そして世界全体に強い影響を与えるようです。
    また、アメリカ、中国、インドと言った現在の大国、および大国化への途上にある国々でも支配的な立場を確立することはできず、代わりに同地域の貿易システムが同地域、ひいては世界全体への影響力を持つようになるとの事。

    つまり著者は、突出したパワーを持つ大国が世界秩序を構築する時代は終わり、アメリカ海軍の艦艇数の減少や中国とインド海軍の増強等により、これまでアメリカのみが保証してきたインド洋の安全が、日本や韓国なども含めた複数国家の手によって保証される未来が待ち受けているかもしれないと予想しています。

    そして、そのような世界において、アメリカは津波などの大規模災害時の緊急救助活動を通して、同地域において少なくとも必要とされる存在となる事を目指すべきと主張しています。


    本書には、日本ではあまり報じられることの無いインド洋圏各国の強みや弱味、マラッカ海峡やホルムズ海峡と言った”急所”を避けようとする中国の動きなど、興味深い内容が多数記載されています。
    また、実際に著者が現地に赴いたときの様子(風景や現地であった人々の様子など)と言った内容もあり、旅行記的な側面もある一冊となっています。

    原著の出版が2010年の為、内容が若干古めの所もありますが、視野が広がるのは間違いがない本となっていますので、興味のある方は一読されては如何でしょうか。

  • なかなか読みごたえのある一冊でした。  本の厚さ & 重さもさることながら、やはり KiKi にとっては未知のエリアについて詳細に書かれていた本だったという意味からして、ゴロリと横になってさらさらっと読むには歯応えがありすぎで、同時に時に世界地図やらネット情報を参照しながらでないとなかなか読み進められない部分もアリで、久々に「知識を得るための読書をしたなぁ!!」と感じます。

    今、世界的に「7つの海」と呼ばれている海は「北大西洋」、「南大西洋」、「北太平洋」、「南太平洋」、「インド洋」、「北極海(北氷洋)」「南極海(南氷洋)」の7つ(上図参照)だけど、中世アラビアでは「大西洋」、「地中海」、「紅海」、「ペルシャ湾(アラビア湾)」、「アラビア海」、「ベンガル湾」、「南シナ海」を7つの海と呼び、中世ヨーロッパでは「大西洋」、「地中海」、「黒海」、「カスピ海」、「紅海」、「ペルシャ湾(アラビア湾)」、「インド洋」を7つの海と呼び、これがあの大航海時代になると「大西洋」、「地中海」、「カリブ海」、「メキシコ湾」、「太平洋」、「インド洋」、「北極海(北氷洋)」と変化していったと聞いたことがあります。

    上記のいずれの「7つの海」定義にも今回読了したこの本がとりあげている「インド洋圏」はその全体か一部分のみかはさておき、ちゃんと含まれているにも関わらず、KiKi にとってはさほど親しい海域とは呼べずにここまで生きてきていることにまず少なからずショックを受けました。  地図上の日本からの距離感からすれば地中海やら大西洋なんかより遥かに近いのにも関わらず、現代日本が依存している様々な物資の通り道であるにも関わらず・・・・・です。  要するにこのエリアに興味を抱いたその度合いが大したことなかったんですよね~。  

    最近(というよりもう何年も前から)、中国の世界戦略関係のニュースを読んだり聞いたりする際に、このインド洋圏地域への進出の話がひっきりなしに聞こえていたりもしたわけだけど、それでもさほどその戦略にもこの地域の文化にも積極的な興味を持ったことがあったとは言い難い KiKi。  今回この本を読んでみて「あれまあ、知らないうちにそんなことが?」と何度思ったことやら・・・・・・。  

    今回、この本を読んでいる中でかなり勉強になったのは、地図の見方に関してです。  KiKi は世界地図をイメージする時、学生時代の地図帳の最初もしくは最後の頁にあったメルカトル図法の世界地図をイメージするわけだけど、この地図だとインド洋及びその周辺地域に自然と目がフォーカスされるという経験が全くと言っていいほどなかったような気がするんですよね~。

    まして「海の繋がり」という観点であんまり物事を見て来なかったような気がするんですよね。  正直なところ今回この本を読むまで「スエズ運河」がどういう意味を持つインフラだったのか、KiKi はちゃんと理解できていなかったように思うんですよ。  もちろん知識として「スエズ運河は地中海と紅海(スエズ湾)を結ぶ、海面と水平な人工運河で、この開通によりヨーロッパとアジアはアフリカ大陸を回りこまずに海運でを連結することができるようになった。」とは知っていたんだけど、今回この本を読んでその意味する本当のところがしっかりと KiKi の中に落ちてきた・・・・・そんな感じです。

    これが米国で使われる地図だと地図の真ん中に来るのは当然のことながらアメリカ大陸で、アメリカ大陸の左側には太平洋が、右側には大西洋がドド~ンときたらインド洋への関心があまり喚起できなかったとしても無理ないなぁ・・・・と。  で、ヨーロッパの国々の地図だったら今度は太平洋が分断された絵になる(つまり太平洋の大きさはこの絵よりも感じにくい)のだろうし、これに反してユーラシア大陸という大きな大陸の印象が強くなるだけに、早くから交易相手として意識されていたのもさもありなん・・・・・と。

    そうやって考えてみると子供時代にどんな地図で地理を学んだのか?ということにこれまで KiKi は意識を向けたことがなかったんだけど、実はそれって想像以上に重要なことなのかもしれません。  今まで「地域地図」(「アジア」とか「南米アメリカ」とか「ヨーロッパ」とか「アフリカ大陸」とか)かこの構図(↑)の世界地図ばかり見てきた KiKi は「中心点をずらした世界地図」をイメージしたことが皆無と言ってもよかったように思うんだけど、その必要性を痛感した読書だったように思います。

    又、この本の中で著者も何度か繰り返しているように、このエリアの特徴と言えば、政治・経済的には安定せずどことなく混沌としているイメージが強く、宗教という観点にたてば日本人にとってもっとも距離感を感じる(要するによくわからない)イスラム圏だったりもします。  生活文化的な部分でも「豚肉は食べない」とか「お酒は飲まない」とか、要するに何気に「仲良くできなさ感(個々人に対する好き嫌いとか人種に対する感慨とは別次元で、例えばこの文化圏の人と一緒に暮らしたら息が詰まっちゃうような気がする感覚)」まで漂う国々であるだけに、ある種の心理的壁みたいなものも醸成されちゃってきたように思うんですよね。

    でも、今回この本を通読してみて感じたことの1つはこのエリアが混沌としている原因の1つは東西の文化交流(というよりは物流?)の交差点にある国々であり、それだけありとあらゆるものが通過していった(雑多なモノ、ヒトに晒され続けてきた)ゆえの「思想・活動の一本化の困難さ」みたいなものがあったのではないか?ということでした。  同時に赤道に近い気候風土ということで「じっくり物事を突き詰めて考えることの困難さ」みたいなものもあったのかもしれません。  少なくとも KiKi なんかは猛暑日が続くとあれこれ物事を考えるのは面倒くさくてたまらない・・・・・ ^^;



    この本の中で KiKi がかなりガツンとやられた一文は以下の一文でした。

    アメリカは民主制度を、法律や選挙のような基準から杓子定規にとらえすぎる傾向があるように思う。  中東のような国々における「民主制度」は、公式な手続きというよりも、統治者と被統治者のあいだの非公式な相談というかたちに近い。  アメリカ人は自国の恵まれた歴史という「善きなるものの一致」のおかげで、「善いもの」はすべて同じ源泉、つまり民主制度、経済発展、もしくは社会改革などから来るものだと信じている。
    これって著者が米政権のブレーンだし、衰退傾向にあるとはいえ現段階ではまだ「パクス・アメリカーナ」の余韻が残っているだけに主語が「アメリカ」になっているわけだけど、その西欧先進文化(文明)を死に物狂いで吸収してきた我が「日本」もその考え方にある意味毒されている部分はあったりもするわけで、そうであればこそ「混沌 ≒ 未発達」というプロトタイプで物事を捉えすぎているきらいがあったのかもしれないなぁ・・・・と。

    いずれにしろ、これまで KiKi がまったく気が付いていなかった多くのことに「気づき」をくれた貴重な1冊だったと思います。  「献本いただき感謝!」の1冊でした。

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