メキシコ麻薬戦争: アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱

  • 現代企画室
4.20
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (420ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784773814040

作品紹介・あらすじ

グローバル化社会の影にひそむ不条理な日常

米国人のあくなき需要を満たすため、米墨国境を越える末端価格300億ドルもの麻薬。幾重にも張りめぐらされた密輸人のネットワーク。警察と癒着したカルテル間の抗争とおびただしい死者。軍隊並みの装備で国家権力に対抗するパラミリタリー。麻薬王たちの豪奢な暮らし。10 代で「殺し屋」となり、たった85ドルで殺人を請け負う少年たち……

メキシコとアメリカの歴史的な関係を背景に、近年のグローバル化と新自由主義の進展のひずみの中で急拡大した「メキシコ麻薬戦争」の内実を、綿密な調査に基づき明らかにするルポルタージュ。米墨国境地帯で麻薬取引と暴力に依存して生きる「ナルコ(麻薬密輸人)」たちに密着し、犯罪者たちの生活や文化、彼らを取り巻く凄惨な暴力の実態を明らかにすると同時に、世界各地で注目されている「麻薬合法化」の議論など、問題解決に向けた方向性も指ししめす。

感想・レビュー・書評

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  • 防弾効果があるのでは?と思える程の分厚さと納得の見応え。メキシコ麻薬戦争の全てが詰まっている。

    あの最恐かつ最強のロス・セタスのリクルート事情や、麻薬以外の収入源は意外と身近な物!?それに地域住民との関係性、組織の存在が世界に与える影響…といちいち規格外なエピソードの数々は、もはや映画。そしてメキシコ国内にできた、もう一つの国家とも言える。

    当時と比べて現在は、麻薬カルテルの勢力関係図も大幅に変化してる為に、そろそろ続編が欲しい今日この頃。

  • 今メキシコで起こっている麻薬を巡る争いについて、歴史的背景から解決案の紹介まで、大体の概要が説明されてる。ナルココリードとかサンタ・ムエルテとか、文化の話が面白かった。

  • 日本では、この手の抗争はコロンビアの方が有名でしょうか。
    メキシコはいわゆるカトリックの国ですが、平然と殺人と行方不明が横行していることが解説されます。

    こういう現実はある。

  • メキシコで泥沼の麻薬戦争が続いている。 断片的に耳に入ってはきていたが,一度ちゃんとしたものをと思い読む。人権無視のとんでもない殺戮が行われていることに戦慄。ウクライナやイラクのように報道されないのは,それがもう十年近くも常態化しているからだろうか…。
    カルテル間の抗争,警官やジャーナリストの襲撃,市民の巻き添えなど,死者は毎年一万人を大きく超える。見せしめのための残虐行為もエスカレートする一方で,麻薬とは無関係の身代金目的誘拐も多発。豊富な資金による買収も盛んで,軍や警察を離れて犯罪組織に身を投じる者も少なくない。
    本当に絶望的な状況で,政府による強硬な法執行も奏効する気配がない。解決の道は,もはや薬物の合法化しかないのかも知れない。一大消費地であるアメリカの政策も非犯罪化・合法化に傾いてきているという。

    • polyhedronさん
      最近読まれたんですね。歴史的背景が大きいんでしょうけど,軍や警察という実力組織の統制が緩いという点が拍車をかけている気がします。テロが騒がれ...
      最近読まれたんですね。歴史的背景が大きいんでしょうけど,軍や警察という実力組織の統制が緩いという点が拍車をかけている気がします。テロが騒がれますが,国際社会の不安定要因の一つとして無視できないですよね。
      2015/12/10
  • 面白かったです

  • 映画や小説で描かれるメキシコカルテルの残虐性に衝撃を受け、「なぜメキシコ人はこんなに残虐なのか」という疑問を抱きました。本書は、そんな疑問に答えてくれる1冊です。

    ・メキシコの麻薬カルテルが生まれた歴史的経緯
    ・2000年代後半以降の「麻薬戦争」の発生原因
    ・抗争の過激化、残虐化の理由
    このあたりにのことが知りたい方にはおすすめです。

    個人的な理解としては、
    ・アメリカ⇔メキシコ⇔中南米という3者間で麻薬とお金と武器が行き来する構造があり、そこには資本主義の原理が働いている。
    ・メキシコで長年の一党独裁体制が崩壊して政権の統制が弱まったことで競争が過激化し、そこにアメリカから武器が、中南米から暴力が流れ込んだことで抗争が過激化した。
    ・メキシコ人が残虐なのではなく、残虐化する構造が存在する、したがってその構造を変えない限り残虐行為は止まらないし、さらに拡大する危険がある。
    といったところです。

    本書の内容は2014年時点のものですので、最新の状況はわかりませんが、こうした構造が解消されない限り、麻薬をめぐる抗争が収まることはないように思います。

  • 麻薬戦争のこれまでと、終わらない理由がよくわかる。
    日本に生まれてよかった!

  • 筆者は21世紀に入り「タイム誌」などにラテンアメリカ中心としてのペンをふるってきた報道マン。メジャーデビューが最初のこの執筆は高い評価を得た。
    コロンビアが有名な薬の闇・・実はメキシコは20世紀からかなりの惨状を呈していた。銃のドンパチと異なり「闘い」ではあっても国内、国民も巻き添えにした有様が日常化しているからだろうか・・世界への大ぴらな報道がなされていない感じ(イラ・イラ戦争、中国の少数民族弾圧やロシアの内政干渉などと比して)死者の数は頁を捲るごとにスタンプの様に登場することもあり、読み手の頭の中が麻痺して行く。そして殺戮方法のとてつもない残虐さ。。政権を握ったものが身内も一緒くたにして営利を手にし、女優を愛人にし 語りつくせない所業が延々と。
    日本からすると遠い国の様に感覚的に伝わってきにくいがアメリカとメキシコの頼りない国境を隔てた闘いの現実が無知の私にとって読むだけで憔悴しきる内容を越えていた。

  • 2020年12月
    内容が全然思い出せなくてなく、また借りる。

  • =================
    膨大な量の麻薬の押収は、運任せや力づくでは達成できない。それは情報しだいなのだ。(略)麻薬取り締まり当局が活動を初めてから、40年間に確立してきたのが、この情報源、つまり内通者を利用するという手法である。
     大ボスが逮捕されたり、墓地に眠ることになった原因の多くは裏切りである。そのため、ギャングらは裏切り者にはきわめて暴力的になる。(略)コロンビアでは「ヒキガエル」と呼ばれる。
     だがいったん大ボスがアメリカ合衆国に身柄が引き渡されると、その多くは「ヒキガエル」となる。「スーパーヒキガエル」である。彼らはほかの大ボスを逮捕させたり、何千万ドルもの資産を没収させるための協力者となる。(略)そうして刑務所に入ったボスたちは自分の回顧録を書き、有名人になったりする。
     
     ダニエルは自分に運び屋を見抜く特別な才能があることに気がついた。

     彼は国境地帯特有の文化になじんでおり、容疑者を協力者に仕立て上げることにかけては特別な才能を発揮した。

     「インフォーマント(内通者)はみんな汚い。みんなそうだ。ほんの一瞬だけ正直になることもある。その日シャワーを浴びた人間みたいだ。どういう意味かって?その日だけは綺麗だが、翌日にはまた汚くなるということだ」。

     彼(ダニエル)はメキシコ国内で潜入捜査官として働くための条件を完璧に備えていた。メキシコ人で、タフで、喧嘩に強く、元海兵隊員で立派な業績を上げている。

     ダニエルは(潜入先のボスの)信頼を勝ち得るために、運びや役を演じることに徹した。(略)
    「私は自分ではない誰か別の人間になったが、それはひどくリアルだった。その男と自分の違いは(略)まったくないんだ。それが問題だった。私はその男そのものだった。育ちは悪かったしね。『その場にあわせて変われるのか?』と聞かれるが、その場もこの場もない。そいつは私そのものだった」

    「私はアドレナリンが沸き出すようなことが好きで、その仕事もそうだった。潜入捜査の仕事ではなにがおこるかわからないし、生きて帰れるかどうかもわからない。だからスリルいっぱいなんだ」・
    ダニエルはうまくいっていた。だがその仕事は彼にも大きなリスクだった。自分のアイデンティティを失いそうだった。美しい女性に囲まれたコロンビア・マフィアの目がくらむような世界の中にとらわれてしまいそうだった。自分が実際になんなのか?潜入捜査の刑事なのか運び屋なのか?失敗してスパイだと見破られるのではないか?


     「私(高級マフィア専門の弁護士サラサル)が担当しているマフィアのボスたちは、確かにとんでもないギャングだ。しかしいったん逮捕されると、脅された子どものようになる。怖いんだ。残りの人生を刑務所に押し込めれられて、孤独に過ごしたくない。だからなんでもするようになる」。
    「どこに銀行口座や資産を持っているか、全部自供する。ほかのマフィアの名前や密輸ルートも喋る。そのかわりあまり厳しくない刑務所に変えてもらったり、景気を短くしてもらったりするんだ」


     麻薬に関連して、凶悪犯罪が起こるのは、麻薬そのものが原因ではなく、まさにそれが違法だからこそ起こっているのである。町中で殺し合いが繰り広げられるのはブラックマーケットで得られる多額の資金を巡ってのもので、彼らが麻薬を使用しているからではない。

     これまでの最大の政策上の変化は、麻薬使用の非処罰化である。この方針を取り入れた国では、麻薬は依然として違法だが、個人使用の量の所持であれば、処罰の対象とはしない、あるいは懲役刑にならない、としている。

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著者プロフィール

2001年より、『タイム』誌、CNN、AP通信、PBS News Hour、『ヒューストン・クロニクル』紙、CBC、『サンディ・テレグラフ』紙など国際メディアに、ラテンアメリカに関する報道を行ってきた。軍事作戦、マフィアによる殺人、コカイン押収などについて報道し、麻薬戦争について2人のメキシコ大統領、3人の司法長官、アメリカ合衆国大使らと議論した。イギリス出身、メキシコシティ在住。本書は彼の最初の著書である。
本書は、オーウェル賞にノミネートされ、ロサンゼルスタイムズ・ブックフェスティバルで最終選考に残り、BBCラジオ4の「今週の本」に選ばれた。

「2014年 『メキシコ麻薬戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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